おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第22話「ちょっとだけムカついたから、遊んでもええよな?」

 降臨祭では、様々な催しがあります。

 神輿(みこし)は勿論のこと、仮装行列もあれば、

 寺社で行われる舞踊や、買い食いの出来る屋台や、ちんどん屋など。

 青龍様の降臨をかこつけて、阿妻の民は楽しみ、食べ、踊ります。

 

 その中でも特徴的なのは、剣試しでしょう。

 仕合のような命のやり取りは置いて、お互いの剣技を、客に魅せ競い合う。

 そういった剣技です。

 特に「刀神籤(かたなみくじ)」と言われる、斬れ味の良い細く、長い糸のような蛇腹剣を使った剣試しは、人気のある催しのひとつです。

 総長は大体二十尺*1あるそれを、二人の剣士が持ち。

 同時に力強く振るいあい、先端の不規則な軌道をぶつけ合う、というものです。

 危険な競技には違いありませんが、激しくぶつかり合う剣が、火花を散らす様は、わっと周りを沸き立たせるのです。

 今も着飾った男達が、一斉に激しく蛇腹剣を抜き放つと、遅れて波打った剣が太陽光を乱反射させ、鈍い金属音をかき鳴らしているのでした。

 

「……はぁ。やれやれ、祭りの日になんだって」

 

「ぼやくな。俺等一兵卒は従うしかないだろう」

 

「ちっ。早いとこあの女達を味わいてえっつうのに……おい、あの娘達の取り調べは俺がやるからな!」

 

「だから俺の女だって言ってんだろうが……いでっ!」

 

「……」

 

 さてさて。

 唖涯達を引き連れた赤半被らは、恩智の屋敷に向かっている最中でした。

 あれから特に騒動はなく、道中は平穏無事そのものではありますが、ひとつ問題があるとすれば赤半被の素行の悪さでしょうか。

 肌の浅黒い、THE・チンピラ風の侍と。

 髭を(たくわ)えた澄まし顔の侍。

 澄まし顔はまだいいですが、チンピラ侍はことあるごとにお静や霧を舐め回すように見ており、暇さえあればその性欲を覗かせてくるのです。

 お静達には溜まったもんではありません。

 幸いなことに、唖涯が庇ってはくれますが、気配りが利くほうではなく、特にお静のストレス蓄積が半端ではありません。

 

「あーあーヤりてえヤりてえヤりてえ……」

 

「……どんだけ溜まってるんだよお前」

 

「あーあー教えてやろうか唖涯! こちとらやりたくもねえ特訓を3日も続けて女日照りなんだ! 男ばっかりのムサ苦しいところで木刀でボコりあうだけ、溜まってたまって仕方ねえよ……あームラつく……! 今なら男でも抱けるぞ!」

 

「冗談よせよ!?」

 

 チンピラ侍のイラつきは最高潮。

 このままだと本当に途中で襲われかねないのを悟ったか、たまらずお静が唖涯が持つ縄をくいくい、と引きます。

 が、唖涯はもう少し待て、と言わんばかりに首を振ります。

 

「そ、そういや聞いてくれ。あの青龍の女郎、とんでもねえ奴だったぞ」

 

「おぉ。そういやお前、七刀持ちの破廉恥女にコケにされたってな。ざまあねえな」

 

「うるせえ。アイツはマジで異常なんだ。串だぞ? 串一本で俺等黒三連をコケにしやがったんだ!」

 

「へー。そいつぁすげえ」

 

「……にわかには信じられないな」

 

「いやいや。信じるのかよ。普通に考えて嘘だろ」

 

「ワザワザ嘘ついてまで自分の恥を吹聴するかよ」

 

「ヘッ。ヘタレの黒三連のいうことなんざ、話半分にしか聞けねえよ」

 

「……んだと」

 

「よせ。暇だからって喧嘩をふっかける奴がいるか」

 

 チッ、と大きな舌打ちを流し、険悪な雰囲気になるチンピラと唖涯。

 余計逃げ出すチャンスを無くしてどうする、と呆れているお静達ですが、ふと、唖涯が腰の刀に手を添え出し、緊張が走ります。

 

「……あん?」

 

「どうした唖涯」

 

 立ち止まる唖涯。

 その鬼気迫る表情に、チンピラ達も何事かと緊張が走ります。

 

「……何かいるぞ」

 

「何だと……?」

 

「刺客か? 連峯じゃねえだろうな」

 

 同時に剣を抜き放つ二人、気配を探ろうと注意深くあたりを見回します。

 人ゴミに紛れている? 路地裏に潜んでる? 家の中にいる? それとも屋根の上? 

 答えは口からの出任せでした。

 後ろを歩く唖涯は、この隙に背後から騙し討ちを考えていたのでした。

 

「間違いなくいるぞ、視線を感じる……」

 

「……おい。分かるか?」

 

「いや。……どこだ?」

 

 唖涯が鞘ごと刀を取り出し、今まさに背後から襲おうとして、

 

「──あちゃ。バレてもうた?」

 

 音もなく、客の中から一人の剣士が姿を表しました。

 それは藍色の着物の二刀流の狐人。

 糸目で人好きのしそうな顔を見せた彼女は、困ったような顔を見せました。

 

「やっぱり出来る人やったんねぇ唖涯さん。人が悪いなぁ」

 

「誰だテメェは」

 

「……名を名乗れ」

 

 チンピラ達が刀を突き出して威嚇する中、気負った様子すら見せないその相手は、悠々と名乗ります。

 

「どーもー。ウチは青紫刀雨(とさめ)と申します」

 

「……青紫ッ!」

 

「ち。とうとう本家が動いたってことか……俺ぁ──」

 

「あぁ! スマンけど二人は名乗らんでええで」

 

「……ンだと?」

 

「堪忍な~ウチが用があるんはそこの唖涯さん含む三人だけ。お二人に興味はないんよ」

 

 歯ぎしりの音が、はっきりと聞こえました。

 チンピラは今にもブチ切れそうで、青筋を立てて前のめりになっていきます。

 

「そんで唖涯さんとー……あとお団子屋さん、それと刀屋の娘さん! すまんけど蒼天の塔までちょっと来てくれへんかな?」

 

「待て! この娘らは恩智が先に見つけたのだぞ!」

 

「そりゃご苦労様やったねぇ。じゃあ後はウチが引き取ったるから、帰ってええで」

 

「……!!」

 

「おいッ」

 

 しっしっ、とまるで相手にしない刀雨。

 その態度が引き金となり、チンピラは斬り掛かってしまいました。

 憤怒の表情で放たれたそれは、しかしながら感情に反して美しい軌道を描き、肩口から反対側の腰までをばっさりと切り捨てる、逆袈裟斬りとなっていました。

 騒動を見守っていた民衆も、が斬られた! と誰もが思っていました。

 

 しかし。

 

「え」

 

 音もなく、散歩するようにチンピラを通り抜けた刀雨。

 無論、彼の刀は空虚を切り裂くに留まり。

 焦りチンピラが振り向いた瞬間に、全てが終わっていました。

 

 ──ばじゅんッ。

 

 汁気を吸った袋が斬られたような音と共に、彼はゆっくりと倒れ込み。

 地面に大きな血溜まりを広げはじめたのでした。

 ()()()()でした。

 死因は、彼の初手と同じく袈裟斬りであり。

 奇しくも自分の戦法をそのまま鸚鵡返しされてしまったのでした。

 

「……あ。しもた。すみませんねぇ。折角の祭りを血で汚してしもうて」

 

 祭りの喧騒が、一瞬で静まり返ったのを見てぺこぺこと謝罪する刀雨。

 誰もが、その神業に言葉も出ず、固まっていました。

 

「それで恩智さん。彼らを借りてもええですか?」

 

「……ッ」

 

「あら。あかん? せやったら──」

 

「お、おい待て」

 

 蛇睨みをされているように動けなくなった片割れが、滝のような汗を流していると、唖涯が助け舟を出します。

 

「つ、ついていく、ついていくって! そ、それでいいんだろう!?」

 

「あぁおおきに~、それならええよ? ウチも別にやりたくてやってる訳ではないし」

 

 ひらひらと手をふった刀雨は、怯えた様子のお静と霧に近づき、笑います。

 

「めんこい子達やねぇ。そんな怯えんといてや? ただ知りたい事全部教えてくれれば何もせえへんよ。うんうん。本当やで」

 

 体を震わせることしかできないお静は、細い指先で顎を撫でられうと、ビクッ、と跳ねてしまいます。

 声色こそ優しいが、その目にドス黒い漆黒が渦巻いています。

 きっと、ついていけば、私たちは助からない。

 ぎゅっと、目をつむり、救いを求めるように祈るお静。

 

 刀雨は恩智の侍をいなかったものとして扱い、逆方向──蒼天の塔に向かおうとして、

 

「じゃあすぐそこやし、御足労お願いする──わ?」

 

 空気を切り裂く轟音とともに、飛来した何かが彼女に直撃。

 刀雨は向かいの平屋まで勢いよく吹き飛び、その扉をぶち破って消えていきました。

 

「お、おいおいなんだってんだよ!?」

 

「!?!?!?」

 

「ふええぇえぇ~~~っ、お、お静~!」

 

 立て続けの乱入者に、慌てふためく三人。

 一体何が、と思う暇もなく、空から巨体が降ってきました。

 地面を揺らす、その巨躯は

 全身を黒い体毛で覆われた、狼の亜人。

 弁慶です。

 彼は、麺棒片手に一行の前に現れると、ギロ、と赤半被と唖涯を睨みつけました。

 

「な、き、貴様ッ! ──ぐぁあッ!?」

 

 まるで虫を相手するように、一発で吹き飛ばすと。

 ずん、と唖涯に肉薄し見下ろします。

 その殺気と来たら今にも噛み殺しそうな程です。

 

「え? ぁ……え、えぇ?」

 

「テメェ……どういうつもりだ? お静を……攫おうとしやがったのか?」

 

「ひっ、ち、ちがっ」

 

「どこが違ぇ。縄で縛っといて今更そんな言い訳が──!」

 

「お、おとっつぁん! 待って! おろしてあげて!」

 

 首根っこを捕まえて、唖涯を持ち上げ始めた弁慶に、お静が必死に静止します。

 あぁなんという予想外!

 まさかこのタイミングで父親が来るなんて!

 とにかく落ち着かせないと、と躍起になるお静ですが、

 弁慶は何事かを察知して、唖該を投げ捨て、お静を突き飛ばすと、ひゅひゅひゅっ!

 風切り音が連続!

 巨体に似合わぬ激しい動きを見せた弁慶は、風切り音の正体に向かって分厚い麺棒を振り抜けば、すぐにソレが現れました。

 

「……青紫か」

 

「あはは、中々やるようやねぇ。アンタは恩智……ではないんか?」

 

 刀雨です。

 少しホコリにまみれた着物姿で現れた彼女の額は薄っすら血が滲んでおり。

 今まで抜かなかった太刀は、その刀身をあらわにしていました。

 

「ただの団子屋だ」

 

「……あぁ! 娘さんのお父上なん? けど、ウチらに刃向かう事がどういうことかお分かり?」

 

「娘の危機なら、誰が相手でも関係ねえ」

 

「困ったお人やわぁ。ウチはちょーっと事情聴取したいだけやのに……まあでも──」

 

 抜いた刀を、わざわざ納刀した刀雨は、両足を広げ、腰を落としました。

 

「──ちょっとだけムカついたから、遊んでもええよな?」

 

「……」

 

 弁慶も、合わせるように麺棒を構え直すのでした。

 

*1
約6m




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