おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第31話「お姉さん、青紫にならない?」

「ここで何をしているんだい? 火熊。それと冷鞘」

 

「あ……」

 

「……」

 

 霞のように唐突に現れた実門(さねかど)

 彼は眼前の光景を前に、心底不思議そうに尋ねます。

 

 荒らされた大部屋。

 血を流す火熊。

 そして吹き飛ばされた香桜の姿。

 どうあがいても異常事態です。

 

 実門の問いに、明らかに狼狽する冷鞘と火熊。

 二人はどう答えたものか、必死に考えを練っているようでした。

 

「一手指南……にしては抜き身だし。この荒れようだと仕合にしか見えないなぁ。ねえ火熊、キミもしかして仕合ってた?」

 

「ぬ……いや、そうだな……」

 

「冷鞘。使いに行かせたよね。僕の記憶が確かなら、この人に韴霊(ふつのみたま)を見せてあげてってお願いしたと思ったけど……仕合しろってお願いしたっけ?」

 

「えぇっとぉ……そのぉ……」

 

 問い詰める実門に、答えられない二人。

 そうこうしてる中に二人の元に近づく実門。

 気まずそうに顔を俯かせる二人が沈黙を続けていると、実門はおもむろに言います。

 

()()()()()()

 

「「ッ!!」」

 

 ババッ、と直立不動になる二人。

 まるで土壇場の罪人のように、全身からぶわぁっと冷や汗を流して、言う通りにします。

 

「ねえ。僕の言葉は聞こえてる? どうして仕合したの?」

 

「っ、青龍とかいう、ふざけた奴の容疑者かもしれぬ。だから詰問したまで!」

 

「そ、そうよぉ。兄さんも聞いたでしょぉ? 刀雨がやられたのよぉ。そして彼女は我々が知らない剣豪、そしたら怪しむしかないでしょぉ」

 

「ふぅん。仇討ちのつもりだったんだ。それで? あのお姉さんは犯人だったの?」

 

「そ、それは……」

 

「ん?」

 

「ま、まだ口を割らなかったのよぉ。で、でもぉ。あと少しで──ふぎゃアッ!?!?!?」

 

 気付けば、実門の鞘が深く深く冷鞘のお腹に突き刺さり。

 彼女もまた香桜と同じように、壁に叩きつけられるのでした。

 

「つまるところ、早とちりじゃないか」

 

「ッ」

 

「火熊。キミもお仕置き」

 

「ま、待て兄者。待……ッ」

 

 ──ばごォンッ!!!!

 

 黒鞘が火熊の脳天を唐竹割りしており。

 目と鼻から血を吹き出した火熊は、強烈な打撃音と共に、階下に消えてしまいました。

 

「はぁ~……本当ウチの子達は剣のことばっかり考えて、考える力ってのが皆無だ……頭が痛くなるよ」

 

 大きくため息をついた実門。

 不意に香桜を思い出したのか、すたすたと近づいてきました。

 

「いやぁごめんね。命に別状はない? なさそうだね」

 

「……っ」

 

 香桜の手を取り、起き上がらせた実門。

 拾っていた短刀を丁寧に渡してきた彼に対し、香桜は直前の一幕がいまだに目に焼き付いて仕方ありませんでした。

 冷鞘に、火熊。

 そのどちらも香桜では叶わない、阿妻の頂上レベルの剣豪でした。

 それを瞬く間に一蹴するなんて。

 ()()()

 まさしく、その一言がよく似合いました。

 本気を出さずにこれなら、本気を出したらどうなってしまうのか。

 ひょっとしたら青龍様より強いのではないか。

 そんな思いが(ぬぐ)えませんでした。

 

「……あれ? どうしたの? 気分がすぐれない?」

 

「……え、あ。いや、大丈夫さ。少し立ち眩みしただけだ」

 

「ふむ……じゃあこれを飲むといいよ」

 

 言うが早いか、懐から印籠を取り出す実門。

 そして中から黒い丸薬を取り出すと、香桜の手に乗せたのでした。

 

「これは?」

 

「秘密のお薬。……毒ではないよ? 怪しいなら飲まなくてもいいけど」

 

 梅干しの種ほどの小さな丸薬は、よく見ると何かの植物を乾燥させたもののようでした。

 一体何で出来てるのでしょう。

 怪しさは満点ですが断るすべはないと、覚悟を決めて一飲みする香桜。

 喉を鳴らして飲み込むと、すぐに効能があらわれました。

 

「!? 痛みが……消えた」

 

 あれほど鈍い痛みを放っていた腕と背中。

 その痛みが立ちどころに消えていくだけでなく、くっきりと残っていたアザまでも治っていくではないですか。

 かつて見たきりん君が起こした奇跡と同等の現象に、香桜は驚きを隠せません。

 

「世界樹の葉だよ。怪我によく効くんだ、これが」

 

「ッ!? そんな貴重な物をアタシに使うなんて……!」

 

「あぁ全然大丈夫。確かに貴重だけど、今回は完璧にこっちが悪いしね」

 

 心からそう思ってるのか、ケラケラと笑う実門。

 香桜は、その態度に呆れを隠せません。

 

「それにしても……やっぱりお姉さん凄いね! 火熊と仕合って生き残るなんて」

 

「偶然ですよ。向こうも本気ではなかったし、アタシは逃げるばかりでした」

 

「そのようだね。でも、最後の最後で一矢報いかけた。そうだろう? それだけでも勝算に値するよ。()()()()()()()()()()()()()、そこまで戦えるなんてね!」

 

「……ッ、久しぶりに?」

 

「あれ? 違った? お姉さんしばらく仕合してなかったんでしょ?」

 

「……何故それが?」

 

「だって足運びが歪だもん。まるで歩幅が体と合ってないかのような足取りだよ」

 

 戦闘跡を見れば分かるよ、と気楽に言う実門。

 香桜は背筋に寒気を覚えながら、努めて会話を続けます。

 

「はぁ……そこまで分かるなんて、実門様には叶いませんね」

 

「えへん。で、実際のところお姉さんは刀雨のことは知らないんだよね」

 

「青龍様に誓って知りません」

 

「だよね。僕も見舞いにいったけど、()()()()()()()()()()。お姉さんの口じゃ出来ないだろうねぇ」

 

「……亜人か何かがやったと?」

 

「だろうね。下手人はまだ分からないけどさ。まあ刀雨が目を覚ましたら聞けばいいや……あ。そうそうお姉さん」

 

「なんだい」

 

 何となく嫌な予感を覚えていると、案の定実門は爆弾を投じるのでした。

 

「お姉さん、青紫にならない?」

 

「……」

 

 はい?

 

 思わず目が点になる香桜。

 そんな香桜を置いて、実門はペラペラと喋り続けます。

 

「お姉さん。腕はまだまだだけど、僕的にビビっときたんだよね。歩き方、雰囲気、後は攻撃方法。まだまだ荒削りだけど、火熊相手に一撃食らわした力は評価に値する。歳は?」

 

「……女性に歳は聞くものじゃないですよ」

 

「じゃあ推測して40くらいかな。うん、全然挽回できる。キミの()()()()()老獪(ろうかい)な思考と、落ち着きは得難いものだ」

 

「……」

 

「どう? 三食修行付き、月に一回は僕と手合わせも出来て、お給金はどっさり! 漏れなく阿妻に名を轟かす剣豪も夢じゃない! 決して悪い条件じゃないと思うよ」

 

「すみませんが……アタシは青龍神社を手伝わないといけません」

 

「あぁそうだったね! じゃあウチの小紫を代わりに行かせるよ、どう? 雑事なら何だってやってくれると思うよ」

 

「青家として、青紫家の手を借りることをお婆さんが何と言うか……」

 

「んー、そこ気にする所? たかが分家と本家の違いじゃん。遅かれ早かれ、ウチ管理になると思うから気にしなくていいと思うんだけど」

 

「……」

 

「是非前向きに検討してくれないかな? 近々、ウチから()()()()()()()()()()。このままだと人手不足になっちゃってね」

 

 間違いなく、敗れた刀雨のことでしょう。

 刀征証を持つ居合の達人だと聞きますが、まさか一度の敗北で斬り捨てられるとは。

 青紫家、一体どこまで狂っている。

 いや……この実門が、どこまで青紫を狂わせたのでしょうか。

 

「……考えさせてください」

 

「うん! いい返事を待っているよ! ……っと、話が大分逸れちゃったね。じゃあ宝物庫に行こっか」

 

「えぇ。是非お願いします」

 

 にっこり笑顔の実門は、香桜を先導し、奥にある階段に向かっていきます。

 階段の奥は薄暗く、まるでその奥だけ夜になっているようです。

 

「暗いのはごめんね。陽の光に当てると劣化が早くなるのもあってね……」

 

 キィ、ギィィ、とこれまた耳障りな音をさせる階段を、ひとつひとつ踏みしめていけば、やがて見えてくるのは、これまた薄暗い階層です。

 

『九十九階』。

 

 窓が一切見当たらず、ろうそくの火が頼りなく周りを照らす、その階層。

 香桜の視界がとらえたのは、青紫の家紋が描かれた、巨大な鉄の扉でした。

 

「じゃーん。こちらが宝物庫でーす。それではご開帳~!」

 

 実門はまるで子どものようにはしゃぐと、懐から取り出した鉄鍵で、ガチャリ!

 厳重に閉じられた扉を、開放していくのでした。

 

 

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