おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第42話「キミを失望させないか、それだけが心配だよ」

「きゃああああッ!?」

「これはっ、流石にっ……!?」

「規格外ですね……!」

 

 下から吹きすさぶ強烈な風が、全員を叩きます。

 墓道他姉妹たちは揃って瓦礫にしがみつき、身動きが全く取れず。

 香桜に至っては、屋根に刃を突き立ててしがみつきながら、きりん君の服の首根っこを掴んでかろうじて引き止めています。

 

 対するせいりゅー様。

 90度ほど傾いた地面に平然と立って、とっても涼しそうです。

 

「この、馬鹿神ッ! あんた何考えているんだいッ!?」

 

「え? 手っ取り早く降りる手段を……」

 

「手っ取り早く死ぬ手段の間違いだろ!?」

 

「あはははははッ、ほんっとキミって規格外! ますます好きになっちゃったよッ」

 

 一方で実門。

 せいりゅー様のように壁に立つことは出来ませんが、屋根に刀を引っ掛けて、うまくバランスを取っています。

 

「でも流石にここまでされると、立場上キミを許すことはできなくなっちゃうなぁ」

 

「それは、仕合に差し障りのあることですか?」

 

「キミとの仕合は関係ないけど、そこにいるお姉さんとお子さんがね」

 

「あら。それは困っちゃいますね……」

 

「本当に残念だよ……」

 

「──ですので」

「──だから」

 

「この場で一回区切りをつけるというのは?」

 

「うん、僕も同じことを考えていたところだ。ヤろっか!」

 

 何とこの刀狂い達、落下中にも関わらず仕合う気満々。

 阿呆かこいつら! と香桜が叫ぶ前に、既に斬りあっていました。

 

 ──轟音!

 

 せいりゅー様の飛ぶ斬撃と、実門の飛ぶ斬撃がかち合った音です。

 方や一刀から放たれたもの。

 方や三刀を駆使して放たれたもの。

 その力は全くの互角です。

 

「くぅ~ッ、全力のが一回で防がれるなんてッ! たーのしっ!」

 

 心底そう思ってるのか、満面の笑みで再び斬撃を続ける実門。

 一刀、二刀、三刀、四刀と連続で飛燕の一撃を飛ばせば、せいりゅー様は瓦礫を蹴ってかいくぐり、肉薄してきます。

 無論、実門はその程度読んでおり、足場代わりに突き刺していた刀を、足を使って()()

 まるでミサイルのように独りでに飛んだソレがせいりゅー様を串刺しにしようとします。

 

「ほい」

 

 それを、せいりゅー様が拾っていた拳ほどの瓦礫を飛ばしてガード。

 ガキンッ、と深々と刺さった瓦礫を尻目に、一瞬で実門の目と鼻先まで近づきます。

 危うし実門!

 しかし彼は全く慌てる様子はなく。

 両手の刀を離すと腰の短刀で、五閃、いや六閃!

 目にも止まらぬ一撃がせいりゅー様の前髪を少しだけはつっていました。

 

「いったぁっ!?」

 

 せいりゅー様、余裕を持って逃げたはずが途中で動きが鈍り。

 瓦礫に着地する筈がぶつかってしまい、そのまま落下していきます。

 

「青龍ッ!?」

 

「……」

 

 足場もない宙空に投げ出されたせいりゅー様。

 しかし、慌てずに腰から分銅つきの鎖を取り出すと、超高速でぶん回して投擲!

 屋根に引っ掛けて元の位置へと戻ろうとします。

 

「びりっと来たぁ……! 髪を斬られてもこうなるんですね」

 

「はは、よほど相性が悪いようだね!」

 

 しかし復帰を信じていた実門は二刀を掲げて襲いかかっています。

 せいりゅー様、直撃を避けるためには不安定な体勢で逃げざるを得ません。

 落下のベクトルを手を使って変更すると、落下中の石壁、鉄扉、そして柱に対して順番に蹴りを入れ、弾丸のように射出。

 即席の質量弾として実門を攻撃。

 しかし実門は冷静に二刀で切断。

 全く苦にせず、バラバラにしてしまいます。

 

「でッ!?」

 

 しかしバラバラにした瓦礫の背後から迫るのは、飛ぶ斬撃。

 神の力によって二重、三重に重ねられたソレは威力甚大。

 受けは無理だと判断して実門はたまらず回避。

 直後、足場にしていた屋根が木っ端微塵になってしまいます。

 

「あはは! 楽しいですねー!」

 

 逃げる実門に何度も斬撃を飛ばすせいりゅー様。

 それにたまらず叫んだのは香桜でした。

 

「ちょっ、ちょちょちょちょっとちょっとちょっとぉ、アタシらが死んじまうよ!?」

 

「おっと。そういえばもうそろそろですか」

 

 最初はゆったり落ちていた塔ですが、加速度がついた今、急速に地面が近づいています。

 香桜はあまりの速度に顔がすごいことになっており、きりん君も激しく揺さぶられて、ただでさえ無秩序だった髪が更にワイルドに変貌しています。

 

「──あああああもう何でこうなるのさあああッ!!」

 

 半分キレて半分泣きながら香桜は叫びます。

 アタシはただ信心深く生きてきただけなのに、何だってこんな目に合わなきゃいけないのさ!

 こんなことなら青龍様なんて信じなきゃよかった!

 後悔を胸に抱いた香桜を尻目に、すでに現在位置は市民が我先に逃げ出すのが見えるほど。 

 香桜はいよいよ終わりか、と目をキツく結び、突如流れ出した走馬灯を懐かしみ、

 

、──その瞬間。

 

 せいりゅー様は、宙空で腰だめになると、超高速で居合を放ちます。

 途端に響く、甲高い破裂音!

 連続して鳴り止まぬそれは、斬撃が音速を超えた証左。

 あまりの速さに圧縮された空気が熱を持ち、実門、香桜、そして他の青紫が熱風に思わず顔を背けます。

 それほどまでに超強力な一撃が向かったのは……落下地点である、あばら家。

 幸いにも人気のなかったそれは、上空から殺到した斬撃で一瞬で分解。

 さらに勢い余って周りにあった木々や、石垣を吹き飛ばすほどの大爆発を発生させ。

 落下していた蒼天の塔の一部が、下からの爆風に押される形で急減速するのでした。

 

 さながら、巨大な手で優しく持ち上げられる感覚。

 実門達は落下とは真反対の現象に驚きます。

 しかしその手がすぐに消滅すると、瓦礫がけたたましく地面に落下し、遅れて全員がぽてん、と軽く尻もちを打つのでした。

 

「──よし! 全員着地できましたねー」

 

 瓦礫の山に優雅に着地したせいりゅー様。

 香桜の手から離れてひゅるる、と落ちてきたきりん君をキャッチ。

 そしていい仕事したなー、と満面のドヤ顔を見せます。

 どこもよしじゃないが?

 無様に瓦礫に腰を打ち付けた香桜。

 その姿があまりにもムカつきすぎて、逆に言葉も出せませんでした。

 

「……せいりゅー」

 

「え? 今の駄目ですか? でもほら、人死には出てないですよね? そこの青紫さんも皆さん生かしたじゃないですかー」

 

「……うーん」

 

「あ。ほら迷ってるってことはグレーゾーンですよね? なら四捨五入で許していいはずですし、むしろ褒めるべきでは? というか褒めてくださいきりん君きりん君。私誰も殺しませんでしたよ?」

 

「……いいこ」

 

「えへへ」

 

「あっほっかッ! おっまえさんはッ!!」

 

 ガチギレ香桜さん、たまらず突っ込んじゃいました。

 

「もっと穏便に済ます手段はあった筈だろ!? 毎回毎回、アンタはどうしてこんなハチャメチャな真似をするんだい!?」

 

「それが最善だったのでー」

 

「それはアンタにとっての最善だろう!? 神様ならアタシらの最善を考えなよ!?」

 

 ギャーギャーと香桜がまくし立てても、せいりゅー様は馬耳念仏暖簾腕押立板水(きいちゃいません)

 

 むしろ足りない養分を補うようにきりん君をもふもふしています。

 

「……な、何者だあいつは……!」

 

「化け物よぉ……!」

 

「いや……妖か何かだろう? 剣術ではない……!」

 

 そしてそんなせいりゅー様を引いた目で見る、青紫姉妹。

 剣に精通してるからこそ、先の光景の出鱈目加減が信じられないのでしょう。

 最早こいつとは相手になるわけがないと壁を作っています。

 そしてそれは、

 

「──……!」

 

 実門も同じでした。

 自分ですら実現出来ないだろう、究極の斬撃。

 ソレに向けられるのは、渇望の眼差し。

 自分も使いたいと願う、子どものような純粋な眼ですが、一方で土台実現できないものだと理解しており。

 だからこそ、実門は絶望します。

 妖術? 違う。

 あれは剣技を昇華させた現象。

 百年どころか千年は費やさないと、あれはできないだろう。

 今の僕では実現など……とても無理だ。

 言葉を亡くした実門に、さて、とせいりゅー様は尋ねます。

 

「続き、やりますか実門」

 

「……! いい、ね……!」

 

「おや、何か気負ってるようですね? 大丈夫ですよ。楽しみましょう実門。剣で語らうのです。何を恐れる必要が?」

 

「キミを失望させないか、それだけが心配だよ」

 

「ふふふ。まさか。私は挑んでくれる相手なら誰であれ歓迎しますし、失望しません。足掻いてくれるならなおのこと」

 

「……ッ!」

 

「すみませんが、その刀すべて砕かせて貰いますので……よろしくおねがいしますね?」

 

 首をこてんと傾けて近づくせいりゅー様。

 実門の背筋をとめどなく冷や汗が流れます。

 まだ一刀しか使ってないのに、底が全く見えないとは。

 何か……何か策はないのか!?

 そう実門が考えた時に、すぐ近くに落ちた、とある箱を見つけます。

 壊れた箱から顔を覗かせる、白い象牙のような物体。

 それを見て、彼は口角をあげるのでした。

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