「あはははは──ッ!」
「よ、は、とっ」
雌雄激突す。
しかも空中で。
斬れば斬るほど周囲も切り刻まれてゆく激闘。
一閃がまたしても塔の支柱を巻き添えにすれば、重さに耐えかねて階層ごとぐしゃり。
激しく粉塵が撒き散らされます。
それは二人の視界を瞬く間に
一刀、二刀、三刀、四刀。
彼の持つ様々な刀達が、投げナイフの要領でせいりゅー様を襲います。
せいりゅー様は受けを嫌って回避を選択。
弾丸のように飛来したソレから大きく離れた場所に移動すれば、その着地点めがけて曲刀が突撃していました。
どうやら読んでいたようです。
宙空で体を捻り、回転させてうまいこと直撃を回避したせいりゅー様。
しかしそんなせいりゅー様めがけて、実門は地面に突き刺さってた四刀を巧みに蹴って──シュート!
底冷えするような音を立てて襲ってゆけば、せいりゅー様、二刀を紙一重で避け、二刀を刃で弾きました。
「あちちっ」
びりびりと痺れる感覚にやり辛そうなせいりゅー様。
実門はそれを見て心底楽しげな表情を浮かべると再び疾走。
背中の鉈のような大剣を取り出せば、横薙ぎに振るいます。
──ぎゅりぎゅりぎゃぎゃぎゃぎゃッ。
壁を巻き込んだ一撃は壁材を豆腐のように切り裂いて、怖気のする音と共に振り抜かれます。
そして見えない斬撃と共に、瓦礫の礫が散弾のようにせいりゅー様を襲っていきました。
「わっ」
これはたまらないと空高く跳躍したせいりゅー様。
お返しに空中で刀を振るうと、
間の抜ける音と共に、高速の斬撃が降り注ぎ、実門はかざした刃で歯を食いしばって迎撃。
外した一撃により屋根瓦は面白いように爆ぜて、次々と消滅していきます。
「ちょ、ちょっとぉ!? アタシらはどうすりゃいいんだい!!」
ガーッと抗議の声をあげるのは香桜です。
かろうじてきりん君と避難していた彼女は、屋根の端っこで何とか身を縮こめていましたが、これほど激しい戦闘ではいつ巻き添えを食らってもおかしくありません。
数歩先は地獄直行の広大な空が広がり、頑丈なはずの屋根は今はボロボロ。
少しでも衝撃を加えられれば崩壊してしまいそうです。
「香桜さん飛べたりしませんかー? 先に降りててください」
「無茶言わんでおくれ! アタシはただの人間だよ!」
「うーん。とはいえ手が離せないので……わっ」
──ギッイイイィィィィィンッ!
せいりゅー様のひよこ丸と、実門の日向が激突。
澄んだ金属音と共にせいりゅー様は弾かれ、屋根上を滑りながら香桜の元へ飛ばされます。
痺れにたまらず腕を振っていますが、目立った外傷はないようですね。
「あつつつ~……むむむ、変な感じです」
「……打ち合うだけでも駄目なのかい」
「というより、近くに居るだけで駄目って方が正しいかもです。ちょっと気怠いというか、予測が通じないと言うか」
「ふぅん。これってそんなに効くの?」
粉塵の奥から現れた実門が、くるくると刀を回しています。
「これは神器の一部で作った刀だけど……妖にしか効力がないような気がしたなー。おねーさんって妖?」
「失礼な。妖じゃなくて神様ですー」
「おっと。じゃあキミって本当に阿妻の建国神? あはは、降臨祭に本当に降臨しちゃったんだ! 奇跡ってあるもんだね! ──さながらこれは、神前試合ってやつかな?」
愉快そうに笑う彼は、屋根に突き刺さった刀を次々と回収すると、再び構えます。
「まだまだ付き合ってもらうよ」
「願ってもないです。実門。ですが……少しお願いが」
「ん?」
「こちらの香桜さんときりん君の二人を地面に降ろしてもいいですか? そしたら思う存分打ち合えるのですが」
せいりゅー様が首をこてんとかしげてお願いすると、うーん、と実門は考えます。
「確かに、このままだと二人は巻き添えになっちゃうもんねー。うん、いいよ?」
「話が分かるようですね!」
「もちろんだとも。僕としてはキミと全力で仕合たいからね! そして残念ながら、今の僕ではキミが全力を出すに
「ええ。まだまだです」
「嬉しいなぁ……至極普通にそう言ってくれちゃうんだから……それならもっと本気を出せるように頑張らなくっちゃ」
笑みを抑える気のない実門。
美青年なのに歯茎すら見せて笑うそれには狂気が含まれているのがはっきりと分かります。
改めて対峙するべきではない、と香桜は思わざるを得ませんでした。
「それじゃあ昇降機で下に降りててよ徒花……いや、香桜だっけ?」
「……壊れてないといいんだがね」
「壊れてたら階段で頑張るしかないかなー……むむっ?」
「むっ」
「? ……ッ?!」
香桜がきりん君を連れていざ退避しようとした瞬間。
階下から唐突に現れた2つの黒い影が、香桜に斬撃を見舞います。
香桜、かろうじて回避。
着物が切られる程度で済みました。
刺客! 一体誰が!?
短刀を抜き放って構えれば、人影が立ちふさがります。
「行かせぬ」
「ここでお待ちになってねぇ」
青紫火熊と、冷鞘の二人です。
実門によってお仕置きされた二人は、口元を血で汚しながらも剣を突きつけていました。
「やはり貴様が青龍を手引していたのか」
「ここまで証拠が揃ってるなら、もう帰さないわぁ」
「ちょっと二人共ー? 僕がいいって言ってるんだけどー?」
「実門兄さん。これは私が決めたことです」
そして実門の背後に音もなく現れるのは──青紫墓道。
青紫家の長女である彼女は、不服そうな実門にこう伝えます。
「蒼天の塔に侵入し、御瞳にイタズラしたに飽き足らず不敬にも青龍と名乗り、さらに蒼天の塔で破壊の限りを尽くす……これは許されないことです」
「僕は許すよ? 彼女は特別だ」
「いえ。これはもはや青紫だけの問題ではないのです。阿妻でこのような失態、あってはならない。そして許すという前例は作ってはならないのです。そうせねば各家はもとより、民衆も納得出来ません──最悪、暴動になるでしょう」
「……」
「この場で斬り捨てるが最善。どれだけ譲歩したとしても、拘束は必須です」
「君たちに出来るとでも?」
「えぇ。
ちらり、と視線を向けた先には香桜ときりん君。
そしてそれを狙うのは、青紫の名ありたち。
せいりゅー様が如何に最強だとしても、全員を即座に退治は難しいでしょう。
「どうでしょう? 実門兄さん。あのお二人だけでも始末するのは?」
「うーん」
「青龍さんは実門兄さんに任せます。ね? 二人で仕合うのも別にいいでしょう。ただし、まずはお家と阿妻を考えて行動してください」
「……」
腕を組んで考える実門。
考えて、考えて、考えに考えると……うん、と頷きます。
「しょうがないなぁ」
「ありがとうございます。……では」
す、と剣を抜いた墓道が、更に香桜を睨みます。
絶対絶命のピンチ。
香桜はきりん君の前に庇うようにして刀を構えますが、多勢に無勢。
もう逃げ場所はありません。
流石にこれはどうしようもない、と助けを乞うようにせいりゅー様を見ると……。
「……うん。うん。香桜さんって空、飛べないんですよね?」
「さっきも言っただろ!?」
「じゃあ、地面にへばりつくことは?」
「はぁ!? いや、そりゃ……できるけどね」
「そうですか、じゃあそれで」
言うが早いか、せいりゅー様は抜き身の剣を納刀すると、腰だめに構えます。
途端に、辺りを押し潰すような重厚な剣気。
火熊が、冷鞘が、墓道が、そして実門が背筋に冷たい棒を通されたような感覚を覚え、咄嗟に迎撃しようとしたその矢先。
「……えいっ」
せいりゅー様が気合を発すると、
世界から音が斬り取られ、
空気も、気温も、
空の景色も、
全てが消え去り、
──チンッ。
澄んだ納刀音と共に、世界が正常を取り戻せば。
塔がゆっくりと異音を立てて震え始めます。
「な!?」
「こ、これってぇ……!?」
「なにを……!」
「ちょっと何したんだい!?」
「いえ。空を飛ぶことが出来ないなら。いっそ塔ごと下に降りようと思いまして」
「はぁ!?」
「あ、屋根にしがみついててください。地面までは一瞬ですよー」
その言葉と共に、塔の最上階──せいりゅー様達がいる階は、支柱ごと斬られて、ずれてゆき、ゆっくりと町に向けて落ちていくのでした。
「何をしてくるんだいこの馬鹿神~~~ッ!!!」
香桜の悲鳴が阿妻の空によーく響きました。