おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第14話「親が子のために命をなげうって、何が悪い」

「いや~あの客すごかったなぁ旦那!」

 

「あの黒三連を散々コケにしてくれたもんな!」

 

「俺らも気分がいいってもんだ!」

 

「……」

 

 団子屋『あおし』。

 そこに一人、もくもくと団子を焼き続ける弁慶の姿がありました。

 今の『あおし』は大繁盛。

 いつもなら馴染み客二~三人程度なのに、それが今や客間がぎゅうぎゅうになるほどの人数がおしかけているのです。

 喋る余裕もないと言ったほうがいいでしょう。

 それもそのハズ。

 心配していたなじみ客はもとより。

 あの一方的な仕合を観て、興味をひいた客、胸がすいた客が、やんややんやと押しかけてきたのですから。

 祭りを差し置いても、過去にない盛り上がりと言っていいでしょう。

 

「──天罰さ! アイツらはやりすぎたからな!」

 

「そういやあの子、『青龍』って名乗ったんだって? なら本当に神様が見てたってことじゃねえか?」

 

「がはははは、ちげえねえな!」

 

「……おい、みたらしと磯辺が焼けたぞ、持ってけ」

 

「おっと、へへっ。待ってたぜ!」

 

 団子屋の主人、弁慶は相変わらずむすっとしていますが、それはいつものこと。

 もとより弁慶は感情表現が苦手なのです。

 なので今回の件もあまり気にしてないように見えますが……馴染み客にはバレバレです。

 普段は揺れない、黒く長い尻尾が機嫌良さそうに揺れてるのですから。

 常連である八百屋の助と、魚屋の角はそんな弁慶を(さかな)に団子を楽しんでいました。

 

「……しっかしなぁ。お前さん、知ってるか? あの青龍っていう嬢ちゃん」

 

「いんや知らねえなぁ。西の奴じゃねえのかい?」

 

「ばかやろ。西の奴が刀なんて持つかってんだよ。あいつら基本徒手っていうじゃねえーか。それがどうして西になるってんだい」

 

「うるっせえ奴だな、知ってらい! ……つっても思いつかねえんだよなぁ、北や南の奴らとてほぼ刀は持たねえんだろ? 案外阿妻(ココ)じゃねえのかい?」

 

「だよなぁ。だが実門様以外で七刀持ちを知ってる? 俺ぁは知らねえぞ」

 

「俺もだ。刀征証をとったっつー話もねえしなぁ……」

 

「……実門様の娘とかか?」

 

「馬鹿。んな訳……んな訳は……」

 

「ありえるんじゃねえか?」

 

「……ねえとは言い切れねえなぁ」

 

 二人がうーんとうなっていると、更に客が訪れ。

 今や団子屋の中も外も、ぎゅうぎゅうになってました。

 

「おーい! オイラには蒼餅ひとつだ!」

「こっちも蒼餅だ!」

「アタイも!」

「茶ぁねえのかい?」

 

「順番にいってくんな! ……助。角。手伝え」

 

「へいへい」

 

「お静ちゃんがいねえしなぁ……しゃあねえ」

 

 次々やってくる客の対応に大わらわの『あおし』。

 常連も慣れた手つきで手伝いを始めると……やにわに外が騒がしくなりました。

 それは祭りの騒ぎとは別物なのは明らかであり、何やら物騒な声すら聞こえてきます。

 弁慶がなんだ、と顔をあげると、赤半被の集団が慌ただしく走って行くのが見えました。

 

「……恩智だ」

 

「アイツら、このめでたい日になにしてやがんだ?」

 

「……」

 

 客達の注目も外に集まりはじめます。

 「東屋だ!」とか「急げ!」などと声をかけあう恩智達。

 彼らの形相は必死そのもので。

 普段のイキリ散らした様子とは大違いです。

 

 恩智の奴らを怒らせるなんて、馬鹿な真似をしたもんだ。

 大捕物(おおとりもの)か?

 あの慌てようは中々ないぞ。

 物騒だねぇ……。

 今度は何をしようってんだい。

 

 口々に不安があがる中、弁慶も注意深く見守っていると……ひときわ大きな声が響き始めました。

 

「いたぞー!」

 

 同時に聞こえてくる、ガシャン、ガシャンと、瓦板が落ちるような連続音。

 誰もが不思議に思っていると、すぐにその正体が分かりました。

 

「──ひゃあぁぁあぁああーっ!?」

 

「──ひ、ひえええええ~~~っ!」

 

「──んぶむうぅぅぅ~~~っ!?」

 

「……」

 

 せいりゅー様です。

 彼女は団子屋の向かい側で、唖涯を背負い、両腕にお静と霧を抱え、頭にはきりん君を乗せた不思議な状況。

 明らかに積載オーバーなのに、軽やかな足取りで民家の屋根をひょいひょいと飛んでおり、瞬く間に視界から消えると、遅れて赤半被達がわっと追いかけていったのでした。

 

「……お、おいあれ……例のお嬢ちゃん……だよな」

「お静ちゃん、だったよな……」

「なんだって霧まで?」

「気のせいじゃなけりゃ、唖涯もいなかったか?」

 

 客らが困惑するのも無理はないことでしょう。

 さしもの弁慶でさえ、串焼きの手が止まっていました。

 しかし、すぐに状況を把握したのでしょう。

 ふいに焼き場を離れ、鉢巻を投げ捨てた弁慶は店の奥へ。

 そして、その手に巨大な麺棒を握りしめて現れたのでした。

 

「お客さんがた……すまねえが今日はこれで店じまいだ。帰ってくんな」

 

「お、おい旦那!」

 

「いくらなんでも……!」

 

「そのかわり代はいらねえ……俺に行かせてくれ」

 

「よせよ旦那……多勢に無勢だ」

 

「そうだ、そんなことしたら旦那の身が……」

 

「……止めてくれるな。うちの娘が危ねえんだ」

 

 弁慶の覚悟は硬いようです。

 寒気がするほどの強い重圧(プレッシャー)を放ち、今にも駆けださんとしています。

 しかしそこにストップを掛けたのは、他ならぬ常連の角と助の二人でした。

 

「弁慶、冷静になりな」

 

「角の言う通りだ。お前さん一人で何が出来るってんだい」

 

「……知らねえが、娘は助けられるかもしれねえじゃねえか」

 

「形無のお前さんがか? 囲まれて殺されるのが落ちだぞ!」

 

「かまやしねえ。俺の命程度でウチの一粒種が生き残りゃそれでいい……邪魔すんじゃねえよ」

 

 いまにも噛み殺しそうな程の気迫をぶつけてくる弁慶。

 常連二人はうっと尻込みしますが、負けずに言い返します。

 

「……別にお静ちゃんを見捨てろ、なんて言うつもりはねえさ。ただ無策で突っ込むのはよせってんだよ」

 

「あぁまずは頭を冷やす。動くのはそっからだ」

 

「そんな悠長なことしてらんねえんだよ」

 

「焦っても何もいいことはねえぞ! 俺等も考える、なぁみんな!?」

 

 客達を見ながらいうと、そうだそうだ、という声が飛びます。

 

 この阿妻で最も影響力のある家が『青紫』なら。

 この阿妻で最も悪名高い家は『恩智』です。

 力を誇示することを(ほまれ)とする武士(もののふ)集団。

 『剣は力』と言う標語を盾に、朝は早朝から夜は日没まで死に物狂いで剣を振るい。

 家の名を高めるためならと、気性の荒い組員達が言いがかりに近い形で仕合をふっかけてくることも多々あります。

 仕合が日常である阿妻の民も、そんなに気軽に命のやり取りをしたい訳ではありません。

 ゆえに彼らは忌み嫌われており、道を通ると、思わず避けられてしまうのもしばしばです。

 

「お前さんだって……いや、お前さんだからこそ恩智の恐ろしさを身にしみて分かってんだろ?」

 

「そうさ。あの事件があって数十年がたつのに、未だに粘着されてるじゃねえか」

 

「ともかく恩智相手に下手に歯向かうのは不味い。これ以上目をつけられたらお前さんの命は……」

 

「あぁ。それでもしも()()()さんみてえになったらそれこそ……おい、弁慶! 行くんじゃねえ──ぐぁっ!?」

 

「うがあっ!?」

 

 無視して店を出ようとする弁慶。

 咄嗟に二人が服を掴んだ次の瞬間、助と角は同時に壁に叩きつけられていました。

 店の中が騒然となります。

 

「……ぐ、お前っ」

 

「なにしやがる……!」

 

「……()()()()()()()

 

「……!」

 

「やれお前さんらは口々に心配してくれるがな、いらねえお世話だって言ってるんだ。冷静に考えろ? あぁ、そうした方がいいんだろうな。だが……冷静になってる間に娘に何かがあったら……どうしてくれるんだ? そうなったら俺は、もう生きてる意味がなくなっちまう」

 

 麺棒が軋む音が響きます。

 そして、まるで苛立ちを解消するかのように、その場で振るうと、ごうッ。

 店に強風が吹き荒れました。

 

「……死ぬぞ」

 

「親が子のために命をなげうって、何が悪い」

 

 そうして弁慶は振り返ることなく、店を後にし。

 悔しさを滲ませた客達が取り残されるのでした。

 

 




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