飛ぶ理由を探した者   作:Jr.404

10 / 37
 ここあたりからのストーリーで一気にいろんな登場人物が現れるので書くのがかなり面倒でした。原作とは展開が間違っている所もあるかも知れませんが2次創作なので今更気にすることでもないかと割り切って書いています。


十話「暗躍する者達」

 キアナ救出による天命本部強襲作戦が終わって以降、キアナを救出することに失敗したハイペリオン陣営はキアナを探し出す為に天穹市への潜入活動を行っていた。

 成り行きでキアナの所在の在り方を握っている"灰蛇"と呼ばれる情報屋と接触する予定だったが、同じようにキアナの事を狙っている天命側の戦乙女の部隊に一歩先を越され、まさかのターゲットである灰蛇本人が排除されてしまうというアクシデントが発生。

 貴重な情報提供者の消失に万事休すかといった状況に陥ったが、そのとき偶然天穹市内で救助した義体の身体をしたサイボーグらしき少女がまさかの灰蛇関係者であったらしく、成り行きで保護した彼女から情報を聞き出そうとするも、こちらもこちらで何者かによる外部からのハッキングを受けたのか、サイボーグである彼女の脳内データバンクから情報が抜き取られ、手がかりを全て無駄にされるという散々な結果だった。

 手掛かり探しするだけで踏んだり蹴ったりと散々な結果であったが、それよりももっと厄介だったのが天命側によって殺されたはずの灰蛇が実は生きており、そのどさくさに紛れてハイペリオン側で以前保護したウェンディから摘出したデザイアジェムをその灰蛇本人にしれっと強奪されるという面倒な状況が発生。

 ハイペリオン組はこの騒動から盗まれたデザイアジェムを取り戻す為、急遽キアナを追跡するチームとデザイアジェムを取り返すチームに分かれて作戦行動を取らざるを得なくなった。

 緊急自体な為、デザイアジェムを取り戻すチームとしてブローニャとテレサ、アインシュタイン博士達が参加し、キアナを捜索するチームを芽衣、テスラ博士、そしてなんとか最低限動ける程度に回復したソーマが今回の作戦に参加し担当することになる。

 

 

 

 

 

 天穹市にて潜入活動を続けていた芽衣達は情報収集中にて同じく情報収集をしていたのか、敵対している天命側の戦乙女である、リタ・ロスヴァイセと成り行きで接触し、戦闘状態に陥った。

 自分達よりも遥かに強いはずのリタが芽衣とソーマに呆気なく倒され、武装解除に応じた事に違和感を感じ、二人は彼女の事を警戒をするも、彼女からの尋問を行った結果、とんでもない事実を知らされる事になる。

 リタの話によれば、この天穹市にて"神威製薬"と呼ばれる崩壊からの災害で被害を受けた身寄りのない人々を助け保護する慈善団体が存在しているという。

 しかし、どうやらその団体組織自体がブラフであり、神威製薬という団体を隠れ蓑にして活動している"ヨルムンガント"と呼ばれる組織が存在し、彼らは身寄りのない人々を保護することを名目に崩壊汚染を除去する解毒剤という名の聖痕遺伝子の薬剤を人々に治療と称して植え付けており、その真の目的は聖痕に適合し崩壊に対抗できる聖痕覚醒者を探し出して選定する事を目的とした「聖痕計画」を引き起こす為であるらしい。

 そしてこの計画にて聖痕覚醒者を選定する為、この天穹市にてインフラ施設のエネルギー動力として利用される高密度な崩壊エネルギー装置を爆弾装置として改造し、意図的に起爆させ、人為的な大規模な崩壊災害を引き起こすことで都市に住む大勢の人間が死ぬ代わりにその中から生き残れた聖痕適合者を見つけ出して保護回収することでこの地域での計画実験が完了するという流れであるとされている。

 リタから話された彼らによる無差別テロじみた蛮行の内容に芽衣とソーマは思わず絶句してしまう。

 自分達はただ行方不明になっているキアナを連れ返すために作戦行動に従事していたはずが世界を巻き込むレベルの事変と陰謀に巻き込まれていることに二人とも頭を抱え、ソーマに至っては状況のヤバさで思わず頭の中がパンクしそうになった。

 あまりにも壮大な話に混乱し、フリーズしているふたりをよそにリタは話を続けていく。

 

「...私が話した通り、事態は私達が思っているよりも深刻です。現にあなた方が探しているキアナさんはこの天穹市にて活動しており、先程話した情報の内容を元に彼女はその計画を止める為に今も一人でヨルムンガントの管理下である神威製薬の施設エリアに潜入しています。しかし、やはりキアナさん一人だけでは厳しくヨルムンガントの刺客である"ワタリガラス"という強敵にやられて捕まってしまっています」

 

「そんなッ!すぐにでもキアナちゃんを助け出さないと!」

 

「落ち着け、芽衣。リタさん...アンタがこのような話を素直に話した上にこちらの対応にすんなり応じるってことは、こちらに対して取引をしたいという認識でいいか?」

 

「さすがソーマさん、その通りでございます。私が提示する取引内容は崩壊エネルギーを使えるようにする為に解毒剤が必要なのですが、ご覧の通り、度なる戦闘であなた方に太刀打ち出来ないほどに弱りきってしまっています。そこで御二方には解毒剤探しに協力してもらい、その見返りとしてキアナさんの居場所を教えて差し上げますわ」

 

「それはかまわないけど天命側に何のメリットが?これも天命の作戦の内か?」

 

「...一つ付け足すのなら、この取引は私個人の意思であり、私としてもヨルムンガントが行っている計画を見過ごすことは出来ません。なので私と取引をしたことで天命側へ情報を漏らされるような不都合な問題はありません」

 

「...あなたの事を信用した訳じゃないけど、キアナちゃんを助ける為に貴方の取引を受け入れるわ。後で絶対にキアナちゃんがいる場所へ案内してもらいますから」

 

「ええ、約束いたします。では御二方、私についてきてください」

 

 リタと取引をした芽衣とソーマはリタの解毒剤探しの手助けをする為に一時的に共同で作戦行動を共にし、リタからの案内をもとに神威製薬もとい、ヨルムンガントが所有する地下施設への潜入を開始した。

 ある程度潜入できた後、リタは解毒剤のある施設の居場所へ向かう為にここでソーマ達と一旦別れる事になり、再びふたりだけになった芽衣とソーマはいくつかの妨害やヨルムンガント側の施設を連携して突破する事に成功する。

 その道中にて、なんの偶然かそこで同じく施設に潜入し、脱出に成功して単独行動をしていたキアナにバッタリと遭遇する事になる。

 

「...⁈キ、キアナちゃんッ⁈よかった無事だったのね!...本当に...本当に心配したんだから!」

 

「...芽衣、先輩?それに...ソーマ...!あっ...!」

 

 偶然な再会に想定よりも早くキアナに接触する事が出来たために芽衣は心の底から安堵し、キアナにハイペリオンへ一緒に帰るように声をかけるが肝心のキアナは芽衣とソーマに出会ってしまったことに後悔と恐怖心を抱いているような顔をしていた。特にキアナの視線の向かう先はソーマに向いており、何かを後悔したような悲しみとひどく怯えに満ちた表情であった。

 

「...キアナ?いったいどうしたんだ、一体何かあったのか?」

 

 キアナとの再会に喜ぶものの彼女の不自然な視線に気づいたソーマは一瞬分からずじまいで困惑するが後になって自分の顔や首元が見え隠れする程度に包帯が巻かれたままであったことに気づいてしまう。

 

「ね、ねぇ...その怪我って...まさか、私があのときにつけた傷痕じゃ...」

 

「ッ!...キアナっ、これは、その...」

 

 キアナが律者化した時の記憶がまだあった事に驚き、せめて隠すべきだったかと一瞬後悔するもとき既に遅く、ソーマの負傷した痛々しい傷跡を目にしてしまったキアナは大切な幼馴染を傷つけてしまった罪悪感にメンタルが耐えきれず思わず後ずさっていた。

 

「キアナちゃん!違うの...原因は私なのッ。元はと言えば私があの時ふたりの間に入ろうとしたからソーマ君は深傷を負って...だからキアナちゃんは別に悪くないわ!」

 

 どうにか芽衣が取得してキアナを連れ返そうとするも、キアナはなかなか応じてくれなかった。キアナはどうやらソーマのように自分の力のせいで大事な仲間を傷つけてしまうことにひどく恐れていたようだ。

 

「お願い...キアナちゃん、一緒にハイペリオンに帰ろう?学園長もみんなもあなたを待ってるから...」

 

 芽衣がキアナを抱き止めながらキアナにどうにか一緒にハイペリオンに帰ってもらえるように取得するものの、キアナの顔は迷いと後悔の自責の念に駆られた表情で芽衣の言葉を否定する。

 

「...もう、帰れないよ。みんなを傷つけて酷い目に合わせた私が...いったいどんな顔をしてみんなに顔を合わせられるの?何事もなかったようにみんなに笑って挨拶できるの?...ソーマまで傷つけてしまった私が、今更どうやって向かい合えるって言うの?」

 

「キアナ...」

 

 まだ十何年ほどしか生きていないまだ肉体的にも精神的にも未熟な少女である彼女にいったいどう声をかければ良いのか分からずソーマがその場を立ち尽くすしかなかった。

 キアナと同じようにまだ未熟で自分の事すらよくわかっていない今のソーマに大人のような対応でキアナの事を説得するなぞ酷なものだろう。

 気まずさと息苦しさで感情が支配されているソーマ達が立ち尽くす中、別行動をしていたはずのリタがいつの間にかこちらに戻ってきていた。

 リタの登場に思わず芽衣とソーマはキアナを守るように警戒をするが、リタは敵対の意思はないと丸腰で近づく。

 

「随分と早い到着だな、リタさん?まさか俺たちが合流するタイミングを待ってたのか?」

 

「キアナちゃんを捕まえにきたの?貴方達がキアナちゃんの力を狙っていることは分かってる。彼女を捕まえようものなら私がそれを許さない‼︎」

 

「芽衣さん、落ち着いてください。そもそも私達は取引をしたばかりの身ではありませんか。手を貸してくれた御二方を裏切る真似は致しませんわ。...実は私が御二方にヨルムンガントについて話した時に言っていた聖痕計画の実験で使われる崩壊エネルギーの爆弾装置の居場所を解毒剤を探す時に成り行きで偶然突き止める事に成功したのです。このまま放っておけばこの都市は大規模な崩壊災害を受け、大量の死傷者と犠牲者が出てしまいます。そこでヨルムンガントの恐ろしい蛮行を止めるために是非とも皆さまにご協力して貰いたいのですが...どうやら邪魔者が現れたようですね。」

 

 四人がいる施設に見慣れない崩壊獣が現れ、こちらの行手を阻んできた。こんな刺客を送ってくる相手はほぼ消去法でヨルムンガントの差し金であると間違い無いだろう。

 

「キアナさん、貴女には窮地を助けられた恩があります。ここで借りた恩を返しましょう。邪魔者は私がお相手します。...ソーマさん、貴方様の端末ユニットにエネルギー装置へ向かうためのエリアルートの情報を送信しました。突然の状況に混乱するかも知れませんが事態は一刻を争います。...どうか爆弾の解除をよろしくお願いします」

 

「...分かった、今はアンタを信じる。キアナ、芽衣、また話はあとだ。今は爆弾解除を終わらせてからにしよう」

 

「分かった。...今は躊躇っている場合じゃないし、ごめん...芽衣先輩」

 

「キアナちゃん...事が終わったら絶対にあなたの事を連れて帰るから」

 

「....」

 

 リタが新手の敵の足止めをしている間に三人は急いで崩壊エネルギー装置があるエリア施設へ急行していく。

 しかしその道中にてリタがヨルムンガントについて話していた時に出てきた刺客であるワタリガラスと呼ばれる人物に遭遇する事になる。ワタリガラスはこちらが目標へ向かっていることを監視カメラなどで確認していたのか先に待ち伏せし、こちらを襲撃してきたようだ。

 

「悪いがここは通さない。我々の計画の妨げになる者は消す、特に空の律者ともう一人の律者、お前達は危険だ、邪魔はしないでもらおう」

 

「ちっ、時間がないっていうのに!」

 

 突然の襲撃者に対応せざるを得ない状況になり、ワタリガラスを撃退する為に三人は応戦を開始する。キアナと芽衣はまだしも、ソーマは先の戦いで負傷した傷がまだ癒えていないためか十分な力を発揮出来ずに苦戦を強いられていた。

 おまけに敵は弓を用いた戦闘スタイルの為か遠距離からによる執拗な足止め攻撃をしてくる為キアナとソーマはともに射程的に短いハンドガン型の飛び道具の武器しか揃えてない為、接近戦でしか攻めようがなかった。相手の想像以上の強さに当然、近接戦闘重視の芽衣が必然的にダメージが蓄積されていくのも時間の問題だった。

 芽衣に加え、律者の力を持つキアナやハンデのあるソーマが加わっているのにも関わらずなかなか倒しきれないことに業を煮やすものの、敵が明らかに時間稼ぎの為に決定打を与えない戦術を展開していることに気づいたソーマは作戦の変更をキアナと芽衣に伝える。

 

「このままじゃ間に合わない!芽衣、キアナ、俺が直接爆弾装置を解除しにいく!今の俺じゃ足手まといにしかならないから二人が戦っている間に目的地へ急行する。幸い移動用のアンカーワイヤーを装備してきてるから近道すれば時間短縮は出来るはず!」

 

「なッ⁈一人で向かう気なの⁈無茶よ!」

 

「無茶もあるか!ここに住む大多数の人の命がかかってるんだ!別に死に急ぐ気はない、確実に全員が助かる方法を選んだだけだ!」

 

 ソーマと芽衣が言い争っている間、キアナは静かに立ち尽くしていたが彼女はそこにはいないはずの誰かに語りかけるように独り言を呟く。

 

「...委員長、一時的に私の力を解放できない?...うん分かってる、今のソーマにこれ以上無茶させられないから...うん、お願い」

 

 キアナの呟きが終わると彼女の周りから急激な崩壊エネルギーが上昇し、空の律者の力を部分的に解放すると崩壊の槍を形成し、ワタリガラスに目掛けて攻撃する。

 ワタリガラスもキアナからの攻撃に咄嗟に回避しながら反撃を試みるが先程とは比べ物にならない戦闘力の跳ね上がりに徐々に余裕がなくなり、ワタリガラスの俊敏な動きを読み取れるようになったキアナに手痛い一撃をもらってしまう。すぐに距離を取ろうとするも槍の雨で動きを止められ、動けないように体を拘束されてしまう。

 

「ぐっ、私の負けか。...さっさと殺せ」

 

「殺さないよ、アンタを殺す理由がない」

 

「...ふん、甘いな。...だが私の時間稼ぎは多方成功した。今からお前たちが急いだところで間に合いはしないさ!」

 

 予想以上にワタリガラスとの戦闘に時間がかかったことで爆弾装置を解除するために移動する時間がなくなり、今から急いでも到着した頃には起爆してしまう状況であった。

 

「...芽衣、俺は今からすぐに爆弾の解除に向かう。お前はハイペリオンに戻るんだ、今のお前じゃあ戦闘のダメージで思うように動けない。幸い俺はあまり戦いに参加できなかったからまだ動ける余力はある。だから...」

 

 キアナが律者の力でワタリガラスを無力化した事に驚くも、妨害がなくなったのを契機にソーマはすぐに爆弾装置の解除を急ぐ為に芽衣にハイペリオンへ退避するように伝える。芽衣はまだ動けるからと自分も行動を共にするとソーマに伝えるがワタリガラスを倒したキアナが芽衣とソーマの会話を遮る。

 

「芽衣先輩、私がいくよ。元はと言えば私はこの計画の騒動を止める為に潜入をしてたんだから。...ソーマもそれでいい?」

 

「...本当ならお前にも戻って欲しかったんだけど...動ける人間が一人でも多くは欲しい」

 

「なら決まりね。...芽衣先輩ごめん。これは私のやるべき事だから...」

 

 すぐに爆弾装置を解除するためにソーマとキアナはすぐにその場を後にするが戦闘でダメージを負った芽衣は二人についていくことが出来ずに置いていかれたことにひどく落ち込む。

 二人が走り去っていく姿を呆然と眺めていた芽衣は満足に動けない自分の体に悪態を吐き、悔しさが滲む。

 やはり私ではあの二人の足手まといにしかならないのかと考えていたが、彼らの言い分は間違ってないし、今はこの都市の何万人もの人命がかかっている一刻の猶予を争う状況なのだ。自分の感情を優先している場合ではないということも自身の理性が理解している。

 ただそれでも、あの二人と肩を並べて追いつくことができないという現実に感情がコントロール出来ず、苦しみと悔しさなどで感情がぐちゃぐちゃにになる。

 私はどうすればと自問自答するが、雷の律者の力もない彼女に答えてくれる者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天穹市の華やかな夜のネオンライトが輝く高層ビルが並ぶ街並みの屋上にて、ふたつの黒い人影が互いに建物へ飛び移りながら動き回る姿があった。

 キアナとソーマは互いに目標の爆弾装置がある場所へ急ぐ為にビルの上からパルクールの如く俊敏な動きでショートカット移動を行う。

 しかし当然爆弾装置を設置していた黒幕側も何の対策もしてない筈がなく、移動中の二人にネゲントロピーから接収したタイタン機甲に迎撃武装を施して攻撃を開始してきた。

 

「ああもうッ、アンタ達を相手してる暇はないの!」

 

「...やっぱり相手もすんなり通してくれないよなぁ!...って、あぶなッ⁈」

 

 タイタン機甲から発射されるミサイルをハンドガンで撃ち落とし、誘導を振り切りながらあちこちへと建物へ飛び回っているソーマに対し、キアナはソーマにヘイトが向かっているタイミングをよそにタイタン機甲同士を同士撃ちさせるように巻き込ませながら飛び移る。

 ガトリングガンを撃ち込んできたタイタン機甲の攻撃を召喚したバットを片手で回転させながら盾代わりにし、懐まで接近戦したあとネコチャームで巨大なネコの足を召喚しながらタイタン機甲を蹴り倒してビルから叩き落とす。

 落ちたタイタン機甲が最後の悪あがきに数発のミサイルを放ってくるが、他のタイタン機甲から逃げ切ったソーマがつかさずハンドガンで密集しているミサイルのひとつを狙い撃ち全弾を誘爆させる。

 

「ナイス、ソーマッ‼︎って、あッ...その...」

 

「何だキアナ、らしくないな。そこは素直に褒めてくれてもいいのに」

 

「...その、私がしたこと...本当に気にしてないの?」

 

「何が?たまたまあのとき、芽衣を守るために攻撃を受け止めただけだからある意味俺の自業自得だ。...それに攻撃したのはお前じゃなくて"空の律者"だ」

 

「...ありがとう、私を慰めてくれて...でも...」

 

「話は爆弾解除を終わらせて帰ったあとでな。お前がどんなに嫌がっても絶対に連れて帰るからな。...お前の気持ちも分かるが、むしろお前が帰ってきてくれる事をみんな心の底から思っているんだ。とりあえず急ごう」

 

 まだ迷いがあるキアナをよそに爆弾装置がある一番高いビルの信号灯内へ突入を急ぐと、そこには赤紫色に発光したエネルギー炉らしき物が見えてきた。

 お互いに目標物を発見したのを確認し、すぐに爆弾装置の解除を始めようとするがもうすでに最終段階に移行したのかエネルギー炉から崩壊エネルギーの余波が溢れ出していた。

 

「まずい⁈崩壊エネルギーが!」

 

 崩壊エネルギーの余波に近づけずにいるソーマをよそにキアナは力ずくでエネルギー炉に掴まろうとする。

 

「⁈キアナよせッ‼︎体が侵食を受けてしまうぞ!死ぬ気か⁈」

 

「ぐっ、...これは私の...義務だからッ!だから、私が止めないと...ッ」

 

 キアナが掴んでいる指先から崩壊の侵食がじわじわと進行して変色していき、体を徐々に蝕んでいく。このままではキアナの体は持たず命の危機に瀕してしまうといった危険な状態であった。

 それでもなりふり構わず諦めずに解除を試みようとするキアナに居ても立っても居られなくなったソーマは自身も命の危険を顧みずキアナと同じようにエネルギー炉に掴まる。

 

「⁈ソーマやめてッ‼︎アンタまでやられたら私は...!」

 

「このバカッ‼︎バカキアナ‼︎なにひとりで抱え込んでいるんだ⁈お前は正義のヒーローになったつもりか⁈なんで周りを頼らない?まさか自分がまわりを傷つけたからって理由で罪滅ぼしとして自己犠牲に走ってるのか⁈」

 

「それはッ...」

 

「頼むから一人で死ににいく真似はするな!...お前を失って喜ぶ奴なんて誰一人いない!もっと自分を大切にしてくれ...お願いだッ...!」

 

 彼からの本気の怒りを乗せた本心の言葉をぶつけられた事でキアナは余裕のなかった精神が真っ白になり、落ち着いてきたのか冷静になって死に急ぐことは無くなったものの、現状このエネルギー炉をどうするかを対処しようにも、もうすでに解除が出来なくなってしまった以上どうすればいいか分からず時間が迫っていた。

 この状況をどうすればいいかと苦難苦闘してるとき、ソーマが自分から提案を下す。

 

「...こうなったら俺が律者の力を強引に引き出してエネルギー炉ごと上空に押し飛ばす。...できるかどうか分からないがやるしかない!」

 

 ソーマからの提案にはっと気づいたキアナは自身の精神に宿ってるフカの意識体に自分の空の律者の力で一気に押し出すことは出来ないかとを提案し、意識体のフカも同じ事を考えていたのか同じやり方で実行する事になる。

 

(私も同じ様な方法を考えていました。キアナ、私がシーリンの意識を抑え込むので今のうちに律者の力を解放してください!)

 

 フカの指示を元に空の律者の力を解放したキアナは例の羽を生やした特徴的なドレス姿に変身する。空の律者の姿に変わったキアナにソーマは思わずギョッとして身構えそうになるがそれとは別にそれ以上に気になることがあった。

 

「キ、キアナ、お前...意識は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だよ。委員長が私の暴走を抑えてくれてるから」

 

「委員長?...さっきキアナや俺以外の声が聞こえた気がしたんだが...フカの事だったのか?...でも本人は一体どこに?」

 

「え⁈委員長の声が聞こえるの⁈...ってそんな事聞いてる場合じゃない、ソーマは準備できそう⁈」

 

「今やっている‼︎」

 

 必死にソーマは自分の意識を集中させるとようやく初めて空の律者と対峙した時に見せた角と尻尾を生やした黒い鎧服を着た律者の姿に変わる。

 

「っ、...はぁ...よしできた‼︎不安定だけど何とか飛ぶことは出来る‼︎」

 

「ならいくよ!...っ、今‼︎」

 

 律者の力を解放し、二人がかりで空に押し上げようとするが、かなりの大質量と重さを誇るエネルギー炉の為か持ち上げるだけでも苦戦を強いられた。

 必死にお互いに押し上げようとしている最中、不意に二人の肩を優しく押し出す存在を感じる。自分達意外には誰もいないはずなのにあざかやな赤い髪をしたよく慣れ親しんだ懐かしくも長い事顔を合わせられなかった人物が見えた気がした。

 

(姫子...先生...?)

 

 二人とも自分達の先生であり教官でもある姫子らしき存在を感じ取るが、押し出されたおかげかビルの信号灯から上空へ押し出すことに成功する。そのままの勢いで律者の力を用いて互いにどんどんと上空へ押し出して飛んでいく。

 

「ぐうぅぅっ、あと...もう少しッ‼︎」

 

 上昇していくうちに雲の海を超え、成層圏まで突破したあと薄っすらとした暗い宇宙の夜空がはっきりと見えてくる。エネルギー炉の爆発段階が限界点を超えてきたのを確認し、お互いにタイミングを見計らって全力で上空へと押し飛ばす。

 

「ここで押し飛ばすよ!3、2、1...ソーマ今‼︎」

 

「うおぉぉっ、らあぁぁー!!!」

 

 全力で上空へ押し飛ばした後、時間差でエネルギー炉から眩しい光が迸り、押し出してからゆっくりと地上へと落ちていく二人を眩しい光で包んでいく。

 爆発限界点を迎えたタイミングでソーマは崩壊エネルギーの余波がくるのを予見し、咄嗟にキアナを守る様にエネルギー炉から背を向けて彼女を抱き寄せ、余波を喰らわないように被爆覚悟で守る。

 

「ッ⁈ソーマまっ」

 

 キアナがソーマに言い切る前にエネルギー余波から大規模な崩壊エネルギー波の爆発が起きる。地球の一部大陸からから大きな光の渦が広がっていき、まるで光の膜が広がっていくかの様に上空全体を包んでいく。

 二人の咄嗟の起点で起こした咄嗟の判断により数十万もの人間が救われ、ヨルムンガントによる聖痕計画の実験が阻止される結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球から小さくも眩しい光の余波が宇宙からもはっきりと見え、その地球から輝く崩壊エネルギーの光の光景を月面にて静かに眺めていた存在がいた。

 その者は白く純白な美しいドレスを纏い、ベールの様な被り物から覗くその顔は目元が黒いアイマスクの様な布で覆われ、表情が窺え知れない。

 

「この感じ...そう...もう新しい世代に受け継がれたのね。...でも私のやる事は変わらない、...ねぇ、そうでしょ"ヘレナ"。あなたの跡を継いだ子は果たして私に打ち勝つ事はできるのかしら。...近いうちに迎えにくるわ"聖黒"(私の半身)...」

 




・灰蛇

 ヨルムンガントに所属する合成員。情報屋を営んでいるが、実は割と組織内でかなり重要な役割をになっており、何なら業務の五割以上を彼が担っているという有能ぶり。とある学者によって作られたアンドロイド的な存在らしいが詳しいことは不明で特徴的な仮面とよく傘を手にしている姿が特徴。本編で真っ先に犠牲になったがどう考えてもこんな有能な人材が真っ先に出てやられいい存在ではないと思う。



・ワタリガラス(ナターシャ・キオラ)

 元崩壊災害孤児であり、現在はヨルムンガントの幹部の一人を担当している。律者の力をもつキアナやソーマを相手に苦戦させたとんでもない強者。



・神威製薬

 崩壊による災害での難民を助けて保護や治療を行っている慈善団体らしいが、その正体はヨルムンガントと呼ばれる組織を隠れ蓑にするためのブラフであり、裏側で世界を揺るがすとんでもない計画を進行させている。



・ヨルムンガント

 神威製薬の名を装って聖痕計画を密かに実行させている組織。前文明の技術を持っており、組織としての強さは世界の覇権を握っている天命すらも上回る。

・聖痕計画

 本編にて明らかにされたヨルムンガントの計画。聖痕適合者を探すために医療団体を装って聖痕遺伝子体の投与を一般市民レベルまで浸透させている。現段階では聖痕適合者を選定して集めているらしいが何を企んでいるのかは不明。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。