おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第32話「じゃあ──僕と仕合おうよ」

 秘儀のベールに包まれた宝物殿。

 見るからに重そうな鉄扉がついに開かれ、香桜も緊張に喉を鳴らします。

 両開きのそれが、ゆっくりと開放されていけば……。

 

「……ん?」

 

 その思いによらない中身に、香桜は思わず目を(ひそ)めました。

 宝物殿と聞いて、目も眩むような豪華絢爛な宝がさぞかしずらりと並んでるだろうなぁと考えていたのですが……実のところ、大層大きな部屋の割りにがらんとしており、申し訳程度に積まれた小さな木箱や、古いタンスなどがあるばかりで、神器のたぐいがあるようには到底見えませんでした。

 

「がっかりしたでしょ」

 

「……え。はぁ、いや、そんなことは……」

 

「あははは。嘘が下手だなぁ。大丈夫だよ、僕が初めてここに来たときも思ったもん。しょぼいなーって」

 

 そういって宝物殿に立ち入る実門。

 長い間人が立ち入らなかったのでしょう。

 香桜が後を追っていけば、カビの臭いが鼻先をかすめました。

 

「実際しょぼいと思うよー。ここにあるのは凄く大事な証文とか、契約書とか。あとは青紫の家系図だとか、そういうのばっかりだもの。知らない人からしたら興味ないものばっかり」

 

「……実門様は、元は青紫ではなかったと?」

 

「うん。そう。言ってなかったっけ? 僕は昔、山で乞食やってるところ拾われたんだよ。そしたらなんと剣の適性があったみたいで。それでこんな感じになっちゃったんだ」

 

 懐かしむように、棚にある物を取っては戻し、取っては戻す実門。

 思い入れはあまりないのでしょうか。

 見るからに古そうな木板や、印鑑、置物を雑に扱うものですから、見てる香桜がハラハラしているのが分かります。

 後で何か小言言われないだろうね。

 そう心配していた彼女ですが、ふと変なことに気が付きます。

 

「……実門様。つかぬことをお聞きしますが……何故宝物庫なのに武器がないのですか?」

 

「お。いい所に気がついたね?」

 

 イタズラが成功したかのように、ニヤリ、と笑う実門。

 彼は楽しげに語ってくれました。

 

「ねえ徒花さん。剣は我々に取って何?」

 

「……魂」

 

「その通り。揺り籠から墓場まで、生涯を共にするものだ。じゃあ僕達の肉体が先に死んだら、残った剣はどうする?」

 

「どうって……アタシだったら次の世代のために売って、刀代にしますが」

 

「ありゃ。そっか庶民はそうしてるか……ま、まあまあ。でも売った刀は打ち直されるのが普通だよね」

 

「そうでしょうね」

 

 一体何を当たり前のことを。

 疑問と何の関係があるんだ。

 そう考えたところで香桜、ハッとなります。

 もしかして神器は……!

 

「──キミの思った通りだよ。青紫はね、使えるものなら全部使うんだ。有事までホコリを被らせるなんて勿体ないでしょ? 昔はどうだったか知らないけど、神器として受け継いだものは新しい青紫が生まれるたびに打ち直して与えている」

 

「……!」

 

「あ。勿論青紫の武器全部が元神器って訳じゃあないよ? 中には凡庸な鋼を使って作ったものもあったりする。まあ、そういうのが青紫神社に飾ってる奴なんだけどね」

 

 連綿と続いてきた青紫家は、かつて青家が継いできた神器すらも、彼らの実践用武器として使い潰してきたのです。

 通りで武器が見当たらない訳です。

 

「で、では……韴霊(ふつのみたま)はどこに?」

 

「んー、()()()()()

 

 確かな足取りで実門が向かった先。

 それは奥にある、一際古い木箱でした。

 彼は足で箱を雑に開けると、中にあるのは中途半端な剣のような物体が転がっていました。

 それは白い象牙を切り出して作ったおもちゃのようにも見えます。

 

 香桜は驚きます。

 

 それは確かに、香桜の記憶にある神器。

 錆はなくなっていますが、子ども頃に見た雰囲気そのもの。

 しかし、大きく違う点があれば。

 刃に当たる部分がなく、()()()()()()()()()のです。

 

「今ウチに残ってる神器はそれだけだよ」

 

「……刃は、まさか」

 

「うん。剣に使っちゃった」

 

「……!」

 

「神器と名が付くものは、全部が全部す~んごく固くて全然削れないけど、ウチに受け継がれた巨大な金剛石で研磨することでだんだん削れるんだ。それを三日三晩続けて、神器の繊維を集めて刀を打つんだ」

 

 実門は箱から取り出した中途半端な剣を、お手玉のように投げ遊びます。

 

「神器を含んだ刀はね。とにかく強い。錆びないし、壊れないし、魔を切り払う力に長けてる。何よりも、持ってるとそれだけで不思議と力が湧いてくるんだ。ほら僕のこれも全部そうなんだよ? お陰で力が湧いて湧いて、仕方がなくなるよ」

 

 背中と腰にある七刀を見せてくる実門。

 無機質な音を立てるそれらは、神器特有の神聖な雰囲気は感じられませんが……何か力場のようなものを発しているのでしょう。

 

「神器の数々は、(あやかし)や、悪い神を断つ剣と聞いておりましたが……しかし、こうして削っては有事の際にどうするのですか? 神器が完全でなければ太刀打ち出来ないのでは」

 

「妖? 悪い神?」

 

 ぽんぽん、と慣れた手つきで韴霊を投げて遊ぶ実門。

 香桜の言葉を聞いて、んー、と考えると。

 

「それって……()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……ッ」

 

 ()()()()。 

 ……と、笑うのでした。

 

 眼前にいるのは人の形をした化け物だ。

 青龍様が作りし阿妻で、剣を振ることに特化した異常生命体。

 満足できる仕合が出来れば誰でもいいと、いつでもどこでも相手を探し求める、血に飢えた剣。

 それが彼なのだと、香桜はどうしようもなく理解するのでした。

 

「ということでー、これが韴霊でした。理解してくれたかな?」

 

「……えぇ。ありがとうございました」

 

「どういたしまして。がっかりさせちゃった? でも大丈夫だよ。韴霊は僕ら青紫が確かに受け継いでいるから。んじゃ、戻ろっか」

 

 まさかの真実に頭が痛くなってきた香桜。

 青龍様になんと報告したらいいもんか。

 そう考えたところで、ぴた、と実門が足を止め、不意に宝物殿の外に声をかけたのです。

 

「……ん? そこにいるのは誰?」

 

「え?」

 

「冷鞘? 火熊? それとも……墓道? んーまさか、刀雨じゃないよね? それとも湯葉ばあちゃん?」

 

「……」

 

 香桜は、だいたい察しがついていました。

 そして滝のように汗を流していました。

 あの馬鹿神、辛抱しきれずに来ちまったのかい! 

 内心で毒づき、そして不安になります。

 仮にも青龍様は神様とのこと。しかし実門の狂気に触れて、いくら神様といえど、実門様に勝てるのかは、不安になりました。

 

 ゆえに逃げたほうがいいと伝えるべきなのか迷った香桜。

 しかしその数瞬の思考時間が、命取りでした。

 

「誰もいないですよー」

 

 壁の外から聞こえてくるのは、想定通りのアンチクショウ。

 香桜は一気に頭が痛くなってきました。

 

「……」

 

「ほんとですよー、ここにはいないですからー」

 

「そっか。そこには居ないんだね」

 

「えぇえぇ。居ませんとも。なので気にしないでくださいー」

 

「じゃあ、僕がこういう事をしても問題ないって訳だね」

 

 

 ──ざぎゅうぅぅッ!!!!

 

 

 香桜すら聞いたことのない斬撃音。

 ソレと同時に、鉄扉と扉に隣接した空間が、切り取られていました。

 

「あら」

 

 ごと、ごとごと、ごとん。

 大きな音を立てて崩れていく壁。

 そしてその先にはやはり、きりん君を抱えたせいりゅー様がいたのでした。

 

「うーん、見つかっちゃいましたかー、行けると思ったんですが」

 

「──」

 

「あ。香桜さん。韴霊は見つかりましたか? その中にあるんですかね?」

 

「……」

 

「あれあれ。香桜さん何であちゃー、みたいな顔してるんですか? もしかして……無かった感じですか? えぇー……となるとまた振り出しじゃないですか。困りましたねー」

 

「……呆れて物も言えないだけさ」

 

「ん、どういうことですか?」

 

「……()()()

 

 能天気に香桜に話しかけるせいりゅー様。

 そんなせいりゅー様を見てしばらく動けなくなっていた実門でしたが……ぽつり、と呟きました。

 

「ねえ。キミ、誰? もしかしてキミが青龍? この塔に忍び込んだのが、キミ? そうだよね?」

 

「えぇーと……」

 

「あははは、そっか! そっかそっか! 確かにキミなら青龍って名乗ってもいいね! うわ、うわ、うわああ! すごい、すごい、すごい、すごい! キミみたいな子がいたなんて! 何で早く言ってくれなかったんだよ!? あはははは! あはははははは!」

 

「香桜さん、この人怖いです」

 

「……アタシに言わないでくれ」

 

 大剣豪の勘というものなのでしょうか。

 ひと目見ただけで何かが分かった実門は、目を爛々(らんらん)と輝かせ、その場で踊りだしそうなくらいに狂気の笑みを見せます。

 

「あぁ、嬉しい。僕は青紫実門っていうんだ」

 

「そうですか。私はせいりゅーです。こっちはきりん君」

 

「……ん」

 

「そっか、青龍ね。よーく覚えたよ。きっと、これからも忘れることはないと思う」

 

 実門は背中の三方のうちの、一刀。

 刃紋の美しい、まるで三日月のように反った刀を抜き放つのでした。

 

「じゃあ──僕と仕合おうよ」

 

 薄暗い廊下。

 ろうそくの炎が彼の顔と、刀を照らしていました。

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