おねショタ世直し珍道中   作:月兎耳のべる

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第8話「ちかって、へんな動きはしねえ」

 祭り囃子(ばやし)が至るところで響く、阿妻が中心街。

 その賑やかな大通りに、これまた目を引く一団がいました。

 

 七つ刀を腰と背中に()える美少女、せいりゅー様。

 その腕に抱えられるゆるふわショタ、きりん君。

 二人の前をゆく、団子屋『あおし』が看板娘、お静。

 そして首と手に縄をかけられた、最後尾を進む恩智(おんぢ)の侍、唖涯(あがい)です。

 

 見慣れぬ旅人がいるというだけで目を引くのに、どうしてあの唖涯が恥を忍んであのような真似を?

 それとも、あれで(かぶ)いているつもりなのでしょうか?

 町人のひそひそ声を左右から浴びながら、四人は確かな足取りで道を進んでいます。

 

「お二人は降臨祭が目当てじゃなかったんですね」

 

 先導していた静が言いました。

 

「えぇ。実のところ刀を探しに来た日が偶然お祭りの日でして」

 

「そうでしたか。お二人のような旅人って今日のような日にしか来ないので……てっきり」

 

「そうなんですか?」

 

 聞くところによると、阿妻の国というのは閉鎖的な国のようです。

 国境は固く門を閉ざしており、異民や旅人を受け入れることは滅多になく。

 例外的に。降臨祭の間だけはしぶしぶ受け入れますが、入国にはかなりの面倒な手続きが必要な上、規定の日以上の滞在は認められないといった感じです。

 よほど入国が難しいのでしょう。

 周りを見渡せば揃って刀を差している現地民だらけ。

 この場で刀を持たぬ人は、きりん君ただ一人のようでした。

 

「……そういえばえーっと……降臨祭、でしたか」

 

「はい! 阿妻では剣聖の『青龍』様がお目覚めになる日、と言われています。見えますか? あの山の麓に見える『蒼天の塔』が」

 

「……おおきい」

 

「大きいですねー」

 

「奥の世界樹に比べたらなんてことはないんですが、手前の山と同じくらいの高さがありますからね。で、その一番天辺に鎮座されているのが『青龍様の瞳』と呼ばれる、宝石です。お祭りの最終日は、その宝石を町の中心でお披露目するんです。す~っごくきれいですよ~! ソレ見たさに阿妻中の人が集まるんです!」

 

「ほうほう。ほほう。ほほうほう。聞きましたかきりん君。私の目ってすごい人気らしいですよ? 今なら独り占めできますけどどうです?」

 

「……いい」

 

「あ……それで……その、聞いていいかわからないんですが。あの、せいりゅーさん。貴方ってもしかして……」

 

 もじもじ、と静さんが少し恥ずかしそうにします。

 あ。これはそろそろバレたかなー、とせいりゅー様、何やらしたり顔。

 先んじてドヤ顔で待機していると、思いもしらない言葉が出てきました。

 

「もしかして……青紫実門(さねかど)様の……ご家族、でしょうか!?」

 

「はい。そうです。私が──……え?」

 

 何か思ってたんと違う。

 

「あぁやっぱり! だから『青龍様』と似た名前と格好をしてるんですね! 実門様は歴史上、阿妻でもっとも強いと言われた剣豪ですしね! 最初こそ七振りの刀ってちょっと……って思っちゃいましたが……うふふ。そんな人に会えるなんてツイてるなぁ。じゃあじゃあ諸国を修行してまわって、この国に戻ってきたんですね?!」

 

「え。あ。うーん……いや、私はですねー」

 

 ぶんぶん、と両手を握られて振られるせいりゅー様。

 どうやら実門とやらは一角の人物で、せいりゅー様の熱心な信奉者のようです。

 その方も同じ七刀流と考えてもいいでしょう。

 会ってみたい気持ちもありますが……まずはこの誤解を解くべきと考えたせいりゅー様。

 しかし説明しようとしたところですかさずきりん君、手でお口ガード。

 せいりゅー様は指をはむはむするのに夢中になって、誤解を解くのを諦めてしまうのでした。

 

「あむあむ……」

 

「あはは……せいりゅーさんはきりんさんが大好きなんですね」

 

「ええもう。食べちゃいたいくらいには……あむあむ」

 

「ホントに食べてるから説得力があります。……そういえばお二人の関係は? お子さん……って訳じゃないですよね」

 

「あむ? ……うーん。ちょっと説明が難しいですが……まあ、生涯を誓いあった旦那様でしょうかね」

 

「……ちがう」

 

「こう言ってますけど」

 

「照れてるんですよ」

 

 眠そうなきりん君を愛で続けるせいりゅー様を見て、少しうらやましそうにするお静。

 ちなみに、つい先程までぽっこりイカ腹を晒していた原始人スタイルのきりん君でしたが、流石に際どい! ということでお静さんのお古の着物を着せてもらっています。

 その顔立ちも相まって、見た目は女児のようです。

 

「──それで、あそこが鍔屋の『政次(まさつぐ)』。ここの(つば)は品揃えがよくて……令和初期に作られた林檎(りんご)鍔とかもう格好良いいんですよね……! あ、それでその隣が畳屋ね。『青峰(あおみね)』。今年70のおじいちゃんだけど腕は一人前だし、すごい寝心地がいいんですよ! あとは……あ! そうそう! 『山酒屋』! 漬物一筋300年! ここの辛子大根は絶品なんですよ~」

 

「ほほ~よいですねぇ。きりん君、辛子大根ですって」

 

「……からそう」

 

「辛いでしょうねぇ」

 

「確かに辛いんですけど、辛すぎない辛さ?って言いますか……お茶といっしょにぽりぽり、ってすると本当に美味しいんですよ。私も辛いの苦手なんですけど、山酒屋さんのは全然食べれちゃいますから!」

 

「うーん、お酒にも合いそうですねぇ……おっと、どうしましたか唖涯?」

 

 首と手首にかかった縄、それを手に持ったせいりゅー様が振り返ります。

 見ると、唖涯は顔をうつむかせて震えているようでした。

 お手洗いでも我慢しているのでしょうか?

 

「……これ、外せ」

 

「嫌ですけど」

 

「……逃げ出したりしねえ」

 

「嫌ですけど」

 

「てんめぇ……どこまで俺に恥をかかせりゃいいんだ!? この唖涯様を犬っころ扱いしやがって! いいから外せ! はーずーせッ!?」

 

 ぎゃんぎゃんぎゃわわーん!

 さながら野良犬のように吠える唖涯。

 遠巻きに見守っていた町人たちも思わず笑います。

 どうやら黒三連、周りからはあまり良くは見られていない様子。

 唖涯はそんな反応が気に食わないのか、沸騰したヤカンが如く顔が真っ赤っ赤です。

 

「だって貴方、解いたら逃げるつもりじゃないですか」

 

「逃げっ、逃げるわけねーだろ!?」

 

「ふむ。そうですか? 私には解いた瞬間に静さんを抱えて人質を取って逃走し、実家に駆け込んで私への報復を目論んでいるように思えましたが……」

 

「ぁあッ!? そ、そんな訳……!」

 

「あ、そのついでに静さんを手籠(てご)めにするんですか? やめといた方がいいですよ。静さんは事に至ったら噛みつくと思いますので」

 

「……サイテー」

 

「ちがッ!? んな事ぁ考えてねえよ! んな事ぁ考えてねえよ!?」

 

 ずばずばと、まるで未来を見ているように切り込むせいりゅー様。

 唖涯はすっかりたじたじです。

 本当にそう考えてるかはさておき、唖涯の抗議は続きます。

 

「さ、さっきも言ったけど逃げやしねえって! な!? 別に使い走りだろうが捨て駒だろうが何だってやってやる! せめて外してくれ!」

 

「だーめーでーすー。もう、刀は没収してないんですから嫌なら実力行使でどうぞ」

 

「無理に決まってるだろ!?」

 

 最初の威勢はどこ吹く風。

 串一本で制圧してくる化け物相手に、反逆する気概はないようです。

 その反骨心のなさに青龍様は失望を隠せません。

 

「実力を示せないならそのままですよー。ほら、行きますよ」

 

「ぐえ!? ひ、引っ張るんじゃねえ!」

 

 さながら病院を嫌がる犬を相手にするように、無理矢理にでも引きずっていくせいりゅー様。

 唖涯が事あるごとにきゃん! きゃん! と泣きわめく中、ソレは起きました。

 

「……おしっこ」

 

「おっと」

 

 きりん君が、尿意を覚えたようです。

 

「……このあたりに(かわや)はありますか?」

 

「えーっと……そこの長屋にあったような」

 

「ふむ……ではちょっと用を済ませてきますね」

 

 お世話するつもりなのでしょう。

 きりん君を抱えたまますたすたと長屋に向かおうとするせいりゅー様。

 その途中で、ぽい、と手綱をお静さんに渡してしまいます。

 

「え!? ちょ、ちょっとせいりゅーさん!? これは!?」

 

「ちょっと持っててください。すぐ戻るのでー」

 

「いやだって私じゃ……! あああああ……」

 

 有無を言わさず行ってしまったのを見て、ほくそ笑むのは唖涯です。

 鬼のいぬ間に洗濯とはまさにこの事。

 こうなりゃ当初の通り、お静ごとこの場を逃げて、後で叔父上に泣きついてやり返してやろう!

 なーんて考えて、二人が長屋の角を曲がるのをいまかいまかと待ち受け。

 そして視界から消えた瞬間、刀に手をかけて。

 縄をぶった切ろうとした──その時でした。

 

 ──がぎょっ。

 

「ッ!?」

 

 防げたのは奇跡、といって良かったでしょう。

 唖涯の愛刀であるもっとも巨大な太刀、黒御嵩(くろみたけ)

 その柄を顔の前に掲げたと同時に、何かが柄ごと唖涯を貫かんとしていました。

 竹串です。

 それが頑丈な鉄板と、分厚い糸巻を貫通していたのです。

 

「うぅ……唖涯さん。いや唖涯! 言っときますけど変な動きしたら私が代わりに──」

 

「しねえよ」

 

「え……?」

 

「ちかって、へんな動きはしねえ」

 

 抜こうとした太刀を静かに戻した唖涯。

 その顔は涙目になっており、額から、つぅ……と血が滴るのでした。

 




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