おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

3 / 52
第3話「青龍様に斬られるぞ」

 『阿妻(あづま)』の地。

 

 円盤のような巨大大陸、その真東に位置する国。

 そこは青龍様が収める大変豊かな地です。

 剣を極めし青龍様ゆかりの地であることから、この国はとっても剣術が盛んであり、なんと国民全員が帯刀を義務づけられています。

 

 生まれ落ちてすぐに剣を渡され、

 渡された剣とともに子供時代を送り、

 命を賭けた仕合を経ることで、ようやく大人と認められるのです。

 当然、大人になってからも自らの金銭、地位、プライドをかけて日々決闘を繰り返す、それが『阿妻』という国です。

 とっても殺伐しているように思えますが、その実、とても平和です。

 木造主体の平屋が立ち並ぶ街中を、人々は活発に歩き回り、日々の糧を求めて働いています。

 住人たちの顔は生気に満ちており、町中どこにいても喧騒が聞こえてくるほどにぎやか。

 

 しかも本日は一年に一度の降臨祭です!

 なので、いつも以上に往来は活発。

 家の中で、店先で、そして道端で、どんちゃんどんちゃんと皆が騒いでいました。

 

「──おうテメェ、その場所はおらが先に取ってた所だぞ!」

 

「へっ、お前さん。天下の往来がお前さんの物な訳がねーだろがい!」

 

「このトーヘンボクがっ、仕合てえのか?」

 

「仕合わんでか!」

 

「「──やってやらァッ!」」

 

 もちろん、祭りだとて剣を交えないという選択肢はありません。

通行人(みちゆくひと)はヤンヤヤンヤと、いつも以上に楽しんで仕合を観戦するのでした。

 

 さてさて、そんな阿妻の中央街。

 その離れに音もなく現れるものがいました。

 きりん君とせいりゅー様のお二人です。

 

「……ふぅ、ようやくですか……ちょっと時間かかっちゃいましたね。着きましたよ~きりん君。……きりん君?」

 

「……めがまわる……」

 

「あらら」

 

 抱きかかえたままの超移動をしてきたせいりゅー様。

 その速度ときたら絶叫マシンを優に超え、発狂マシンレベルのスピード。

 ソレに耐えられるきりん君も、やはり人ならざる存在といえるでしょう。

 

 木綿を主とした、和テイスト溢れる衣服を身に着けた町人たちは、すれ違うたびに二人を奇異の目で見つめています。

 

「なんだいなんだいあの子らは」

 

遊客(ゆうかく)*1かい?」

 

「破廉恥だねぇ……」

 

「あの格好……一体なんのつもりなのやら」

 

 ……おやおや、何やらあまりいい目で見られていないようですね?

 

「……なにしたの?」

 

「むむ? おかしいですねぇ……仮にも私、ここの神さまなんですけど……まあ大丈夫ですよ。きっと。多分」

 

「……はやく」

 

「あぁ。そうですよね腹ごしらえですよね。すみません少しお待ちを……」

 

「……ちがう」

 

 周りのひそひそ声なんて何のその。

 せいりゅう様はきりん君を抱っこしたまま悠々と歩みます。

 

 てくてくふらふら。

 祭り囃子(ばやし)に誘われて、えっちらおっちら。

 

 ふらふらてくてく。

 風の向くままふらりふらりふらり。

 

 街を観察するように歩いていくと、色々な店が見えてきます。

 刀鍛冶屋、服屋、(つば)屋。

 八百屋、刀装具店、魚屋、酒屋。

 商店、研ぎ屋、刃物屋、などなど……。

 ……なにやら刀に関する物が多いような気がしますね。

 しかしせいりゅー様はソレが普通だと言わんばかりに上機嫌。

 長く美しい尻尾も機嫌よく揺れています。

 

 他方で、どんちゃん騒いでる町人らです。

 祭りに夢中でほとんどの人が気づいていませんが、

 気付く人はギョッとし、揃ってひそひそと噂します。

 確かにせいりゅう様らは亜人種でありますが、犬や猫といった亜人が混じり合う阿妻では、それほど浮いていないように思えます。

 一体何が原因なのでしょうか? 

 せいりゅー様のかなり際どい、カスタム着物のせいでしょうか?

 

 無論せいりゅー様、そんな噂もどこ吹く風です。

 ふんふん、と鼻を鳴らしながら市井を見回しており……ソレを見つけます。

 

「ん~、こっちです……こっちの辺りから香ばしい匂いが……お。ありましたよ~」

 

「……いい匂い」

 

「ですね~」

 

 見つけたのはお団子屋さんでした。

 中心外から少し離れた街角。

 そこにぽつんと建った、こぢんまりとした一軒家の『あおし』。

 その店頭には様々なお餅が並んでいます。

 焼き餅、練り餅、あんこ餅。

 豆餅。わらび餅。おこわ餅……。

 工夫の凝らされたお団子の数々に、二人はおぉ~と感動しています。

 

 特に二人が釘付けになったのは、店頭で焼かれているお餅でした。

 漆黒の体毛に身を包んだ狼の亜人は、ねじり鉢巻をして、巨躯を縮こめて器用にお餅を焼いています。

 金網に乗せたお餅を炭火であぶり、カリっとした表面に、頃合いを見て砂糖醤油と味噌を練り込んだものを塗るのです。

 じゅぅぅ……、と小気味のいい音と共に立ち上る香ばしさは、二人の空腹を煽って仕方ありません。

 

「ちょいと……ちょいと。その焼き餅をふたつ……いや、みっついいですか?」

 

「……」

 

「あ。あとわらび餅と、桜餅と~……おや、蒼餅なんてあるんですね。ではそれも」

 

「……娘にいってくんな」

 

 狼さんは焼くのに夢中のようです。

 顎で指し示された先には、狭い店内で慌ただしそうに働いている、可愛らしい狼の亜人がいました。

 (あおい)色がうるわしい、ミニスカ着物と前掛けをつけた、白く美しい体毛が美しい小柄な娘さんです。

 彼女は客にお餅とお茶と、愛嬌を振る舞っています。

 

「あの~、お餅いただけます?」

 

「あ、はーい! 店内で召し上がられま……!?」

 

 ハキハキとした声で答えた娘さん。

 しかし二人の姿を見て、驚き、そして顔を赤らめます。

 その様子に他の客もいぶかしみ、二人を見て……同じように驚きを見せます。

 すると、あれだけ賑わっていた店内が、凪のように静まり返ってしまいました。

 

「えぇ。店内で。お茶もあると嬉しいんですけど」

 

「……あ。は、はい。すぐにお持ちします」

 

 しかしせいりゅう様、全く動じることなく笑顔を見せると、小上がりの畳でぽす、と自然な様子で姿勢を崩しました。

 もちろん、きりん君は膝上キープです。

 まるでお気に入りのぬいぐるみに執着する、子供のようです。

 

「わらび餅とか焼き餅とか、そういうのは知識にはあったんですが、蒼餅は知らなかったですね~、どういうものでしょうか。ねえきりん君」

 

「……しらなかったの?」

 

「えぇ。千年も眠りについてる間、きりん君を想う以外は剣の事考えてましたから。街のことは全然知らなかったですよ~」

 

「……へんなこと、してない?」

 

「まさか! ずっと大人しくしてましたよぅ。あのバカ虎といっしょにしないでください~。むしろ民草のために奉仕とかしてたんですよ? 褒めてくださいきりん君きりん君」

 

「……いいこ」

 

「えへ」

 

 ベタベタとスキンシップを取っては(えつ)にひたるせいりゅー様。

 二人の仲(むつ)まじい様子は姉と弟といった感じでのほほんとしているのですが……周りから突き刺さる視線は依然として厳しいままです。

 彼らの視線は特にせいりゅうに注がれているようですが……一体なんなのでしょうか?

 

「お、お客さん……あの、ご注文の品です」

 

「お。ありがとうございます」

 

「……ありがと」

 

「い、いえどういたしまして」

 

 ひきつった笑顔を見せた女中がそそくさとその場を離れます。

 二人の前にそそくさと置かれた注文の品。

 出来立ての焼き餅3つとわらび餅、桜餅。

 そしてお目当ての「蒼餅」がお茶とともに用意されました。

 蒼餅……それは竜胆(りんどう)の花びらとお茶っ葉が練り込まれた、薄青の生地が珍しい降臨祭限定のお餅です。

 モチーフは『青龍』様のようですね。

 よく見るとお餅の表面に、龍の尻尾が刻まれています。

 お餅は、色合いに反して味はほんのりとした苦みと、すっきりした甘みが感じられる一品で。

 渋めのお茶がなんとも合う、とても美味しいものでした。

 

「はむ……ん! ふふふ……」

 

「……んむんむ」

 

 あぁ焼きたてお団子のなんと美味なるか! 

 

 お口の中で、はもはもはも。

 お茶と合わせて、ごきゅごきゅごきゅ。

 ほっぺたが落ちそうとはこのことです。

 二人は夢中で頬張ってしまいます。

 

「おい……」

「ふてえやろうだ……」

「静ちゃん、下がってな……」

 

「あ……あの、えっと……」

 

 しかして娘さんはそんな二人を心配そうに眺めています。

 というのも周りの客が、なんだか不穏な感じを漂わせているからです。

 阿妻の民なら当然のように持つ刀。

 それに、全員が手をかけようとしてるのです。

 しかしせいりゅー様ときりん君のお二人は、気付かないのかお団子に夢中です。

 炭火が弾ければ、すぐにでも血を見そうな緊張の一幕。

 その場を動かしたのは、とある野太い声でした。

 

「──おい」

 

 びくっ、と客が震え上がります。

 振り返れば、そこにはねじり鉢巻の狼の亜人が、手ぬぐい片手に店を見回していました。

 

「うちの店で何する気だ」

 

「……旦那、んなのわかってるだろ? この娘っ子にちょいとお灸を据えようと」

 

「うちの客に手を上げようってのか」

 

「っ、旦那。けどよぉ」

 

「いいから答えろ。うちの店で。何するつもりなんだ?」

 

 人が殺せそうなほどの強いガン付けに、町人達はたじたじ。

 最初こそ食ってかかろうとした人達でしたが、眼光に負けたのか、一人。また一人とお代を置いて店を出ていってしまいました。

 そうして、店には娘と父親、そしてせいりゅー様達だけが取り残されるのでした。

 

「……すまねえなお客さん。不快にさせちまったようだ」

 

「気にしてませんよ。むしろおいしいお団子、ありがとうございます。きりん君も気に入ってます」

 

「……おいしい」

 

「そうかい。それでお前さんたちは……旅人だろう?」

 

「んー……そうですね。そんなところですね」

 

「……祭り囃子(ばやし)に誘われたか。なら仕方ねえが……特にお前さんは気を付けた方がいいな。そんな破廉恥(はれんち)な出で立ちしてると()()()()()()()()()

 

「……え?」

 

 指を刺されたせいりゅーがぽかんとした顔を見せ。

 これには膝上のきりんも同じ顔です。

 しばらくしてきりんはせいりゅーに尋ねました。

 

「……せいりゅー、きられるの?」

 

「……斬られるそうですよ?」

 

 二人は意味もわからずに顔を見合わせるのでした。

 

*1
旅人のこと。




 感想や評価を投げてくれると大変励みになりますので、よろしければお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。