おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第47話「しっかりやります。私を信じてください」

 

 所変わって青龍の塔周辺。

 てっぺんから落ちてきた実門とせいりゅー様の戦い。

 それは佳境を迎えつつありました。

 

「あっ」

 

 実門の狙いがわかったのでしょう。

 まず声を発したのは香桜でした。

 瓦礫にまぎれて落ちていた、象牙色の剣もどき。

 それが実門の手に握られているではありませんか。

 

「おぉっ? もしやそれが」

 

「そうさ、キミが大嫌いな僕の刀の原型さッ!」

 

 実門は刃がほとんどないソレを片手に飛びかかり、一か八かと振るいます。

 無論、せいりゅー様が刃が届く距離を許す訳がありません。

 単身向かってきた実門に、見惚れるほどの美しい一撃で、真っ二つにしてやろうとするのですが……。

 

「!?」

 

 せいりゅー様、直前になって慌ててキャンセル。

 迎撃を諦めて、逃げるようにして距離を作ります。

 なんという大げさな逃げ方でしょうか。

 それはまるで超巨大な刀を振られたような逃げ方でした。

 

「むむむ……」

 

 眉をひそめる青龍様。

 一体何を心配しているのでしょう?

 実門自信もその結果に驚き、まるで試すように再び二刀、三刀と振るうと、これまた青龍様、大げさに避けます。

 

「……あはっ」

 

 笑い声が溢れると、実門は勢いを取り戻し。

 再び飛びかかっていきます。

 どうやら形勢逆転のようですが……正直何が起こっているのか、香桜にはさっぱりでした。

 今まで人智を超えた戦闘を見せられましたが、これは更に理解を超えています。

 あの短い刃の、一体どのあたりが脅威なのでしょう?

 

「……」

 

「ん?」

 

 ふと香桜が気付きます。

 瓦礫に座っていたきりん君が、その小さな手を伸ばしてぐ、ぱと開く真似をしているのです。

 今まで黙して動かずだったきりん君。

 何をしているのでしょうか?

 きりん君はちらりと香桜を見て、こう言います。

 

「……て」

 

「て?」

 

「……て、のびてる」

 

 「て」とは、手のことなのでしょうか。

 視線の先にいる実門に手を向け、開いては閉じ、開いては閉じ。

 しかし実門は別に手を伸ばす訳ではなく、刀を振るっているだけです。

 香桜は首を傾げるばかりです。

 しかし……きりん君には確かに見えているのです。

 二つ。

 三つ。

 四つ。

 いや、九つ、十、士と。

 あの中途半端な剣から伸びた、()()()()()()()()()()()()()()

 

「剣の間合いはまだよく分かってないけど、キミが怖がってるのはよく見えるよ」

 

「むぅ~」

 

「多分僕には見えない刃が出ている……のかな? 物理干渉は出来ない。けどキミのような神様には抜群に効き目のあるヤバそうな物がさ」

 

「……」

 

「いやはや、何とかは筆を選ばずとは聞くけど、場合によっては筆も選ばないとだね……! 僕ってば使えりゃ何でも良いって思ってたからさ~、肝に命じておかないと!」

 

「剣に愛着があるのはいいことです。ですがその剣はちょっと……趣味が悪いです」

 

「人の趣味はそれぞれ。──だよねぇッ!?」

 

 柄のない刀を振るう。

 振るう。

 振るう。

 振るう。

 まるで子どもがチャンバラごっこをするように、空虚に向けて振るう。

 そのたびにせいりゅー様は大げさに逃げ惑います。

 屋根に飛んだり、地を這ったり、はたまた背後に回ろうとしたり。

 反撃すらせず、ただぐるぐると実門の周りで隠れん坊を繰り返します。

 手立ては全くないのでしょうか?

 そのじれったさに香桜は歯噛みします。

 

(何をやってるんだいあの馬鹿神様は! あと6つも刀を持ってるだろうに、それを使って何とか出来ないのかい?!)

 

 言われてみれば、ゴテゴテした刀を色々持っているのに一刀しか使っていません。

 勿体ぶっているのでしょうか?

 それとも、使えない理由があるのでしょうか?

 そうこうしているうちに、実門の動きは段々と洗練されていきます。

 

 チャンバラごっこが、チャンバラに。

 チャンバラが殺陣(たて)に。

 そして殺陣が……真剣勝負に。

 

「ふーん、ちょっと……わかってきたかも。これって鞭なんだね」

 

 ひゅん、と素振りをする実門。

 様になっており、試すような素振りは今では全く感じられません。

 

「しかもお餅のように伸びたり縮む鞭だ、ある程度雑に振っても、敵を追いかける鞭。ソレに加えて指向性も持たせられるね。むしろ振らなくても意識を集中させれば」

 

「わっ!?」

 

「──ほらね?」

 

 何もしてないのに、せいりゅー様が大慌てでその場を飛び退くとニヤリと笑います。

 

「何でも斬れる剣って聞いてたけど、実態は神様を斬る剣だったんだね。なーるほど。すごい便利だ! ……ただコレって、僕の技量とか関係ないからちょっと、微妙かな」

 

「それであれば使わないのも選択肢かとー」

 

「有事だからね。やむを得ず使う場合もある」

 

 じりじり、と明らかに攻める側に回った実門。

 せいりゅー様は苦悩し、とうとう決断します。

 

「……仕方ないですね」

 

 腰に手を回し取り出したのは……円状の不思議な鞘を持つ剣でした。

 

 はたから見ると大きなペロペロキャンディーのような。

 あるいはソーセージマルメターノのような。

 そんな奇異な剣。

 せいりゅー様は鞘に手をかけて、しゅるん、と手際よく回転させ、全身を使って踊るように抜刀すると、陽光を浴びてキラキラと辺りが光り出します。

 なんと、その刀も刃がないではありませんか!

 まさかの刃なし対決に誰もが唖然としてしまいます。

 

「せいりゅー」

 

 見咎めたのはきりん君。

 しかしせいりゅー様、そんな彼に対して笑顔を見せます。

 

「しっかりやります。私を信じてください」

 

「……」

 

 その一言に何かを感じ取ったのでしょう。

 きりん君は黙って見守りはじめると、せいりゅー様は剣を持つ手で小さく円を描くように回し始めます。

 

「似たような剣だね。いや、そもそも剣じゃないのかい?」

 

「剣ですよ。繊細な子なので、中々使い所が難しいんですが」

 

「ふぅん」

 

 実門はせいりゅーの言に警戒を高めます。

 刃は、確かになさそうに見えます。

 あれは、自分と同じ見えない刃があるのか?

 いや、違う。

 抜刀時に一瞬、周りが光ったではありませんか。

 似たような刀を見たことがある。

 あれはそう──静悪の女が持つ剣。

 九条に別れた鞭のような蛇腹剣。

 仮に、あの剣が、静悪の刃よりも更に細い……それこそ髪の毛ほどの細さの刃だとしたら。

 そしてその刃が、無数に生えていたとしたら!

 

「ッ!」

 

 ──ばがァんッ!

 

 実門が全力でその場を飛び退くのと、実門がいた場所が爆発したのはほとんど同時でした。

 頬に傷が出来ますが、構わず実門が刃を振るうと、せいりゅー様もまた逃げていきます。

 その間も強烈な破裂音と共に、実門の足元が爆発、爆発、爆発!

 まるで地雷が、実門の行く先々に仕掛けられているようです。

 実門が冷や汗を流して逃げ続けると、ふと並走したせいりゅー様を目が合います。

 ソレは見事なアルカイックスマイルでした。

 

「げっ」

 

 せいりゅー様がぐるん、と刀なしの剣を回転させると、全身に怖気が走り、実門は震脚で地面を思い切り地鳴らし、畳返しのように眼前に壁を作ります。

 

「うわッ!?」

 

 しかし盾となるはずの壁が瞬く間に微細な砂に分解されてしまい、実門は死を覚悟しますが──咄嗟にかざした神器が見えない壁となり、攻撃を防いでくれるのでした。

 

「それすら防いじゃうんですね」

 

 神妙に頷くせいりゅー様は、反撃を恐れて飛び退くと、再び手首を回転させ始め、実門はその攻撃の出鱈目さに舌を巻きます。

 

「怖すぎるよその剣!? 何それ!?」

 

「木枯らし丸です。可愛い子なんですが……あぁやっぱり、痛がってます」

 

 風切り音がさながら悲しみを表すように甲高く高鳴り。

 見守っていた香桜達も、その切ない音に戸惑います。

 

「な、なによぉアレぇ……」

 

「わからん……わからんが、嫌な予感がする」

 

 火熊と冷鞘が極限の戦いに目を奪われる中、墓道だけは冷静に分析していました。

 この先、何をすれば青紫の利になるか。

 そう、彼女だけが戦いの先を見据えていたのです。

 

「──あうっ!」

 

 瞬く間に香桜の背後に回り込んだ墓道は、その首を打ち据えて昏倒させると、よりにもよってきりん君を抱き上げます。

 

「動かないでください。青龍」

 

 そして短刀をきりん君の首筋に突きつけると、

 せいりゅー様の目の色が、変わるのでした。

 

  

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