不可思議な人の気配が一切ない黄金に輝く虚空の空間の世界の中で、二人組の人物がお互いに向き合う様にただずんでいた。ひとりは金髪の長髪をした不適な笑みを浮かぶ怪しげな男性、"オットー・アポカリプス"と対するもうひとりは白髪の髪に碧眼の瞳をした男性、ヨルムンガントの尊主なるリーダーである"ケビン・カスラナ"であった。
「...ボクはいつかキミとこうして出会う事になる事は予想していたよ。それでキミはボクに対して戦線布告しに来たのかい?」
「それは違う。ヨルムンガントは天命の敵になるつもりはない...ここに来た目的はただ一つ、聖痕計画に協力してもらうためだ」
「...要求には相応の代価が必要だ。いったい何をもってして、ボクの承諾を引き換えに出すつもりだい?」
「君の承諾はいらない。服従か、滅びか、君に与えられた選択肢はこの二つだけだ」
オットーの話を切り捨てる様に強硬な姿勢で交渉どころか脅迫同然な要求をケビンと呼ばれる男は自身のペースで容赦なく話を突きつけいき、余計な話は聞くつもりなはいと言わんばかりの対応を見せてきた。
彼らがこのような形で対話の場を設けるようになったことの発端は、天命が管轄する北アフリカにある天命の実験室がヨルムンガントによって襲撃されたのが事の始まりであった。
襲撃されはしたものの、不思議なことに必要以上に破壊活動はせず、わざと居座るように襲撃をしてきた為、実験任務に従事していたS級戦乙女のビアンカ・デュランダル・アタジナが応戦を開始し、ヨルムンガントのリーダーであるケビンまで現れたことにオットーはただ事ではないと判断、天命の大主教としてヨルムンガントのトップとの対談を取り次ぐろう事になった。
ヨルムンガントのリーダーであるケビンからの天命への要求は聖痕計画に協力してもらう為に服従することであり、拒否すれば滅ぼすという実質的な脅迫であった。
しかし天命側のトップであるオットーはこの世界の大部分は天命が維持しており、対立し争う事になれば、どちらとも詰んでしまう事になるとケビンに伝える。
そこでオットーはヨルムンガントの話を聞き入れる代価として、ケビンが持つ第二の鍵と呼ばれるアイテム、永劫の鍵・千界一乗を求めた。
「...それを求めるという事は虚数の樹に行きたいのか?」
「その通り。キミが持っている永劫の鍵の本来の運用目的は空の律者の力を再現する...つまりは虚数の樹への扉を開くことだ」
「...その結果を分かっているのか?」
「分かっているさ。キミも分かっているだろう?お互いに分かっているからこそ、この取引に価値はあるんだ」
オットーからの要求にケビンは沈黙したままになるが時間が経ち、重い腰を上げるように話を受け入れる事になる。オットーは自身の要求が通った事に歓喜し、対等な交渉がうまくいったことに喜びながら順調に話を進めていく。
「最後に確認したい事がある」
取引が終わった後にケビンから確認したい話を聞いてきた事にオットーは一瞬訝しむも話を聞いてみる。
「何だ?まだ何か足りないことでもあるのかい?」
「いや違う。...オットー、キミは"対極の律者"という存在を知っているか?」
「...ああ、知っているとも。しかしそれを聞いてどうする気だ?いや、そもそも
「決まっている。"聖黒"なる方だ。...改めて聞きたい、今"聖黒"の代を受け継いでいるのは誰なんだ?」
体の痛みに意識が覚醒し、目を覚ますと見慣れない天井...いや見たことのある天井と部屋が見えた。自分がよく知るハイペリオンの中の部屋とは少し違うことに気づきながら痛む体を起こし、周りを見渡す。
「...ここは...ハイペリオン、じゃないな。たしか...ヘリオス号の船だったような」
部屋の周りを眺めていると部屋の自動ドアから人が入ってきた。入室してきたのは赤毛のツインテールと赤縁のメガネが特徴の女性、テスラ博士であった。
「ああ、起きたのね。体の調子はどう?ソーマ」
「...痛ててッ、ぜ、全身が軽く痛むけど、一応大丈夫だと思う。...えーと、それでテスラ博士、自分が寝ている間に何が?」
「あんまり無理はしないで。中和剤を投与してるとはいえ、アンタは体をもろ全身を崩壊エネルギーに被曝してるんだから今こうやって生存して動けてるのが奇跡なくらいよ。やっぱり...律者の力を宿してるからなのかしら?まぁとりあえず説明はするわ...」
テスラ博士の話によると、自分はキアナとともに天穹市にてヨルムンガントが設置した崩壊エネルギー爆弾を解除する為、お互いに律者の力を用いて爆弾を空高く成層圏に押し飛ばし、臨界点を迎えた爆弾の爆発の光に包まれ、そのまま二人揃って気絶したまま空から落ちてきたらしい。ハイペリオン側で急いで回収に向かったらしいがキアナだけは天命側の戦乙女であるデュランダルという少女に先を越されて回収されてしまったという。
ただ彼女はキアナと同じように気絶したままの自分に対して現場に駆けつけていた芽衣にその身柄をそのまま明け渡し、それと一緒に崩壊中和剤を渡されたという。
任務の為、キアナの方の身柄は渡せないと引き換えに渡した自分自身の身柄に対してデュランダルは彼の事をよろしく頼むと伝えながら去って行ったという。
自分の体が崩壊エネルギーでかなり被曝しているのにも関わらず、大分症状がマシなのも渡された崩壊中和剤のおかげらしい。
その後は負傷した自分を回収した後、ヘリオス号でテスラ博士達とともにキアナの追跡を行った結果、今現在はかつて崩壊災害で都市が沈没した長空市に着き、つい最近そこでキアナの生存を確認したという。
今は芽衣がキアナの身柄の保護に向かっている最中ということもあり、今は本艦にはいないらしい。
「そうか...いろいろあったけどようやくキアナを回収出来そうなんだな」
「...ええそうね。ハァ...ホント、キアナを救出するための作戦が気がついたらとんでもない遠回り道をするハメになったわ。」
「ああ、テスラ博士もお疲れ様。本当に大変だったけど目的は達成できそうだし、もう大丈夫だろう」
「...えぇ、確かに何とかキアナの救出の問題は解決したでしょうね。...ただ、アンタの方は...いえ、何でもないわ」
「?」
こちらを伺う博士の顔はあまり浮かない表情をしていたが、しばらくは安静にしてるように釘を刺され再び2度目の病室のベッドにお世話になる。しばらくして芽衣がキアナを保護してヘリオス号へ帰還してきたのを通信で確認し、ある程度回復した体で彼女達の元へ向かう。
ヘリオスにもうひとつある病室のルームに入るとちょうどベッドで寝かされてるキアナと、キアナの側にいる芽衣が対面してたのが確認できる。
「キアナ!無事だったか⁈」
「あっ...ソーマ。...うん、大丈夫...心配かけてごめん。もう大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないわよ、バカ。...何でひとりで天穹市に隠れてたの?私達に相談もせずに、助けを求めようともしなかったの⁈」
「...心配かけてごめん、芽衣先輩、ソーマ。...それと、ただいま」
「キアナちゃん...えぇ、おかえり...本当に、おかえりなさい」
「...キアナ。もう、二度とひとりでこんな無茶をしないでくれ、約束だ」
「うん、本当にごめん。それとありがとうソーマ。あの時、私を助けてくれて」
「気にするな。あの時に咄嗟に庇っただけた。お互い五体満足なだけ運が良かったよ」
キアナの行動に芽衣は自分達に助けを求めなかったことに強く叱るも、キアナが無事に帰って来れたことに安心する。
ただ、いつものキアナなら生意気な感じで元気に声をあげてくるのが当たり前だったが今の彼女は覇気がなく、不気味なくらいに落ち着いており、まるで何かを悟ったかのような印象だった。
ただ何はともあれ、ようやくキアナも帰ってきて、問題事が解決出来たとやっと安心することができた。
その後、ヘリオス号が長空市の近くで待機してたこともあり、キアナの要望で廃墟した長空市に降り立ち、周りを探索していた。
三人で長空市を散歩しながらお互いに昔の思い出を思い出しながら街並みを眺めていると、学園らしき廃墟した建物を見つけた。
当時の長空市にはソーマとキアナが聖フレイア学園に通う前に通っていた学園が存在してた場所があり、同時に芽衣に初めてであった場所でもあった。
しかし、あのとき芽衣が諸事情の要因で彼女の体内に埋まっていた雷の律者が覚醒してしまったことがきっかけで第三次崩壊が発生し、都市が崩壊する要因にもなった。不幸な事ではあるが少なくとも芽衣自身の責任とは思えないし、そもそも彼女に律者コアを実験で無理矢理移植させた悪意ある大人たちが元凶であり、その結果がこのような惨劇を生み出してしまったのだ。
ヘリオス号に帰還した後、お腹を空かせたキアナが芽衣の手料理が食べたいとリクエストしてきたので芽衣が手の込んだパプリカカレーを提供するが自分自身が臓器を損傷して普通の食事が出来ない事がこの時にキアナにバレてしまい、彼女に本気で心配され泣かれてしまった。
芽衣とふたりで必死に宥めたが、芽衣本人も自分のせいで傷を負う原因を作った負い目がある事を思い出してしまい、ふたり揃って懺悔と謝罪を何度もこちらにしてきた時は本当に地獄のような状況だった。
何とかしてふたりを宥めつつ、本当に気にしてないし恨んでいないと何とか納得させたが、完全に納得してくれなかったのか常に三人で行動する事を条件に突きつけられてしまった。
ただ、さすがに寝る時まで病室のベッドに来て一緒に寝ようとするのは本気でやめて欲しかった。
最近、廃墟した長空市にて数日待機しているとある日を境に長空市上空にて異変が現れるようになっていた。
それとは別に芽衣が艦からいなくなり、それに続いてキアナもいなくなるというアクシデントも起きていた事を知る。怪我人の為、しばらく寝ていたのでようやく気付くのが遅れてしまった。
嫌な予感を感じた自分は彼女達の行方を追う為にヘリオス号からこっそりと抜け出し、長空市に降り立ったあと、ふたりの行方を必死に探しまわる。
天穹市の時以降からあのふたりの関係の雲行きが怪しく、何かがきっかけでぶつかりそうな状態だった。キアナは自分自身が危険な力を持ち、爆弾のような存在だからといって、自分達を遠ざけようとし、自身の命の事を顧みずに危険な事に突き進んでしまう。
対する芽衣はそのキアナが傷つき、自身の命を削って死にかけていく状況を自分の手で止める事が出来ないことに苦しんでいたようだった。自分もキアナが自身の身の危険を顧みずに周りの人を助けようとしてたことに手を焼いていたが、ソーマ自身も芽衣が思い詰める原因のひとつを作っているのでキアナの事を強くは責められない。
みんなを守る為に全てを愛するキアナと何よりも個人を愛する芽衣。考え方が噛み合わないこのふたりが衝突し合ってない事を祈りつつ、廃墟した長空市の中を走り回るが、その道中で見慣れない人物に遭遇する。
警戒しながらこちらの道を塞ぐように立ってきた人物を観察する。改めて見ると目の前にいる人物は白髪の碧眼の男性であり、ほんのりとだかキアナと似た面影を感じた。
「アンタは、一体...?」
「初めましてになるか...僕は"ケビン・カスラナ"。ヨルムンガントのリーダーを務めている者だ」
ヨルムンガントの頭領だと聞いて思わず身構えるが、彼の名乗った名前からカスラナの姓が出てきた事にも驚く。
「...カスラナ?まさかキアナの親族なのか?」
「確かにそういう意味では間違ってないが少し違う。まあそれに関してはどうでもいい。君は今、芽衣とキアナを探しているようだな」
「...何故アンタが彼女達を知っているのかは置いといて、いったい何が要件だ?」
「君の継承する律者の力を確認する為...
「なっ⁈」
その台詞を最後にその男、ケビンは片手に燃え盛る炎の大剣を構えてソーマに向かって一瞬で詰め寄り、一撃を振りかざす。いきなりの攻撃に驚き咄嗟に出撃時に装備してきた武器の槍でケビンの一撃を防ぐ。
(グゥゥッ⁈い、一撃が重い‼︎...武器の耐久が持たない...!)
想像以上に重い一撃で防いだ槍がもうすでにヒビが入り、使い物にならなくなってくる。
それにあのケビンという男が持つ炎の大剣はとてつもない熱量を放っており、下手に喰らえば無事では済まないということが嫌でも分かってしまう。
必死にケビンからの攻撃を防ぐがついにダメージと熱量で手にしていた槍が柄から真っ二つに割れて溶けてしまう。
「...何故力を解放しない?ソーマ・アストラ。...いや、対極の律者"聖黒"」
「な、何を言ってる⁈意味が分からない!」
「本気を出さないならここで君を殺すしかない。さぁ、戦え!」
武器を失ったあとにケビンから襲いかかる炎の大剣に恐怖を抱いて本能的に反応したのかソーマの周りから淡い光と風圧が迸り、律者の姿になる。振りかざしたケビンの炎の大剣を律者化したソーマが持つ開花審槍の大槍で受け止め、ケビンごと力で押し返す。
「ようやく解放したか。...だがまだ足りない」
「ハァ...ハァ...アンタは、アンタは...一体何なんだッ⁈」
「いきなり攻撃したお詫びに答えよう。...僕は先程紹介した様にヨルムンガントのリーダーであるが、同時にかつて5万年以上昔の前文明にて崩壊と戦ったかつての英雄達"火を追う十三英傑"のひとりでもある。...かつての戦いに敗れた彼等の想いを受け継ぐ為にも僕は聖痕計画を完遂させる為に崩壊に立ち向かう。それが僕の行動原理だ」
「火を追う...十三英傑?...それに聖痕計画って...確かリタが言っていた...」
「ある程度は知っているみたいだな。ああそうだ、聖痕計画はかつて僕達が崩壊に打ち勝つ為に立案した計画のひとつだ。そして君が目覚めさせた律者の力はかつて僕達、火を追う十三英傑の仲間のひとりである"ヘレナ"、彼女が律者としてエリシアと並んで初めて人類に味方して戦った存在、それがさっきも言った対極の律者"聖黒"だ」
「俺のこの律者の正体が、対極の律者"聖黒"...だというのか?」
ケビンから自身の覚醒した律者の正体らしき内容を教えられ、突然の真実に混乱させられるもケビン自身がまだ戦う意志を止めていない事を察してまた武器を構え直す。
「ああそうだ。君はかつて僕達の戦友とともに戦い、そしてそのまま散っていったヘレナの力を継承した...それは君がその力を持つのに相応しい者として選ばれたからだ。だからこそ君はその力を使いこなし、ヘレナを倒したもうひとりの対極の律者、"聖白"に打ち勝たなくてはならない」
ケビンはソーマに自身の力の重要性を語りながら己の武器を構えたまま、ソーマに問う。
「君はその力に選ばれた以上、自分のモノにしなくてはならない。君はもうすでに世界に関わる崩壊との戦いに否応にでも巻き込まれる事になる。崩壊側の手に落ちない為にも、僕に抗って見せろ、ソーマ・アストラ」
ケビンはそう告げたあと炎の大剣、天火聖裁の力を解放させ、ソーマに襲いかかってきた。
ケビンの天火聖裁とソーマの開花審槍がぶつかり合い、激しく灼熱の炎と爆風を撒き散らしていく。
海水で沈没した長空市のビルの屋上にてふたりの戦士が激しくお互いの得物をぶつけ合いながら対峙していく。ケビンの容赦のない剣技をいなし続けながらカウンターを決めていくソーマに対し、その大槍の刺突をケビンは巧みに払いのけながら斬り返してくる。
「ケビン!アンタがそう言った理由で俺に立ち塞がるのは分かった!だか何故このタイミングなんだ⁈今俺はキアナと芽衣の居場所を突き止める為に彼女達を捜索してたのに何故このタイミングで邪魔をする⁈彼女達を見つけてからでも遅くはない筈だ!」
「君はキアナ...彼女が複数の律者コアを身に宿しているのを知っているか?」
「...ああ、キアナから律者化した時に芽衣から雷の律者コアを抜き取られたせいで元からあった二つの律者コアを合わせて三個あると聞いた」
「今その状態の彼女はコアから溢れ出す崩壊の力による負荷と空の律者の自我への侵食に同時に押し潰されかけ、彼女自身の命を蝕み削っていってる」
「そんなの分かってるッ!...けど他にどうしろと!」
「我々ヨルムンガントはその問題を解決する為の手段がある。...それが彼女、雷電芽衣が鍵だ」
「芽衣が?それはどういう...まさか...」
「鋭いな、そうだ。彼女は過去に雷の律者のコアを移植されている。そして一度律者の力を身に宿した彼女が空の律者から生きたままコンケストジェムを回収されたがその時点で彼女の体はすでに普通の人間とは違う構造に変化している。つまり、律者コアを抜き取られたとはいえ、空の律者と同じようなことを逆にやることも不可能ではないということだ」
ケビンの話が事実なら今の芽衣はもうすでにキアナから律者コアを奪い返してる可能性があると言う事になる。
確かにキアナの律者コアを芽衣がひとつ奪い返すだけでもキアナの負担はかなり小さくなる筈だ。その結果、キアナを蝕む崩壊の侵食が収まり、これ以上命が削られることはなくなる。
しかし、果たして本当にそんな事が可能なのかとそう考えていると、少し離れたビルの群の一部から雲が張り裂け、大きな雷鳴が迸るのが見えた。あそこは確かかつての自分達が通っていた学園があった場所のはず...。
「雷の律者に覚醒した芽衣がキアナとぶつかり合っているみたいだな。...芽衣はキアナを救う為、我々ヨルムンガントに加わり、キアナとは離別する道を選んだ。だかこれはキアナだけでなくソーマ、君をこれ以上傷付かせない為にも強くなる事を彼女が望んだからだ」
「...」
お互いに会話を織り交ぜながら交戦をするものの、しばらくして途中からケビンは戦闘を止め、此方に振り向いてきた。
「...これぐらいで十分だな、まだ見極め足りないが十分だ。その力をいつでも使いこなせることを身に刻んでおくんだ。君に襲いかかる脅威は遠からず必ず現れ、牙を剥く。...さぁ、行くといい。彼女と...芽衣と対話し、本心を聞いてくるといい」
すんなりと道を譲ったケビンに対して警戒するも、彼の側を通り抜け廃墟となった学園のある校舎へと向かう。彼の語る言葉通りならキアナは芽衣に力負けしてしまったという捉え方になる。彼女達の身が心配になりつつもただ今は足を急がせる事しかなかった。
学園の屋上まで飛び移り着地した後、周りを見渡すとそこにはキアナが屋上のフェンスに背中を預ける様にグッタリと気絶しており、長い二振りの白髪の三つ編みは解け、広がる様に散らばっていた。
そのそばではキアナの姿を見つめる様に立って眺めている芽衣らしき人物の姿が見えた。
ソーマの視界に映る彼女の姿は以前とは別物であり、鋭い眼光に額上から長く赤い2本の角を生やしており、自身の周りには巨大な籠手の様な第二の腕を漂わせ、巨大な太刀を握っていた。身に付けている衣装もまさに武者鎧と鬼を連想させる外観であり、普段の彼女からは想像以上にかなりの威圧感を感じた。
「...芽衣、なのか?」
「...来てしまったのね」
長い黒紫色の髪をたなびかせ、此方を振り向く芽衣の顔は物悲しそうな雰囲気で覚悟を決めた様な無表情な感情を織り交ぜた顔をしていた。
「...ソーマ君、あなたがその姿で現れたという事はヨルムンガントの誰かが妨害をしてきたのかしら?」
「...ああ...ケビン、彼に対面したよ。その時に芽衣がやろうとした事を聞いた...」
「なら...私がこの後、どうする気かも分かってるのでしょう?」
「ああ、分かってる...けど本当にこんなやり方しか無かったのか?キアナと...こんな形で別れることになってまで...」
「...ごめんなさい。私がヨルムンガントに入る道を選んだのはキアナちゃんを死なせない為...そしてこれ以上背負わせない為にもこうするしか道は無かった。...けどキアナちゃんだけじゃない、ソーマ君、あなたの事を守る事にも繋がるの」
「俺の...事を?」
「...あなたはキアナちゃんが無茶をするたびに、彼女を守るためによく体を張っていた。それは私に対しても同じだった...その結果は私自身の愚かさであなたに深い傷を負わせた。...だから...私は私自身を許せなかったの」
芽衣から話される話を聞き、やはりというべきかまだその時のことをトラウマの様に抱え込んで後悔していたようだ。責任感が強く、とても心優しい性格の彼女の事だ、自分の行動のせいで彼に消えない傷を負わせた事が何よりも許せなかったのだろう。今の自分のままでは間違いなく彼を守るどころかキアナのように死地に追いやるような未来を迎えることになってしまうと。
そう考えた芽衣は、この理不尽な世界の脅威からキアナとソーマを守る為に自身も律者の力を継承し、自分から進んで修羅の道を歩む事を決めた。
「あなたに止められようとも...私は自分がするべき道を辞めるつもりはないわ」
「...考えは変わらないんだな...」
「...えぇ」
芽衣の覚悟の決まった改めることのない決断にソーマは顔を曇らせるがしばらくして彼女の覚悟を受け入れ、芽衣に絶対に無事でいる事を約束として懇願した。
「なら...これだけは約束して欲しい。...いつでもいい、絶対に、生きて...帰ってきてほしい...この約束を受け入れてくれるのなら...芽衣の決断を受け入れる」
「......保証はできないけど...分かったわ...約束する。...ありがとう、私の決断を受け入れてくれて」
芽衣は背中を向けるとキアナちゃんのことをお願いと伝え、その後、雷の力で瞬間移動し、近くを飛んできた使い魔らしき赤い龍に飛び乗った後、見えなくなるまで空高く飛び去っていった。
「芽衣...」
芽衣が飛び去った屋上後には悲壮感に溢れた表情で彼女の名前を呟き、空を見届けるソーマの姿と、芽衣との戦いに負けて悲しみに滲んだ表情で気絶したままフェンスの壁にもたれかかったキアナの姿だけが残っていた。
このストーリー展開で芽衣とキアナがぶつかり合い芽衣がキアナの命を救う為にハイペリオン側から離別するシーンなんですが、ここでキアナと芽衣を原作通りにぶつけ合わせるか、それとも芽衣とソーマをぶつけ合わせるか迷いました。
ただ芽衣にソーマをぶつけたらキアナが芽衣の本心を聞くシーンがなくなり、勝手に裏切ったふうになってしまうので、ソーマには代わりにケビンをぶつけ合わせるようにしました。
ケビンが語るソーマの正体とそれに関連する存在や敵に関しては登場するのはまだもう少し先の話になります。