おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第26話「多分、私の記憶違いだろう」

 なごやかだった境内に緊張が走ります。

 その緊張は安謝と花庵……そして、訪れた青紫家の冷鞘との間で起きていました。

 

「あらぁ。確か恩智と……静悪の方ですよねぇ、どうしたんですかぁ、こんな所に来てぇ?」

 

 腰の刀に手を添えている安謝達二人を前にして、冷鞘は構えません。

 それどころか敵意すら見せずに、のほほんと微笑んでいます。

 

「……なぜ青紫がここに」

 

「なぜも何もぉ、言いましたよねぇ? そこにいるお方を迎えにきたんですよぉ」

 

()()()が、わざわざか?」

 

「そうですよぉ。兄さんが連れてきて欲しいって言われたのでぇ……それよりもぉ、もう一度聞きますけど、お二人はどうしたんですかぁ? この方に用事でもぉ?」

 

 柔和な雰囲気は崩さず、ただ二人を一瞥しただけ。

 それだけで安謝と花庵が飛び退きました。

 先ほどの余裕はどこへ行ったか、だらだらと冷や汗を流すばかりです。

 

「そんなに怯えなくともぉ」

 

「……そこまで禍々しい剣気を当てられたら、誰だってこうなるさ。首筋に刀を突き付けられてるような気分だよ」

 

「ごめんなさぁい。これはもう癖みたいなものでぇ。直せないので我慢してもらうしかぁ」

 

「ちっ、気狂い女が……!」

 

 安謝と花庵がここまで警戒する理由。

 それは冷鞘が常に二人を斬ろうとする気をぶつけてくるからです。

 それこそ二人を視界に収めてから、ずっと。

 今こうして会話をしている最中も、ずーっと。

 青紫という名の狂気のもとで純粋培養された冷鞘。

 常在戦場の心得を魂にまで刻まれ、傍迷惑にも視界に入る人全てを斬り捨てようとする、キリングマシーンと化してしまったのでした。

 

「……我々がここにいる理由だったね。それは勿論阿妻を騒がせている青龍のことさ。蒼天の塔の方角に奴が逃げたのは目撃していた。ゆえに事情聴取していたのさ」

 

「なるほどぉ。確かにそういう報告はあがってましたねぇ。それでぇ、有益な話は得られましたかぁ?」

 

「残念ながら」

 

「うーん、まだ見つけられないんですねぇ……はぁ。分かりましたぁ。では引き続き調査お願いしますねぇ。終わったらすぐに連絡くださいませぇ」

 

「……元はと言えば貴様らの失態だぞ? 誰が貴様らの尻ぬぐいのをしてやってると思ってるんだ。蒼天の塔は青紫が守護すると豪語してこのザマ……聞いて呆れるな」

 

「なのでぇとっても感謝してますよぉ。でも降臨祭中ですからぁ早く見つけてくれないと、みんなが困っちゃいますよねぇ?」

 

「あぁ。それも貴様らのせいでな」

 

()()()()()()ですよぉ。そうですよねぇ? 阿妻は青紫を筆頭にして各家が引っ張っていくものですよぉ。なら上に立つもの全員の責任ですぅ」

 

「……いけしゃあしゃあと」

 

「そうしておかないとぉ。貴方達が存在する意味ぃないですからぁ。これぐらいは役に立ってもらわないとねぇ」

 

「──」

 

「花庵、よせ」

 

「──あ。あ。あ。えへへぇ。だめですよぉ。抗おうとしないでくださいぃ」

 

 もとより、気の短い方である花庵です。

 無自覚に殺気をまき散らす冷鞘にこうも煽られれば、もう臨戦態勢です。

 途端にその場の空気が冷えてゆき、

 気付けば花庵は鯉口を切っていました。

 

 そしてそれは、冷鞘も同じ。

 言葉では抗うなと言いながらも、その実(あらが)ってくれるのが嬉しいのか、嬉々として背中の薙刀に手を這わせています。

 

 まさしく一触即発の状況。

 

 誰もが動けなくなった、その時。

 かろうじて制止の声を出したのは香桜でした。

 

「それ以上はよそでやりな」

 

 その態度は毅然とし、この場の誰よりも落ち着きを持っているように思えます。

 しかしながら内心は焦りに焦っていました。

 なぜなら()()()()()()()この境内には忍んでおり、

 今まさに乱入してもおかしくないからです。

 

「青紫の。お前さんの目的はここに仕合をしにきたことか? 私の送迎じゃないのかい?」

 

「そうでしたぁ」

 

「恩智と静悪。お前さんたちも青龍を探しにここに来ただけだろう。それで空ぶった。ならさっさと別の場所を探った方が建設的だろう。違うかい?」

 

「……」

 

「……ふむ。おっしゃる通りだな」

 

 努めて冷静に二人を諭すと、渋々と二人は剣気を抑え、場の緊張がすっと解けていきます。

 香桜は内心で肩をなでおろしました。

 

「さ。またお前さんたちがバチバチとやりあう前にアタシを連れてったらどうだい」

 

「はいぃ。それはもうぅ」

 

「あと、その気味の悪い殺気をぶつけるのもやめな。さっきから腹が立って仕方がない」

 

「お姉さん強そうなのでぇ、それはちょっと止められませんねぇ」

 

 無事に何でもないように振舞った香桜は、そのまま冷鞘につれられるようにしてその場を後にしたのでした。

 

「……蒼天の塔に招待、だと? あの女はただの巫女ではないのか?」

 

「そのようだ。それに、私も青龍神社に巫女が増えたというのは寡聞(かぶん)にして知らなかった。代々管理していたお婆さん一人だけだった筈だ」

 

「青紫がわざわざ()()()を使いぶやったのも気になる。あの女……相当やるのか?」

 

「……立ちや歩きの所作は確かに武人のそれだったな。だが……なぜ、この騒動の最中に部外者を塔に招く? しかも実門直々の指定で?」

 

 そこまで話したところで安謝と花庵は、ある結論に至ります。

 あの女は、今回の騒動に関係があるのだ、と。

 何であれ、注力する必要があるでしょう。

 

「……あの女は青龍を知っていると見ていいだろうな」

 

「あぁ。私も今そう考えたところだ。この神社に訪れている可能性も捨てきれない」

 

「だが安謝、お前らは一度探ったんだろう?」

 

「相手が相手だ。軽く探る程度じゃ見つかる訳も……む?」

 

「どうした?」

 

 安謝が不意に本堂の奥を注視し始めました。

 そこにはご神木と思われる立派な木がありました。

 

「気のせいか……? ……すまない、なんでもない」

 

「……歯切れが悪いな。気になるではないか」

 

「いや……特に気にする内容でもないさ。忘れてくれ」

 

「隠すぐらいなら()く言え」

 

 ずい、と顔を寄せた花庵。

 頬をかいた安謝が仕方なく口に出す。言います。

 

「……この神社に、あんなに巨大なご神木があったか、と思ってね」

 

「あん?」

 

「多分、私の記憶違いだろう。疲れているのさ」

 

「……確かに、くだらん話だな」

 

「だから言ったろう?」

 

 二人の視線の先。

 そこには、本堂より二倍以上大きなご神木がありました。

 ご神木は青々と葉を生い茂らせており、

 ざわざわと耳に残る音をさざめかしています。

 ご神木というには余りにも若々しいそれは、

 二人に強い生命力を感じさせるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁふー」

 

「あーあー……きりん君、漏れそうな時は早く言ってくださいよーもー…! ちょっと飲みそびれたじゃないですかー……!」

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