おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第39話「大事にしすぎだ」

「テメェ連峯……何ずけずけと天下の往来を歩いてやがる?」

 

「それはこっちの台詞だ。恩智。めでたい祭りの日に貴様達を見るとは、虫唾が走るとはこのことだ」

 

「んだと?」

 

「やるのか?」

 

 阿妻の大通りで、2つの陣営がにらみ合いをしていました。

 

 方や赤半被の柄の悪い恩智。

 方や青い制服が凛々しい連峯。

 

 祭りのまっただ中、数十名がぶつかりあっており、

 民衆は不安そうにそれを眺めています。

 彼らの目的はもちろん『青龍』捜索。

 阿妻の全土に広がって、どこだどこだと捜索中なのです。

 

 すでに事件が起こってから半日が経っている現状。

 阿妻の名家達は青龍探しに躍起になっています。

 そのため、至るところで家同士の衝突が起こっている始末。

 これには市民達も不安を隠せません。

 

「青龍はテメェらじゃあ見つけられねえよ」

 

「ほう。なら貴様らなら見つけられると? よく言う」

 

「少なくともろくな情報もねえ貴様達より可能性は高いだろうよ」

 

「ああ。ああ。そうかもしれないなぁ。なにせ、私達が聞いたのは貴様らが蒼天の塔で見失ったことと、青紫に喧嘩を吹っかけて返り討ちにされたこと程度だからなぁ」

 

「……」

 

「苦労が耐えないようだな恩智。引いた方が良いのではないか?」

 

「……よく回る口だな、ええ、オイ?」

 

 すらり。

 恩智の侍が刀を抜くと、連峯もまた刀を抜き始め、周りにどよめきが広がります。

 まさしく一触即発の光景!

 あたりが血にまみれる未来を誰もが予想した、その時でした。

 どこからともなく飛んできた桶が、恩智の侍に向かっていったのは。

 

「あがッ!?」

 

 かぽーんっ。

 いい音を立てて頭部に直撃したソレは、男を一撃で気絶せしめ。

 連峯の男が思わず驚いていると、更に石や、樽、そして木板などが恩智にだけ降り注ぎ。

 そして、遅れて民衆が次々と彼らに襲いかかっていきました。

 

「恩智テメェ見つけたぞッ」

「覚悟しやがれえッ!」

「お静ちゃんを返しやがれこの野郎ッ!!」

「キエエエエエエッ──!!」

 

「!?」

「お、おいお前らなにも──ぐああッ!?」

「いだっ、いでっ、いででででッ!?」

「何なんだッ、なんなんだよぉっ!」

 

 それは、どこの陣営でもないただの一般市民達でした。

 大工、八百屋、飛脚、着物屋と、多種多様な男女達が恩智を取り囲み、有無を言わさずボコっていきます。

 これには連峯含め、みんな()()()()です。

 誰もが剣を抜いてはいるものの、殺す気はないのか、峰で全身ボッコボコ。

 恩智達は立ちどころに無力化されてしまうのでした。

 

「……お、おい。お前たちは……なんだ?」

 

「あ゛ぁ゛ッ!? ……なんだ連峯のお侍さんか。すっこんでな」

 

 ねじり鉢巻をした大工のお爺さん──ドスを片手に、恩智をボコボコにしている──に、連峯は恐る恐る尋ねます。

 

「そういう訳にはいかない。治安維持も我々の職務のひとつだ」

 

「そうかよ。ありがたくって涙がでらぁ。──おいッ、テメェ起きろッ」

 

「ひぃッ!?」

 

 大工の男は気にせず恩智を責め立てようとするので、連峯は思わず肩を掴んでいました。

 

「おい貴様ッ、やめろッ!」

 

「邪魔すんじゃねえ! テメェらの大ッ嫌えな恩智をボコってるだけじゃねえか。何が悪いってんだ!?」

 

「少なくとも許可のない暴力沙汰は悪だ! せめて理由を言え!」

 

「理由だと? 恩智のボケ共に一般市民が攫われたんだよ、これでいいか!?」

 

「……それは本当か?」

 

「嘘ならこんな大それた事しねえよ」

 

 衝撃の発言に動揺する連峰。

 しかし男は決められた手順通りに対処しようと動きます。

 

「なら我々が後は引き継ぐ。だからこの場は引け。そうすれば──」

 

「──テメェらはいつもそうだよなぁ。毎回毎回、訳知り顔で首突っ込んで、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して後は放置。何も役に立ってねえじゃねえかよ、えぇ!?」

 

 大工は唐突に激昂し、今度は連峯に食ってかかります。

 

「お前らは何もしねえ! やれ相手が恩智となると、やれ家の問題だ~やら、やれ個人の問題だ~やらで怖気づくばっかじゃねえか! だから俺等が動いてるんでい!」

 

「なッ、無礼な! 我々が臆してるだと!?」

 

「これが臆してねえように見えるか!? テメェらが見過ごしてきた悪事がどれだけあると思ってる!? っていうかなぁ、みーんな知ってんだよ! テメーら連峯も隠れて好き放題してるくらいはよぉッ!」

 

「貴様ぁ、連峯の名を汚すつもりか!」

 

「なーにが名誉だよ、このスットコドッコイ! てめぇら連峯も、恩智も、静悪も巨神も、ぜんぶ、ぜーんぶ腕が立つだけの野蛮人どもだ! そうだろう!?」

 

 大人しく見守っていた市民たちも、そうだそうだ! と抗議。

 その輪はどんどん広がり、連峯はたじたじになります。

 

 しかし彼らにもプライドがあったのでしょう。

 黙らせようと、とうとうその切っ先を大工に向けます。

 

「もう我慢ならん。貴様らは一線を超えた…ッ、刀の錆にな……あぎゃッ!?」

 

 途端、名も知らぬ市民が彼を木の板でぶっ叩いていました。

 

「なっ。お前ら!」

「連峯に逆らうつもり……あだっ、がっ!」

「やめろ、やめろーッ」

 

「やっちまえ!」「お、俺もやるぞ俺も!」

「前からテメェらのことが気に入らなかったんだよ!」

「祭りだ祭りだァッ!」

 

 大工の言と、祭りの喧騒にあてられたのでしょうか。

 元々喧嘩っぱやかった阿妻の民は、権力なぞ知ったことかと大暴れ!

 気付けば次々と市民たちが武器を手に連峯ごと侍達ボコボコにしてゆきます。

 

「それでこそ阿妻の民だぜー! はーっはっは!」

 

 大工の爺ちゃんが満足そうに頷くと、後からやってきた男が彼に話しかけます。

 

「……一体どうなってやがる?」

 

「おう。正義の怒りが爆発したところさ」

 

 弁慶です。

 全身を包帯でぐるぐる巻きにした彼は、角と助に肩を借りた形で現れ。

 眼前に広がる乱闘に目をしばたいていました。

 

「……大事(おおごと)にしすぎだ」

 

「お前さんがこれからするのも大事だろうが」

 

「そうだぜ。それにみんな我慢していたんだ。遅かれ早かれこうなってたぜ。今日爆発するか明日爆発するか、ただそれだけの話だってんだ」

 

 角と助が突っ込むと黙りこくる弁慶。

 やがて彼は()()()()恩智に視線をやると、気付いた協力者達が、男を弁慶の元まで引き連れました。

 

「オイ、起きろ!」

 

「……う、うぅ……て、てめぇらこんな真似して……ただじゃ──ヒッ!?」

 

 顔を腫らした男が目を開けると、強面の狼顔。

 馴染のありすぎるその顔に、さしもの恩智もビビりまくりです。

 

「……俺の事は知ってるか?」

 

「はは、はひ……! べ、弁慶……さん……!」

 

「そうか。なら話は早い。俺も手荒な真似はしたくはねえからな……さて。お前、俺の娘がどこいったか知らねえか?」

 

 弁慶は、元々鋭かった目を細めます。

 

「……」

 

「娘がな……医者を呼びに出ていったきり、戻ってこねえんだ。だからひょっとしてテメェらが知ってるんじゃねえかと思ってな?」

 

「し、知らねえ」

 

「本当か?」

 

「知らねえ! 本当に知らねえ! 俺ぁ街をずっと巡回してたが、そんな話は聞いたこたねぇ!」

 

 必死に叫ぶ男を、弁慶はじっと見つめていましたが、

 やがて男の首に手刀を叩き込み、再び気絶させました。

 

「本当に恩智じゃねえのか?」

 

「こいつが知らないだけで、他のやつが知ってるのさ」

 

「だが……まだ恩智なのか青紫の仕業なのかは分からねえじゃねえか」

 

「恩智に決まってらぁ! 大方、旦那に嫌がらせしてたのも恩智じゃねえか。それなら!」

 

「……口を動かすんじゃなくて手を動かせ」

 

 弁慶の指示が飛べば、全員で連峯と恩智、1人、1人に聞き込みを行います。

 彼らはほとんど協力的な態度をとってくれませんでした。

 しかし弁慶がお願いすると、途端に素直になるのでした。

 

「駄目だ。全員知らねえか」

 

「隠し通してるんだ。間違いねえ」

 

「テメェはぶん殴りすぎだ。あそこまでやられてウソなんてつくかよ」

 

「ちっ……そうなると、どうすりゃいいもんか」

 

「いっそ恩智の屋敷にカチこむか?」

 

「冗談よせ……って言いたい所だが……」

 

「……旦那は本気のようだな」

 

 角と助が、弁慶を見て頷き合います。

 精力的に侍に詰め寄る彼の気炎は、怪我を負ってますます燃え上がるばかり。

 焦燥が彼を駆り立てるのか、荒っぽく尋問が続いています。

 

「俺等が行った所で、恩智に太刀打ち出来るか?」

 

「怖気づくんじゃねえよ、現に俺らだって恩智の野郎を倒せてんだろ」

 

「そりゃあ不意打ちだったからだ。正面切って戦って勝てる腕前は俺らにはねえだろ!?」

 

「じゃあどうしろってんだ!」

 

「そりゃあ……隠れて潜入するしか……スリの銀次なら出来るんじゃねえか?」

 

 助と角があーでもない、こーでもないと話していると、ズズン、と地響きが彼らを襲います。

 なにが起こったのでしょう?

 誰もが唐突な地震にあたりを見回していると、

 あっ! という声と共に、1人が遠くの方を指差していました。

 

「……あぁ? 塔?」

 

「一体何が……──おい、おいおいおいおい、ウソだろ?!」

 

 その方角にあるのは蒼天の塔。

 そして皆が見ている中で、塔の先端で大きな煙が立ち込め。

 そして、その先端が、今まさに地面に落下していく姿が見えたのでした。

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