おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第11話「神殺しの剣」

「すすす、すいません……取り乱しました。まさか実門様のご親戚とはつゆ知らず……」

 

 せいりゅー様の破廉恥極まる格好に逃げ出した霧。

 お静の説得が利いたのかぺこぺこと平謝りです。

 本当は違うのですが、まあ納得してるならいっか、とせいりゅー様も一旦頷きます。

 ちなみに霧の顔は未だに赤くはありますが、その目は真摯そのもの。

 というより痛いほどの視線がせいりゅー様に注がれています。

 一体どういうことなのでしょうか?

 

「そ、それで今日は何のお入用でしょうか……? 愛刀の修理ですか? そこの無謀の息子さんの新打ちですか? はたまた、()()()()()()()()()()とか……」

 

「え。あーいや、そういうのではなく……」

 

 せいりゅー様御一行が求めてるのは"神殺しの剣"の行方です。

 しかし、それよりも気になるのは霧さんの言葉でした。

 何やら気になるキーワードがたくさんありましたが、どういうことでしょう。

 せいりゅー様、少し尋ねてみることにするのでした。

 

「あのー……実は私、修行に明け暮れて世俗に疎くてですねー……無謀、というのは?」

 

「え。……あ、あーえっと……刀を持ってない、あるいは持てない方を、ここでは無謀と言うんです」

 

「はぁ」

 

 何度も言いますが阿妻は老若男女全員が帯刀する国です。

 そんな国で帯刀してないのは()()に近いというのと、

 棒すら持たない()()という意味を込めて、そう呼ばれているそうです。

 ちなみに本来なら生まれてすぐに授けられる刀は、家計状況によっては授けられないことも珍しくなく。

 20を超えてようやく帯刀するケースもあるそうですよ。 

 

「……そういえば、静さんのお父さんは形無(かたなし)と言われてましたね。無謀とは違うんですか?」

 

「うぇ。う、そ、それは……」

 

 途端に口ごもらせる霧。

 顔を曇らせるお静。

 おや、これは踏み入ってはいけない質問でしたかね? 

 首を傾げると、唖涯が教えてくれました。

 

「……形無、っつーのは仕合で刀を砕かれた負け犬のことよ」

 

「唖涯ッ!」

 

「へっ、本当の事を言って何が悪い。あいつは自分から挑んでおいて刀を砕かれ、命だけ見逃してもらったゴミさ。しかもその後は刀を修理しないどころか帯刀すら拒んだ……負け犬中の負け犬よ!」

 

 どうやら団子屋のお父さんは、過去に何やらあったそうです。

 唖涯が豊富なボキャブラリーで罵倒を繰り返し、お静さんの顔が真っ赤になっていきます。

 

「違う! おとっつぁんは家計のために泣く泣く刀を諦めたのっ! 私のために!」

 

「へーへー、お涙頂戴かよ? ごちそうさん。けどなぁ、大親父相手にああもみっともねえほど命乞いするとはな……ああはなりたくねえもんだなァ! そう思わねえかお静──」

 

 べぢごんッ。

 

「──ぶべらッ!?」

 

「うるさいですよー唖涯ー。他所様の家で騒がないでください」

 

 これまたすごい衝撃音がと思うと、右斜45度の角度で土間にめりこんだ唖涯。

 脇差を取り出しかけていたお静は、渋々と戻すのでした。

 

「……だめ」

 

「うぅ~、躾ですよー、きりん君、怒らないでください~……」

 

「……あの。それでせいりゅーさん?」

 

「あ。そうでしたそうでした。脱線しましたね……ごほん。実は私共、神殺しの剣を探していまして。この国にあると聞いたのですが……」

 

「は、はぁ……神殺し……ですか?」

 

 霧はせいりゅー様のお言葉を頭の中で反芻します。

 しかし、うーん、うーんと唸り初めてしまいます。

 

「存じ上げないですかね?」

 

「い、いえ。思い当たるのはあるんですが……多分、甕布都神(みかふつのかみ)、ですかね?」

 

「ほほう」

 

「とてもながーい剣です。十握剣(とつかのつるぎ)とも、天羽々斬(あまのはばきり)とも言いますし、神度剣(かむどのつるぎ)とも。ただ、それは神話……伝説であって、現存はしないと言われてます」

 

「あららら……」

 

「確か……かつて青龍様が使われていて。釣り針がなくなったから、その剣を鋳潰(いつぶ)して大量の針にしちゃったという逸話があったような……」

 

「……せいりゅー?」

 

「え。いや違います。私記憶にないですもん。……ホントですって! 神様うそつかない!」

 

 真偽の定かは不明ですが、どうやら()()現存してなさそうです。

 せいりゅー様、思わず空を仰ぎます。

 

「いやホントですもん……確かに釣りしたときにあのバカ虎がどこからともなく釣針持ってきたのは覚えてますがまさかアレが本当に……? あれ? でも釣針になってるってことはもう目標達成……? いや、今度は釣針探しの旅に出ないといけない奴です……?」

 

「……ともあれ、神話のお話なので、すみませんがお力には……あ」

 

「む。なにか思い当たる節が!?」

 

「あ。えっと、そそ、そういえば蒼天の塔の麓にある青龍神社に秘刀があるらしくて……それが、こ、この世の全てを断つ、剣と言われるものらしいんです……」

 

「ほほう!」

 

「もしかしたら……それでしたら神様も断てる、かもですね?」

 

 なーんて、あははは……と気まずそうに笑う霧。

 しかし、そんな霧にせいりゅー様は大きく両手をあげると……ガシッ!

 彼女の手を掴んでぶんぶんと上下に振るのでした。

 

「ありがとうございます! 助かりましたよ~!」

 

「え。あ。あはは、いや。その、お目当てのものかわかりませんが……お、お役に立てて何よりです?」

 

「いやいや役立ちましたよ。ええもう! きりん君。聞きました? その剣が我々の探してるもので間違いないですよ!」

 

「……ほんと?」

 

「本当です本当です! 私の神様れーだーもびびっと来てますから!」

 

 自信満々のせいりゅー様に対して、きりん君は半信半疑です。

 しかしながら手がかりはないよりマシというものでしょう。

 二人は新たな目標を手に入れると、再度霧さんに問うのでした。

 

「霧さん。もしよければその神社の場所を教えていただけませんか? 私達、どうしてもその刀を拝見したくてですね……」

 

「え。あ。はは、はいっ。ここ、からちょっと、と、遠いですが、蒼天の塔の麓にありまして……」

 

「重ねてありがとうございます! では早速そちらに向かいましょうか。道中ありがとうございました静さん、それでは……」

 

「あっ…………ま、ままま待ってくださいッ!」

 

 いざゆかん! 神殺しの剣の元へ!

 そう決めた瞬間、せいりゅー様の手が取られていました。

 おやおや。一体せいりゅー様に何用なのでしょうか?

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、ああ、ぁぁぁ、あの……そ、そその……さ、差し出がましいようですが……ひとつお願いが……!」

 

「おぉ。すみません、私としたことが対価もなしに……えぇどうぞ。叶えられる範囲であれば何でも斬りますよ」

 

 それこそ人でも、獣でも、家でも、山でも空でも、国でも!

 と、ニコニコ笑顔のせいりゅー様に、半分涙目で笑顔を浮かべる霧さん。

 そんな彼女が願った内容とは……。

 

 

「──あ、あはああぁぁああぁぁぁぁッ♡♡ これ、す、すごいぃいいぃぃッ♡♡」

 

 

 せいりゅー様の持つ剣を見せてもらう、でした。

 

「反りの深い鎬造(しのぎづくり)……ッ! 庵棟(いおりむね)は、小切先(こきっさき)猪首(いのくび)ッ。()()()が付いててなんて色っぽい……! 小板目肌(こいためはだ)の澄んだ(こしら)えに地沸(じにえ)付き……刃文(はもん)丁子(ちょうじ)小乱(こみだ)れ交じりで広直刃(ひろぐすは)……! それに、この見たことのない材質の黒い鉄……! な、名は!? 名はなんというんですか?」

 

「ひよこ丸です。斬るとぴよぴよ鳴るので」

 

「わあぁぁ、素敵ッ、素敵ですっ♡ こんな凛々しい剣なのになんて可愛らしい名前ッ♡ あッ! 光に透かすと小鳥のような紋様が輝いて……あああああなるほどっ、なるほどなるほど、なるほどおおおぉぉッ♡♡♡」

 

「おぉ。お気づきですか! いいでしょう、これ以外にも可愛いポイントがいっぱいあってですねー」

 

 ずらりと机の上に置かれた多種多様な剣の数々。

 ひと目で惹かれるような美しい刀がある一方で、西洋剣や、打撃武器、剣とも思えない異形のものもあり、それを一つ一つ、ナメ回すように眺める霧さん。

 なるほど、熱っぽい視線はせいりゅー様ではなく剣に注がれていたようですね。

 

「うぅぅぅ。触りたい……なんだったら頬ずりしたいぃぃいぃぃぃ」

 

「すみませんね。この子達は私以外が触れると拗ねちゃうので」

 

「いえいえいえいえッ! 分かってます! そうですよね! こんな美しい子達もせいりゅーさんだからこそ喜んで使われるんですよね! そういうの私分かりますもんッ! ふはぁ~……♡ あ~この輝き、癒されるぅ……♡」

 

 そんな霧の暴走を見てめちゃくちゃ引いているのは唖涯。

 お静は粗相しないかハラハラと見守っています。

 

「……おい。アイツ、いつもあんな感じなのか」

 

「……………………あんな感じよ。霧は本当に刀が大好きなの」

 

 二人の会話はソコで途切れてしまいましたが、お静はその異常なまでの霧の刀への執着を知っています。

 彼女は誰よりも刀を愛し、より皆が刀を愛して欲しいと日々悪戦苦闘する、不器用な子でした。

 剣を打つ才能には恵まれなかったですが、ならばソレ以外だと。

 鞘や柄巻、笄や下緒といった、装飾品作りに心血を注ぎ。

 誰もが手に取りたくて。

 誰もが振ってみたくなる。

 そして生涯に渡って愛し愛される()()となるように、日々努力を重ねているのでした。

 せいりゅー様はもとより、きりん君も、そんな彼女の純粋さに気付いたのか、どこかほっこりとした表情を見せています。

 

 しかし。

 団楽は長くは続きませんでした。

 

 祭りの続く町中で、やにわに混ざる、穏やかではない怒号。

 喧嘩が始まったのでしょうか?

 しかしてその声は、だんだんと近づいているようです。

 そして……とうとう。

 赤半被を着た謎の男達が、この店を訪れたのでした。

 




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