「……」
「……」
喧騒けたたましい町中。
至るところで様々なお面をつけた人が踊り狂う中。
お静と
二人の間にあるのは沈黙。
お静はもとより、唖涯も会話する気はないようです。
複数人で動かす竜の被り物をした
「……ねえ。もう私の家には来ないでよね」
「……」
「というか、他の人のところの押し入るのはやめて。みんな迷惑してるのよ」
「……」
「ねえ聞いてるの? それとも聞き流してるの?」
「……ちっ」
「聞いてるじゃないの……はぁ。なんでこういう事するの? 貴方、お金は持ってるじゃないの。普通に買う分なら別に文句言わないのに……」
「うるせえ」
「えーえーうるさく言うわよ。おとっつぁんの事も毎回突っかかってくるし、なんなの? アンタ、腐っても恩智なんでしょ? なら遊んでる暇なんてないでしょ?」
「剣の道なんてくだらねえ。どーせ上には敵いっこねーってんだ。アイツみてーな奴がいるなら、尚更だ」
「……呆れた。普段は勇猛果敢って言いふらしておいて、勝てない相手には尻尾を振るの?」
「へっ。少なくともお前みてーな奴には振らねえよ」
「ッ! 言ったわね……!」
「で……!? よせ、ここで抜くなって!」
「ふ~……お待たせしてすみませ……おや、何やら楽しそうですね」
切った張ったの事件が起きそうな瞬間、せいりゅー様達が戻ってきました。
腕に抱いたきりん君はどこかスッキリした顔を見せており。
なぜかついていったせいりゅー様もツヤツヤ。
その口元を布巾で拭っていました。
「……はぁ。変な所をお見せしました。それじゃ行きましょうか」
「あれ、やらないんですか? 私は止めませんが」
「結構です。興が冷めたので」
「やるならせめて縄は外してくれ!」
冷え切った空気はあっという間に霧散し、道案内が続きます。
お静は、せいりゅー様ときりん君の二人にだけ笑顔を振りまき、道すがら様々な説明を挟んでくれました。
そのお陰で二人は退屈することなく阿妻を堪能できたのでした。
そしてそして、四半刻が過ぎたころ。
とうとう一行はお目当ての店である『相助屋』という刀鍛冶屋につくことができました。
木製の大きな看板に『相助屋』と書かれた、歴史を匂わす木造平屋。
開け放たれた土間に入ると、奥に畳の小上りがあり、周りや壁一面にずらりと大小様々な刀や武器が並んでいます。
右は真槍から、左は脇差まで、あくまで和テイストな武器だけが揃っていますが、せいりゅー様はニッコニコです。
ふわ~、とまるで遊園地にきたかのように顔をほころばせています。
ただし、その武器の数々は全て……全て
そのどれもこれもが金箔や銀箔、真珠や宝石、七色の糸巻で飾られていてキラキラと輝き。
さらに可愛らしい子猫やら、小熊やらが描かれています。
実用というより模造刀にしか見えません。
お静はいつ見てもきれいだなぁとご満悦ですが、唖涯は「えー……」という顔をしています。
きりん君は……あんまり興味なさそうですね。
「霧ー、お霧ー。お客さんだよ~」
お静が奥に声をかけますが、反応はなし。
留守なのでしょうか?
それにしては奥からトンテンカンテンと、鉄を叩く音がしているようですが……。
「霧ー! きーりー! ……だめだこりゃ。ちょっと呼んでくるから待っててください!」
「はーい」
「……」
勝手知ったるなんとやら、お静は慣れた動きで家の奥へと行ってしまうのでした。
「はぁ~、いいですねいいですねぇ……こんなにオシャレした刀は初めてみますよ~」
「……趣味悪ぃ」
「唖涯は好きではないのですか?」
「こんなギラギラと目立つもんつけたのは刀じゃねえよ。大事なのは斬れ味よ。斬れ味」
「そうですか。ただこの刀、貴方のと同じくらい斬れそうですよ?」
「はぁ!? 馬鹿いってんじゃねえ、んなことが……」
花柄の装飾を施された真紅の鞘、それに収められた打刀。
それをせいりゅー様が抜くと、見事な輝きを放つ刃がお目見えです。
反りの浅い、細身で優美な太刀姿。
刃文の華麗さが遠目に見ても分かる、美しい刀です。
薄暗い部屋でも陽の光を吸ってギラリと主張するその見目に、唖涯も言葉を失っていました。
「…………ま、まあまあだな……この程度の刀ならウチにはごまんとあるぜ」
「おや。そういえば唖涯の寄生先は有名なんでしたっけ」
「寄生先言うんじゃねえ! ……知らんなら教えてやるが、恩智は先の大戦で最も武勲をあげた家さ」
「大戦……?」
「おいおい。それすら知らねえってどこから来たんだお前は……」
「あいにく世俗には
「仙人かオメーは」
「神様ですー。ねー、きりん君ー?」
「……」
ぷにぷにと頬をつついてじゃれてるのを見て、勝手にしろと黙り込んだ唖涯。
しばらく店を探っていると、どたどた! という複数の足音が響きはじめました。
「まま、待って静ちゃん……あたし、刀打だねえと……!」
「あーもう三徹してまで打つようなものじゃないでしょ! ほらお客なんだからシャキっとして!」
へひぃぃ~……と悲鳴をあげてお静さんが連れてきたのは、作務衣に身を包んだ少女でした。
頭には手ぬぐい。
長く毛に包まれた耳はだらんと垂れており。
顔は細マズルの芝犬顔。
その体はむっちり柔らかそうなぽっちゃり体系。
片手には未練がましくトンカチが握られていて、まだまだ叩きたがっているのが見て取れました。
「せいりゅーさんお待たせしました! この子が霧ちゃんです! 彼女ならきっと知ってると思いますよ!」
「へ、へへ……すす、すみません。あたいが二字録の霧です。ちょっと注文された刀を
照れ屋なのか仕切りに頬をかいていた霧。
彼女はせいりゅー様を見ると、みるみるうちにその顔を真赤にしてゆき、
「え、ええええ、すす、
──ぴゅーっ、とまた来た道を戻ってしまうのでした。
「ああああしまった、先に言っておけば……ごめんなさい、今連れ戻しますんで!」
「あっはい。……き、きりん君。私ってやっぱり破廉恥なんですか?」
「……さぁ」
せいりゅー様、流石にショックのようです。
きりん君のふかふかの頭に顔を埋めてすんすんすはすはしないと、メンタルが壊れてしまいそうです。
「……当たり前だろ。三刀である俺ですら鼻つまみもんだ。七刀なんて変態か、気狂いしかやらねえよ」
「え? ……そうなんですか?」
「お前……それすら知らなかったのかよ?」
唖涯は渋々教えてくれました。
この阿妻は剣をとーっても重要視する国です。
生まれ落ちてすぐに一刀が与えられる特異的な文化がある一方で、その一刀は一生涯大切にするものです。
つまるところ刀は妻であり、旦那であり……魂でもあります。
で、あるからこそ二刀を持つのは、忌避される行為です。
一般的には浮気者と同じくらい軽蔑されます。
ただし、多刀持ちが許される特例があります。
それは刀を使いこなした証である『
ソレを保有することです。
刀征証は、名だたる剣豪を仕合で斬り伏せるか、合戦で名を為すことによって発行される、特別な証書です。
これを持つと複数の刀を持つ
ちなみに7つの刀を保有するためには『刀征証』が7枚必要であり、一枚保持するだけで一生はかかるそれを七枚持つのは、九世かけても無理だと言われています。
前例があるとすれば、伝説の青龍様。
そして、現青紫家のトップである青紫実門だけのようです。
「つまりお前さんは変態実門を真似してるド変態の気狂い淫売女ってことだよ」
「……ド変態の、気狂い、淫売女……」
「……へんたい」
ガーン、と床に突っ伏すせいりゅー様。
降臨すればさぞ民衆からチヤホヤされると思ったら、実際の評価は淫売……あまりの落差に風邪を引きそうです。
「うぅ……剣の道にひたむきであれとは言いましたが、貞淑であれだなんて伝えてないですよぅ~……!」
「なーに言ってやがんだか……俺も変態みてーなもんだがお前には負けるな」
「……唖涯は刀征証は持ってるんですか?」
「ねえよ。あんなの取るやつの気がしれねえ」
柊真、手鹿織も同じです。
『黒三連』は言ってしまえば、中途半端に強い愚連隊なのでした。
「じゃあなんで三刀も持っているんですか。周りに変態って罵られたかったんですか?」
「んな訳ねえよ」
「では何故?」
「……」
「……」
「……俺ぁな。一刀だけじゃ我慢できねえんだよ。良い刀なら何だって振るいたいんだよ」
少し照れくさそうに独白する鎧亜に、せいりゅー様はきょとんとすると……続けて笑顔を見せるのでした。
「私もです」
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