おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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本日以降2日に一回投稿になります。
ご了承ください。


第43話「よかったなぁ唖涯!」

 唖涯は自分の過去を振り返りません。

 それは別に過去が最悪だったから忘れたい……という訳ではなく。

 あまりにもパっとしない思い出だけだから、振り返る必要がないのでした。

 

 元は農家の一人息子。

 貧乏と富豪のちょうど中間、中流家庭で育った彼は、

 凄惨な過去にあったり、飛びぬけた才に恵まれることもなく。

 ただただ面白みのない日々を過ごしていました。

 それは、恩智に入ってからもそうです。

 朝は剣を振って鍛錬をし。

 昼は兄弟達と町を練り歩いてはユスリ、タカリに勤しみ。

 夜はせしめた金品でどんちゃん騒ぎ。

 毎日が楽しいかといえば、(うなず)けるのですが。

 毎日が空虚かと言われれば、それもまた(うなず)けました。

 いつでも柊真と手鹿織の三人一緒になって、

 他者を脅し、(なぶ)り、時に斬り捨て、(おご)る。

 なんともまあ代わり映えのない日々です。

 元々は田舎のやんちゃ坊主だった唖涯は、最初こそなんて楽しいのだろうと目を輝かせていたのですが、一月も経てば「こんなものか」と、感動も薄れ。

 今では妥協で暴れん坊を繰り返しています。

 仮初(かりそめ)の自由の元、ただただ周りに疎まれ、嫌われる日々。

 唖涯は、自分の過去を()()()()()()()()()()()()()

 

 ──こんなんじゃなかったよな、俺のなりたかったものって。

 

 物心ついてすぐに親に頼み込んで買ってもらった浮世絵。

 それがしわくちゃになるまで、飽きずに読んでいたことを思い出します。

 特に彼が好きだったのは、青家の侍が、西側の騎士と剣を交える一枚です。

 味方は既に(たお)れ、四方を敵に囲まれた青与根貞(あおのよねさだ)が、自慢の三刀でえいやと次々に斬り捨てる。

 唖涯はそれを読むたび憧憬を抑えられず、将来は三刀流の剣士になるんだと強く誓ったものでした。

 そして実際に恩智を尋ねて、修行を重ね、現実を知り、

 気付けば、ただの愚連隊になっていたのでした。

 念願の三刀は、実力を伴わない見せかけのもので。

 柊真と織手鹿は、格好良いという理由だけで契った義兄弟、言ってしまえば気が合うだけの悪友といったところ。

 そんな妥協、妥協、妥協の結果が今なのでした。

 

 ──ざまぁねえよなァ……。

 

 弁慶が、青紫家の剣士と戦っていた時。

 唖涯は二人の一挙手一投足から目を離せませんでした。

 それは気が遠くなるほどの研鑽の末に見れる、絶景。

 火花散らして激突する二人に、全身の震えが止まりませんでした。

 この光景こそ、自分が目指すものではいのか?

 そう考えてしまった途端、唖涯は自らを恥じました。

 彼らと比べ、いかに惨めで、情けなく、救いようのないことか!

 顔は赤らみ、震えが止まらず。

 しかしそれが自分なのだとは認められずに、今更弁慶と並び立とう見栄を張った結果が、あれでした。

 

『なら……ッ、本当にそう思うならっ! お、俺らと殺りあえよ! なぁ!? お前なら出来るだろう!?』

 

『その価値がねえ』

 

 筆舌に尽くしがたいほどの屈辱。

 怒り。

 そして情けなさ。

 それらはすべて自分自身に向いていました。

 あの時、崩れ落ちた自分自身を俯瞰しながら、唖涯は自答します。

 

 お前の言う通りだ。お静。

 俺ぁ弱い奴には威張り散らし、強いやつには尻尾を振る。

 何が傾奇者だ。何が黒三連だ。

 弱いもの虐めしか出来ねえ俺が、弁慶みたいになれる訳がねえ。

 自分より上を行く化け物達を見て、怖気付いて、

 くすぶり続けた俺に何ができる?

 あぁそうさ、俺はゴミだ。

 人の約束すら守れねえただのゴミクズ……いや、待て。

 

(……約束ってなんだ?)

 

 闇の中でたゆたっていた意識が、形になっていきます。

 

(俺は……狡怒のヤツにお静を攫えって言われて、逆に逃がそうとしてた……よな?)

 

 直前の記憶がよみがえってゆけば、気を失う直前に、誰かに殴られたことまで思い出します。

 

(確かに柊真達にお願いしたんだ。俺は医者を呼ぶ。だからお静を遠くに連れていけと……そして、意識がなくなって……!?)

 

 背筋に冷水を垂らされたかのような感覚。

 急速に覚醒した唖涯が視界を開くと──、

 

「──いだ、いだいッ! いだいいだいいだいだいいいいいいッ!!!」

 

「暴れるんじゃねえ!」

 

「テメェいい加減学習しやがれッ! 馬鹿女がッ!」

 

「ぎゃッ!? ギャアッ! いッ?! あがッ!?」

 

 そこは、暗くジメジメした監獄でした。

 湿気の強い、石造りの牢屋。

 格子は太く頑丈な木材で作られているようで。

 唖涯はそんな一室に転がっていたのでした。

 どうなってるんだ? 

 周りを伺おうとした瞬間、全身に鈍い痛みが走り。

 そしてよくよく自分を観察すれば、後ろに回された両手が荒縄できつく縛られており、自らの肌の至るところに青あざが見てとれました。

 どうやら散々殴られた後のようです。

 

「あ……が」

 

 からからに乾いた喉を鳴らしながら、芋虫のように這って、格子に近づく唖涯。

 それは逃げ出そうとするため?

 現状を把握しようとするため?

 違いました。

 先ほどから聞こえてくる、絹を裂くような悲鳴の主を、確かめようとするためでした。

 もしや、あの子なのではないのか?

 いや、間違いであって欲しい。

 もしあの子だとしたら、俺は……!

 全身を蠕動させ、必死に近づき……そして唖涯は、目を見開きました。

 

「やだッ、やだッ、やだああぁッ! やめてッ、やめでええッ!」

 

「うるせえなぁお前は」

 

「また爪剥がされたいのか?」

 

「はなじだッ、私はなじだじゃないッ、せいりゅうの事はなじだッ、うそ、いってないッ、いってないいッ、なんでしんじてッ、くれないのよぉ」

 

「信用ならねえなぁ。お前さん。アイツをかばってたらしいじゃねえか」

 

「口からでまかせだったら俺等が困っちまうぜ、そーらッ」

 

「ひっ、やだッ、やだやだやだやだギャッ、あぎッ、いだ、いだっ、ひぎゃああああああッッ!?!?」

 

 そこにいたのは、確かにお静でした。

 お静は縛られて床に転がされており、その周りには、恩智の兵達が群がっています。

 兵は……お静を拷問をしながら弄び、悲痛な叫びがあがるたびに、ゲラゲラと笑っていました。

 

「あ、あ!? お、お静ッ、お静うッ、お、お前、お前らあァッ!」

 

「お? 裏切り者が起きたぞ?」

 

「寝すぎだぜ唖涯? お前があんまりにもぐっすり寝てたからホラ」

 

「あぁ、先に始めちまったぜ」

 

 かんらかんら。

 心底愉快に話す彼らに、唖涯は歯を食いしばって吠えます。

 

「何して……何してやがるッ、おいッ!」

 

「馬鹿か? お前聞いてただろ? 青龍の情報を探ってるんだぜ」

 

「それがコイツ、中々本当のこと吐かなくてなー」

 

「そうそう。だから俺達泣く泣く……泣く泣くな? 尋問するしかなくてだな──おい、テメェ泣いてる暇あったら自分から動けよ。また爪剥がされてえのか?!」

 

「ぎぁッ!? やっ、い、いだ、いだいッ! やめてよぉッ!!」

 

「待てッ、ソレ以上はよせっ、そいつは本当に何も知らねえんだッ、やめろッ! お前たち離れろよッ!」

 

「裏切り者に言われてもなぁ」

 

「離れろおおおおおおッ!!!」

 

「あーあーうるせえ……うるさすぎると、手が滑っちまいそうだなぁ」

 

「──ッ!? か、はッ……! は……ッ、……ッ!?!?!?」

 

「ッ!?」

 

「お。黙ってくれるか? 黙ってくれるよなぁ?」

 

「あーあー白目剥いちまって。可哀想になぁ」

 

「マジで死んじゃうんじゃねえかぁ?!」

 

「よせッ、わ、分かった。分かったから……!!」

 

「だとよ。よかったなお静ちゃん?」

 

「──ガヒュッ、ひゅ、げほっ、げほっ、ゲフッ……!」

 

 好き放題するならず者たちの前に、唖涯は何も出来ません。

 できるのは、芋虫のように這いつくばり、それを眺めるだけ。

 あまりにも不味すぎる状況です。

 

 唖涯は必死に頭を巡らせます。

 現状を脱する手段はないのか。

 どうにかしてお静を助けられないのか。

 せめて自分が奴らの代わりになれないのか。

 考えて考えて、そしてその考えを潰すように、ある1人の兵士が言います。

 

「無駄だぜ唖涯」

 

「……あ?」

 

「お前にはどうすることも出来ねえよ」

 

「……どうしてそれが言える」

 

「言えるんだよなぁ。お前ら、大親父に嫌われてたの知ってるだろ? 今まで利になってたから使ってやってたそうだ。だから、こうして目に見える反抗してくれて、それはもう喜んでたぜ。()()()()()()()()()()()ってさ」

 

「……ッ!」

 

「これはその前段だ。お前はお前が守ろうとした者達が殺されるのをそこで見てろ。この団子屋の娘もそうだし、もう一人の娘もそうだ。そして……黒三連どももな?」

 

「黒三連……そういや、柊真は!? 織手鹿は!?」

 

「あ?」

 

「アイツらはどうしたってんだ!? 無事なのか!?」

 

「……あーあーあー! そうかそうか、お前、知らなかったのか。くくく、可哀想に……可哀想になぁ」

 

 男はひとしきり腹を抱えて笑うと、わざわざ屈んで唖涯に告げます。

 

「お前さ、柊真と手鹿織に裏切られたんだよ」

 

「え……?」

 

「アイツらこう言ってたぜ? 『最早兄弟でもねえ』ってさ。いやいやそうだよなぁ、恩智に唾吐きかけた馬鹿野郎を、誰が兄弟だと認める!?」

 

 唖涯は、その言葉を一瞬、理解できませんでした。

 頭をがつんと殴られたような、そんな衝撃がありました。

 あの二人が、自分を裏切った?

 確かに何となくで行った契りではありますが、それでも長年苦楽を共にした仲のはず。

 それが容易く……裏切られた?

 だがそれよりも一番衝撃を受けたのは、次の言葉でした。 

 

「だから。連帯責任でアイツらも殺すことにした」

 

「……!?」

 

「当然だよなぁ。大親父殿は黒三連そのものを嫌ってたんだ」

 

「待て……あ、あいつらは」

 

「あぁ心配するな。わざわざ行かなくてもお前の元に首を届けてやるぜ? よかったなぁ唖涯!」

 

 その顔を絶望に染めた唖涯を見て、赤半被は下品に笑うのでした。

 

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