おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第6話「手鹿織、柊真、熱核爆流斬をかけるぞ!」

「嘘だろ……」

 

「あの嬢ちゃん、すごすぎねえか?」

 

「アイツ、黒三連の唖涯(あがい)を竹串一本で手球に取りやがったッ!」

 

「おいおいどうした唖涯!? お前さんの腕はそんなもんか!?」

 

 周りのざわめきが止まりませんが、それはそうでしょう。

 誰がこうなると予想できるのでしょうか。

 これには町人も、団子屋の二人も、そして手鹿織、あと名前を言ってませんでしたが、柊真(しゅうま)も信じられませんでした。

 

「お、おい兄弟、何遊んでんだ!?」

 

「冗談がすぎるぞ! そろそろ本気出さねえか!?」

 

 たまらず二人が声をかけると、呆然としていた唖涯の顔が、みるみるうちに真っ赤になり、

 

「……ッ!」

 

「おっと」

 

 びゅごうッ!

 颶風(ぐふう)をともなう、荒々しい回転。

 周囲を巻き込む攻撃と同時に立ち上がります。

 

「こ、んのやろう……ッ! ナメた真似をしやがって」

 

「すみません。穏便に済ませるにはこうしかなくて……おっ!」

 

 失意の目を向けていたせいりゅー様の目が輝きだします。

 唖涯がとうとう他の刀を抜いたのです。

 左手には大太刀。

 右手には打刀。

 口に脇差を咥えた三刀流です。

 頭と腰をぐぐっと下げて低姿勢。

 地面をえぐる太い両足は、めきめきと隆起。

 血走った目でこちらを(にら)む姿は野良狼がごとく。

 その気迫には、野次を飛ばしていた客も黙り込むほどです。

 

「ふ──ッ、ふ──ッ!」

 

「んふふふー……野生味溢れていますね。では今一度お願いします」

 

「ふぅうううぅぅぅッ!!!!」

 

 言われるまでもないと、唖涯が飛び込んでいきます。

 

 三刀流。

 左右に二振り。

 口に一振りと、一見して荒唐無稽な剣技。

 しかして彼の悪名は、その剣技あってのものです。

 大木すら断ち切る膂力で、大小の刀をまるで小枝のように振り回し。

 さらに巨体からは考えられない繊細かつ素早い動きで、肉薄し、駒のように廻り。

 途切れることのない剣戟を振るい続けるのです。

 振るわれる大太刀による右袈裟。

 かと思えば、口に(くわ)えた打刀が遅れてなびき。

 更に、回転のまま左から繰り広げた脇差が、剣筋をなぞります。

 一刀を反らしても、すぐに二刀、三刀が飛んでくる、厄介な時間差攻撃。

 かといって避けても、駒のようにくるり、くるりと回転しては、その独特な足運びで肉薄。

 まるで磁力で引き寄せられているように間合いをつめて、決してターンを譲りません。

 せいりゅー様も変則的な斬撃におぉー、とご満悦です。

 

「なるほど。頑丈な足があるからこそ出来る技なんですねー……荒削りですが良い技です。私は好きですよ」

 

 死の嵐の中で見惚れるような笑みを見せるせいりゅー様。

 涼しい顔でそれを避け続けるので、唖涯の表情は険しくなるばかりです。

 そして三合ほどの攻撃の後、音もなく離れたせいりゅー様は、首を傾けます。

 

「もう終わりですか? それなら……負けを認めませんか?」

 

「ッ、ハァッ、ハァッ……て、てめえ、どこまで俺をコケにするつもりだ!」

 

「言ったじゃないですか。今は殺せないって。だから……あらあら」

 

 再び襲いかかってくる唖涯。

 町人の前で手加減をされ、おちょくられ、尻もちまで見られた彼のプライドはずたぼろです。

 怒りに支配され、力任せに振るわれる3つの太刀は、先程よりもうるさく空気を斬り払い、傍で見ていたきりん君の髪も揺れるほどです。

 

「もー、いいじゃないですか。万策(ネタ)、つきてるんですよね?」

 

「うるせえ! 仕合なめてんのか!? まだ俺の命は残ってんぞ!」

 

あなたの命(ソレ)は私の物にするって言ってるんですから残ってないと困りますよ~」

 

「知ったことか! 終わらせたきゃ、俺を殺してみろ!」

 

「はぁ……」

 

 頑固な唖涯に、ため息の止まらないせいりゅー様。

 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)、鼻歌交じりにソレを避けながら……ふと、見守っていた手鹿織と柊真の二人を見て、思いつきます。

 

「そうだ、そこのお二人も混ざるのはどうでしょう?」

 

「な、てめえ! まだ俺の仕合は終わって──」

 

「だ・か・ら~、もうあなたとは決着付いてるって言ってるじゃないですか」

 

 言うが早いか、再びせいりゅー様の竹串がひらめき、ぴたり。

 またも唖涯の首筋に、それは添えられていました。

 先ほどと同じく剣の勢いは殺され。

 奇しくも、全く同じ箇所に、ちくり、と竹串がめり込んでいます。

 動けなくなった唖涯。

 そんな彼をとん、と軽く押して再び尻もちをつかせると、またもせいりゅー様は見下ろして、こう言います。

 

「剣筋を見て、気付いたんです。それって……()()()()ですよね?」

 

「……!」

 

「おそらくはそこのお二人と合わせた技と見てますが……どうでしょう? それを私にかけてみるのは?」

 

 満面の笑みを見せるせいりゅー様に、さしもの唖涯も怖気を覚えます。

 この気狂いは、こちらを殺せばいいものの、あえて自分を苦境に立たせたいのか? 

 被虐趣味があるのでしょうか?

 だが手立てのない鎧亜にとって、これ以上にない渡りの船。

 焦燥に満ちていた顔が、ぐにぃ、と獰猛な笑みに変わります。

 

「……お前が言い出したんだからな。後悔したって遅えぞ」

 

「ええ。是非に」

 

「──手鹿織(てがお)柊真(しゅうま)! こい! 熱核爆流斬をかけるぞ!」

 

「ッ、応!」

 

「よしきたァッ!」

 

 途端に元気を取り戻した唖涯の声と共に、同じく刀を両手に構えた二人が飛び込んできます。

 彼らは唖涯を先頭に、縦に並んでせいりゅー様と向かい合います。

 これにはせいりゅー様、拍手して迎えてしまいます。

 

「おい、黒三連、それはやりすぎじゃねえのか!?」

「相手は一人だぞ!?」

「勝てねえからって卑怯だぞ!」

 

「うるっせえ、外野はだまってろぃッ! コイツから言い出したんだ、文句は言わせねえぞ!?」

 

 完全にガチ切れた唖涯の声で、観衆のヤジは一瞬で止まり。

 お祭り騒ぎの町の一片に、静寂が訪れます。

 

 唖涯たち黒三連の必殺技──熱核爆流斬。

 あえてフリガナは振りませんが、言ってしまえば三人による波状攻撃です。

 やることは非常に単純ながら、この技の餌食になった人は、十は下りません。

 正面から対峙すると……6の手に刀を持ち、口にも刀を咥えた『阿修羅』のようにも見えました。

 

「あの女郎をぶっ殺すぞ……気を引き締めろ手鹿織、柊真」

 

「……応ッ」

 

「いつでもいいぜ……!」

 

 普段は見せない唖涯の緊張に、兄弟分たちも気を引き締めます。

 す、と相手を斬ることだけを考える二人の修羅となります。

 

 一方でせいりゅー様、ウッキウキです。

 技の原理は即座に見抜きましたが、ここからどんな技が飛び出すのか、楽しみで仕方がないようです。

 右手につまんだ竹串をぷらぷらと揺らしながら、いざその瞬間を楽しもうとし……。

 

 ──ぱァんッ!

 

 祭りの花火が、背後で炸裂した共に、それは始まりました。

 

「がァアァアアァッ!!!」

 

 まず、先頭の唖涯が滑るようにせいりゅー様に肉薄し、大地ごと斬り上げました。

 もちろんせいりゅー様、余裕でそれを回避。

 半回転して体を横向きにしますが、そこに手鹿織が飛び込みます。

 

「セイィィッ!!」

 

 二刀を水平にして飛び込む、神速の突きです。

 せいりゅー様の背後から、首筋を狙った、神速の一撃。

 もちろんせいりゅー様、余裕でソレを回避。

 竹串の背で、こつん、と峰を叩いて軌道を反らし、逆に隙を作り出します。

 

 その直後、

 

「うおりゃあぁぁぁ──うへァッ!?!?!?」

 

 敵味方を考慮しない、強烈な横薙ぎが飛んできて、せいりゅー様は初めて目を見開き。

 その可憐なおみ足で唖涯と手鹿織の二人の足を払いました。

 

「どわッ!?」

 

「でっ!!」

 

 そして、せいりゅー様は……竹串で、彼の刀と鍔迫り合いをしていました。

 

「ふぅ……危ない所でした」

 

「……いッ!?」

 

「こらっ。このままだとお二人が巻き込まれていましたよ?」

 

「こ、こいつ……! なんで……!?」

 

「あ。もしかして、二人を巻き込む覚悟がおありで? ……なるほど、それならいい狙いかもしれませんね。実を言うと私も少し焦っちゃいましたからね。いやー貴方、いい剣士になれますよ!」

 

「ぬぐっ! ぐ、ぬぅ! ふんっ!?」

 

 ただの竹でできている串が、ギチギチと大男の分厚い大太刀を押し返していく光景に、誰もが目を疑いました。

 顔を真赤にして抵抗する柊真ですが、みるみるうちに背がのけぞっていきます。

 

(あ、ありえねえ! この細腕に、どんだけ力がこもってるんだ!? いや、そもそもなんで竹串で鍔迫り合いができてんだよ!?)

 

 必死に押し返していた柊真ですが、仲間の助けによって危機を脱します。

 

「野郎……ッ! 柊真、手鹿織、まだいけるな!?」

 

「あ。あぁ!」

 

「当然だぜ」

 

「あははは。もう一回ですか? いいですよ、見せてくださ──」

 

 上機嫌のせいりゅー様が、龍の尻尾をふりふりと揺らし初めると、

 

「せいりゅー」

 

 きりん君の声が飛び、せいりゅー様は動きを止めてしまいました。

 

「……はやく」

 

「うー……分かりました。もう遊ぶのはやめます……」

 

 一転してテンションを急転落下させたせいりゅー様。

 ひゅひゅんっ、と竹串を回転させると、例の構えになった三人に瞬時に飛び込みます。

 

「ぬ、おッ!?」

 

 抱きつきそうなほどの至近距離まで肉薄したせいりゅー様に驚く唖涯。

 咄嗟に柄頭で小突こうとして、ふわ、っと自分の体が浮いたことに気付きます。

 

「なぁッ!?」

 

 続けて手鹿織。

 すぐ目の前でシャボン玉のように浮かんだ唖涯を見て動きが止まってしまい。

 その隙だらけの体に串が舞うと、視界が急に上下反転し始めます。

 

「鎧亜! 織手鹿!? ──ぬだっ!? がひぃっ!?」

 

 そしてオオトリの柊真に至っては、霞のようにせいりゅー様の体が通り抜けたと思えば……全身に鳥肌が立ち、足から先の感覚がなくなって倒れ込んでしまいます。

 

「──がふっ!」

 

「──げぐっ!」

 

「──ぐああぁっ!?」

 

 間髪いれず、柊真の体めがけてどさどさと落ちてくる手鹿織、唖涯。

 さながらお団子のように、三段重ねです。

 そして全員が目を回して動けなくなってしまったのでした。

 

「お粗末様でした」

 

 竹串を片手で巧みに回転させて、空想の鞘にしまう真似をするせいりゅー様。

 そんなせいりゅー様に少し遅れて、わっと歓声が飛ぶのでした。

 

 

 

 




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