おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第21話「落ち着いたら塔に来なよ」

 青紫神社。

 青紫家が分家から本家へと格上げされた際に造られた神社であり。

 一族の隆盛を表すかのように、鳥居から境内に至るまで、全てが豪華絢爛です。

 

 朱塗りまぶしい立派な明神鳥居。

 手水舎(ちょうず)は龍がとぐろを撒いて、清水を流し。

 狛犬達が訪れる人を睨み続け。

 多種多様な灯籠が本堂までの道を照らししてくれます。

 石床は掃除が行き届いて輝いており、

 人気は多いのに、どこか厳かな雰囲気が漂います。

 

 驚くべきはその本堂でしょう。

 青龍神社のそれと比べて、まあ大きいこと大きいこと。

 青紫のこれに比べれば、青龍のそれは鳥小屋でしょう。

 

 そしてそんな神社に、訪れるのは晴れ空模様の着物の女性。

 妙齢の彼女は、その神社を前にして顔を顰めます。

 

「……あいも変わらずムカツク神社だねぇ」

 

 一礼して中に進む彼女、香桜。

 ()()()()とした歩みは、大人の余裕を感じさせる一方。

 正中線にブレがなく、いつ打たれても対処できるくらいには余裕があります。

 

『ほほー。いい動きですね』

 

「……言っときますが、仕合うつもりはありませんよ」

 

『そんなご無体な』

 

「アンタから見れば赤子と仕合するようなものですよ。そんな相手、張り合いないでしょうに」

 

『いえいえー。なにせ千年はじっとしてましたからね。どんな剣術が発展したか気になって気になって』

 

「これですよ……ともかく、今は暴れんでくださいな。然るべき時に呼びますので」

 

『はいー』

 

 そこにせいりゅー様達の姿は見えません。

 しかし、確かに香桜の耳には声が届きますし、何だったら視線も感じます。

 恐らくはまわりの鬱蒼と生い茂る木々のどこかから見守っているのでしょう。

 どのようにしてこの術を実現しているのか、という疑問には至りませんでした。

 神様だったらこれくらいしてもおかしくないでしょうから。

 

 ……香桜は一般客を装って社務所に向かいます。

 

「ようこそ。御札の入用ですか?」

 

「えぇ。青龍様のを」

 

「ありがとうございます。ご一緒に、青紫様のはいかがでしょうか?」

 

「結構だよ」

 

「そうですか……ではお代を」

 

 神職が差し出した札を貰うと、懐にしまい込み……。

 

『見たいです』

 

「……」

 

 やっぱり、取り出してその場で改めます。

 そこには浮世絵調のせいりゅー様と、見知らぬ剣士がいました。

 せいりゅー様は暗雲めがけて剣を向けており。

 もう一方の凛々しい剣士は、居合のポーズで暗雲を睨んでいます。

 神話である『冬の神との戦い』のことのようです。

 

『おぉー、私いますよ私! きりん君! 見てください!』

 

『……とおい』

 

『それにしても……この隣の人、誰ですか?』

 

「……青紫家の初代らしいね。道筋だったか、道長だったか……なんかそんなのだ」

 

『うーん、覚えないですね』

 

「覚えてなくて当然さ。この当時に青紫家があるもんかい」

 

 そういう所が好きになれないんだよ、と吐き捨てた香桜。 

 彼女は今度こそ札をしまい込むと、宝物殿へ向かいます。

 

 青紫神社の宝物殿。

 それはそれは立派な蔵で。

 普段は固く閉ざされた場所ですが、降臨祭の間だけは一般公開される、青家、青紫家両方の宝物が収められた場所です。

 

 薙刀を持った巫女二人が、その蔵の入口側で陣取っており。

 香桜が、懐の札をちらりと見せると、巫女は頷いて通してくれました。

 

『むぅ……室内は流石に見れませんねー』

 

「なら見てくるのでしばしお待ちを」

 

『風穴開けて……』

 

「し・ば・し・お・ま・ち・を」

 

 中に入れば、ヒノキが(かぐわ)しい木造りの広々とした倉庫に、歴代の青紫家の家宝がずらりと並んでお出迎えしてくれます。

 

 やれ神事に使われた由緒正しき仮面や、

 やれ朱塗りの美しい高価な器。

 やれ先の大戦の豪華絢爛な戦装束や、

 やれ青紫家の経歴が分かる日記や本など。

 

 そしてそして、一番奥に神棚と共に鎮座されていたものこそが、青紫家の剣豪達が使ったとされる、武器の数々でした。

 

 短刀。

 脇差。

 打刀。

 太刀。

 大太刀。

 長巻き。

 

 抜身で置かれた綺羅びやかなの宝剣の数々。

 他の参拝客がおぉ、と見惚れる中で、香桜もまたしばらく眺めていましたが……やがて、興味を失ったのかその場を離れます。

 

 違う。

 香桜はそう判断したのです。

 

(神をも斬れる剣が、どこにでもある普通の剣な訳がないだろう)

 

 いわくあっての神器。

 ならばこそ、ひと目見ておぉ、と思わせる何かがなければいけません。

 香桜は考えます。

 自らが過ごしてきた80年間の中で一度だけ、とても奇妙な剣を見た記憶があるのです。

 それは剣というにはあまりにも歪すぎる、、鉄を削り出して作ったかのような凹凸のある剣。

 子どもの頃に、阿妻を侵食し続ける毒沼を封じるために、父が振るった、その剣を。

 

「……」

 

 あれは今、どこにあるのでしょうか?

 他に思い当たりがあるとすれば、それこそ蒼天の塔かもしれませんが、流石にそこに忍ぶのは難しそうです。

 たまらず近くにいた巫女に尋ねます。

 

「そこの人」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「昔、爺様に教えてもらったんだが……全てを断ち切る剣、というものがあるそうな。青紫家は、それは公開してないのかい?」

 

「……全てを断ち切る剣、ですか……」

 

「えぇ。ひどく古い剣だそうで。昔は青家が持っていたとか……」

 

「はぁ、残念ながら私共には記憶が……」

 

「──韴霊(ふつのみたま)

 

「!」

 

「それは韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)だね」

 

 背後に増えた気配に、思わず振り返ると、そこにはせいりゅー様に似た人が立っていました。

 海のような青髪を、二房に分けた中性的な顔つきの男性。

 彼は背後に七刀を携えて、ニコニコと笑みを向けていました。

 

「よく知ってるね。それは確かに青紫家の秘宝だ」

 

「……実門様」

 

「あぁ。いいよいいよ(ひざま)づかなくて! 僕じゃなくて神社に参拝しにきたんでしょ? ほら楽にして楽にして!」

 

「現人神である貴方様にそのような……」

 

「もー、いーんだってば。ほら立って立って」

 

 香桜が内心冷や汗をかきながら立つと、その身長差が際立ちます。

 香桜が大体170cmに対し、実門は160cm行くか行かないかで、思ったよりも小柄な人物でした。

 

「それで、韴霊剣を見にきたんだって?」

 

「え、ええ。爺様の記憶が薄れぬように、せめて一度でも、と思いまして」

 

「ふぅん……お姉さんは、青家?」

 

「いえいえ。滅相もありません。家名も何も持っておりません。爺様は当時、笹座作(ささざさ)様に仕えていまして」

 

「笹座作──あぁ、あの形無か。いたねそんなの。青龍神社の神主だっけ」

 

「……」

 

「じゃあお姉さんは、青龍神社の巫女さん?」

 

「一時的に、ではありますが。今は手伝いをさせていただいております」

 

「そっか。良かった良かった。あそこの神社、今はお婆ちゃん一人だけだからね。……で、そうそう、韴霊剣だっけ」

 

「はい」

 

 じっと、こちらの目を覗き込む、澄んだ目。

 どこか吸い込まれそうになるのを努めて耐えていると、再び微笑んだ実門は、こういいます。

 

「実はさ、今外が騒がしいじゃない?」

 

「えぇ。祭りだけではなさそうな。恩智が騒いでいるのは知っています」

 

「ごめんねー。あれって実を言うと、蒼天の塔の侵入者を探してるから起きてるんだよね」

 

「……」

 

 その場に居た人達から、ざわ、っと驚きをあらわします。

 

「で、まだ捕まってないから、盗られるとヤバそうな宝剣はしまっておこうと思ってね。だから落ち着くまで見せられないんだ」

 

「そう、ですか。それは……どこに?」

 

「塔に。……侵入されといてアレだけど、すごく厳重な金庫があるからさ」

 

「なるほど」

 

「希望に応えてあげられなくて残念だよ」

 

「いえ。では落ち着いた時に訪れようと思います。実門様、ありがとうございました」

 

 深々と礼を言う香桜。

 そして頭を下げたまま、次を考えます。

 恐らく実門の言う事は正しく、塔にあるのでしょう。

 しかしあの長い塔のどこにある?

 塔への侵入方法は?

 どうやって拝借する?

 次なる行動を考えながら努めて静かにその場を去ろうとして、

 

「待った」

 

 その背に声がかけられました。

 途端に心臓が跳ねましたが、動揺は悟られてはいけません。

 冷静を装って振り返ろうとした刹那のことです。

 

「──ッ!?!?!?」

 

 大上段から太刀を叩きつける気配。

 香桜は瞬時に短刀を取り出し、打ち払おうとし、

 刃ごと何の抵抗もなく刃がすり抜け

 頭蓋骨を断ち切り、

 顔が半分になり、

 首、胸、腹、股間を、冷たい刃が

 すっと通り抜けていく感覚を覚え──、

 

「なんてね」

 

「~~~~~~~ッ!?!?!?」

 

 その一瞬で濃密な死を体験した香桜は、どっと汗をかき、その場でうずくまっていました。

 

 いざ見てみれば、その体に傷ひとつなく。

 実門は剣すら抜いていませんでした。

 

「ごめんね。あんまりにも綺麗な歩き方だったから、ついキミが青龍なのかと……違ったみたいだ」

 

「……っ、はぁっ、はぁっ!」

 

「あー息するのも苦しい? ほら、深呼吸深呼吸。……うーん、悪いことしちゃったなぁ」

 

 巫女さんが慌てて香桜に駆け寄る中、

 ぽん、と手を叩いた実門は、 悪気なんて微塵もなさそうな顔で、こう伝えるのでした。

 

「そうだ! お詫びに実物を見せてあげよう。落ち着いたら塔に来なよ」




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