おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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メインヒロイン初登場回。


第4話「斬りて斬られて恨みっこなし」

「あの、青龍様に斬られる……とは」

 

「なに。ただの言い伝えみてえなもんだ。まあ平たくいや……罰が当たるってことだな」

 

「それは……何に対してでしょうか?」

 

()()()()()真似してることにだ」

 

「……きりん君。私の格好って、そんなにえっちですか?」

 

「……ううん」

 

「ですよね。というか今思ったんですが……きりん君に『えっち』って言って欲しい感ありますね……もっと見ていいですよ?」

 

「……みない」

 

「おい」

 

 漫才にたまらず突っ込んだお父さん。

 着物の下は素肌ぴっちりの全身レオタードのせいりゅー様の格好は、たしかに見方によっては扇情的かもしれません。

 しかしソレを言うならきりん君もそうです。

 今の彼は、樹海で拾った葉をいい感じに斬って、いい感じに整えた腰蓑(こしみの)のみの原始人スタイル。

 自分よりよっぽどえっちなのでは?

 そう言おうとしたせいりゅー様ですが、ジト目で見られてるので口をつぐみました。

 そんな二人を、娘さんは顔を真赤に染めて、努めて直視を避けています。

 

「ともかく……絡まれたくなけりゃ気をつけるんだな」

 

「気をつけるといってもこの一張羅しかないんですよねー……」

 

「……ふく。いっしょにする?」

 

「葉っぱの服はちょっと……あ。ごちそうさまでした」

 

「……ごちそうさま」

 

「おう。……おい静、おあいそ」

 

「だッ、おとっつぁん。ちょ、ちょっとやめて……! ああ、あんなに堂々と見せつけられて、でで、出来るわけが……っ!」

 

「……きりん君。やっぱり私ってえっちなんでしょうか?」

 

「……しらない」

 

 何だか恥ずかしがって、中々出てこない娘の静さん。

 すると、どかどかという騒がしい足音と共に、何人かが店に入り込んできました。

 お客さんでしょうか?

 

「──おう相変わらずシケた店だな! 形無(かたなし)。いつものだ!」

 

「おらぁ茶と()()()()だ。はやくしろ!」

 

「酒もつけてくれよな!」

 

 それは(いかめ)しい顔立ちの三人の男達でした。

 

 体格は非常に大きく(いわお)のようにゴツゴツ。

 その一方で、服は他の町人に比べてきらびやかで、何だかド派手。

 しかも先頭の男は三振り、他二人は二振の刀を腰にさしていました。

 いわゆる傾奇者(かぶきもの)と呼ばれる、半グレ集団です。

 まるで自分の家のように土足で畳にあがり、横柄に振る舞う彼ら。

 ()()と呼ばれた父親は、先程よりもむすっとした顔で焼きに戻っていきます。

 

「よぉお静、今日も可愛いじゃねえか。お酌してもらえるかい?」

 

「……唖涯(あがい)さん。あの、うちは団子屋ですのでお酒は……」

 

「とかいって前は出してくれたじゃねえかよ。前はあったのに今はないってのか?」

 

「それは! あなた達があまりにもしつこいから……!」

 

「あぁ……? おいら達が何だって言うんだ?」

 

「おれらぁ客だぞ?」

 

「聞き間違いか? しつこいって聞こえた気がしたがなぁ……」

 

「っ」

 

「いいんだぜ。静ちゃん。俺ら黒三連(こくさんれん)は常在戦場。文句があるんなら……仕合ってやっても」

 

「静。……いいから酒を出してやれ」

 

「で、でもおとっつあん!」

 

「静ッ!」

 

 静さんが引き下がると三人組は「そうだそうだ」「お利口さんだ」「親子揃って形無なんざ、なりたくないよなァ!」とゲラゲラと笑います。

 見ていてあまり気持ちのいい光景ではないですね。

 せいりゅー様、うーん、とそれを眺めていたのですが、結局関わるのはよそうと結論づけたようです。

 そそくさとその場を後にしようとして……それは起きました。

 

「──お? お? おおお? なんだァ、コイツ。オイ見ろよ。こんなボロ団子屋に俺らより(かぶ)いてる奴がいるぜ!?」

 

「は? ……ぎゃはッ、マジじゃねえか。おい嬢ちゃん。嬢ちゃん! その格好一体どーしたよ?」

 

「ひーふーみー……なな? 驚いたな、お前さん淫売か? それとも神をも恐れぬ大馬鹿者になりたいってか?!」

 

「……えぇー、私ですか?」

 

 三人の標的は神様二人に移ってしまいました。

 

「丁度いい、お前さんも酌をしろ」

 

「そりゃあいい。まっっずい団子で盛り上がるにも盛り上がれねえからな。それに……」

 

「あぁ。よく見りゃ(ハク)いじゃねえか。なぁ?」

 

「……旦那がた。勘弁してくれ」

 

「うるッッせえぞ形無の犬っころがッ!! おらァそこの嬢ちゃんに言ってるんだ!!」

 

「えーっと、ごめんなさい。お腹も満ちたりたので行こうかと」

 

 きっぱりと断ったせいりゅー様。

 しかしながら三人は諦めません。

 わざわざせいりゅー様ときりん君を取り囲むように席に座りはじめます。

 

「まあまあいいじゃねえかよ。酒もあるぜ?」

 

()()(ボン)の子守なんてほっておけ」

 

「おうよ。俺らと楽しく過ごそうぜ?」

 

「せっかくですが断ります~、それでは~」

 

 面倒臭いなぁと思うせいりゅー様。

 馴れ馴れしく回された手を払いながら、びっくり居合で逃げ出そうと考えたその時でした。

 彼らの一人が、その場で不意に()()()()()()のです。

 

「──いでッ!?」

 

「おッ!? 手鹿織(てがお)、お前なにやってんだ?」

 

「がははは! 独り相撲でもしてんのか!?」

 

 どうやらこの男、不躾(ぶしつけ)なことに、畳に置かれたせいりゅー様の剣を拝借しようとしたようです。

 しかしせいりゅー様、抜かりはないと目にも止まらぬ早業で剣を反対側に移動。

 触れようとした時には音もなく消え、男はスカを食らったのでした。

 馬鹿を見た男がカッと顔を赤くします。

 

「てんッめえ……味なことしやがって!」

 

「はて。何のことでしょうか?」

 

「とぼけんじゃねえよ!」

 

「どうした兄弟?」

 

「どうしたもこうしたもねえ、この嬢ちゃんがオイラを……っ、その……小突きやがった!」

 

「あぁン? それは本当か?」

 

「事実ではないですね。勝手に転んだようです」

 

「白々しい女郎が……オイ、嬢ちゃん。こいつぁちいと大変なことになったぞ?」

 

「はぁ……そーなんですか」

 

 せいりゅー様、もうかなり面倒臭いのか受けごたえが投げやり気味です。

 そんな態度に更にイラだった唖涯(あがい)という男が、目と鼻の先まで顔を近づけて(すご)んできます。

 

恩智(おんじ)を知らんわけもねえだろう……青紫(あおし)に次ぐ名家だぞ? そのお侍に手を上げたんだぜ、お前さん。本来なら打首か、市中引き回しが妥当だ」

 

「ふぅん……そーなんですか」

 

「だが、この兄弟は滅法優しい奴でな。詫びのひとつでもありゃ許してくれるだろうよ」

 

「へぇ……そーなんですか」

 

「詫びは、その刀だ」

 

「ほぉ……そーなんですか」

 

「なーに全部とは言わねえ……そーだな、六振り貰おうか。一振りありゃ十分だろう?」

 

「オイオイ、するってーと俺達とうとう四刀流かよ!?」

 

「唖涯の兄貴なんて五刀流じゃねえか! ガハハハ!」

 

「わぁ……」

 

 勝手に皮算用を初めた彼らに、せいりゅー様はため息を漏らさざるをえません。

 その手には未練がましく持っていたお団子の串。

 それを手元で何気なく、くるくると回しはじめたせいりゅー様。

 未だ下卑(げひ)た笑いを浮かべる男達、その喉元をじっと見つめたところで──、

 

「せいりゅー」

 

 唐突なきりん君の言葉に、ぴくり。

 せいりゅー様は動きを止めたのでした。

 

「えー……ダメですか?」

 

「……だめ」

 

「だって……不敬なんですよ? ナメられてるんですよ?」

 

「……だめ」

 

「迷惑なんですよ? しかも弱いんですよ!?」

 

「……だめ」

 

「ぶー……でも剣は渡せないじゃないですか」

 

「……なかよく」

 

「とは言っても……」

 

「おい。何をブツクサと言ってやがる」

 

 膝上のきりん君をぐりぐりと撫で回しながら悩むせいりゅー様に、更に詰め寄る男達。

 その暑苦しさを鬱陶しく思っていると……せいりゅー様、ぽむ、とその手を叩きました。

 どうやらいいアイディアを思いついたようです。

 

「──剣士出会えば仕合わにゃ損損(そんそん)。斬りて斬られて恨みっこなし」

 

「……あ?」

 

「そうですそうです、貴方がたも剣士じゃないですか……なら仕合ましょう! 私の刀を賭けて!」

 

 急にやる気を出したせいりゅー様。

 満面の笑みを向けられた三人は、得体の知れない寒気を覚えてしまうのでした。

 

 




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