おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第38話「せいぜい俺を楽しませろよォ?」

「……蒼天の塔に、か」

 

「えぇ。流石にそれ以上は私も踏み入ることはできず」

 

 恩智のお屋敷。

 その奥で、安謝と狩魔、そして狡怒3人が机を囲んで座していました。

 

「結局、奴は見つからなかったのか?」

 

「残念ながら姿形もなく。ただ、これは私の見立てにはなりますが……青龍神社にいたあの女性は、青龍に何か関係がある人物なのは間違いないかと」

 

「……チッ」

 

 安謝の言い分に、つまらなそうに舌打ちする狡怒。

 狡怒の弟である狩魔は苦笑し、兄をなだめるように言います。

 

「まだ『青龍』が見つかった訳ではない。大事なのはどこがこの事件の幕引きを行うか。そうでしょう?」

 

「……」

 

「確かに塔には手が出せないが、我々にやれることはあります。まずは……そうですね。塔の監視かな。もし青龍がその女性の身内で、助けに行こうとするなら必ず蒼天の塔に向かう。そこを捕まえるのも手でしょう」

 

「……だが、奴は使い手だぞ?」

 

「青紫とやり合い、疲弊したところを狙います。報告を聞く限り青龍というのは自分の剣に相当自信があるのか喧嘩っ早く、短絡的だ。そうだろう安謝?」

 

「おっしゃる通りかと。奴は剣に拘り、剣のみを追い求める修羅。隙あらば剣を交えるでしょう」

 

 太い指先で顎を撫でる狡怒。

 そこに安謝が連ねます。

 

「ですが……そのような手段を取るよりかは、やはり人質を取った方が確実かと思います」

 

「……そうなるか」

 

「はい。奴は剣狂いではありますが、身内に甘いきらいがあります。団子屋の娘、刀装具屋の娘、そして唖涯もいい餌になるでしょう」

 

「唖涯が?」

 

「なると思いますよ。報告したと思いますが、奴は唖涯を背後から操り、私と仕合をし……そして唖涯すらわざわざ無傷で切り抜けましたから」

 

「フン、馬鹿と(ハサミ)は使いようとは言うがな」

 

「そういえば、その三人は今どうなったんだ?」

 

「唖涯の馬鹿には娘を攫うように()()()。今頃躍起になって探している筈だ」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らす狡怒。

 しかしながら彼が気に入らないのは、折檻した時の唖涯の態度です。

 

 何があったか知りませんが急に日和だした彼を、狡怒は気に入りませんでした。

 青龍をここに連れてくるとは言っていましたが、本当にやれるかどうか微妙ですし。

 なんだったらお静を連れて来れるかが懐疑的です。

 

 黒三連、いずれ始末しないとなぁ。

 狡怒はそう考えます。

 彼は逆らう者は徹底的に叩き潰す、徹底主義でもあるのでした。

 

「人質を使っておびき寄せられるのはいいが、その後をどうするか……まあ殺すのが妥当でしょうが、私はその女をウチに迎えてもよいと思っています」

 

「……」

 

「恩智の発展に剣豪は必須です。奴は安謝も認める剣士。どうにかウチで囲えませんか」

 

「……」

 

「兄さん」

 

「……それができりゃ苦労はしねえ。青紫と真っ向対立する力は、まだウチにはない。いいか。これは弱腰になってる訳じゃねえぞ、事実を言っている。ウチの構成員はそれなりに増えてきたが、所詮が有象無象。いくら数で圧倒しようと青紫の剣狂い達には焼け石に水だ」

 

「それは……分かっています。ですが、つい最近青紫の剣士が一人倒れたとのこと。ならば今奴がいれば青紫に対抗も──」

 

「おい狩魔」

 

 狡怒が、その鋭い眼光で射抜きます。

 

「夢を見るのは勝手だがな、まず現実を見て物を言え。たらればで物申すんならそれなりの根拠を持ってこい」

 

「……はい」

 

 しょげる狩魔を見て、狡怒は鼻を鳴らします。

 ……が、その後彼の頭にぽんと叩きます。

 

「まあ……青龍とやらの動き次第だな。俺の見立てじゃあ塔で何かが起きると見た。例えば、謎の女を取り戻そうと塔にカチ込むとかな。それで更に青紫の戦力が削れたんなら考えなくはねえ」

 

「兄さん……」

 

 普段の狡怒からは考えられない、優しい対応。

 実は狡怒が唯一溺愛するのが、血を分けた弟である狩魔なのでした。

 狩魔は技量には恵まれませんが、代わりに洞察力と先見性に優れており。

 恩智の発展に狩魔の力は欠かせませんでした。

 時に先走って失敗することもありますが、愛嬌のうち。

 兄さん、兄さんと尊敬の目を向けて慕ってくるのも相まって、狡怒はついつい甘くしてしまうのでした。

 安謝はその優しさを他の部下にも分け与えられればなぁ、と思いながらも、何も言わずにそれを見ていました。

 

 その時です。

 

 静かに襖が開けられると、部下の一人があらわれました。

 どうやら報告があるようですね。

 

「……。……そうか。分かった。狡怒様、狩魔様、団子屋の娘を捕まえたそうです」

 

「ほう」

 

「僥倖ですね」

 

「それと……なぜか唖涯まで捕まえたとか」

 

「あぁ?」

 

「理由は分かりませんが……何かしでかしたとか」

 

 途端に下から聞こえてくる若い女性のうめき声。

 三人がやにわに階下を目指すと、土間には猿ぐつわを噛まされた団子屋の娘、お静。

 そして彼女を抑える柊真と手鹿織と。

 その足元で縛られて横たわる唖涯の姿がありました。

 

「大親父殿、命令通り連れてきました!」

 

「団子屋の娘です!」

 

 媚びた笑みを見せる二人を無視して、狡怒がお静を見ます。

 お静は二人の腕の中で必死になってもがき、こちらを睨みつけながら()()()()!と何事か叫んでいます。

 聞こえませんが、おおよそ好意的な内容は話してないでしょう。

 

「これがあの弁慶の娘?」

 

「間違いないかと。青龍が攫った娘と同じでした」

 

 興味深そうに狩魔が観察し、安謝が保証すると、ようやく狡怒が口を開きます。

 

「そこに転がってるのは何をしやがったんだ?」

 

「あぁ、それなんですが」

 

「兄弟……いや、最早兄弟でもねえか。コイツは事もあろうか、この娘っ子を逃がさないか、なんて言い出しやがったんですよ!」

 

「何をたぶらかされたか知らねえが、腑抜けちまったもんだぜ」

 

 気絶した唖涯を、まるで汚物を見るような目で見る二人。

 まるで赤の他人だと言わんばかりに蹴りまで入れる柊真達を、狡怒はじっと観察します。

 しばらく観察をすると……不意に破顔しました。

 

「中々やるじゃねえか。柊真、手鹿織。汚名を(そそ)いだな」

 

「……ッ! は、ハイッ!」

 

「さすがは恩智の黒三連……いや、()()()だな。少しは見直したぜ? これならもっと使ってやってもいいかもしれねえなぁ」

 

「勿体ねえ言葉です……ッ」

「ありがとうございますッ!」

 

「おう。俺ぁな、使える奴には報いる男なんだ。おい、コイツらに金を包んでやれ」

 

「ま、マジすかッ!?」

「うおおおおッ、大親父殿ッ、一生ついていきますぜッ」

 

「これからも頼りにしてるぜ。次の仕事まで下がってろ」

 

 直立不動で大きく返事をした二人は、部下から金品を受け取ると喜色満面!

 何に使うか二人で盛り上がりながら下がっていきました。

 

 ……そして二人が視界から消えた後。

 狩魔が狡怒に伺います。

 

「……捕らえますか?」

 

「必要ねえ。所詮は権力に尻尾を振るただの駄犬。義すら忘れて簡単に(くら)替えするような阿呆は俺の恩智には不要だ。──……オイ」

 

 狡怒は他の部下に耳打ちすると、すぐに数名の侍が慌ただしく外へと向かっていきました。

 行き先は……間違いないでしょうね。

 そして彼は転がった唖涯の元へと進むと、彼の頭を踏みつけます。

 

「哀れだなぁ? 唖涯。兄弟分に裏切られるなんて、どんな気分だ?」

 

 ごり……っ。

 頭を足蹴にする彼の表情は、嗜虐的な笑みでした。

 心底憐れんだ口調。

 それでいて、とても嬉しそうに見下します。

 

「しかしな、俺ぁお前のことが嫌いじゃないぜ? ボコられてもなお俺に楯突く性根は気に入ってる。何で俺を裏切りたくなったか知らねえが……その理由を知った上で、捻じ伏せ、屈服して、ぐちゃぐちゃにして、殺してやるからな」

 

 荒い吐息。

 狂気に濡れた瞳は血走り。

 彼の衣服の一部が隆起していました。

 

「簡単には殺さねえ……せいぜい俺を楽しませろよォ?」

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