おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第46話「だんご」

「……あぁ? 何か外、うるさくねえか?」

 

 ここは牢屋兼拷問室。

 それは恩智の屋敷から半里ほど離されたところにある、秘密の一室です。

 恩智の一部しか知らないこのお部屋は、屋敷からは隠し通路でつながっており、切立った丘のすぐ下に作られているのでした。

 

 悪名高い恩智。

 その悪巧みの半分はこの部屋で行われていました。

 仇敵、政敵、宿敵、強敵。

 大から小まで、様々な敵を痛めつけ、洗脳し、時に殺す。

 確たる血にまみれた歴史があるのでした。

 そんな暗く、じめじめした空間で男達が楽しんでいると、1人が気づきます。

 やにわに外が騒がしくなったのです。

 しかも祝い事というより、暴力沙汰の雰囲気。

 一体何があったのでしょうか?

 水筒に一気に煽った男は、残りを床に転がっていた女性、その顔めがけてぶちまけます。

 

「…………ぁ」

 

 それはお静でした。

 服は破られ、全身を穢された彼女は酷い暴行を受けていました。

 あれだけ美しかった白い毛並みはどこも千切られ。

 首筋には手の跡が残り、全身に殴られた後が痛々しく残っております。

 すでに反抗する気力もないか、目は虚ろで。

 ぐったりと全身の力が抜けている状態の彼女。

 そんな彼女にはまだ別の男が覆いかぶさっており、今もなお凌辱は続いているのでした。

 

「気の所為だろ……ッ」

 

「おいおいお前耳おかしいのか? 明らかに外でドンパチやってんだろうが」

 

「じゃあお前が見てこいよ」

 

「そうだぜ、俺らはまだ……ッ、詰問の真っ最中だからな!」

 

「ケッ、腰振りながら言う台詞じゃねえだろ。この早漏野郎が」

 

「うるせえ! 何とでもいえ、俺ぁまだ5回は行けるぞ!」

 

「へーへ……あんまりやりすぎて殺すんじゃねえぞ」

 

「なぁに、何かあったらいつものように捨てりゃいい」

 

「そうだそうだ!」

 

 まだまだ真っ盛りの男達。

 聞こえるように男は舌打ちすると、気怠そうにかけてあった半被をまとい、外に向かいます。

 石造りの階段。

 その先にある光に近づいていけば、先程よりもはっきりと聞こえてくる声。

 一体全体、何やってんだ?

 ギィ、と鉄扉を開き、陽光が彼をさすと、そこに広がるのは──、

 

「あ?」

 

 ──至るところで暴れる、市民達の姿でした。

 

 やれ男も、女も、子どもも老人も。

 揃って武器を抜いては侍達に襲いかかっているのです。

 

 1人の恩智が囲まれて蹴られて、殴られていました。

 1人の連峯が泣きながら許しを乞い、逃げ惑っていました。

 1人の静悪が四つん這いで助けを求めていました。

 

 空いた口が塞がらないとはこの事です。

 ついさっきまで祭りだったはず。

 なのに、なんで地獄絵図に変わった?

 眼前の光景が現実のものとは到底思えません。

 明らかな異常事態なのに、市民達が楽しそうに酒を飲み、そして笑っているのも余計恐ろしいです。

 呆然と立ち尽くしていると、その市民の1人が男を見つけます。

 そして指をさして大声をあげたので、男は急いで扉を締め、閂をかけます。

 心臓が早鐘のように打ち、熱を持っていた体が一気に冷めていました。

 

「……お、おぉい。おい。おいおいおいおいおい」

 

 そして慌てるがあまり、階段で転びそうになりながら拷問室に向かい、叫びます。

 

「お、お前たちやべえぞ!?」

 

「あ? うるせえなぁ」

 

「何転んでやがんだ? なっさけねえなぁ」

 

「んなこたぁどうでもいい! 市民が、町のやつが……()()を襲ってやがる!」

 

「…………は?」

 

 理解が追いつかないとぽかんとする彼ら。

 しかし男は知ったことかとまくし立てます。

 

「だから襲ってんだよ! アイツら、誰彼構わず侍をよ! ウチとか連峯とか、関係ねえ! 目に入る侍全員がヤられそうになってるんだよ!」

 

「お前……阿片でもやってんのか?」

 

「んな馬鹿なこと……」

 

「ウソみてえだがウソじゃねえ! 本当だ! こんな事でウソつくかよ!?」 

 

 途端に響く、鉄扉を叩く音。

 ドンドンドンドン! 

 ガチャガチャ! 

 ドンドン!

 解錠を試みる音が響くと、もともと青かった顔を男はさらに青くします。

 

「……ヒッ!? お、俺ぁ、逃げるぞ!」

 

「あっ、お、おいッ!?」

 

 言うが早いか、男は刀すら忘れ、慌てて恩智の屋敷に繋がる通路へと消えてゆきました。

 その先に待ってるのも乱闘騒ぎなのですが……まあいいでしょう。

 

「クソ、本当なのかよ!?」

 

「どど、どうする?」

 

「どうするも何も、に、逃げるしかねえんじゃ?」

 

「いや不味いだろ!? この場所が市民にバレたら事だぞ!? 大親父に殺されちまう!」

 

「じゃあ戦えってのかよ!?」

 

 ひっきりなしに叩かれる扉の音。

 彼らは焦りに焦った結果、とある結論に至ります。

 

「……焼こう」

 

「は?」

 

「焼くんだよ、一切合切! 証拠も何も残さなきゃいい、そうだろ!?」

 

「お、お前何言って!」

 

「俺ぁ正気だ! ようするに……ああそうだ! バレなきゃいいんだよ! 一切合切燃えちまえば何も分からねえ。だろ!?」

 

 狂気に満ちた目がギラギラと輝くと、やがてもう一人も笑みを浮かべます。

 

「……へ、へへ。あぁ。あぁそうだな焼いちまおう……全部、焼いちまおうぜ!」

 

「あぁ!」

 

 男の言葉に踏ん切りがついたのでしょう、急ぎ準備を初めます。

 幸いなことに松明と、それの原料となる菜種油は部屋に常備されていました。

 油のつまった樽を蹴飛ばし、周りにぶちまけると、花油特有の香ばしい匂いが周りに広がります。

 

「へっ、嬢ちゃんは不運だったなぁ」

 

「あぁ。心底同情するぜ。俺等に捕まって汚されて……ここで丸焼きになるなんてなぁ?」

 

 少女を見下ろした男達は、微塵も反省してない様子で蹴飛ばし、うめき声すらあげない事を確認すると、火種を持って脱出を試みようとします。

 

「……あ。そういや……あの裏切り者がいたな」

 

「唖涯か……まあ念のため殺しておくか?」

 

「あぁ。生き残って何か喋られでもしたら厄介だしな」

 

 踵を返すと、男達は剣を抜き牢屋に向かいます。

 唖涯は最初こそ止めろ、離してやれ、などと声高に叫んでいましたが、しばらくして無駄だと悟ったのか黙りこくっていました。

 眼の前で繰り広げられる凌辱を、血走った目で見るしかできない無様な男。

 彼らは引導を渡してやろうと近づくのですが……。

 

「なッ!?」

「おい、どこに行きやがった!?」

 

 なんと、唖涯の姿が見当たりません。

 牢屋の鍵はしっかりかかっている筈なのに、一体どこに!?

 あの短時間で抜け穴でも作ったのか!?

 男達が牢の中を改めるようと鍵を開けるのですが……それこそが唖涯の狙いでした。

 

「──がぁッ!?」

 

 牢屋に赤半被が入り込んだ瞬間、頭上から落ちてきた唖涯が男に覆い被さります。

 不意打ちを食らった男は倒れ伏してしまう。

 

「な、唖涯ッ、貴様ぁッ!!」

 

 思わず刀に手をかける兵士ですが、唖涯は知っていたかのように体当たりをかますと、壁に叩きつけます。

 そして手から離れた刀を、流れるように奪い取ります。

 

「……」

 

「お、おいよせ……待て! 話せば分かる……話せば……ッ!」

 

 ゆらりと近づく唖涯に、思わず後ずさる赤半被。

 しかし憤怒に燃えた唖涯の目から説得が通じないことを悟ると逃げ出そうとし、

 

「──ぎゃああああっ!?」

 

 すぐに背中を、ばっさりと切り裂かれてしまうのでした。

 思わずたたらを踏む男に、唖涯は追撃。

 右腕を斬り飛ばし、返す刀で更に首を飛ばして絶命させます。

 

「や、ろおおおおおおッ!?」

 

 最初に押したおされた赤半被が背後から唖涯に襲いかかり、避けきれなかった腕へとダメージを与えることに成功します。

 しかし唖涯、痛みを感じていないのか、すぐに反転して胸元を切り返してきます。

 小さく悲鳴をあげ、大げさに避けた男。

 しかしその隙を逃さずに肉薄した唖涯。

 刀を腰に据えて突きだし、腹部を貫通させます。

 

「あっ、ぎゃ、が……! あ、唖涯ッ……!」

 

 とめどなくあふれる血潮。

 腹部から抜こうと刃を握る男に、無情にも刃をねじって傷口を広げる唖涯。

 絶対に殺すという意気込みを滲ませる彼に、男は気圧されますが、最後のあがきと言わんばかりに、足で何かを蹴飛ばします。

 それは、かがり火でした。

 床に落ちて火花を撒き散らすそれは、油に燃え移り、瞬く間に炎となって部屋に広がってゆきます。

 

「貴様も……焼け死ね……ッ」

 

「お前が死ね」

 

 唖涯は一息に後ろに飛べば、腹部から刀を引き抜き、力任せの一撃で顎から上を斬り飛ばしてしまいました。

 飛沫が壁に飛び、数拍遅れて物言わぬ躯が、床に斃れます。

 

「──お静ッ!」

 

 そして刀を投げ捨て倒れ伏したお静の元へ向かう唖涯。

 抱き上げたその体は室温に反して冷えており、頬を軽く叩くと、薄っすらと目を開けます。

 

「あ、……あ……」

 

「大丈夫か?! いや、喋らなくていい……すまなかった。今すぐ逃げ出して親父さんのもとに、いや医者に……!」

 

「お、おとうちゃ……おとうちゃん……は……」

 

「っ」

 

 あれだけ手酷く暴行を受けても、お静の心配事は自分の父親でした。

 大怪我を負った父親のために医者を呼ぶ──それが出来なかったことが、不安で不安で仕方がなかったのでしょう。

 そして、それを止めたのは……他ならぬ唖涯です。

 唖涯の心は張り裂けんばかりです。

 

「だ……大丈夫だッ、大丈夫だから……な!? 俺が今、助けを呼んで……ッ、だから……!」

 

「お……とうちゃ……ん」

 

 ぽろり、ぽろりと枯れ果てた筈の涙を流すお静。

 唖涯は何も言えずに、体を震わすしかありませんでした。

 

 俺のせいで。

 俺が、どうしようもねえから……!

 俺が、恩智で侍なんかやってたから!

 

 強い後悔に胸が締付けられる思い。

 そしてボロボロになったお静は、腕の中でこひゅ、と咳き込む。

 こひゅ。こひゅ。こひゅ。

 まるでか細いろうそくが、今にも消えそうなそんな反応に唖涯は焦ります。

 

「お、おい! お静!」

 

「こひゅ。こひゅ。こふっ」

 

「駄目だ、死ぬんじゃねえ! 死ぬんじゃねえお静っ、お静ッ!」

 

 激しく揺さぶり、お静を起こそうとする唖涯。

 しかし彼女は虚ろな目で、青白い息を吐くだけ。

 最後に、何が見えたのか震える手つきで空に伸ばし、

 

「おと……ちゃん……だん、ご」

 

 その一言を最後に、動かなくなってしまいました。 

 団子屋の唯一の一粒種の死。

 それが腕の中で起こったことに、唖涯は信じられず、叫びました。

 

「だめだ、だめ……あ……ああ……あああああ……ッ」

 

「……」

 

「あああ! あああああッ! ああーーーッ、ああああああ?!?! うあああああああああああ──ッ!!」

 

 急速に炎が広がる、牢屋の中で。

 どこまでもどこまでも、男の叫びが響いたのでした。

 

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