祭りでごった返す大通りを、唖涯達は逆行中です。
行先は団子屋『あおし』、そして刀装具店『相所屋』。
唖涯はせいりゅー様の言伝通り、お静と、霧を家に帰すため慎重に道を急いでいるのです。
「……こっちもかよ」
「また!?」
「ぁぅぅ~……」
しかし、状況は
恩智の手が予想以上に早いのです。
行く先々で見ることが出来る赤半被軍団は、人ごみの中をきょろきょろと見まわし、明らかに何かを探しています。
目的は間違いなく唖涯達でしょう。
彼らに見つかれば、恩智の屋敷につれていかれ、拷問の上で自白を求められることでしょう。
それはよろしくないことです。
「しゃあねえ……この家の中を通って……」
「ちょっとダメだって。アンタが押し入ったら間違いなく騒ぎになるから……!」
「何も盗らねえって伝えりゃいけるだろ……!」
「普段の行いを振り返ってみたら……!?」
「ま、待って二人とも。喧嘩しないで~……!」
申し遅れましたが、ここは地蔵通り。
阿妻の中心街を離れ、蒼天の塔の近い場所にある、寺がごろごろと立ち並ぶ居住地域です。
そこから『あおし』までが、ざっと一里ほど*1。
『相助屋』では大体一里半と、まだまだ距離があります。
三人は最初こそ走って向かっていたものの、赤半被らを見て、たびたび迂回を強いられている状況です。
時間が経てば経つほど、状況は不利になっていくことでしょう。
はっきり言って不味いですね。
「ほ、ほら
「お霧、いい案……! 行きましょ!」
「ちっ、なんだって俺が恩智の侍に怯えなきゃ……」
「置いて行くよ唖涯!」
「わぁってるよ!」
ちょうど三人の前に現れた年季の入った大きな神輿。
天辺にはとぐろを巻いた青い龍が乗せられたソレを、10人ほどの男達が担ぎ、練り歩いています。
群衆はやんややんやと見守る中、三人はその中に紛れていきます。
しかしまぁ、人をかき分けて進むことのなんと大変なことか!
「あぁもう、知ってたけどすごい……人!」
「待って、お静~……! 手が離れちゃいそうだよ~……!」
「おい、二人共はぐれんな。あと頭下げろ……!」
「いたっ!? ち、力強いって、加減してよ!?」
「言ってる場合かよ!」
ぎゅうぎゅうの人ごみの中を、えんやこら、えんやこら。
押し合いへしあい、さながら油の海を進むようにかき分ける3人。
木を隠すなら森の中といいますが、狙い通り、赤半被達はこちらを見つけられないようですね。
まあ、あまりの人混みに、中々進めないのですが。
「ちょ……おい、ど、けぇっ! ~~~っはぁ! ようやく出れた!」
「っはぁ、はぁ、あー疲れた……!」
「へ、へとへと……」
ようやく人の海を抜けた3人。
近隣のあばら家に逃げ込み、作戦を立てることにするのでした。
「それで……どうするの? まだかなり距離あるけど」
「……」
「多分、赤半被達はこれからも増えてく……この辺りは特に、そうだと思う。そしたら間違いなく見つかる」
「……ぁぅぅ……」
「まずは地蔵通りから離れるのが先決だけど……何か案はない? 唖涯」
「……っ、クソ、クソッ……くそぉ……!」
「ねぇ、唖涯!」
「──うるっっせえ、今考えてるんだ! 耳元でぴーちくぱーちくと、さえずるんじゃねえ!」
「っ……! せ、青龍さんに任されてるんでしょ?! だったら」
「だから真剣に考えてるんじゃねえかッ! 俺を頼るつもりなら黙ってろッてんだ!」
お静を威圧すると、唖涯は爪を噛みながら、神経質に足踏みします。
(正直な話、今すぐ恩智に
(だがあのバケモンに従わなかったら……? ぜ、絶対に殺される! 間違いなく! アイツには狡怒の大親父だって叶うわけがねえ……実門だって叶うか怪しいぞ!)
(……けど、今は監視の目はねえ……それなら……い、いや! アイツのことだ。見てないとみせかけて何かある! とはいえこのまま恩智に逆らったら……絶対に殺される)
(くそぉ! 八方塞がりかよ!? 俺にどうしろっていうんだよォ~~~ッ!!!)
「……な、何かすごいですね……」
「……二人で逃げようかな」
悶えまくる唖涯を不審の目で見るお静と霧。
こうなったら二人で考えるしかないと、頭を振り絞ります。
「う、うーん……青龍さんが来てくれればなんとでもなりそうなんですが……」
「……本当? 私は正直期待してないかも」
「でで、でもでも。青龍さんって、仕合は好きだけど殺しは好きじゃないですよね? もしかしたら助けてくれたり……しないですかね?」
「……きりん君、って子の言うことは聞くけど……どうかなぁ。案外青龍さんってそういうのドライな気がする。それこそ、負い目とかがないと動かなそうな……」
「うぅ~……だ、だめですかぁ……!」
「もう一か八か、私が囮になって……!」
「だだだ、だめ! 囮になるなら私がなるから! お静は逃げてぇ!」
「ちょ?! 霧、違うから! まだ決めてないから!」
「どうすりゃ……おとり……ん? 囮だと? そうか、それしかねえ……!」
背後から不意に響く野太い声。
なんだなんだ、とお静らが振り向くと、そこにはどこで拾ったか、荒縄を手に持つ唖涯の姿がありました。
「な、なに!?」
「ひ、ひぇぇ……!?」
「い、いいかジッとしてろ……これはお前らのためでもあるからな……!」
「や、やっぱり裏切る訳!? 霧、後ろに下がって……た、ただでやられないから!」
「だー違う! 別に本気で突き出すつもりじゃねえ!」
剣を抜いたお静に慌てる唖涯。
一体どういうことだ? と首をかしげれば、唖涯が説明してくれました。
「俺が寝返ったように見せかけるんだよ。あの
「それが何が違うの……!?」
「最後まで話を聞け! それで道中は恩智の屋敷まで
「……全員で一気に……逃げ出すんですね~……」
うなずく唖涯。
確かにこの方法なら、うまく行くかもしれません。
静と霧はうーんと考え込みます。
「最初は捕まったフリをしてもらう。だから手を出せ、な?」
「……本当に突き出したりしないよね?」
「しねえって! 俺はまだ死にたくねぇ! グズグズしてないで早くしろ……!」
静は霧が頷いたのを見て、大人しく両手を差し出すと、唖涯はその細い腕を慣れた手つきで縛っていきます。
「緩めておいてよね……」
「わぁってる……よし。それじゃ、あとは赤半被に見つかりに行けば……」
「──ここは探したか?」
「いや。まだだ……む。おい、誰かいるのか!?」
「げっ」
言うが早いか、ガタガタと扉を揺らす音が。
急ぎ、二人の手首を縄で縛っていくと、縛り終えたと同時に、二人組が家になだれこんできました。
赤半被達です。
物々しい雰囲気の男達は、唖涯と、縛られたお静らを見て目を見開きます。
「ん? ……お前、唖涯か!?」
「お、おぉ、遅かったなお前達」
「遅かったって……お前は青龍とかいう奴に捕まっていたと聞いたぞ」
「あぁ。だが油断してた隙に逃げ出してな! へへ、ちゃんとコイツらも捕まえてるぜ」
「なるほど、団子屋と刀屋の娘か……」
ジロジロと三人を見回す赤半被。
そしてニヤリ、と笑えば唖涯の肩を叩いてこう言います。
「お前、手が早いな?
「あ? ……へっ、そうさ。霧はともかく、お静は俺が前から狙ってたからなぁ」
「具合はどうだった?」
「生娘だ、もう暴れて暴れてなぁ……キツくて仕方なかったぜ」
急に下世話な会話が始まって軽蔑の目を向けるお静と、きょとんとする霧。
霧は意味がわからなかったみたいですね。
是非そのままでいてください。
「……ケッ、一人で楽しみやがって……おい、俺もいいだろ?」
「ダメだダメだ。コイツぁ俺のもんだ。手を出すんじゃねえ」
「貴様のじゃねえ。恩智の、だろう?」
「やめろ馬鹿。ここで盛ってる暇はねえんだ。大親父が待ってるぞ。……特に唖涯、お前さんは気をつけろ」
「……やっぱりか。兄弟は生きてるか?」
「あぁ、運良くな。折檻程度で済んだが」
「ちッ。憂鬱だぜ。まあだからこそ土産は用意してんだ」
「そんなので許されるといいんだけどな」
そうして無事に相手に取り入ることが出来た三人。
しかしながらそんな三人を遠くから見つめる存在がいました。
「……ふぅン」
それは
腰に大小二刀をぶらさげた、キツネ顔の麗人は、連行される唖涯を見て、楽しそうに微笑むのでした。
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