おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第25話「青紫家の冷鞘、と申しますぅ」

「かくかくしかじか…………という訳さ」

 

「まるまるうまうまなんですねー」

 

 ところ変わって青龍神社です。

 青紫神社で実門に出会い、折角伸ばした寿命が削られそうになった香桜。

 せいりゅー様共々、縁側でお茶と漬物を堪能(たんのう)中です。

 実門のお墨付きで「全てを断ち切る剣」を観覧する許可が出て、のちほど香桜に迎えが来るそうですが……。

 

「しかしあの塔にあるんですか~。韴霊(ふつのみたま)でしたっけ?」

 

 コリコリの沢庵(たくあん)を楽しみながら見上げるせいりゅー様。

 天空を貫く百重の塔は、長すぎるあまりぐにゃんと曲がって見えてどこか滑稽です。

 

「そのようだ。とはいえ青龍様がお求めの剣かどうか……」

 

「む。そうなんですか?」

 

「実門はああ言ってたが、しょせん伝説は伝説。誇張されていてもおかしくはないね」

 

「ふむむむ…」

 

「まあ……噂通りといかずとも蒼天の塔には何かしらあるだろう」

 

 音を立てて茶をすする香桜。

 事実、阿妻が代表する国宝の8割は青紫が管理し、その国宝は蒼天の塔に大半がしまわれています。

 

「であれば話は早いですね! きりん君ほら行きますよー!」

 

「はい、ちょっとお待ち」

 

「ぐえ」

 

 即行動に移ろうとしたせいりゅー様。

 しかし、その首根っこを無遠慮に掴んだのは香桜でした。

 

「……仮にも神様なんですけど?」

 

「そんなことはどうだっていいんですよ青龍様。蒼天の塔に突入するのはお辞めなさい。要らぬ混乱が起きるでしょうに」

 

「まあ……起きるでしょうね。でも私達の目的は確実に達成できますよ?」

 

「まず間違いなく人死にが出ますが?」

 

「大丈夫ですよ~、手加減なんてお茶の子さいさいですから」

 

「そりゃ貴方様だけが相手をしたらそうでしょう。しかしね最早、貴方様だけの問題ではないのですよ」

 

「……どういう事です?」

 

 せいりゅー様が首を傾げると、香桜は語ってくれました。

 

「貴方はもう、阿妻の各家に目をつけられてるんです。青紫はもとより恩智が。そして恩智が動いてるなら連峯が。静悪が。まず間違いなく貴方を狙っています」

 

「ふむふむまあまあ。私は構いませんし、むしろ大歓迎ですよ?」

 

「分かっちゃいないようですね。各家が仲良しこよしで順番こに貴方と仕合うとでも? ──ことによっては戦が起きちまいますよ」

 

「む……」

 

 香桜が言う通り、阿妻の名家達は、その抜きんでた実力の前に渋々と青紫を立てているだけ。

 いつでも青紫を蹴落としたいと願っています。

 仮にせいりゅー様が蒼天の塔にズケズケと乗り込んで、ボスバトルよろしく、バッタバッタと青紫の実力者を蹴散らしていったら?

 他家は喜んで青紫を襲うことでしょう。

 

「……きり」

 

「だめ」

 

 苦みの強いお茶をチビチビと飲んできりん君は、食い気味に拒否。

 

 せいりゅー様、頭を抱えてしまいます。

 

「うぅぅぅ~……! きりん君優しすぎますよ~……()()()()()()()()()()()()()()()のに~……!」

 

「……だめ」

 

「はぁ……そういう事だからアタシがまず塔に入る。それで剣の場所を把握したら、アンタに伝える。そしたらこっそり奪うか、壊すかすればいいさ」

 

「えぇえぇええええぇぇ神様になってやることが泥棒~!? いやですよ~!!」

 

 ばたーん、と勢いよく寝転んだせいりゅー様。

 そのまま畳の上でごろごろごろんとアクロバット嫌々(イヤイヤ)です。

 千年の後に見た阿妻の剣士は、独自の進化を遂げた物ばかり。

 そして、それら剣士と沢山仕合えると思っていたせいりゅー様です。

 あえて戦闘を避け、静かに盗み出すやり方は、合理的ではありますが到底許容できるものではありませんでした。

 

「だだこねないで下さい」

 

「やだやだやーだーやだやーだぁー! 斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい! 斬り結んで(つば)()りあって死線を超えて超越したいー!」

 

「……はぁ。何だってこんなのを(あが)めちまったんだか」

 

 子供の癇癪ならまだしも、神様だからタチが悪い。

 下手したら「もういい! 阿妻の剣士全員斬る!」とか言い出しそうな危うさはありますが、きりん君がいる限りそれはないでしょう。

 香桜は沢庵をもう一つ口に放り込み、ゆっくりとお茶を楽しんでから、仕方なくこう告げました。

 

「分かりましたよ、実門様と話してみます」

 

「……えっ?」

 

「実門様に仕合をしたがっている方がいるとお伝えします。貴方様が韴霊剣を盗んだら、その後に返して欲しければ……的な強盗を装うのです。どうでしょう?」

 

「……ぉ、おぉ~? うーん……!? 強盗ですかぁ? それはちょっと……」

 

「何がダメなんだい」

 

「神様のイメージが崩れるのはちょっとー……」

 

「何が神様だい。神様だったらそれらしい振る舞いしろってんだ。もっと気品漂う姿をみせたり、後光をさしたり、それこそ奇跡を見せたり……今のお前さんはただの刀狂いにしか見えないよ」

 

「か、刀狂い……」

 

「というかだね……神様と見られたかったなら、何で降臨した時にすぐに神様アピールしなかったんだい! このお馬鹿!」

 

「うえーん、きりん君~!」

 

「……じごうじとく」

 

 正論という刀の前ではせいりゅー様も太刀打ちできないようですね。

 ずばずばとなます斬りにされたせいりゅー様は、しくしくふがふが、ときりん君のお腹に顔を埋めて号泣です。

 

「……む。誰か来たみたいだね。ほら青龍様、邪魔だよ。どっかに消えな」

 

「扱いがひど過ぎますよー……消えますけど」

 

 さてさて。

 そうやってぐだぐだしていると、誰かの気配がやってきます。

 青紫の使いでしょうか?

 階段を上ってあらわれたのは……仮面をつけた男。

 そして、横に広いヘルメットみたいな頭の女でした。

 

 恩智(おんじ)安謝(あじゃ)と。

 静悪(しずあ)花庵(かあん)でした。

 

 二人は同時に鳥居をくぐりますが、その空気はピリピリとしています。

 とても仲が悪そうですね。

 

「……また恩智かい? 今日で二度目だよ」

 

「すまない。ここに青髪の女性は来なかったか? 名は……」

 

「青龍、っていうんだろう。もう聞いたよ。残念ながら来てないね」

 

「ふん……だから言ったろう」

 

 横でつまらなそうに、鼻を鳴らす花庵。

 しかし安謝は、苦笑しながら再度問います。

 

「報告ではこちらの方に来た、とあったのでね。念の為尋ねさせてもらった。確か……貴方の名前は徒花だったかな? こちらの神社を手伝っているとか」

 

「……あぁ。それがどうしたんだい?」

 

「いや、立派な心がけだと思ってね。誰もが青龍様を尊敬するも、その信仰心は薄れているように思う。阿妻の剣の始まりが青龍様を思えば、私は青紫神社よりも(たっと)ふべきだと思っていてね」

 

「それはアンタが恩智だからだろう?」

 

「関係ないさ。私が目指しているのが他ならぬ青龍様だからね。……だからこそ、青龍と名乗る存在が暴れるのを心苦しく思う」

 

「……」

 

「とはいえ、もしかしたら本物の青龍様かもしれないがね。あの剣捌きは実門様にも匹敵しそうだ」

 

 実際のところ本物なのですが、言わぬが花というものでしょう。

 今この阿妻に降臨しているせいりゅー様は、崇拝とは無縁のお騒がせ刀狂いド変態淫売女でしかありません。

 バラしたらひどく失望することでしょう。

 

「たびたびですまないが情報があれば是非恩智まで」

 

「……」

 

「おっと……私としたことが」

 

 無言で賽銭箱をあごでさすと、安謝は素直に従い。

 懐から取り出した小判を、何でもないように投げ入れました。

 流石にこれには香桜も目を剥きます。

 

「これは失礼した。貴方のほどの御婦人に恥知らずな真似をするところだった。では改めて検討をお願いする」

 

「……軽薄な。貴様はいつもこうだな。女と見るとすぐに口説きにかかる」

 

「誰が相手だろうと、尊敬を忘れないだけさ」

 

 花庵が苦言を呈するのが痛いほど理解できます。

 この美丈夫にどれほどの女が引っかかったことか。

 女としては既にとうが立った香桜ですが、二人きりになるといらぬ事になりかねないと思わざるをえませんでした。

 

「さて。帰った、帰った。アタシはこれから用事があってね」

 

「ふん? それは我々がいては都合が悪いということか?」

 

「否定はしないね。しかしアンタらのためでもある」

 

「? 回りくどい言い方だな。はっきり言わんか」

 

「──言わなくていいですよぉ」

 

 不機嫌そうな花庵に、香桜が伝えようとしたその時。

 それは訪れたのでした。

 

「ッ!」

「ッ!?」

 

 花庵と、安謝が同時に振り向いたその先に、ある女性がいました。

 それは短い紫髪を揺らす小柄な女性でした。

 そのボディはしかしながら豊満で、

 身長に不釣り合いな薙刀を背負っています。

 

「お取り込み中でしたぁ? えぇとぉ、お迎えにあがりましたぁ。青紫家の冷鞘(ひさや)、と申しますぅ」

 

 のほほんと、柔和な表情を見せるその少女に、

 安謝と花庵は臨戦態勢を取りはじめるのでした。

 

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