おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第16話「実は本当に神様だったりするのかな?」

「それで青龍とやらは、どこに?」

 

「はっ……そのまま屋根伝いに北上し、蒼天の塔へと向かっているようです」

 

「そうか……」

 

 霧が営む店、相助屋前。

 厳戒態勢として恩智の侍達が集まるそこに、ある男がいました。

 同じく赤半被ではありますが、金糸で飾られた豪華なマント。

 すらりとしたスタイルに、紫のショートヘア、そして整った顔。

 彼の名は恩智家が三男坊、狩摩(かるま)

 狡怒が溺愛する、エリート坊っちゃんです。

 

「しかし安謝。キミほどの奴が相手をみすみす取り逃すとはな」

 

「は、申し訳ありません。狩摩様。油断していたつもりはありませんが……相手は自分以上の手練れでして」

 

「ほう。キミ以上の腕前とは! 中々にない逸材だな」

 

「少なくとも、自分では手も足も出ますまい」

 

「そこまで言わす相手か……うーむ、惜しいな」

 

 クセ毛を指で(もてあそ)び、悩む狩摩。

 当然ながら彼もまた阿妻の民。

 一目見て高そうな打刀を腰に据えています。

 しかし、その腕前は残念ながら一般兵士に毛が生えた程度のもの。

 周りからは親の七光り、と陰口叩かれ悔しい思いをしているとかなんとか。

 

「……囲い込むつもりで? 辞めたほうがよろしいかと」

 

「しかし恩智の成長に強い侍はかかせない。ましてやキミに匹敵する者なら、多少の狼藉は目を(つむ)るべきだろう」

 

「ですが、その狼藉が問題です」

 

「分かっている……本当に瞳に細工をした犯人だとすれば、我々では(かば)いきれないな」

 

 ことは他の家にも及んでいるのです。

 

 青紫(あおし)を筆頭とし、恩智、巨神(きょじん)連峯(れんぽう)静悪(しずあ)といった名家達が一斉に『青龍』を追い求めている現状。

 

 確保はまだしも、犯人を庇い立てれば、各家からの非難はまのがれないでしょう。

 

「ここまでの騒ぎなら関係者もろとも打首が妥当かと」

 

「だろうな。だが、貴様が手も足も出せないなら誰が討つ? 兄さんか?」

 

「……それは」

 

「……………ふふふ、正直だな安謝。今の反応は見なかったことにしよう。確かに刀征証は持ってるが、兄さんとキミの実力は拮抗していると私も思っている。キミが無理なら兄さんも無理だ」

 

「……は。いいえ、私の剣が狡怒様に比肩(ひけん)するとは微塵(みじん)も思っておりません。しかし、誤解なきようにお伝えすると、青龍と我々では位階が違います」

 

「……位階?」

 

 安謝から見た青龍は、得体の知れない化け物です。 

 それも、チビり散らして全速力で逃げないといけないくらいの。

 安謝は剣術に自負がありました。

 周りよりも自分が、高い位置にいると(おご)りではなく確信していました。

 なのに、今日でその自信も粉々に打ち砕かれました。

 相手は二人羽織なのに。

 それも相性がいい筈の大男で太刀使いなのに。

 剣をあわせればあわせるほど底が見えなくなってゆくのです。

 あの『必殺の突き』ですら防がれる予感は今日がはじめてで、対峙して、ここまで無力感を覚えたのは、久しくありませんでした。

 

 安謝の直感は、こう言っています。

 

 ──彼女とは、戦うべきではない。

 ──倒せる、倒せないとかそういう話ではない。

 ──戦いになるわけがない。

 

「私の剣の腕前が巨山の麓だとすれば……彼女は、その山の遥か頂上です」

 

「……!?」

 

「あの者、ひょっとすれば実門様すら超える力を持っているかもしれませんよ」

 

 青紫実門(さねかど)

 

 青龍様のお言葉の体現者であり、もっとも青龍様に近い現人神。

 総仕合数は千を超えて千百。

 その全てで圧倒的勝利を飾った、自他ともに認める剣豪。

 かつて安謝も挑み、そして命を奪われかけた阿妻最強です。

 ソレを超える力を持っていると?

 狩摩は最初、冗談だろうと笑い飛ばそうとしましたが、安謝があまりにも真剣な目をするので、瞑目をしはじめるのでした。

 

「……青龍か。実は本当に神様だったりするのかな?」

 

「さて。そうだとすれば私は随分と不敬を働いたことになりますな」

 

「その時は恩智も同罪さ。それで、追いつけるか?」

 

 狩摩が遠くに見るは、悠然と姿を見せる世界樹と、その手前に見える蒼天の塔です。

 

「人ならざる速さで移動しているので、正直な所難しいかと」

 

「四人抱えての移動なのだろう? すぐに力尽きないのか?」

 

「それこそがヤツの化け物たる証左でしょう」

 

「……行き先が分かれば先回りも出来るのだが、一体何が狙いだ? まあいい。引き続き、追跡を。決して他家に遅れを取るな」

 

「承知いたしました」

 

 安謝は丁寧に頭を下げると、すぐに走り出します。

 その速さ、常人のそれを超えており。

 ぐんぐんと走っていけば、すぐに仲間と合流することができました。

 

「安謝さん!」

 

「青龍は?」

 

「は! 方角は蒼天の塔は依然変わりありません! 報告によれば地蔵通りの火見櫓に一度立ち止まったとか!」

 

「ふむ……()()()()()()()のかな? では全員に通達。蒼天の塔を目指せ。犯人は現場に戻るともいう、青龍も戻るかもしれない」

 

「了解しました! 皆、聞いたか! 蒼天の塔だ! 塔を目指せ!」

 

(まあ囲んだところで、どうこう出来るとは思えんがね)

 

 並走しながら情報交換を行った安謝。

 彼はせいりゅー様の狙いについてある程度推測を立てていました。

 なぜ彼女はわざわざ刀屋に出向いた?

 なぜ刀屋の娘ごと逃げた?

 そこから導き出せる結論は、せいりゅー様が何かを探しているのではないか、という事でした。

 

「……刀か?」

 

 なにせ七刀を持つのです。

 今更もう一刀持つのは過剰のように思えますが……そうなると、鍵は同行していた者たちにありそうです。

 

「そうだ君たち。君たちは別働隊だ」

 

「は! なんでしょう!?」

 

「おそらく火見櫓(ひのみやぐら)に唖涯を始めとする、青龍に拉致されていた者がいるはずだ。彼女達を保護してくれたまえ。特に相所屋の一人娘『霧』だ。彼女は必ず捕まえろ」

 

「はっ!」

 

「任せたぞ」

 

 兵士四人組にそう伝えると、安謝はその場で跳躍し、同じく屋根に飛び乗ります。

 そしてせいりゅー様と同じくらい軽やかな跳躍で、凄まじい速さで移動するのでした。

 

「……なるほど。こっちの方が進みやすい。合理的だな」

 

 屋根という屋根を次々と飛び移る安謝。

 すぐ下では祭りを楽しむ民衆がごった返しおり。

 安謝の姿を見て驚くものも少なくありませんでした。

 ひょっとしたら先に行かせた兵より先回りしてしまうのでは?

 そう考えたところ、不意に足を止めます。

 一体どうしたのでしょう?

 

「──すまないが今は相手をしてる時間はなくてね」

 

「フン。そっちが用はなくてもこちらは用がある」

 

 突如、進行方向にあらわれたのは、気の強そうな少女でした。

 肩までの長さの、艶やかな桃色髪。

 動きやすいように改造された白い着物。

 その腰に幅広の剣を下げたその名は、破魔家の花庵(かあん)

 新進気鋭の名家である「静悪」。

 その当主に若くして成った実力家の剣士です。

 

「このようなめでたい日に騒ぎたてるとは、恩智は一体どういう神経をしているんだ?」

 

「耳が痛い。しかし火急の用でね。なに、すぐに騒動は落ち着くさ」

 

「すぐに……ね」

 

「そうとも。(ゆえ)に君たちの出る幕はない」

 

 分かってくれるかな? 

 (さと)すような言い方をした安謝でしたが、次の瞬間、彼は跳躍。

 直後、雷が落ちたような音とともに、彼がいた場所が粉々になっていました。

 

「おいおい」

 

「あまり我々を舐めるなよ、お前たちが追ってるのは蒼天の塔に侵入した奴だろう」

 

 彼女の手には、振り抜かれた異形の剣──いや、鞭がありました。

 鞘に収まっていたのは先端が尖った九条もの鉄鞭。

 それが意思を持つかのようにうねり、鈍色を輝かせていました。

 羽錬(ふぁんねる)

 彼女のそれは、前後左右関係がない変幻自在の攻撃を実現すると言われています。

 

「……」

 

「阿妻の大事は、静悪の大事。静悪の大事は阿妻の大事だ。協力も要請せずに抜け駆けとは、どういうことだ?」

 

「君たちの手を借りるまでもないと考えただけだ。無論、見つけた後は伝えるつもりだった」

 

「ぬけぬけと……」

 

「嘘ではない。それよりも、キミとこうしている時間が惜しい。青龍とやらの速さは韋駄天も舌を巻くほどだぞ?」

 

「あまり馬鹿にするなよ。奴が蒼天の塔に再び向かっているのは掴んでいる」

 

「知っているなら話は早い。ならば、ここでいがみ合うより、二人で塔に向かった方が建設的と思わないか?」

 

 一触即発の空気。

 安謝も鯉口を切り、いつでも攻撃が出来る態勢になります。

 二人は瞬きも惜しんでにらみ合い……やがて、花庵が呟くのでした。

 

「……安謝、貴様ほどの男が、なんのために恩智に義理立てする?」

 

「何を。恩智に拾われたこの身だ。終生を恩智に尽くすまで」

 

「そのような建前は聞いていない。貴様の本音だ。何を狙っている?」

 

「……」

 

狡怒(ずるど)の首か?」

 

 痛いほどの沈黙が流れ。

 やがて安謝の方から臨戦態勢を解くのでした。

 

「妄想(はなは)だしいな花庵。今は仕合どころかお喋りする暇もない。コレで失礼する」

 

「……ふん。貴様らの部下に伝えておけ。静悪の邪魔をするなと」

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししよう」

 

 そうして、剣士達は二手に分かれ、それぞれ塔に向かっていくのでした。

 




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