「きゃああああッ!?」
「これはっ、流石にっ……!?」
「規格外ですね……!」
下から吹きすさぶ強烈な風が、全員を叩きます。
墓道他姉妹たちは揃って瓦礫にしがみつき、身動きが全く取れず。
香桜に至っては、屋根に刃を突き立ててしがみつきながら、きりん君の服の首根っこを掴んでかろうじて引き止めています。
対するせいりゅー様。
90度ほど傾いた地面に平然と立って、とっても涼しそうです。
「この、馬鹿神ッ! あんた何考えているんだいッ!?」
「え? 手っ取り早く降りる手段を……」
「手っ取り早く死ぬ手段の間違いだろ!?」
「あはははははッ、ほんっとキミって規格外! ますます好きになっちゃったよッ」
一方で実門。
せいりゅー様のように壁に立つことは出来ませんが、屋根に刀を引っ掛けて、うまくバランスを取っています。
「でも流石にここまでされると、立場上キミを許すことはできなくなっちゃうなぁ」
「それは、仕合に差し障りのあることですか?」
「キミとの仕合は関係ないけど、そこにいるお姉さんとお子さんがね」
「あら。それは困っちゃいますね……」
「本当に残念だよ……」
「──ですので」
「──だから」
「この場で一回区切りをつけるというのは?」
「うん、僕も同じことを考えていたところだ。ヤろっか!」
何とこの刀狂い達、落下中にも関わらず仕合う気満々。
阿呆かこいつら! と香桜が叫ぶ前に、既に斬りあっていました。
──轟音!
せいりゅー様の飛ぶ斬撃と、実門の飛ぶ斬撃がかち合った音です。
方や一刀から放たれたもの。
方や三刀を駆使して放たれたもの。
その力は全くの互角です。
「くぅ~ッ、全力のが一回で防がれるなんてッ! たーのしっ!」
心底そう思ってるのか、満面の笑みで再び斬撃を続ける実門。
一刀、二刀、三刀、四刀と連続で飛燕の一撃を飛ばせば、せいりゅー様は瓦礫を蹴ってかいくぐり、肉薄してきます。
無論、実門はその程度読んでおり、足場代わりに突き刺していた刀を、足を使って
まるでミサイルのように独りでに飛んだソレがせいりゅー様を串刺しにしようとします。
「ほい」
それを、せいりゅー様が拾っていた拳ほどの瓦礫を飛ばしてガード。
ガキンッ、と深々と刺さった瓦礫を尻目に、一瞬で実門の目と鼻先まで近づきます。
危うし実門!
しかし彼は全く慌てる様子はなく。
両手の刀を離すと腰の短刀で、五閃、いや六閃!
目にも止まらぬ一撃がせいりゅー様の前髪を少しだけはつっていました。
「いったぁっ!?」
せいりゅー様、余裕を持って逃げたはずが途中で動きが鈍り。
瓦礫に着地する筈がぶつかってしまい、そのまま落下していきます。
「青龍ッ!?」
「……」
足場もない宙空に投げ出されたせいりゅー様。
しかし、慌てずに腰から分銅つきの鎖を取り出すと、超高速でぶん回して投擲!
屋根に引っ掛けて元の位置へと戻ろうとします。
「びりっと来たぁ……! 髪を斬られてもこうなるんですね」
「はは、よほど相性が悪いようだね!」
しかし復帰を信じていた実門は二刀を掲げて襲いかかっています。
せいりゅー様、直撃を避けるためには不安定な体勢で逃げざるを得ません。
落下のベクトルを手を使って変更すると、落下中の石壁、鉄扉、そして柱に対して順番に蹴りを入れ、弾丸のように射出。
即席の質量弾として実門を攻撃。
しかし実門は冷静に二刀で切断。
全く苦にせず、バラバラにしてしまいます。
「でッ!?」
しかしバラバラにした瓦礫の背後から迫るのは、飛ぶ斬撃。
神の力によって二重、三重に重ねられたソレは威力甚大。
受けは無理だと判断して実門はたまらず回避。
直後、足場にしていた屋根が木っ端微塵になってしまいます。
「あはは! 楽しいですねー!」
逃げる実門に何度も斬撃を飛ばすせいりゅー様。
それにたまらず叫んだのは香桜でした。
「ちょっ、ちょちょちょちょっとちょっとちょっとぉ、アタシらが死んじまうよ!?」
「おっと。そういえばもうそろそろですか」
最初はゆったり落ちていた塔ですが、加速度がついた今、急速に地面が近づいています。
香桜はあまりの速度に顔がすごいことになっており、きりん君も激しく揺さぶられて、ただでさえ無秩序だった髪が更にワイルドに変貌しています。
「──あああああもう何でこうなるのさあああッ!!」
半分キレて半分泣きながら香桜は叫びます。
アタシはただ信心深く生きてきただけなのに、何だってこんな目に合わなきゃいけないのさ!
こんなことなら青龍様なんて信じなきゃよかった!
後悔を胸に抱いた香桜を尻目に、すでに現在位置は市民が我先に逃げ出すのが見えるほど。
香桜はいよいよ終わりか、と目をキツく結び、突如流れ出した走馬灯を懐かしみ、
、──その瞬間。
せいりゅー様は、宙空で腰だめになると、超高速で居合を放ちます。
途端に響く、甲高い破裂音!
連続して鳴り止まぬそれは、斬撃が音速を超えた証左。
あまりの速さに圧縮された空気が熱を持ち、実門、香桜、そして他の青紫が熱風に思わず顔を背けます。
それほどまでに超強力な一撃が向かったのは……落下地点である、あばら家。
幸いにも人気のなかったそれは、上空から殺到した斬撃で一瞬で分解。
さらに勢い余って周りにあった木々や、石垣を吹き飛ばすほどの大爆発を発生させ。
落下していた蒼天の塔の一部が、下からの爆風に押される形で急減速するのでした。
さながら、巨大な手で優しく持ち上げられる感覚。
実門達は落下とは真反対の現象に驚きます。
しかしその手がすぐに消滅すると、瓦礫がけたたましく地面に落下し、遅れて全員がぽてん、と軽く尻もちを打つのでした。
「──よし! 全員着地できましたねー」
瓦礫の山に優雅に着地したせいりゅー様。
香桜の手から離れてひゅるる、と落ちてきたきりん君をキャッチ。
そしていい仕事したなー、と満面のドヤ顔を見せます。
どこもよしじゃないが?
無様に瓦礫に腰を打ち付けた香桜。
その姿があまりにもムカつきすぎて、逆に言葉も出せませんでした。
「……せいりゅー」
「え? 今の駄目ですか? でもほら、人死には出てないですよね? そこの青紫さんも皆さん生かしたじゃないですかー」
「……うーん」
「あ。ほら迷ってるってことはグレーゾーンですよね? なら四捨五入で許していいはずですし、むしろ褒めるべきでは? というか褒めてくださいきりん君きりん君。私誰も殺しませんでしたよ?」
「……いいこ」
「えへへ」
「あっほっかッ! おっまえさんはッ!!」
ガチギレ香桜さん、たまらず突っ込んじゃいました。
「もっと穏便に済ます手段はあった筈だろ!? 毎回毎回、アンタはどうしてこんなハチャメチャな真似をするんだい!?」
「それが最善だったのでー」
「それはアンタにとっての最善だろう!? 神様ならアタシらの最善を考えなよ!?」
ギャーギャーと香桜がまくし立てても、せいりゅー様は
むしろ足りない養分を補うようにきりん君をもふもふしています。
「……な、何者だあいつは……!」
「化け物よぉ……!」
「いや……妖か何かだろう? 剣術ではない……!」
そしてそんなせいりゅー様を引いた目で見る、青紫姉妹。
剣に精通してるからこそ、先の光景の出鱈目加減が信じられないのでしょう。
最早こいつとは相手になるわけがないと壁を作っています。
そしてそれは、
「──……!」
実門も同じでした。
自分ですら実現出来ないだろう、究極の斬撃。
ソレに向けられるのは、渇望の眼差し。
自分も使いたいと願う、子どものような純粋な眼ですが、一方で土台実現できないものだと理解しており。
だからこそ、実門は絶望します。
妖術? 違う。
あれは剣技を昇華させた現象。
百年どころか千年は費やさないと、あれはできないだろう。
今の僕では実現など……とても無理だ。
言葉を亡くした実門に、さて、とせいりゅー様は尋ねます。
「続き、やりますか実門」
「……! いい、ね……!」
「おや、何か気負ってるようですね? 大丈夫ですよ。楽しみましょう実門。剣で語らうのです。何を恐れる必要が?」
「キミを失望させないか、それだけが心配だよ」
「ふふふ。まさか。私は挑んでくれる相手なら誰であれ歓迎しますし、失望しません。足掻いてくれるならなおのこと」
「……ッ!」
「すみませんが、その刀すべて砕かせて貰いますので……よろしくおねがいしますね?」
首をこてんと傾けて近づくせいりゅー様。
実門の背筋をとめどなく冷や汗が流れます。
まだ一刀しか使ってないのに、底が全く見えないとは。
何か……何か策はないのか!?
そう実門が考えた時に、すぐ近くに落ちた、とある箱を見つけます。
壊れた箱から顔を覗かせる、白い象牙のような物体。
それを見て、彼は口角をあげるのでした。