『
円盤のような巨大大陸、その真東に位置する国。
そこは青龍様が収める大変豊かな地です。
剣を極めし青龍様ゆかりの地であることから、この国はとっても剣術が盛んであり、なんと国民全員が帯刀を義務づけられています。
生まれ落ちてすぐに剣を渡され、
渡された剣とともに子供時代を送り、
命を賭けた仕合を経ることで、ようやく大人と認められるのです。
当然、大人になってからも自らの金銭、地位、プライドをかけて日々決闘を繰り返す、それが『阿妻』という国です。
とっても殺伐しているように思えますが、その実、とても平和です。
木造主体の平屋が立ち並ぶ街中を、人々は活発に歩き回り、日々の糧を求めて働いています。
住人たちの顔は生気に満ちており、町中どこにいても喧騒が聞こえてくるほどにぎやか。
しかも本日は一年に一度の降臨祭です!
なので、いつも以上に往来は活発。
家の中で、店先で、そして道端で、どんちゃんどんちゃんと皆が騒いでいました。
「──おうテメェ、その場所はおらが先に取ってた所だぞ!」
「へっ、お前さん。天下の往来がお前さんの物な訳がねーだろがい!」
「このトーヘンボクがっ、仕合てえのか?」
「仕合わんでか!」
「「──やってやらァッ!」」
もちろん、祭りだとて剣を交えないという選択肢はありません。
さてさて、そんな阿妻の中央街。
その離れに音もなく現れるものがいました。
きりん君とせいりゅー様のお二人です。
「……ふぅ、ようやくですか……ちょっと時間かかっちゃいましたね。着きましたよ~きりん君。……きりん君?」
「……めがまわる……」
「あらら」
抱きかかえたままの超移動をしてきたせいりゅー様。
その速度ときたら絶叫マシンを優に超え、発狂マシンレベルのスピード。
ソレに耐えられるきりん君も、やはり人ならざる存在といえるでしょう。
木綿を主とした、和テイスト溢れる衣服を身に着けた町人たちは、すれ違うたびに二人を奇異の目で見つめています。
「なんだいなんだいあの子らは」
「
「破廉恥だねぇ……」
「あの格好……一体なんのつもりなのやら」
……おやおや、何やらあまりいい目で見られていないようですね?
「……なにしたの?」
「むむ? おかしいですねぇ……仮にも私、ここの神さまなんですけど……まあ大丈夫ですよ。きっと。多分」
「……はやく」
「あぁ。そうですよね腹ごしらえですよね。すみません少しお待ちを……」
「……ちがう」
周りのひそひそ声なんて何のその。
せいりゅう様はきりん君を抱っこしたまま悠々と歩みます。
てくてくふらふら。
祭り
ふらふらてくてく。
風の向くままふらりふらりふらり。
街を観察するように歩いていくと、色々な店が見えてきます。
刀鍛冶屋、服屋、
八百屋、刀装具店、魚屋、酒屋。
商店、研ぎ屋、刃物屋、などなど……。
……なにやら刀に関する物が多いような気がしますね。
しかしせいりゅー様はソレが普通だと言わんばかりに上機嫌。
長く美しい尻尾も機嫌よく揺れています。
他方で、どんちゃん騒いでる町人らです。
祭りに夢中でほとんどの人が気づいていませんが、
気付く人はギョッとし、揃ってひそひそと噂します。
確かにせいりゅう様らは亜人種でありますが、犬や猫といった亜人が混じり合う阿妻では、それほど浮いていないように思えます。
一体何が原因なのでしょうか?
せいりゅー様のかなり際どい、カスタム着物のせいでしょうか?
無論せいりゅー様、そんな噂もどこ吹く風です。
ふんふん、と鼻を鳴らしながら市井を見回しており……ソレを見つけます。
「ん~、こっちです……こっちの辺りから香ばしい匂いが……お。ありましたよ~」
「……いい匂い」
「ですね~」
見つけたのはお団子屋さんでした。
中心外から少し離れた街角。
そこにぽつんと建った、こぢんまりとした一軒家の『あおし』。
その店頭には様々なお餅が並んでいます。
焼き餅、練り餅、あんこ餅。
豆餅。わらび餅。おこわ餅……。
工夫の凝らされたお団子の数々に、二人はおぉ~と感動しています。
特に二人が釘付けになったのは、店頭で焼かれているお餅でした。
漆黒の体毛に身を包んだ狼の亜人は、ねじり鉢巻をして、巨躯を縮こめて器用にお餅を焼いています。
金網に乗せたお餅を炭火であぶり、カリっとした表面に、頃合いを見て砂糖醤油と味噌を練り込んだものを塗るのです。
じゅぅぅ……、と小気味のいい音と共に立ち上る香ばしさは、二人の空腹を煽って仕方ありません。
「ちょいと……ちょいと。その焼き餅をふたつ……いや、みっついいですか?」
「……」
「あ。あとわらび餅と、桜餅と~……おや、蒼餅なんてあるんですね。ではそれも」
「……娘にいってくんな」
狼さんは焼くのに夢中のようです。
顎で指し示された先には、狭い店内で慌ただしそうに働いている、可愛らしい狼の亜人がいました。
彼女は客にお餅とお茶と、愛嬌を振る舞っています。
「あの~、お餅いただけます?」
「あ、はーい! 店内で召し上がられま……!?」
ハキハキとした声で答えた娘さん。
しかし二人の姿を見て、驚き、そして顔を赤らめます。
その様子に他の客もいぶかしみ、二人を見て……同じように驚きを見せます。
すると、あれだけ賑わっていた店内が、凪のように静まり返ってしまいました。
「えぇ。店内で。お茶もあると嬉しいんですけど」
「……あ。は、はい。すぐにお持ちします」
しかしせいりゅう様、全く動じることなく笑顔を見せると、小上がりの畳でぽす、と自然な様子で姿勢を崩しました。
もちろん、きりん君は膝上キープです。
まるでお気に入りのぬいぐるみに執着する、子供のようです。
「わらび餅とか焼き餅とか、そういうのは知識にはあったんですが、蒼餅は知らなかったですね~、どういうものでしょうか。ねえきりん君」
「……しらなかったの?」
「えぇ。千年も眠りについてる間、きりん君を想う以外は剣の事考えてましたから。街のことは全然知らなかったですよ~」
「……へんなこと、してない?」
「まさか! ずっと大人しくしてましたよぅ。あのバカ虎といっしょにしないでください~。むしろ民草のために奉仕とかしてたんですよ? 褒めてくださいきりん君きりん君」
「……いいこ」
「えへ」
ベタベタとスキンシップを取っては
二人の仲
彼らの視線は特にせいりゅうに注がれているようですが……一体なんなのでしょうか?
「お、お客さん……あの、ご注文の品です」
「お。ありがとうございます」
「……ありがと」
「い、いえどういたしまして」
ひきつった笑顔を見せた女中がそそくさとその場を離れます。
二人の前にそそくさと置かれた注文の品。
出来立ての焼き餅3つとわらび餅、桜餅。
そしてお目当ての「蒼餅」がお茶とともに用意されました。
蒼餅……それは
モチーフは『青龍』様のようですね。
よく見るとお餅の表面に、龍の尻尾が刻まれています。
お餅は、色合いに反して味はほんのりとした苦みと、すっきりした甘みが感じられる一品で。
渋めのお茶がなんとも合う、とても美味しいものでした。
「はむ……ん! ふふふ……」
「……んむんむ」
あぁ焼きたてお団子のなんと美味なるか!
お口の中で、はもはもはも。
お茶と合わせて、ごきゅごきゅごきゅ。
ほっぺたが落ちそうとはこのことです。
二人は夢中で頬張ってしまいます。
「おい……」
「ふてえやろうだ……」
「静ちゃん、下がってな……」
「あ……あの、えっと……」
しかして娘さんはそんな二人を心配そうに眺めています。
というのも周りの客が、なんだか不穏な感じを漂わせているからです。
阿妻の民なら当然のように持つ刀。
それに、全員が手をかけようとしてるのです。
しかしせいりゅー様ときりん君のお二人は、気付かないのかお団子に夢中です。
炭火が弾ければ、すぐにでも血を見そうな緊張の一幕。
その場を動かしたのは、とある野太い声でした。
「──おい」
びくっ、と客が震え上がります。
振り返れば、そこにはねじり鉢巻の狼の亜人が、手ぬぐい片手に店を見回していました。
「うちの店で何する気だ」
「……旦那、んなのわかってるだろ? この娘っ子にちょいとお灸を据えようと」
「うちの客に手を上げようってのか」
「っ、旦那。けどよぉ」
「いいから答えろ。うちの店で。何するつもりなんだ?」
人が殺せそうなほどの強いガン付けに、町人達はたじたじ。
最初こそ食ってかかろうとした人達でしたが、眼光に負けたのか、一人。また一人とお代を置いて店を出ていってしまいました。
そうして、店には娘と父親、そしてせいりゅー様達だけが取り残されるのでした。
「……すまねえなお客さん。不快にさせちまったようだ」
「気にしてませんよ。むしろおいしいお団子、ありがとうございます。きりん君も気に入ってます」
「……おいしい」
「そうかい。それでお前さんたちは……旅人だろう?」
「んー……そうですね。そんなところですね」
「……祭り
「……え?」
指を刺されたせいりゅーがぽかんとした顔を見せ。
これには膝上のきりんも同じ顔です。
しばらくしてきりんはせいりゅーに尋ねました。
「……せいりゅー、きられるの?」
「……斬られるそうですよ?」
二人は意味もわからずに顔を見合わせるのでした。
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