異端者の女神達 ーGoddess of the hereticー 作:maple sugar
更新は遅いのでご了承ください
少しばかり前の話をしようと思う。
その時の俺はまだアークという巨大地下都市に住む一市民で軍に関係したことなど一切していなかった。
行きつけのバーで知り合ったニケに任務の際の地上での話を少し聞くくらいだったのだ。別に俺はニケが性癖というわけでは無いし別に他の誰でもよかったのだがその話を聞きながら地上の想像をする生活が気に入っていたのだ。
だがある時からそのニケはバーに来なくなった。長期間の任務にでも出かけているのかと考えていた矢先に彼女は地上でラプチャーに破壊されたと聞かされた。
その時の俺は泣きもせずラプチャーを憎むこともせずただただ彼女のいないバーで彼女と同じ酒を飲んだだけだった。
そして酒に酔っていた俺はとんでもなく愚かな思い付きをしてそれを実行に移してしまった。
俺まず花屋へと向かった生花など高すぎて買えないので造花をいくつか包んでもらいカバンに押し込んだ。そして一般人立ち入り禁止の区域に侵入しダストシューターを使い地上へと向かったのだった。
俺はしばらく歩きアークが見えなくなるくらいにまで離れると俺はカバンから花を出し地面に置いた。
彼女がどこで命を落としたのかは知らないが俺は彼女を弔おうとしたのだった。しかし、酔っていた俺はニケから言われたことを忘れていた。
地上は危険で特に機械生命体であるラプチャーによってニケを侵食という手段で洗脳し敵となってしまったヘレティックという存在がいて、その力はニケとはの比較にならないほどの力を有しラプチャー達を従える存在もいると。
その帰り道に俺はそのことを思い出した。
俺は確かに「ヘレティック」に出会ったのだ。
俺はそのラプチャーを従えたヘレティクに見つかり周りをラプチャーに囲まれてしまった。
「どうして人間が一人でこんなところに? ……まあいいわ」
ヘレティックは会話を自己完結させ彼女の背中にある尻尾のようなアームに巻き取られ持ち上げられる。それと同時に彼女の周りの何もない場所から無数の刃が出現する。
「こんなところに人間が来るものじゃないわよ……まあ、もう遅いけどね。会えてよかったわ」
俺は必至でもがくが当然抜け出せそうもない、というかアームの締め付けですでに体がちぎれそうである。
「それじゃあ、ごきげんよう」
(なーにがごきげんようだ。ごきげんなのお前だけだろ)
俺は心の中で悪態をついたが虚しくヘレティクの不敵な笑みとともに無数の刃が俺の体に突き刺さった。俺の体からは赤い血が飛び散りヘレティクの全身を赤く濡らした。
その時の俺は辛うじてまだ生きており意識もあった。というかすべての刃がことごとく急所を外して刺さっていた。
するとその刃が瞬く間に熱を持ち始める。恐らく相手の体内にある水分を蒸発させ破裂させる仕組みなのだろう。俺の脳裏に世紀末救世主に経絡秘孔をつかれた雑魚のようにはじけ飛ぶ未来が過った。
しかし、想像とは裏腹に巻き付いていたアームは徐々に弱まり始めた。やがてアームは力なく地面に横たわり俺の体も重力に従い地面に叩きつけられ束縛から解放された。
気づけば突き刺さった刃が少しずつ温度が落ち始め体に刺さっていた刃もまるで霧のようになって消えてしまった。どうにか俺の体はまだ人の形をとどめているようだった。
俺は何が起こったのか訳が分からなかったが、おそらく一番訳が分からなかったのはヘレティック自身なのだろう。彼女のまとっていた装甲は崩れ落ちその場に膝をついた。
「これは……あなた一体何を……」
彼女は立ち上がろうとするも逆に地面に前のめりに倒れてしまう。彼女は低い声でうなっていたがやがて痙攣しながらあたりを転げまわり声にならない奇声を放ち始める。
そしてしばらくすると今までのことが嘘のように奇声が止み仰向けの状態で目をつむったまま動かなくなってしまった。
それからどのくらい時間が経っただろうか、たくさんの血を流した俺にはその正確な時間を図ることは出来なかったがこのラプチャーだらけのこの場所では似つかわしくないほどの静寂が続いた。
その静寂を破ったのはそのヘレティクだった。
突如として目を開けゆっくりと上半身を起こした。
「あれ? ……わたし……」
彼女は自分の両手を見つめつぶやく。その声色は先ほどの攻撃的な声色とはうって変わりとても柔らかく優しげのあるものとなっていた。
すると今までおとなしくしていたラプチャーが仲間であるはずのヘレティックに銃口を向け攻撃し始めた。
(なんだ? 仲間割れか?)
破裂は免れたものの重傷を負わされた俺は首を上げその様子を見ていることしかできなかった。
しかし、そんなラプチャーの攻撃をよける様子もなくまるで何もされて居ないかのように周りを見回す。そして俺と目が合った。
「人間……? そう確か……守らなきゃ」
彼女はゆっくり立ち上がったかと思うとその場から消えてしまった。
次の瞬間、激しい爆発音と爆風が俺を襲い、さっきまで彼女を攻撃していたはずのラプチャーは跡形もなく消えてしまった。
そして俺の前に再び姿を現した彼女はゆっくりと俺に近づいてきた。動けない俺の元まで来た彼女は確かこう言ったのだ。
「血を……血をいただけないでしょうか。喉が……渇いて……」
俺はそもそも話す体力も残っていなかったが彼女は俺の返事を待つ様子もなく首筋に顔を近づけて来た。その時の首筋の激しい痛みとともに意識を失ったのだった。
「……嫌な夢だ」
俺はソファーで眠っていたらしく、体のあちこちが痛む。これは幻肢痛というやつだろうか?
「また、ベッドで寝なかったんですか?」
顔を上げると目の前には、青い髪のかわいらしい女の子が看護婦の格好をして立っていた。
彼女の名前は「ネル」
ここに来てからお世話になっている俺の担当看護師だった。
彼女は人間ではない、体が機械でできているニケと呼ばれる存在だ。
彼女は危篤状態で運ばれてきた俺を寝る間も惜しんで介護してくれた。本当に頭が上がらない。
「いいですか? あなたは「黒ひげ危機一髪」みたいに全身を串刺しにされたんですから生きてるのが奇跡なんです。本当は今も絶対安静なんですからせめて寝るときはベッドで寝てください!」
今では俺の部屋も同然となっている、研究室の一室に優しくも厳しい声が響く。
時計を見ると午前8時であり、今から新品の軍服に袖を通しと履きなれていない靴で動きづらい中で新人指揮官となった俺は任務に出向かなければならなかった。
「その前にちゃんと朝の検診の時間ですよ。はい、腕出してください。その次はシャツを上にあげてくださいね」
俺はシャツをまくり、腕や胸を見せる。そこには、数々の傷が体中のいたるところに刻まれていた。
これを見せるたびにネルは何とも言えない悲しそうな顔をする。
彼女はこの傷とずっと向き合ってきたのだ。俺が激痛で痛み止めや麻酔が聞かないほどに苦しんでいた時、彼女はずっと手を握ってくれていた。
「……ありがとう、ネル」
峠を越えて自分で歩くことが出来るようになるまで回復した時に彼女に感謝の言葉を伝えた時もあった。
「あなたは変な人ですね。普通
「そうか? 心のあるやつから心の籠ったことしてもらったんだから、お礼を言うのは当たり前だろ」
「はぁ、そうでした。あなたは戦死したニケを弔いに地上に出た変な人でしたね。失念してました」
そんな彼女の看護もあって俺の傷は抜糸するのみとなったのだった。
朝の検診を終えた俺は最後の仕上げに移る。
「最後に採血しますね」
彼女は注射器を用意し俺の腕に針を近づける。
腕に走る痛みを我慢しながら血が満タンなるのを待っていた。
ネルは血が注射器にいっぱいになったことを確認するとそれを専用の容器に移し俺に持たせてくれた。
「それじゃあ、任務から帰ってきたら抜糸ですからね。気を付けて言ってきてください」
「ああ、わかった」
俺が返事を返すと彼女は俺の両手をつかみ顔を近づけてくる。その顔つきは心配そのものだった。
「本当に気を付けてくださいね、あれは……我々の裏切り者ですよ」
「大丈夫だ、今まで何もなかったんだ。彼女の人格ももう前の状態に戻ったりしていない、必ず引き入れてみせる」
俺はそう言い残し自室を後にしたのだった。
「ご苦労様です、指揮官殿」
研究所内の厳重なゲートの前で警備をするニケに敬礼され俺もぎこちなく敬礼を返す。
廊下の先には誰もおらず長い廊下に定期的にある分厚い扉にカードキーを押しあてながらさらに奥にある任務先に向かう。
俺にこの任務を課したのはアークの副司令官の一人であるアンダーソン副司令官だ。俺を指揮官にしたのも彼である。
俺がヘレティックに襲われた後、病院のベットで目を覚ました。すると、アンダーソンが病室に入ってきて士官学校入校届を手渡してきた。有無も言わされずにそれにサインをさせられサインを確認するとカバンから別の紙を俺に手渡してきた。
紙には「士官学校卒業証書」と書かれていた。
その後、俺がヘレティックに襲われた後のことを聞いた。
アーク側が俺を認識したのは、俺が地上から出た約4時間後のこと、アーク周辺にヘレティックが現れた報告を受けた時だ。アークは防衛のために迎撃システムを稼働させニケたちを緊急出動させた。
しかし、緊急出動されたニケたちは信じられない光景を目の当たりにした。こちらに近づいてくるヘレティックは人間を背負っていたのだ。
そして彼女はその場に運んで来た人間をそっと降ろすと膝をつき両手を頭の後ろに回した。
彼女は俺の治療を条件に降伏の意思を示したのだ。つまり、俺はヘレティックに助けられたらしい。彼女はすぐに拘束され君は緊急治療室に送られることとなった。
中には手柄を急いだ指揮官もいたらしくヘレティックは降伏し隣に人間がいるにも関わらずにニケたちに攻撃支持を出したが、彼女はそのままの姿勢で俺の体を守り切ったらしい。
彼女を拘束しようとするとあっさりとそれに応じたためヘレティック用の隔離施設で厳重な監視の下で保管されることとなった。
その保管場所に自分の血液を所持して毎日通う、それが俺に最初に課せられた任務だった。
しばらく歩くとまた分厚い扉がありそれを開けると、暗く静まり返った広い部屋に出た。
広い部屋にはテーブルと椅子が用意されお茶を入れるためのポットやお菓子の用意もされていたが、ひときわ目を引くのはその部屋の中心に置かれた黒い箱だった。
俺は部屋の照明をつけその黒い箱に近づき先ほど貰った自分の血液の入った容器を黒い箱にセットする。中にあった俺の血液は黒い箱の中に吸い込まれ、しばらくすると箱の中で物音がした。
俺は黒い箱の正面に立つと首につけた別のカードキーをかざしてロックが解除されたことを確認し、レバーを回す。
黒い箱の扉がゆっくりと開くと中からメイド服を着た銀髪のニケが横たわっていた。彼女は口に黒い箱からチューブの繋がったマスクをしており、チューブには俺の血が通った後がついていた。
俺はそのマスクを外し、横たわったいるニケに声をかける。
「おはよう、フィリア」
俺の声に反応し中に入っていたニケは目を開けニッコリと微笑みながらその身を起こした。
「おはようございます、ご足労頂いて申し訳ありません」
彼女の名前は「フィリア」
俺を瀕死に追い込んだ張本人であり、瀕死の俺をアークに運んでくれた命の恩人であり、人類の裏切り者であるヘレティックだった。
主人公
最近地上で死にかけて指揮官になった。
「Rh X型」より稀血をもって生まれたため健康診断でも引っかからなかった。