おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第37話「阿妻魂見せてやるぞッ!」

 

 ──それから弁慶と喜代子は、仲睦まじい日々を過ごしました。

 

 方や恩智の雇われ侍。

 方や売れない団子屋。

 

 接点の少ない二人ではありますが、その相性は良かったようです。

 気付けば弁慶は、仕事の合間を縫って足繁く団子屋に通い。

 喜代子もまた、弁慶のために団子を用意して毎日待っていました。

 

 そんな二人を、周りは奇異の目で見ていました。

 特に弁慶の評判は悪いってもんじゃありません。

 あの団子屋、目をつけられて可哀想に、とか。

 強請られて、金目の物を奪われてるんだ、とか。

 近々恩智に連れてかれんだ、とかなんとか。

 散々な噂が広まると、親切な町人は喜代子のために忠告をしたり、時に弁慶から遠ざけようとする人も出てきます。

 しかし他ならぬ喜代子がソレを拒み、否定し、気にせず二人の時間を過ごします。

 これには周りも首を傾げるしかありません。

 

 まあ、そんな日々が続くとと二人の距離も近づくもので。

 お互いの時間を共有しあいたくなった二人は、自然と体を重ね。

 やがて可愛い女の子を授かります。

 それこそがお静でした。

 

 二人は大いに喜びますが、身重になると団子を焼くのに支障が出るのは当然です。

 喜代子は気にせず団子を焼こうとするので慌てて弁慶が止め。

 代わりに弁慶が団子焼きに挑戦することになります。

 そして弁慶の失敗っぷりに喜代子に笑われたり。

 喜代子監督の上でみっちり団子修行をしたり。

 そして、授かった子どもを見て涙を流したり。

 また初めての子育てに戸惑い、憔悴したり。

 それでも三人で団子でいる日々を、愛しく思い続ける。

 そんな日々を過ごしていました。

 

『……貴方』

 

『何だ、喜代子』

 

『私ね、今すごく幸せです』

 

『……そうか』

 

『こんなに素敵な子も授かれるて……まさかこんな日が来るとは思ってなかったわ』

 

『……俺みたいな、恩智の子どもでもか?』

 

『貴方だからこそ。私はこんなに幸せなのですよ』

 

『……』

 

『ふふ。ほら貴方、見て。お静が笑ってる。この子もおとっつぁんが良いって言ってるのよ』

 

『……どうだろうな』

 

『私達のお団子を食べたら、どんな感想を言ってくれるかしらね』

 

『うまい、しかないだろう』

 

『どうかしら。結構口うるさいかもしれないわよ』

 

『……ならそれまでに腕を磨かなけりゃな』

 

『えぇ……この子が美味しいって言ってくれるように』

 

『……』

 

『……ねえ貴方。私、多くは望みません。剣が強くなくてもいい。貧乏のままでもいい。ただ……これからも二人で……いいえ、三人で幸せに過ごしたいです──』

 

 

 喜代子の手が、優しく弁慶の頬に伸び。

 赤ん坊が、キャッキャッと笑うのを見て、弁慶もまた微笑み──

 

 

「……──い、おい弁慶ッ! 弁慶ッ!!」

「しっかりしろ弁慶ッ! 寝るな、寝るんじゃねえッ」

 

 ──そこで意識が、現実に戻ってきます。

 

 頬を容赦なく叩くのは、喜代子ではなく角。

 おぼろげに見えた視界は確かに団子屋でしたが、喜代子はどこにもおらず。

 代わりに、角と助が弁慶の顔を覗き込んで必死に叫んでいました。

 

「畜生、医者はまだこねえのか!」

 

「お静ちゃんが呼びにいったんだろ!? それにしちゃぁ遅い……! 何やってるんだ一体……!」

 

(お静……?)

 

 ピクッ、と耳を反応させた弁慶。

 全身を覆う強い気だるさに、襲われながら全神経を会話に集中させます。

 

「……お、お静ちゃん……まさか……」

 

「霧!? お、おいどこへ行くつもりだ!?」

 

「もしかしたら、お静ちゃんが、さ、攫われたのかも……!」

 

「はぁ!?」「どういう事だ!」

 

「恩智の人も青紫の人もあたい達を狙ってたんです……! あたい達、青龍さんって人と一緒にいたから、多分……!」

 

「──ッッ?!」

 

「べ、弁慶!」

 

 それを聞いて即座に体を起こす弁慶。

 顔色は悪く、全身は冷や汗を流して震えていますが、そんなの知ったことではないと、荒い息をつきながらギョロリと外を睨みつけます。

 

「おい、まだ寝ていろ弁慶! 動くんじゃねえ!」

 

「そうだぜ……!! 弁慶、お前の怪我は……!」

 

「ッッ、角……! 一度しか言わねえぞ……テメェの刀を、焼き場で炙って、持ってこい……!」

 

「!? おい弁──」

 

「早くしねえかァッ!!」

 

 怒号をあげた弁慶に、角はぐ、と口を噛み締め。

 脇差を抜くと、餅を焼くための焼き場でその刃を炙り始めます。

 ざわざわ、と見守っていた周りの町人達がどよめきます。

 

「助……ッ、酒だッ!!」

 

「……クソッ、見てらんねえよ」

 

 助は、これから何をするのかが分かっているのでしょう。

 急ぎ調理場にあった酒をひったくると、腹に刻まれた深い傷口にぶっかけていきます。

 激痛でしょうに、弁慶は顔を顰めるだけ。

 そこに、刀を炙り終えた角が、赤くなった脇差を持ってきます。

 

「……準備はいいか?」

 

「ふーッ、ふーッ、さっさと、や──グッ、う、ぐうぅぅうぅッ!?!?!?」

 

 じゅぅぅぅ、と肉の焼ける音と共に、広がる悪臭。

 そのあまりの光景に、誰もか顔を背けます。

 弁慶は仰け反り、歯が割れんばかりに噛みしめながらも、その荒療治を耐えていきます。

 

「……ひでえ」

「お、おい、大丈夫か弁慶!?」

 

「ッはぁ! はァッ、ハァッ……! ッ、食い物、食い物をよこせッ」

 

 悶えながらも、角達を睨みつける弁慶。

 もう止めることも出来ないと判断した二人は、周りから食べ物を集め、握り飯や、漬物、酒、干し肉を用意。

 弁慶は失った血を補うかのように死に物狂いで口に運び、次々と胃に収めてきます。

 その鬼気迫る様子に誰も止められることはなく。

 やがて、食い終えた弁慶は、畳に拳を叩きつけると、ふらふら立ち上がります。

 

「ッ、弁慶」

 

「今更……止めんじゃねえよ。角」

 

「だが、そんな深手で……! それに、まだ攫われたと決まった訳じゃねえだろ!」

 

「……」

 

「おい……!」

 

「……ウチの娘が、約束を違える訳がねえんだ。何かあったに違いねえ。そんな中、のうのうと寝てるなんて真似ぁ、俺には出来ねえ……」

 

 弁慶は腹を抑えながら外に出ようとします。

 

「……俺ぁどうなってもいい。どの道、地獄に落ちる運命だ。だがな。アイツは……お静は違え。そうだろう? アイツだけは、アイツだけは助けなきゃならねえんだ……ッ!!」

 

 魂を揺さぶるほどの激情。

 その鬼気迫る声に、誰もが口をつぐんだかと思えば……やがて、角と、助は、弁慶の隣に並び立って団子屋の外を目指します。

 

「……おい角」

 

「うるせえな助、分かってる……旦那いくぞ」

 

「──……?」

 

「俺等も行くってんだよ。お静ちゃんを助けにな」

 

「おうよ。この角屋の角の剣さばき、目にもの見せてやるってんだ」

 

 腰の刀を鳴らした二人に、弁慶が目を見開きます。

 

「……これは俺の問題だ。お前らが出しゃばってくんじゃねえ」

 

「出しゃばるだぁ? 俺らは何もお前さんのために剣を振るうんじゃねえよ」

 

「おうとも、お静ちゃんのためにさ。オイラ達は毎日お静ちゃんの顔見るためにココ来てるんだぜ? だーれが好き好んでお前さんの団子なんて食うもんかい!」

 

「……野菜と魚相手しかしてねえテメェらが、何を言いやがる」

 

「馬鹿野郎! 俺の野菜捌きがありゃ、恩智の侍なんざ屁でもねえぜ!」

 

「おうともさ、人間もエラがねえだけでほぼ魚と同じだ。なら訳もねえってことよ!」

 

 二人は負けじと食ってかかっていくと、霧もまた声をあげます。

 

「あの、ならあたいの所に寄って行ってください! 弁慶さんの刀なら用意できます!」

 

「お霧……」

 

「あたいは、刀の腕前は駄目駄目ですが……刀を作りなら自信はあります。お静ちゃんの為に、あたいの力を役立たせてください……!」

 

 ソレを見ていた客も、次々に立ち上がります。

 

「おうおうおう! 楽しそうな話じゃねえか! 俺も混ぜなッ!」

 

「吉住爺さん!? また腰いわさねえだろうな!?」

 

「馬鹿にすんじゃねえ! まだまだ現役だわ!」

 

 大工の棟梁である、小柄なお爺さんがエントリーです。

 ねじり鉢巻に青の波模様の半被を来た彼の獲物は……鍔のない刀、ドスです。

 

「アタイも混ぜてくれるんだろうね!?」

 

「美鈴ねえさん!? また捌きを見せてくれるのか!?」

 

「久々に体を動かしたくなったからねぇ!」

 

 続けて呉服屋の女主人、恰幅のよい妙齢の女性がエントリーです。

 祭りということで紫陽花が彩られた着物を来た彼女の獲物は、薙刀です。

 

「水くせえ。言ってくれりゃ俺だって行くさ!」

 

「傘屋の羽場巻!? お前も来てくれるか!」

 

「へへっ、旦那にはいつも世話になってますからね……」

 

「スリの銀次!?」

 

「やれやれ。次来たら団子をたらふく食べさせて貰いますからね?」

 

「スケコマシの花助!」

 

 と、客達が我先に立ち上がり、協力すると言い出します。

 これには弁慶は困惑が隠せません。

 

「……お前らあの恩智と青紫に楯突くんだぞ? 分かってるのか?」

 

「なーにいってやがんだ。お前さんもそうだろ?」

「そうだそうだ!」

「恩智も青紫も天狗になってやがるからな。あの鼻、折ってやりてえと思ってたんだよ!」

 

「……知らねえからな」

 

 阿妻の民は義理堅く、そしてお祭り好き。

 それが如実に現れた瞬間でした。

 決意が硬いと知った弁慶は、何も言わずに店を出てせいりゅー達を追い始めました。

 

 

「よーしお前ら、旦那に続け続けェ!」

「阿妻魂見せてやるぞッ!」

 

「「「「「雄々ーーーーッッ!!!!」」」」

 

 

こうしてせいりゅー様達の登場という一石は、より大きな波に変わり。

 

阿妻を揺るがす、大きな騒動へと知らず知らずのうちに変わっていくのでした。

 

 

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