おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第34話「強え奴には義務がある。」

 それは昔。

 弁慶がまだまだ子どもだった歳の頃の話です。

 

 家なき子だった弁慶は、物心付く前に恩智に拾われ。

 恩智の歪んだ環境で育った、と()()()()()()()

 当時、弁慶に名はなく。

 主に『犬』としか呼ばれていませんでした。

 

『──おらァ! 立てッ、立てこの犬っころが!』

 

『がぁッ!?』

 

『この程度でへばってんじゃねえ! テメェそれでも恩智か!?』

 

 まだ成人の儀を迎えていない弁慶は、毎日門下生達に折檻を受けていました。

 狼の亜人である彼。

 その立派な体格に恵まれ、めきめきと剣術と暴力を覚えていきましたが、そんな彼を気に入らない人は多数存在しました。

 存在そのものを疎まれた彼に対して、他の門下生は容赦がなく。

 弁慶はことあるごとに理不尽にさらされていました。

 お陰で生傷は絶えることなく、時に屈辱的な真似をさせられたことも何度もあります。

 

 元より、阿妻では亜人はありふれているものの、恩智では排斥の対象です。

 当主である出吟が、大の亜人嫌いだからです。

 なのに弁慶が恩智に入れた理由は……門下生の()()()()のためでした。

 恩智のモットーはまさしく『弱肉強食』。

 その生き様を心刻みこむために、あえてイジメの対象を作り。

 弱きを(くじ)き、強きを目指す兵士達を作る狙いがあったのです。

 

 ──しかし弁慶は違いました。

 

 元来の性根なのか、彼はどんな事をされても、決して文句を言いませんでした。

 

 どんな酷い罵倒を受けても。

 どんな酷いイジメを受けても。

 決して不平は言わず、じっと耐え続け。

 忍耐とともに、その刺すような黒い瞳で、睨み返すだけでした。

 他の門下生は、それが何よりも気に入りませんでした。

 

 態度で反抗する彼を見てますます怒る門下生達は、ますますヒートアップ。

 さらに容赦のないイジメが始まります。

 毎日、複数人で木刀を使って殴る、蹴るを繰り返す門下生。

 教官は見てみぬフリをし、決して弁慶の味方はせず。

 稽古の範疇であっても弁慶の反撃は一切許されませんでした。

 

 そんながんじがらめで、睨むしか出来ない態度を見て彼らは弁慶をこう罵倒します。

 野良犬、すくたれもの、尻小姓、去勢された犬……などなど。

 聞くに耐えない罵詈雑言の数々を受け、それでもじっと耐え続けていた弁慶。

 そんな彼に転記が訪れたのは成人を迎える、15歳の時でした。

 

『よぉ、野良犬。今日は成人の儀だ……分かるよな?』

 

 イジメの主犯格である、気の強そうな少年が凄みます。

 取り巻きもニヤニヤと笑っており、自分たちの儀式の成功を確信しています。

 

『あーあ、いいよなぁ○×△。俺もコイツと仕合たかったぜ』

 

『おめかしして来いよワンコちゃん? 最初で最後のお前の晴れ場になるだろうからな』

 

『……』

 

 阿妻における成人の儀。

 それは真剣を用いた仕合で、生き残ることをさします。

 お互いに合意のもとで行われるその儀式は、相手は誰でもいいのですが、見つからなければ罪人があてがわれます。

 仕合は、双方が納得の上で勝敗を決めることになり。

 必ずではありませんが、どちらかが死ぬ可能性は低くはありません。

 

「……」

 

 断ればいいものを、弁慶は仕合を承諾。

 周りは失笑し、とうとうあの犬ともおさらばか、せいぜいするぜ、なんて口々に言い、

 とうとう命を賭けたその時が訪れますが──、

 

「──そ、そこまでええええェッ!」

 

 仕合は、一撃でした。

 いつもの癖で、少年が弁慶を痛めつけようとしたところ、弁慶は流れるように相手の剣を跳ね飛ばし……そして、返す刀で胴体を叩き切っていました。

 

 少年は自分が敗北したことを信じられず、

 そして体が泣き別れた激痛と、現実に血泡を吹いて泣きわめきます。

 

「な、なんで、なんでへええぇえぇえ」

 

「……せえ」

 

「へぁ……お、おまえ、おまえええええええ」

 

「うるせえ。黙って死ね」

 

 弁慶は死にゆく少年の首に刃を添え、いとも簡単に彼の命を絶ったのでした。

 

 それは無抵抗だった彼の最初の復讐でした。

 弱者と侮り、虐げ続けてきた彼らと違い、弁慶はここまで牙を研ぎ続けていた。

 この雌伏の時を……ずっと、待っていたのです。

 彼の瞳が、その惨状を唖然として見ていた同僚達をなぞると、その日を境に、弁慶をいじめる存在はいなくなったのでした。

 

『──おう。お前が、例の野良犬か? 大層腕が立つと聞いたぜ』

 

 成人の儀で、相手を一撃で死に至らしめた凄腕がいる。

 その日のうちに、恩智中に噂が広がった結果、

 弁慶は、狡怒の元に呼びつけられることになります。

 

『……』

 

 狡怒は光量の少ない畳の部屋で煙管をふかしていました。

 

『まあそう警戒すんな。別に取ってくったりはしねえよ。……まあ、ウチの親父殿はテメェを殺したがってるかもしれねえが、別に俺ぁお前を殺す理由はねえ』

 

 とん、と煙管から灰を落とす何気ない所作にも、威圧感があり。

 唖涯は、まるで剣先を突き付けられているような感じが拭えませんでした。

 

『亜人も人間も、どっちも手と足と頭と目と鼻と口がある。なら何も変わらねえ。だろ? 大事なのは()()()()()使えるか、使えないか……だ。言ってる意味は分かるな?』

 

『……』

 

『おーおー、何だその目は? 雇い主様に向ける目じゃないぞ? ……まあ、すぐに媚びへつらって尻尾振る奴よりかは嫌いじゃねえけどなぁ』

 

 そういうと、傍らに置いてあった刀を、弁慶に投げつけます。

 それは見覚えのある、嫌な刀でした。

 

『……っ』

 

『お前が殺した馬鹿の刀だ。持っていけ』

 

『……二刀流は、まだできない』

 

『あ? 馬鹿かお前。誰が二刀になれっつった? お前が殺したからお前のものになった。それだけだ。使うのも売るのも、捨てるのも勝手だ。好きにしろ』

 

『……』

 

『教えただろう? この世は所詮弱肉強食だ。弱えやつは何も出来ず、強えやつは何でも出来る。お前は今、ようやく強えヤツに一歩近づいたんだ。よかったなぁ』

 

 彼はおもむろに立ち上がります。

 座っているだけでも威圧感があった狡怒。

 至近距離で立たれるとその重圧は倍になり、さしもの弁慶も冷や汗を流します。

 

『だが……お前の心構えは全然なってねえ』

 

『?! が、はあぁッ!?』

 

 そして、急に鳩尾を膝で蹴ったと思えば、続けて下がった頭に向けて強烈なパンチをくらい、弁慶はそのまま壁に叩きつけられます。

 

『いいか小僧。強え奴には義務がある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()義務だ。お前みてえに腕っぷしはあるのにボーッと突っ立ってるだけのやつを見ると、イライラして仕方がねえ……強ぇ奴だけが生き残る世界で、お前は座して眺めてるだけか? ちげえだろ?』

 

『……ッ』

 

 動けなくなった弁慶を、狡怒が無理やり起こし、そして伝えます。

 

『奪え。弱いやつから奪え。とことん奪え。奪って。殺して。攫って、晒して。この世に刻んでやれ。お前が強いってことを知らしめてみろ。そしたら俺のように我儘を押し通せるようになる』

 

『まずは俺のもとでお前の強さを証明してみろ。犬っころ』

 

 狂気を孕んだ目で笑う狡怒。

 その時、弁慶がどう思ったのかは分かりません。

 しかしその日から弁慶は狡怒のもとで、働き。

 狡怒が命じるがままに、弱者から奪い続けたのです。

 

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