おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第17話「絶対に仕合わせてもらうよ」

 青紫家。

 それは現在の阿妻で最も格の高い家です。

 

 阿妻の歴史上、中期から隆盛したこの家は、かつては青龍様の血筋とされる青家、その分家として登場しました。

 しかし本家である「青家」は大陸全土で繰り広げられた大戦で、有力な後継者を失い。

 結果として没落した青家に代わり、本家として台頭したのでした。

 今では阿妻と言えば「青紫」と言うほど名を()せています。

 他家はそんな青紫をやっかみ、「たまたま青家と血筋が近いだけで」とか「いい感じに青家に取りいったんだろう」など陰口を叩いたものですが、今ではそんなやっかみも、鳴りを潜めています。

 

 なぜか。

 それは、彼ら青紫家が真に実力揃いだからです。

 

 阿妻の風土は一言で言えば『弱肉強食』。

 人生は良くも悪くも剣の腕前に左右されます。

 

 どれだけ善人でも、どれだけクズでも。

 どれだけ美人でも、どれだけブサイクでも。

 どれだけ裕福でも、どれだけ貧乏でも。

 それこそ、どんな生まれであろうとも。

 剣の腕前があれば、誰も文句は言いません。

 その理念にもっとも順応し、もっとも鍛錬を積んだのが青紫家でした。

 物心つく頃から行われる常軌を逸した訓練の数々。

 青紫で育った子供たちは、死に物狂いで剣を学び、実際に死にかけ、剣と共に生きること、そして自分が青紫の人間だということを刷り込まれます。

 その結果驚くことに、青紫家の9割が刀征証持ち。

 全員が阿妻上位の剣豪達となっています。

 ……代わりに、途中で死んだり、逃げ出すものも多いので、正式に『青紫』を名乗れる人物は6人ほどしかいないのですが。

  

 ただ、そんな狂気に晒された結果、他家が文句を言いだせない青紫家ができあがったのです。

 

「──ということで刀雨(とさめ)によると、『青龍』とかいう奴は蒼天の塔(ココ)に向かって戻ってくるみたいだ」

 

「ふぅん」

 

「そうか」

 

「……」

 

 蒼天の塔、その高層部第六十層。

 そこに、青紫家の師範代らが集まっていました。

 

「……青龍の名を騙るその不遜(ふそん)。斬り捨てねばならない」

 

 むすっとした顔で座る、スキンヘッドの大女。

 青紫火熊(ひぐま)

 青紫の四女であり、長巻と脇差しの二刀流です。

 

「いやいやぁ、くまちゃん殺しちゃ不味いよぉ。まずは事情を聞かないとぉ」

 

 やんわりと制止するのは、小柄ながらも豊満な体を持つ女性。

 青紫冷鞘(ひざや)

 青紫の三女であり、薙刀と打刀、脇差の三刀流です。

 

「そうさ火熊。まずは相手の狙いを知ってからでないと」

 

 ニコニコ笑顔を絶やさない、白髪交じりの壮年の女性。

 青紫墓道(はかみち)

 青紫の次女であり、四刀流の使い手です。

 そして、

 

「……」

 

 床の間の奥に座り込み、瞑目する人物。

 青染めした長い髪を二房に分け、

 体つきは男性らしさもあるが、どこか女性らしさも感じさせる、中性的な人物。

 背中に七つの様々な刀を背負う、彼こそが、青紫実門。

 青紫の長男であり、七刀流の使い手。

 そして阿妻で最も強い剣士です。

 

「兄さん。実門兄さん」

 

「……」

 

「にーいーさーんー」

 

「………へっ? あれ、話終わった?」

 

「まだ終わってませんってぇ。青龍がこっち()に向かってるんですよぉ?」

 

 冷鞘が突っ込むと、ゴメンゴメン、と平謝りです。

 

「いやね、青龍って子がどれだけ強いのかちょっと考えていて……」

 

「はいはいぃ。兄さんはいつもこれなんだからぁ。それでどうするのぉ?」

 

「どうするって……会うしかないんじゃない?」

 

「誰がぁ?」

 

「僕だけど」

 

 おいおい当然だろうと、笑う実門に他の姉妹は白け顔です。

 

「実門兄さん、流石に横暴ですよ」

 

「そうよぉ。私だって会いたいのにぃ」

 

「私とて斬り結びたい。だが国益を考えて動くのが重要だろう」

 

「うーん、っていってもねえ」

 

 青紫家は剣狂い達の集まり。

 蒼天の塔に侵入した謎の剣士と、今すぐにでも仕合いたいと全員が考えるくらいには、仕合が大好きです。

 とくに彼らは、あの現場を見ています。

 塔の壁にできた、あの芸術とも言えるほどの壁の切断面を見てしまっています。

 見た瞬間、背筋に電流が流れるほど、圧倒的な技。

 アレを見たからこそ、青紫家はすぐに行動せず。

 他家を餌に、(けん)に回ったのです。

 なにせ、その人物は下手すれば、自分達にも届く技量を持っているだろうから。

 

「刀雨によれば団子屋と刀屋に顔を出して逃走したそうな。……狙いが見えぬな。国を転覆させるつもりではないのか? 愉快犯か?」

 

「大胆な子なのねぇ……そういえば、子連れって言ってたわよぉ」

 

「そのようだね、見たことのない珍しい亜人だそうだよ」

 

「ぬぅ。ますますわからん。何故子連れで……しかも青龍様のお姿で……?」

 

「まあ狙いは本当に聞かないと分からないかしら。ここはやはり私、墓道が。交渉の余地はきっとあると思ってるから」

 

「ぬぅ……」

 

「あーずるーい、墓姉!」

 

「……いやー。こればかりは僕が行ったほうがいいよ?」

 

「兄者。あなたは交渉が苦手だろう? いや出来ぬというかしないというか……」

 

「ひどいなぁ、っていうかそういう事じゃないよ」

 

 じゃあどういう事なのさ。

 全員の視線が集中すると、実門は肩をすくめてこう言いました。

 

「だって、君たちじゃ絶対に勝てないだろうし」

 

 ──ピシ。

 

 その瞬間、落ち着いた雰囲気の和室に、ひび割れた音が響きました。

 

「え? あ。気を悪くした? ごめんごめん。でも事実だよ。たとえ相手が手加減してくれても相手にならないと思うよ」

 

「……」

「……」

「実門兄さん」

 

「だって君たちあの斬り口みたでしょ? あれ。出来る? 無理でしょ。僕でも一回見ただけではすぐには再現できなかったぐらいだよ? っていうかアレ見たら分かるよね? 君たちと青龍って子の差が、彼岸ほど離れてるってのが」

 

「──あの程度、出来ぬ訳がない!」

 

「虚勢を張るくらいならまず斬ってみせてよ。ってかさ、すごいよね。あの切断面だけで分かるよ。これを為した子がどれぐらい刀を振るってきたのか。どれくらい狂気に身を委ねてきたのか! あれはね、ずっと、ずっと。ずーっと! それこそ生まれてから今に至るまで寝食どころか呼吸すら忘れてずーっと刀の事しか考えてないと出来ないはずだよ! あはは、なら土台無理ってもんだよ火熊。キミ才能すらないし!」

 

「──ガぁッ!」

 

 途端、部屋の中で暴風が吹き荒れ、火花が水しぶきのように撒き散らされます。

 見れば、火熊が目にも止まらぬ動きで実門に斬り掛かっていました。

 彼女の周りの座布団、畳、柱が、空間ごと抉られて消える中、実門は涼しい顔でそれを避けています。

 

「力んだ。あ、いまブレた。駄目だなー、火熊。やっぱり修行が足りないんじゃない? これじゃここをちょっと突くだけで、すーぐ狙いズレちゃうよ?」

 

「──ッ!」

 

「はーい、駄目駄目。集中集中。剣気をしっかり乗せないと、紙も斬れないよ?」

 

「……お辞めなさい火熊。それに実門兄さん」

 

「そうよぉ。くまちゃん、ほらこっちにおいで。兄さんも、あんまり刹那を虐めないでよぉ」

 

 なだめすかす墓道達。

 すると、胸をかきむしられるほどの強い金属音の後に、火熊が遥か部屋の奥まで吹き飛ばされていました。

 

「ごめんごめん。僕、正直者だから」

 

「実門兄さんのそれは、正直を通り越して口が悪いだけです」

 

「そうなの?」

 

「そうです」

 

「ほぉら、しっかりしてクマちゃん。動けるぅ?」

 

「……ッ、平気だっ!」

 

 冷鞘の腕を跳ね除ける火熊。

 それを見てやれやれ、と実門は肩をすくめす。

 

「という訳なのでー、交渉が決裂したことも考えるとまともに打ち合えそうな僕が行くよ。うん、仕方ないね。お婆様も早急な解決を求めてるしねー。斬るのもやむなしかな?」

 

「なんで打ち合う事前提になってるんですか……まずは、目的を知る事が大事ですからね」

 

「おっと。そうだった」

 

 満面の笑みでうなずく実門。

 その笑みを見て、姉妹全員がため息をつくのでした。

 

(楽しみだなぁ……)

 

 剣狂いの証である『刀征証』。

 それを七度に渡り手に入れた実門。

 しかし、手に入れる頃には実門と渡り合える相手は、どこにもいなくなっていました。

 それは実門を強くがっかりさせました。

 唯一並び立てる相手があるとすれば、伝説の青龍様。

 しかし、それはあくまで紙面上の話で、実際にはいないのです。

 ようやく剣の事が()()()()()()()()()()

 悔しさと歯がゆさを胸に、剣を振りながら日々を空虚に過ごしていた矢先、今回の事件が発生したのです。

 それは、まさに実門にとって福音でした。

 青龍と名乗り、自分と同じ七つ刀を持つ少女。

 こんなの期待しないわけがない!

 

(キミが国家転覆を狙おうが観光目的だろうが、どうだっていい。絶対に仕合わせてもらうから……覚悟してね、青龍)

 

 腰の刀もまたこらえきれないのか、チキ、チキ、と金属音をかきならしていたのでした。




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