「サオリちゃん! 大丈夫!?」
瘴気に弾き飛ばされたサオリの下へ駆けより、ボロボロになったサオリを見て先生は慌てふためいてしまう。
「…………あ、あぁ……へいきだ」
心配そうに震える瞳をサオリから移し、手際よく応急処置を進めるミネを見つめる。
「大丈夫です先生。しばらく安静にしていれば治ります」
「そう? よかった……」
視線に気づいたミネは先生を安心させるためか笑顔を浮かべながらそういった。
「リーダー!」
「サオリ姉さん!」
そこにミサキとヒヨリも駆けつけ同じようにサオリを心配そうな目で見つめる。
「無事なのリーダー!?」
「うわーん! 死んじゃいやですぅー!」
「わたしは、平気だ……それより……アツコを……」
ベアトリーチェの方を見ればそこには元の姿に戻った彼女が地面に這いつくばりながら忌々し気に拳を何度も何度も振り下ろしていた。その過程で傷ついたのか拳からは血がぽたぽたと垂れていて、ベアトリーチェが拳を振り下ろすたびその血が周りへと飛び散っている。
「なぜ! なぜ勝てないのです!?」
不満、憎しみ、憤り、屈辱、あらゆる感情を載せながらベアトリーチェは叫ぶ。
「同じように未来を知り! 同じように未来を変えようと準備をしたのになぜ!」
その言葉に先生はドキリとした。
たとえベアトリーチェがどんな大人であろうと、その部分だけは先生も同じだ。知っている未来よりもより良い未来を求め、そして失敗してきた。
アビドスの時も、エデン条約編の時も……そして今回も。なんとか丸くは治まってはいるが、一歩間違えばベアトリーチェと同じような結末を迎えたかもしれない。
「あなたと私で何が違うというのですか!」
憎しみにこもった瞳で睨みつける瞳は、どこか縋っているかのようにも見えた。どうすればよかったのか、どうしてお前はそこに立っているのかと。
……私は、その問いに答えられなかった。
『――そんなの、あなたがバカだからにきまってるじゃん』
突如バシリカ内に響いた美しい声。
その謎の声にベアトリーチェも先生も、ミネやアリウススクワッドの皆も困惑している。
「――!? 何者ですか!」
『弱いくせに正面から戦って、なのに欲に目がくらんで、何度も何度も先生を殺すチャンスを見逃してきた。勝てる戦いだったのに、自分で負けを選んだ。本当にバカみたい』
「! なにを――!?」
『先生を捕らえた時に殺しておけばよかった。欲に負けずシッテムの箱を壊しておけばよかった。ううん、それだけじゃない。せっかく捕らえたセイアちゃんもほったらかしにして。人質として使えばそれだけで先生の動きを止めることが出来たのに』
「ぐ――!?」
『そんなあなたじゃどうあがいても先生に勝てない。だから――』
声が小さく、遠くなっていく。そのはずなのに耳に届くその謎の声はより一層バシリカ内に大きく響いた。
『その体、もらうね』
「――なにを、いって……!?」
突如、ベアトリーチェの動きが止まる。真っ赤に染まっているはずの顔が青ざめ、冷汗をたらし、体が小刻みに震えはじめていた。
「あ――っ! が――! からだ……が……!」
激しくなっていくベアトリーチェの体の震え。それを温めるかのように透明なナニかが彼女の体を包み込んでいく。
「やめな――っ! こわれ――!? このままじゃ――!」
そのナニかがベアトリーチェの体を完全に包み込み、ゆっくりと溶け、ベアトリーチェの中へと侵食していく。
「あ――っ! あああああああぁぁァァァアアアア!!!!」
ベアトリーチェの断末魔がバシリカ内に響き渡り、その直後に異常が起き始めるベアトリーチェの体。
「あなた……は……まさ、か…………」
何かに気付き驚愕したかのようにベアトリーチェは目を見開き、信じられないといった表情を最期に浮かべた。
「…………こん、な……とこ、ろ、で…………」
ベアトリーチェだったものは崩れ溶解し、そしてドロドロと変形、変質していく。ぐちゃぐちゃと音をたてながらソレは少しずつナニかを形作っていく。
足が出来る。胴体が作られる。腕が生えてくる。首が伸び頭が形成される。
ドロドロとしていた人型はやがて一人の生徒へと成った。
「………………え?」
その生徒の姿に先生は見覚えがあった。見覚えしか、なかった。
美しくきらめく桃色の髪。黄金よりも強く輝く瞳。どこか子供っぽさが残っていたはずの綺麗な顔。
「…………みか……ちゃん?」
そこに現れたのは確かに聖園ミカだった。
「……ふふっ。そうだよ」
けれどその姿は先生が知っているミカとはかけ離れている。
首元から下の肌は赤く染まり、白かった制服は黒く、長かった髪もショートになっている。黒くなった制服から赤く染まった腕が伸び、白かった羽も黒く変わっていた。鮮やかだったはずのピンク色のヘイローは壊れながらも赤黒くどんよりと輝いている。
そして、なによりも変わったのは羽だ。もともとあった背中の羽とは別に二対の羽が生えていた。
ひとつは足。両方の足首付近から小さな黒い羽が生え、ゆらゆらと揺れている。
もう一つは腕。前腕部から生えた黒い羽は背中の羽よりは小さいもののそこそこの大きさを持っているのか折りたたまれている。
「どうしたの、先生?」
ゆらゆらと、ふらふらと、ゆっくりと先生に向かって近づいてくるミカ。その顔は笑顔でありながらも不気味で、迷子の子供がようやく親を見つけたかのような雰囲気でありながらも異質で、いつの間にか先生の目の前までたどり着いていた。
ミカの両手がゆっくりと先生の頬へ伸びてきた。赤く染まった手が近づいてくる。ミカの甘い吐息が耳まで届く。
あまりにも急な出来事で脳がショートしかけていながらもどうにか先生は口を開いた。
「……君は、だれ?」
「…………」
頬まで指先一つ分の距離まで近づいていた手がぴたりと止まる。
「……どうしたの先生? 私は私だよ? 聖園ミカだよ?」
にっこりと笑った顔も、困ったような声も、確かにミカそのものだった。けれど、目の前のミカが先生の知るミカだとは到底思えなかった。
「……なんて、やっぱり無理あるよね」
困ったように、諦めたように、ふぅとため息をついた。
「――先生から離れて!!」
「――!?」
聞き覚えのある声と共にどこからか飛んできた銃弾が正確に目の前のミカの姿をしたナニかに当たり、目の前の彼女は後ずさった。
その隙をついて距離を取りながらどこからか走り近づいてくる足音の方へと視線を向けると、そこには見覚えのある生徒が闇の中から姿を現した。
「――ミカちゃん!」
今度こそ正真正銘、先生が知っている聖園ミカの姿がそこにあった。長い桃色の髪を揺らし、背中から生えた白い羽を広げ、鮮やかなピンク色に輝くヘイローは壊れてはいなかった。
「先生無事!? なにもされてない!?」
急いで駆け寄ってきたミカは勢いのまま先生の体をペタペタと触り、異常や怪我がないかを確認している。
「う、うん。平気だけど……」
「……よかったぁ」
特にけがなどしていないことを確認したミカはホッと安堵したのか息を吐き、強張っていた顔を緩めた。
「それよりも、どうしてここに……?」
「……あれを追ってきたの」
ミカが視線を向けたほうを見ればミカの姿をしたナニかが立っていた。彼女はのっぺりとした笑顔を浮かべたままじっと先生の方を見ている。
「……知ってるの?」
「ううん。私も詳しくは知らない。ただ、あれはさっきまで私の中にいて、私の体を乗っ取ろうとしていたみたい」
「乗っ取りっ!? 大丈夫なの!?」
「うん。私の体を乗っ取るのは諦めたみたいで私の中からどっか行っちゃったのを追いかけてきたんだ」
改めて彼女の姿をじっと見る。姿形は違えど、目の前の彼女は確かに聖園ミカである、なぜだか先生はそう確信してしまう。
「もう一回聞くね……君は誰なの?」
「それじゃあ改めて自己紹介しよっか!」
明るく、元気で、無邪気に笑いながら彼女は言った。
「私は聖園ミカ。このキヴォトスを破壊する者だよ」
とうとうツムギが実装か。
これはきっとアキラの実装も近いだろう。
石の準備は出来ている。
贈り物も完璧だ。
待っていろアキラ。
いや待っているぞアキラ。
最速爆速で絆レベルをMaxにしてやる。