おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第7話「お願いが一つあります」

「──うおおおおおッ!?」

「いやおでれーた! あのお嬢ちゃん本当にやっつけちまいやがった!」

「青紫様より凄いんじゃないか!?」

「すげえものを見た」

「破廉恥な姉ちゃんだと思ったがその強さなら納得だ!」

 

 やんややんや!

 

 せいりゅー様の周りにあっという間にできた人だかり。

 あれほど冷たかった(さげす)みの目は、一転して熱い尊敬の眼差しに変わり。

 四方八方から投げかけられる称賛に、せいりゅー様もご機嫌です。

 どーも、どーもと照れくさそうに頭を下げています。

 

「……嬢ちゃん」

 

「おや団子屋の。心配かけてしまいましたか?」

 

 人の群れをかき分けて現れたのは、ギラついた様子の団子屋の主人。

 そして、その腰辺りにしがみつくように同伴するその娘、静さんでした。

 せいりゅー様が主人を見上げて微笑むと、彼はその緊張を解き、言いづらそうに頬をかくのでした。

 

「……おみそれした。まさかあれほどまでの使い手だったとは」

 

「ふふん」

 

「嬢ちゃんに助けられちまったな。あいつらには散々煮え湯を飲まされていたんだ……感謝しかねえ」

 

「あの……私からもありがとうございました。あいつらにはほとほと困らされていたんです……!」

 

「お気になさらず。降りかかる火の粉を払ったまでですから……っと、きりん君お待たせしました」

 

「……ん」

 

 せいりゅー様が地べたに座り込んでいたきりん君を抱きかかえると、ぷちぷちと何か千切れる音がします。

 それはきりん君にまとわりついていた草を引きちぎる音でした。

 よくよく見ると座っていた場所だけ、草花がぼうぼうに生い茂っています。

 土で舗装された大通り、そのど真ん中で緑が(しげ)るわけもないのに。

 不思議なこともあるものです。

 

「え……!?」

「……おい、そいつぁ……どうしたんだ?」

 

「きりん君ですか? ……まあまあ。それは良いじゃないですか……それよりも、えーっと……かたなし……さん?」

 

「……弁慶だ」

 

 バツが悪そうにする武蔵さんに、せいりゅー様は微笑みかけます。

 

不躾(ぶしつけ)ではありますが、尋ねたい事が一つ……あとお願いが一つあります。よろしいですか?」

 

「あぁ。お前さんがたは俺らを助けてくれた。可能な限り応えよう」

 

「助かります。実は今さっき気付いたのですが……無銭だったので、奢りにして欲しいというのがひとつです」

 

「えぇー……」

 

 お静も弁慶も呆れかえりましたが、その程度なら……とうなずきました。

 

「もう一つは……この国で一番強い剣士さんと仕合──」

 

「……せいりゅー」

 

「ごほん。……何やら、この国には神をも殺す刀があると聞いておりまして……その在処(ありか)を知りたいんですよねー」

 

「神をも……」

「殺す……?」

 

 武蔵さんと静さんが顔を見合わせます。

 

「おや、存じ上げませんか? 御神体として(まつ)られていると聞きましたが」

 

「……静、知ってるか?」

 

「おとっつぁんが知らないなら私が知るわけないでしょ……うーん、あ。ニジロクさんはどう? 刀鍛冶だし。なにか知ってるかも」

 

「二字録か……あいつぁ、赤頭(せきとう)のお抱えになってから音沙汰ねえしなぁ」

 

「ほら。娘の霧さんがいるじゃない」

 

「……あぁ。確かに。だが……あの娘ぁ……なんつーか……」

 

「何? あの子の知識と熱意は間違いないじゃない」

 

「いや、腕はいいんだが……うーん」

 

「あーもう、刀打たせる訳じゃないんだから別にいいでしょ。何渋ってるの!」

 

「……」

 

 何やら揉めていますが、どうやら結論は出たようです。

 

「えっと、北の商屋通りに『相助屋(あいじょや)』っていう刀屋さんがあるから、そこに聞くと分かるかもしれないです」

 

「そうですか。情報ありがとうございます。ではでは」

 

「あっ、ちょ、ちょっと待って! 道は分かるんですか? お二人共外から来たんですよね?」

 

「……そういえばそうでしたね」

 

「そうでしたね……って」

 

 きりん君はもとより、せいりゅー様のどこか浮世離れした雰囲気に、静さんは困惑を隠せません。

 

「それなら……私で良ければ案内しましょうか?」

 

「いいんですか?」

 

「はい。霧さんとは私、友達なんです。そろそろ顔見せしようと思ってたんで丁度いいです──おとっつぁん、いいよね?」

 

「……好きにしろ」

 

「おぉ。助かります」

 

「……ありがとう」

 

「とんでもないです。えっと、青龍……さんには助けられちゃいましたからね」

 

 あなたにもね、ときりん君を優しく撫でようとした静さん。

 それをサッとせいりゅー様にインターセプトされて、ちょっとびっくりしましたが……大事にしてるんだなぁ、ぐらいにしか思わないのでした。

 

「じゃあ早速行きますか?」

 

「えぇ。時間も有限ですからね是非に……と、その前に」

 

 不意に、せいりゅー様がとことこ、と移動し始めます。

 その先にいるのは団子状態で伸びている黒三連。

 せいりゅー様はおもむろに、団子の一番上の唖涯に蹴りを入れました。

 

 どすん! 

 

 くぐもった音と共に地面に落ちた鎧亜は、うめき声のあとに目を覚まします。

 

「……ぐ、ぁ……!? お、俺ぁ……一体……! ッ!?」

 

 覗き込んでくるせいりゅー様を見て、一気に後ずさる唖涯。

 顔は真っ青になっており、まるで化け物みるような態度でした。

 

「傷つきますねえ。そんな目で見なくてもいいじゃないですか」

 

「……ッ、見るに決まってるだろ、バケモンが……! あんだけ俺達をコケにして……!」

 

「それは貴方達の腕前不足ですー。剣の道はひたすらに続くのですよ? 胡座(あぐら)をかいてはいけません」

 

「うるせえ! 剣の道どうこうじゃねえだろ、あれは異常だ! 串で剣と鍔迫り合いだ!? (まじな)いか何か使ったんだろ!?」

 

「純度100%の剣技なんですけどねえ」

 

 ヤレ卑怯だぞ、とかヤレ馬鹿にしやがって、とかギャーギャーがなり立てる唖涯。

 何をいってもあーだこーだと騒ぐので、ばちこんッ!

 せいりゅー様の目にも止まらぬビンタで、右斜下の方向で地面にめりこんでしまいました。

 

「~~~~~ッ!?!?!?!?!」

 

「うるさいですねー。お互い納得しての仕合だったんです。今になって白を黒だと言うつもりなんですか? いい加減認めてください」

 

「……せいりゅー」

 

「え? 今のダメですか? ちょっと撫でただけじゃないですか……ぁぅ。そんな目で見ないでくださいよぉ~……!」

 

 きゅんきゅん、と捨てられた子犬のようにきりん君にすがるせいりゅー様。

 そんなやり取りを見て困った様子なのは団子屋の二人。

 一体全体、せいりゅー様は唖涯に何の用があるのでしょう?

 

「最初に言ったじゃないですか。彼の生殺与奪は貰ったので活用しようかと」

 

「ほっ、本当に……!? そ、それって奴隷みたいな?」

 

「いやいやいや~、そこまでではないですよ。せいぜい買い出しとか道案内とか、いろんな雑用をやってもらったり……あとはえーっと、剣の練習台とか……身代わりにするとか?」

 

 それって奴隷とどう違うんですか?

 と、聞こうか迷った静さんでしたが、相手はあの半グレです。

 まあ自業自得だし、いっかぁ……とあっさり追求を放棄するのでした。

 

「……あの。もしよかったらなんですけど……次迷惑行為したらこの人、叩き斬って貰っていいですか?」

 

「いいですよー」

 

「お、ぉぉ……おおいちょっと待て!? 何勝手に決めてやがる!?」

 

「あ。叩き斬るんじゃなくてなます斬りの方がいいですか?」

 

「そういう意味じゃねえよ!?」

 

「じゃあ、早速ですが霧のところに向かいますね」

 

「お願いします~」

 

「……おねがい」

 

「テメェ、シカトしてんじゃ……!」

 

「うるさいです」

 

「ひでぶっ!?」

 

「……せいりゅー」

 

 こうして四人は騒がしくも、神殺しの刀を求めて鍛冶屋を目指すのでした。




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