『
晴天と降雨を
正義の神様であり。
刀剣の神様でもあります。
『青龍』様が阿妻の地を収める神なのは、この地上にいる存在なら誰もが知っている事です。
その腕前、まさしく比類なき強さ。
阿妻を仇なす全てを斬り捨て、生涯において敗北はなく。
人どころか鉄も、魔物も、陸も、海も、空も。
その楽園のあまねく全てを斬ったと言われています。
「きりん君きりん君きりん君。千年ぶりですねー。お姉さんは寂しかったですよ」
「……少しぶり?」
「? あぁそうでした。きりん君はすぐに眠ってしまいましたからねー。ともかく、お姉さんの寂しさが分かってくれればいいんです」
「……んむ」
『青龍』様は非常に美しく、凛々しい女人であったと言われております。
身長は高くもなく低くもないが、均整の取れた体。
晴天の空のように蒼く、長い髪を後ろに二つに束ねて流し。
頭部から生えた短くも立派な二本角は、真珠のように美しく。
細く、長い龍の尻尾は、宝石のように輝いていたといいます。
そんな彼女の体型は、剣の道を志すなら目指すべき、指標にもなっているくらいです。
また『青龍』様は人智を超えた七つの宝剣を持ち。
その全てを巧みに操り。
それらの剣をもって、楽園全土で収められる剣技の基礎を作りあげたと言われています。
「それにしても……ほんとに呪いは解けたんですかね……あのドン亀さんが言うからきりん君とイチャイチャするのを千年以上我慢してたのに……これで治ってなかったら刺身にしてやりますよアイツ」
「……なんでさわるの?」
「え? 勿論怪我がないか確かめるためですよぅきりん君ー。ほっぺもちもち、背中もすべすべ。お腹ぽっこりの尻尾ふわふわ……
「……だめ」
「えー」
『青龍』様はとても厳格な人物だったと言われております。
自らに厳しく。
そして他人にも厳しく。
剣以外を一切の雑念だと斬り捨て、ただただ愚直に剣と共に在り続け。
春夏秋冬四六時中、常に剣を振り続けるその姿は、まごうことなき剣聖!
その美貌から数多の男達が剣を手に、求婚の仕合を申し込んだといいますが、そんな恋文、挑戦状、果たし合いの全てを斬り捨て、剣の頂点にいつまでも立ち続けたと言います。
「それにしても裸はすごいえっちですよきりん君。食べていいですか?」
「……だめ」
「えー、なんでですか? 今はあのドン亀も、焼鳥も、バカ虎もいないんですから。ね? ね?」
「……だめ」
ある
最果ての闇から現れた冬の神。
神は阿妻の地に恐ろしく大きな暗雲を呼び込み。
四季を冬に固定してしまった事があります。
土地は見渡す限りが白く染まり。
やがて作物も、家も……人すらも白く染めました。
人は寒さに凍え、作物は実らずに飢え……もう生きていけないと誰もが絶望した時です。
どこからともなく現れた『青龍』様が、剣を一度振るったのです。
すると、どうでしょう。
あんなに大きい、バケモノ雲が真っ二つになりました。
さらに一振りすれば、さらに雲は半分になり。
もう一振りすれば完全に雲はなくなり。
阿妻の地に再び日の光がさしこむようになったのです。
あまりの奇跡に言葉も出ない人々に、青龍様はこう仰られました。
『剣を持ち。剣を振り。剣を信じよ。さすれば道は開かれん』
ありがたいお言葉です。
青龍様は我々の未来を、剣で示してくれたのです。
このお言葉は千の時を超え、今もなお語り継がれています。
剣と向き合い、剣を突き詰め、斬るのだ。
ひたすらに剣を振り続ければ──どんな困難も斬り開けるのだと!
「とりあえず服はこしらえましたよー、その辺の草っぱですが、まあいいでしょう」
(きゅるきゅるきゅる……)
「……あ。お腹空きましたか? うーんごめんなさい。きりん君のピンチにかけつけて来ただけなので食べれる物は持ってないんですよね……あのトラ、食べますか?」
「……がまんする。……それよりはやく
「駄目ですよ! いくら食べる必要がないとはいえ、本能を無視してはいけません! すぐに『びっくり居合』で……いえ、それだときりん君が気絶しちゃうかも……」
「……びっくり?」
「居合抜きの応用で、抜刀の初速を全身に乗せて、振り切らずに連続抜刀を繰り返す歩法なんですよ~。ちょっと忙しいですけど、結構便利なんです」
「……?」
「……まぁ、すごい移動だと思ってください。それにしても私もまだまだですね……お腹を膨らませる剣術も考えつかないなんて……未熟です。空腹を感じさせないようには出来るんですが……」
「……せいりゅー?」
「あ、ごめんなさい。ぼーっとしてました……とりあえず森から出ますか。
§ § §
そんな二人が出会っていた裏で。
楽園の東側に位置する
それは世界をどん底に陥れようとした、悪しき帝国を打倒した神々を祝う祭りでもあります。
この日を迎えると、大陸全土でお祭り騒ぎ!
東西南北、全ての国で、10日間に渡ってどんちゃんどんちゃんと皆が飲んで笑って、踊って……『四聖』の偉業をたたえあうのです。
この時ばかりは年齢、性別、仲の良し悪し、種族、立場も関係なくなるといいます。
良い祭りですね。
――そしてそれは、そんなめでたいお祭りの初日の事でした。
ここは阿妻の中央に位置する『
剣の頂きに達した者だけが入れる聖堂です。
その塔の頂上には青龍様の遺物として、『青龍の瞳』と呼ばれる大きな宝石が飾られていました。
伝説によればこの中に青龍様が眠っており、来たる日がくれば皆の前に姿を現し、皆を導くともっぱらの噂です。
青龍の瞳は、まるで眠っていることを表すかのように千年もの間、ゆっくりと点滅を続けており、年に一回の降臨祭で宝珠を一般公開。
民衆がありがたく拝むのが習慣となっているのです……が。
「お、おぉ……おぉぉぉぉぉおぉ──ッ!?」
齢89歳、青紫流の第50代師範。
名を
そんな美味しそうな名前のおばあちゃんがなんと、体をぷるぷるさせて死にかけていました。
一体どうしたというのでしょう?
おばあちゃんの視線の先には、青龍の瞳があるのですが……おぉ、なんということでしょう!
宝珠がすっかり点滅をやめているではないですか!
おばあちゃんのポックリポイントです。
しかもおばあちゃんのポックリポイントはこれで終わらず、宝珠のある部屋の壁に、◇の形に切り取られた跡が残っていました。
おばあちゃん、これには衝撃のあまり腰を抜かしてます。
「なんと……なんという事じゃ……!」
「婆様。一体なにが……む。これは……!?」
青紫の師範代がどたどたと集まり、その異常に気づきます。
今まで他流派が我こそが、と青龍の瞳を狙いに襲い掛かってきた事は何度かありました。
しかし、青龍の瞳はそのままに光だけ失わせる、このような凶事は千年もの間一度たりともなく、驚きのあまり誰も動けなくなってしまいました。
「侵入者……ってことなんかねぇ?」
「馬鹿な……我々師範代4名が塔を囲っておるのだぞ。子ネズミ一匹たりとも通さぬのは分かっていよう」
「じゃぁ外からの襲撃ぃ……?」
「それがありえない事は見れば分かるでしょう。この壁の傷を見なさい……内側から斬りつけなきゃ、こうはならないよ。しかもこの太刀筋……これは、実門兄さんでもなければ不可能のハズですが……?」
「――
「お婆さまぁ?」
「二代目様が得意としておった剣じゃ。
死にかけおばあちゃんは語り出します。
ただ壁を斬っただけと思うなかれ。
その一撃には様々な秘剣が込められている。
その全てのエッセンスが含まれた未知の剣だと、豪語するのです。
歴代の師範代ですら習得に難航した秘技の数々が、この一撃に込められてるなんて……師範代達は誰もが信じられませんでした。
「そんなのありえへんくない? 実門兄さんは出払っとるんに、出来るヤツは他にあらへんやろ」
「愚か者どもが! この壁に刻まれた傷こそが何よりも証拠! そやつはあぐらをかいておった我々の遥か上におるのだぞ!」
杖代わりに使っていた刀を床に打ち付けて
彼女は改めて皆に告げます。
「良いか……如何なる手を使ってもよい。この狼藉者を探し出せ。そして……なんとしても瞳の力を奪い返すのじゃ。これは我々青紫家……いや阿妻の存続に繋がる一大事じゃ!」
「「「「ハッ」」」」
こうして青紫のトップ達は、事件の犯人を捜しに行くのでした。
犯人がその青龍様自身だとは、思いもせず。
あーあ。
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