おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第19話「お布施のひとつでも持ってきたら考えようかね」

「……すまないね、年甲斐もなく泣いちまったよ」

 

 小柄なきりん君を腕にかき抱いて涙を流したお婆さん。

 時間にしては1分も経たないほどでしょうか。

 なのに彼女は、もはや見た目にまで劇的な変化があらわれていました。

 

 白髪まみれのその髪は、元来の若さを取り戻して黒くなり。

 皺くちゃの肌は潤いたっぷりのぴちぴち肌。

 猫背気味の背中は、シャキッと棒が通ったように伸び、

 年に合わせて作られた巫女服は、ぱっつんぱっつん!

 

 先刻までの弱々しい姿はそこになく、気が強そうな妙齢の美女がそこにいました。

 

「しかし……驚いたね。坊やは(あやかし)かなにか、なのかい? 数十年ぐらい若返っちまっ」

 

「はいはい、きりん君に触れるのはもう終わりですよー」

 

 しゅばばっ、と香桜の手からきりん君をうばったせいりゅー様。

 むぎゅ~っと抱きしめてすんすんふがふがと匂いを上書きし始めました。

 

「……もしかして、あまり触れすぎると?」

 

「お察しの通りですよー。とはいえ、若返り目的以外でもあんまり触っちゃダメですけど」

 

 執着心の強い子だねぇ、と肩をすくめると、改めてせいりゅー様達に向き直る。

 

「遅れたが名乗らせてくれるかい? アタシは青龍神社の巫女、青香桜(あおのかおう)だ。青家の血筋、その最後の末裔だよ」

 

「せいりゅーです」

 

「……きりん」

 

「よろしく頼むよ。しかし……青龍……ねぇ」

 

 香桜は、せいりゅー様をジロジロと舐め回すように見ます。

 

「ひと目みると破廉恥極まりない、七つの刀を平然と持ち……青く長い二房の髪……蒼天の塔(おとなり)もかなり騒がしかったが……もしかしたら、アンタもしかするのかい?」

 

「……あー、とうとう来ちゃいましたか。うふふふ。そうなんですそうなんです、もしかしたらもしかするのかもです」

 

 ようやくその時が来た!

 口角があがるのを抑えられないせいりゅー様。

 ここまで敬意という敬意を払われていなかったこともあり、どんな反応が返ってくるのか、ワクワクが止まりません。

 

「……ははぁ。まさかまさか本当の青龍様だったんだねぇ」

 

「あれれー?」

 

 しかし、香桜の反応はかなりフランクでした。

 

「あ、あのー……リアル青龍様ですよ。降臨しちゃったんですよ? 何かこー、もっと驚いたりしないんですか?」

 

「いや驚いているさ。驚いているが、何と言うか……驚きすぎて逆に冷静になったというか……本当に像そっくりだったんだねぇ……」

 

「それだけですか!? 胸違いますよね!?」

 

「あぁ……うん。そうかもねぇ」

 

「むむむむ、むええええん、きりん君ー!」

 

「……むねん」

 

 尊敬しているのは間違いないでしょうが、どこかズレており、さながら若者に『マジリスペクトしてるっすよー』と言われてる気分です。

 無理もないのかもしれません。

 せいりゅー様が残した逸話は、そのどれもが奇跡と言わんばかりの凄まじいものばかりです。

 が、それらはあくまで数千年の前の出来事。

 今を生きる阿妻の人々にとってみれば、ただの絵空事。

 そんな伝説の存在が急に眼の前に現れたとて、現実感はなく、ただ反応に困るだけなのでした。

 

「それで青龍様。わざわざ降臨祭で秘剣探しとは……一体何故です? 何か一大事でも?」

 

「それがですね、神を殺せる剣を探しているのです」

 

「神を殺せる剣……」

 

「聞けば、何でも斬れる剣ともいわれてるそうなのですがー」

 

「神器、ですか。ふぅむ、神を殺せるとは……アタシも長いこと生きてるけど、耳にしたことがあないねぇ。急を要するので?」

 

「えぇ。()()()()()()()壊してしまおうと思いまして」

 

「そうかい……では、アタシにお任せを。こうして青龍様にお会いできたのもなにかの縁でしょう。可能性があるとすれば青紫神社の宝物庫、そこへ向かうとしますか」

 

 ぽにょん、と自らの胸を叩く香桜おば……おねえさん。

 これにはせいりゅー様達も大助かりです。

 

「いやはや、手がかりが無かったらどうしようかと思いましたよー……最悪国を全部斬ろうかと」

 

「ちょっと……冗談でも辞めな青龍様。アンタなら本当にできかねない」

 

「え。出来ますけど」

 

「……ますますお辞め。いや、辞めてください」

 

 最初に比べて姿勢よく先導してくれる香桜。

 

 しかしながら神社の外から聞こえていた喧騒が、更にヒートアップしていることに気がつくと、じとり。

 せいりゅー様を睨みはじめました。

 

「……ちなみに青龍様。何やら外が騒がしいですが……何をなさいましたか?」

 

「あー……えっと。青紫の皆さんに追われてます」

 

「……」

 

「蒼天の塔に侵入したーとかなんとかで……本当は侵入ではなく外出しただけなんですよ? 参っちゃいますよね」

 

「……はぁ。では、下から大挙してやってくる恩智共は青龍様目当てだと。下がってくれますか?」

 

 そう伝えた瞬間、音もなく消え去るせいりゅー様達。

 改めて神様なんだなぁ、と香桜がしみじみ思っていると、階段を登ってきた侍達が、息を切らしながら問いかけてきました。

 

「おい女。貴様、青龍神社のものか?」

 

「えぇそうだとも」

 

「ここに青龍と名乗る不届き者が来なかったか? 蒼天の塔に侵入した極悪人だ」

 

「青龍? ……そう名乗ったのかい? 罰当たりなことを……」

 

「あぁ全くだ」

 

「それで、その青龍とやらが蒼天の塔に? 呆れた。気狂いか、本当の神様のどちらかだろうね」

 

「……それで、来たのか? 来てないのか?」

 

「来てるわけないだろうに。私が知ってる青龍様は、御本尊だけさ」

 

 赤半被軍団はひそひそと話し合います。

 半分は納得しているようですが、もう半分は確かにこっちに降りたと半信半疑です。

 

「……隠し立てはしてないだろうな?」

 

「疑うならどうぞ見ていっておくれ。ただし賽銭は忘れないようにな」

 

「ちっ……今はそんな暇はない。おい、中を探れ!」

 

「探るはいいが、壊さないでおくれよ! 壊したらお前さん達に請求するからね!」

 

 見つかることはないだろう。

 そう確信があったから通した香桜でした。

 赤半被達の疑りは正しかったですが、所詮一般人。

 井戸の中、本尊の中、そして床下まで探りますが、当然見つかりません。

 肩をすくめると、リーダー格と思われる男がわざとらしく舌打ちします。

 

「……大体なんだ貴様のその服は。この神社はろくに服を作る金もないのか」

 

「はっ。あいにく阿妻じゃ、誰も青龍様を崇めないものでね。自分のことを考える余裕もないのさ」

 

「ふん。零細神社も大変だな」

 

「青龍神社だよ!」

 

「どうだっていい。……”青龍様”などいやしない。あるのは青龍の瞳という、怪しい宝石だけだ」

 

「……それが恩智の認識かい? 罰当たりにも程があるだろう」

 

「紙面で刀を振るう神より、実際に刀を振るう我々の方が強い」

 

「こうして刀を呑気に振れるのは青龍様あってのもの。それすら分からないのかい。呆れるね。……それで? 満足したかい?」

 

「……」

 

 他の侍に目配せしますが、全員首を振るばかり。

 渋々といった様子で彼は頷きました。

 

「何か知ってることがあったら、すぐに恩智に教えろ」

 

「お布施のひとつでも持ってきたら考えようかね」

 

 あくまで徹底抗戦の香桜。

 苦い顔をした男は、そのまま侍を引き連れて去っていきました。

 やれやれ、これで一件落着のようですね。

 ……そう思っていると、不意にリーダー格が振り返りました。

 

「そうだ。お前の名前は?」

 

「……ぁんだって?」

 

「お前の名前だ。この神社は確か青家の婆さん一人だけだった筈だ。最近入った雇われか?」

 

「……」

 

 少しの間、沈黙が流れると、香桜はこう言うのでした。

 

「徒花。なんの家名もない、ただの徒花(あだはな)だ。香桜さんが年だっていうから、手伝いに来ただけさ」

 

「……ふん」

 

 男は、感謝もせずに階段を下ってゆくのでした。

 

「──いやー、助かりましたよ香桜さん」

 

「……あのね。まだ出てくるには早いんじゃないかい?」

 

 安全を悟ったせいりゅー様。

 香桜の背後ににゅっと現れてにっこり笑顔です。

 

「私共にも都合がありまして。神殺しの剣を壊すのは早ければ早いほどいいんです」

 

「そうかい。なら、まずは行き先は青紫神社だが……青龍様」

 

「何でしょうか?」

 

「もし暴れるときが来たらアタシが暴れるから、貴方様はあまり暴れないでくれるかい?」

 

「……えー」

 

 年の功というものか、はたまた女の勘というものか。

 せいりゅー様の本質がトラブルメイカーだと認識したようです。

 無論せいりゅー様とて最初から大暴れする算段はないですが、流れによっては斬って斬られてもあると考えていたのでしょう。

 途端に声色が渋くなります。

 

「……せいりゅー」

 

「う。うぅ……ちょ、ちょっとぐらい! ちょっとぐらい、いいじゃないですか!」

 

「……だめ」

 

「えぇ! 待ってください! 一回、軽く刺すぐらいは!?」

 

「……だめ」

 

「じゃ、じゃあせめて小突くくらいは!」

 

「……だめ」

 

「みねうちは!」

 

「……だめ」

 

「やれやれ……アタシは着替えてくるよ」

 

 せいりゅー様はしばしきりん君にごねたのですが、結局通ることはなかったといいます。

 

 

 




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