おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第20話「コイツぁ俺のもんだ。手を出すんじゃねえ」

 祭りでごった返す大通りを、唖涯達は逆行中です。

 行先は団子屋『あおし』、そして刀装具店『相所屋』。

 唖涯はせいりゅー様の言伝通り、お静と、霧を家に帰すため慎重に道を急いでいるのです。

 

「……こっちもかよ」

 

「また!?」

 

「ぁぅぅ~……」

 

 しかし、状況は(かんば)しくないです。

 恩智の手が予想以上に早いのです。

 行く先々で見ることが出来る赤半被軍団は、人ごみの中をきょろきょろと見まわし、明らかに何かを探しています。

 目的は間違いなく唖涯達でしょう。

 彼らに見つかれば、恩智の屋敷につれていかれ、拷問の上で自白を求められることでしょう。

 それはよろしくないことです。

 

「しゃあねえ……この家の中を通って……」

 

「ちょっとダメだって。アンタが押し入ったら間違いなく騒ぎになるから……!」

 

「何も盗らねえって伝えりゃいけるだろ……!」

 

「普段の行いを振り返ってみたら……!?」

 

「ま、待って二人とも。喧嘩しないで~……!」

 

 申し遅れましたが、ここは地蔵通り。

 阿妻の中心街を離れ、蒼天の塔の近い場所にある、寺がごろごろと立ち並ぶ居住地域です。

 そこから『あおし』までが、ざっと一里ほど*1

 『相助屋』では大体一里半と、まだまだ距離があります。

 三人は最初こそ走って向かっていたものの、赤半被らを見て、たびたび迂回を強いられている状況です。

 時間が経てば経つほど、状況は不利になっていくことでしょう。

 はっきり言って不味いですね。

 

「ほ、ほら神輿(みこし)! 神輿があるからあれにこっそり混じって……!」

 

「お霧、いい案……! 行きましょ!」

 

「ちっ、なんだって俺が恩智の侍に怯えなきゃ……」

 

「置いて行くよ唖涯!」

 

「わぁってるよ!」

 

 ちょうど三人の前に現れた年季の入った大きな神輿。

 天辺にはとぐろを巻いた青い龍が乗せられたソレを、10人ほどの男達が担ぎ、練り歩いています。

 群衆はやんややんやと見守る中、三人はその中に紛れていきます。

 しかしまぁ、人をかき分けて進むことのなんと大変なことか!

 

「あぁもう、知ってたけどすごい……人!」

 

「待って、お静~……! 手が離れちゃいそうだよ~……!」

 

「おい、二人共はぐれんな。あと頭下げろ……!」

 

「いたっ!? ち、力強いって、加減してよ!?」

 

「言ってる場合かよ!」

 

 ぎゅうぎゅうの人ごみの中を、えんやこら、えんやこら。

 押し合いへしあい、さながら油の海を進むようにかき分ける3人。

 木を隠すなら森の中といいますが、狙い通り、赤半被達はこちらを見つけられないようですね。

 まあ、あまりの人混みに、中々進めないのですが。

 

「ちょ……おい、ど、けぇっ! ~~~っはぁ! ようやく出れた!」

 

「っはぁ、はぁ、あー疲れた……!」

 

「へ、へとへと……」

 

 ようやく人の海を抜けた3人。

 近隣のあばら家に逃げ込み、作戦を立てることにするのでした。

 

「それで……どうするの? まだかなり距離あるけど」

 

「……」

 

「多分、赤半被達はこれからも増えてく……この辺りは特に、そうだと思う。そしたら間違いなく見つかる」

 

「……ぁぅぅ……」

 

「まずは地蔵通りから離れるのが先決だけど……何か案はない? 唖涯」

 

「……っ、クソ、クソッ……くそぉ……!」

 

「ねぇ、唖涯!」

 

「──うるっっせえ、今考えてるんだ! 耳元でぴーちくぱーちくと、さえずるんじゃねえ!」

 

「っ……! せ、青龍さんに任されてるんでしょ?! だったら」

 

「だから真剣に考えてるんじゃねえかッ! 俺を頼るつもりなら黙ってろッてんだ!」

 

 お静を威圧すると、唖涯は爪を噛みながら、神経質に足踏みします。

 

(正直な話、今すぐ恩智に(くだ)りてぇ……! お静や霧の身柄を渡せば、最悪俺の命は助かる……折檻は、まあされるかもしれねえが)

 

(だがあのバケモンに従わなかったら……? ぜ、絶対に殺される! 間違いなく! アイツには狡怒の大親父だって叶うわけがねえ……実門だって叶うか怪しいぞ!)

 

(……けど、今は監視の目はねえ……それなら……い、いや! アイツのことだ。見てないとみせかけて何かある! とはいえこのまま恩智に逆らったら……絶対に殺される)

 

(くそぉ! 八方塞がりかよ!? 俺にどうしろっていうんだよォ~~~ッ!!!)

 

「……な、何かすごいですね……」

 

「……二人で逃げようかな」

 

 悶えまくる唖涯を不審の目で見るお静と霧。

 こうなったら二人で考えるしかないと、頭を振り絞ります。

 

「う、うーん……青龍さんが来てくれればなんとでもなりそうなんですが……」

 

「……本当? 私は正直期待してないかも」

 

「でで、でもでも。青龍さんって、仕合は好きだけど殺しは好きじゃないですよね? もしかしたら助けてくれたり……しないですかね?」

 

「……きりん君、って子の言うことは聞くけど……どうかなぁ。案外青龍さんってそういうのドライな気がする。それこそ、負い目とかがないと動かなそうな……」

 

「うぅ~……だ、だめですかぁ……!」

 

「もう一か八か、私が囮になって……!」

 

「だだだ、だめ! 囮になるなら私がなるから! お静は逃げてぇ!」

 

「ちょ?! 霧、違うから! まだ決めてないから!」

 

「どうすりゃ……おとり……ん? 囮だと? そうか、それしかねえ……!」

 

 背後から不意に響く野太い声。

 なんだなんだ、とお静らが振り向くと、そこにはどこで拾ったか、荒縄を手に持つ唖涯の姿がありました。

 

「な、なに!?」

 

「ひ、ひぇぇ……!?」

 

「い、いいかジッとしてろ……これはお前らのためでもあるからな……!」

 

「や、やっぱり裏切る訳!? 霧、後ろに下がって……た、ただでやられないから!」

 

「だー違う! 別に本気で突き出すつもりじゃねえ!」

 

 剣を抜いたお静に慌てる唖涯。

 一体どういうことだ? と首をかしげれば、唖涯が説明してくれました。

 

「俺が寝返ったように見せかけるんだよ。あの青龍(バケモノ)から逃げ出した俺が、恩智にこう報告する『何とか逃げ出して、霧とお静を捕まえたぞ!』と」

 

「それが何が違うの……!?」

 

「最後まで話を聞け! それで道中は恩智の屋敷まで赤半被(あいつら)と一緒に移動することになる。それもきっと少人数でな。大半は青龍に人員を割いてるだろうからな……で、道中。隙を作る。そしたら……」

 

「……全員で一気に……逃げ出すんですね~……」

 

 うなずく唖涯。

 確かにこの方法なら、うまく行くかもしれません。

 静と霧はうーんと考え込みます。

 

「最初は捕まったフリをしてもらう。だから手を出せ、な?」

 

「……本当に突き出したりしないよね?」

 

「しねえって! 俺はまだ死にたくねぇ! グズグズしてないで早くしろ……!」

 

 静は霧が頷いたのを見て、大人しく両手を差し出すと、唖涯はその細い腕を慣れた手つきで縛っていきます。

 

「緩めておいてよね……」

 

「わぁってる……よし。それじゃ、あとは赤半被に見つかりに行けば……」

 

「──ここは探したか?」

 

「いや。まだだ……む。おい、誰かいるのか!?」

 

「げっ」

 

 言うが早いか、ガタガタと扉を揺らす音が。

 急ぎ、二人の手首を縄で縛っていくと、縛り終えたと同時に、二人組が家になだれこんできました。

 赤半被達です。

 物々しい雰囲気の男達は、唖涯と、縛られたお静らを見て目を見開きます。

 

「ん? ……お前、唖涯か!?」

 

「お、おぉ、遅かったなお前達」

 

「遅かったって……お前は青龍とかいう奴に捕まっていたと聞いたぞ」

 

「あぁ。だが油断してた隙に逃げ出してな! へへ、ちゃんとコイツらも捕まえてるぜ」

 

「なるほど、団子屋と刀屋の娘か……」

 

 ジロジロと三人を見回す赤半被。

 そしてニヤリ、と笑えば唖涯の肩を叩いてこう言います。

 

「お前、手が早いな? ()()()()()()()()()()()

 

「あ? ……へっ、そうさ。霧はともかく、お静は俺が前から狙ってたからなぁ」

 

「具合はどうだった?」

 

「生娘だ、もう暴れて暴れてなぁ……キツくて仕方なかったぜ」

 

 急に下世話な会話が始まって軽蔑の目を向けるお静と、きょとんとする霧。

 霧は意味がわからなかったみたいですね。

 是非そのままでいてください。

 

「……ケッ、一人で楽しみやがって……おい、俺もいいだろ?」

 

「ダメだダメだ。コイツぁ俺のもんだ。手を出すんじゃねえ」

 

「貴様のじゃねえ。恩智の、だろう?」

 

「やめろ馬鹿。ここで盛ってる暇はねえんだ。大親父が待ってるぞ。……特に唖涯、お前さんは気をつけろ」

 

「……やっぱりか。兄弟は生きてるか?」

 

「あぁ、運良くな。折檻程度で済んだが」

 

「ちッ。憂鬱だぜ。まあだからこそ土産は用意してんだ」

 

「そんなので許されるといいんだけどな」

 

 そうして無事に相手に取り入ることが出来た三人。

 しかしながらそんな三人を遠くから見つめる存在がいました。

 

「……ふぅン」

 

 それは()()色の着流しを身にまとった、痩身の女性。

 腰に大小二刀をぶらさげた、キツネ顔の麗人は、連行される唖涯を見て、楽しそうに微笑むのでした。

*1
約3.9kmほど




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