飛ぶ理由を探した者   作:Jr.404

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 ここから本格的にソーマの律者の力の正体に加え、支配の律者と手を組んでいる聖白と呼ばれるキアナやソーマによく似た顔をしたもうひとりの対極の律者との対面する独自展開ストーリーが始まります。
 何故聖白と呼ばれる彼女がソーマ個人に執着して狙っているのかそれらの真実が語られます。
 


十五話「五万年の呪いと真実」

ーブローニャ視点ー

 

 ソルトレイク基地での戦闘訓練を終えたブローニャはその当日、師範であるヴェルト教授とともにネゲントロピーの設立記念パーティーの視察を行っていた最中に想定外の事態に偶然巻き込まれる形になりました。

 きっかけはネゲントロピー設立60周年パーティーで展示されていた出し物であった崩壊獣のレプリカであろう標本物を見つけたときでした。

 明らかに不自然なほどリアルな崩壊獣の標本を見つけたブローニャ達は違和感を感じ、この展示物に対して何処から流通したか関係者に問い詰めましたが、そのタイミングで標本の崩壊獣が動き出したことで現場は騒然となり、パニックになった周りの民間人が必死に逃げ回る中、ヴェルト教授と共に動き出した崩壊獣の鎮圧に当たりました。

 

 想定外なトラブル事件を解決した後、ここ最近世界各地で多発している怪しい事件と今回起きた騒動が調べていくうちに酷似している所が見られた為、原因究明の為、ヴェルト教授はソルトレイク基地へ帰還し、ブローニャは現地調査を行う形になりました。

 現地調査の最中で先に用事で街へと向かっていたゼーレの安否を一旦確かめる為に連絡と捜索をしていたのですが、ここではゼーレからの通信が繋がらないのか全く連絡が取れませんでした。

 その後、ブローニャは現地調査中に怪しげな人形のアイテムを偶然見つけたのですがその人形はどうやらゼーレとソーマ兄さんが回収してきた例の人形の残骸と全く酷似した物だった事が分かりました。

 しかし、この人形を手にしてしまったことで罠に引っ掛かり、ブローニャはその人形の持つなんらかの力によって謎の空間に無理矢理引き込まれてしまいました。

 まさかあの人形にこんな隠しトラップがあったとは...。

 

 謎の空間に迷い込み警戒するも、冷静に対処しながらまだ姿を見せない敵からの刺客を適度に撃退して進んでいくと、ブローニャと同じようにこの怪しげな空間に無理矢理連れてこられたのか、奇跡的にゼーレと接触することができました。

 

「ゼーレ、無事ですかッ⁈」

 

「ブローニャお姉ちゃん⁈何でここに?それよりもブローニャお姉ちゃん、ソーマお兄ちゃんともうひとりのゼーレを助けてほしいの‼︎私を逃す為にふたりは...」

 

 ゼーレの方は焦ったように焦燥しており、この空間に連れてこられた時に怪しげな人形達に襲われ、この怪しげな空間のせいで満足に力が出せないゼーレに変わってソーマ兄さんとゼーレの内なるもうひとりのゼーレが代わりに殿を勤めている状況だったようです。

 

「ふたりを助けたいのは山々ですが、ゼーレを抱えたまま戦うのはリスクが高い。だからまずはゼーレをこの空間から脱出させてからです」

 

「ごめんなさい、ブローニャお姉ちゃん。ゼーレがもっと戦えてたら...」

 

「気にしないでください。ゼーレはやれることをやっただけなのだから恥じることはありません。ここから無事に脱出することがふたりの助けになります。さぁ急いで!」

 

 

 

 

 

 

ーおっと、悪いけどここからさきは逃がさないよ"理の律者"さん?ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間から響く第三者の声に思わずブローニャ達は背中合わせで周りを警戒すると、ゼーレが逃げてきた先にあった巨大な門が開き出し、入り口からブローニャやゼーレが以前拾ってきた人形とよく似た少女型の等身大の人形が現れた。

 

ー隣にいるゼーレって子にも紹介したけどもう一度改めて紹介しよう...ようこそ、支配劇場へ。私達は"支配の律者"であり、"千人律者"でもある、君達を絶望させる者だ。歓迎しよう、盛大にね‼︎ー

 

「そんな⁉︎ソーマお兄ちゃん達がさっきまで戦ってたはずなのに!」

 

ーあぁ、あのおふたりさんかい?彼らには会いたがっているお客さん先に送らせてもらったよ。今頃、対極の律者同士でフィナーレに勤しんでいるだろうねぇ♪ー

 

 実力のあるソーマ達が呆気なく別の空間に飛ばされたことに相手の底知れぬ危険性に警戒するが、それよりもこの人形達から逃れる方法を模索しなくてはならないとブローニャは必死に自身の思考をフル回転させながらの優先順位を立てる。

 

ーさぁ、君の力を奪わせてもらうよ?理の律者さん♪ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーキアナ視点ー

 

 都市にて発生したネゲントロピー製タイタン機甲達の暴走、度重なる人々の謎の失踪、不幸な人身事故の多発等、明らかに不自然な事件の多発化によりネゲントロピーのソルトレイク基地にて急ピッチで情報収集が行われた。

 ソーマとゼーレのふたりが持ち帰った例の怪しげな破損した人形の残骸からの成分などを調べた結果、この件には崩壊関連...又は強大な力を持つ律者による仕業の可能性があるとアインシュタイン博士達はそう結論づけた。

 以前発生した天命本部での律者騒動に加え、珊瑚島での氷の律者の出現等、新たな律者が出現するタイミングのピークがかなり短くなってきているケースが観測されてきた為、十分あり得ることだということだと判断したのだとか。

 しかも同時に複数の事件や騒動を起こしている形跡から、かつての前文明にて似たような形で人類を貶めた存在であるとされる"支配の律者"と酷似している可能性が高いと前文明での文献資料やデータとの照合にて結論づけられた。

 

 当日、私たちは新たな律者の出現に対してなかなか姿を表さない黒幕を捕まえる為にいくつかの候補案として囮作戦を採用することにした。

 最初は私が提案した囮作戦内容に博士達が強く反対したが、空の律者の力をもつ私自身を餌にする事で相手の律者がこちらの力に興味を抱いて可能性があることを考慮して敵が接触を図ってくるかもしれないと考えたからだ。

 実際、この事件騒動での調査中に同じく別行動にて動いていたゼーレとソーマのふたりは途中から突如音信不通になり、彼らの居場所すら判明できなくなるというアクシデントが発生した。

 これを聞いた私は、ゼーレだけでなくソーマまで揃って行方が分からなくなったことに酷く取り乱しかけてしまった。

 かつて芽衣先輩が私のことを助ける為にとはいえ、自ら自分の元を去ってしまったことに対する軽いトラウマが今回の幼馴染が事件に巻き込まれ、行方不明になってしまった事を引き金に再び精神的恐怖が掘り返してしまう。

 私はなんとかふらつきそうになる意識と精神を落ち着かせる為に目を瞑りながら深呼吸して余計なことを考えないように精神を何とか落ち着かさせようとした。

 

 ...大丈夫だ、彼なら無事であるはず...。これまでもお互いに危険な戦いを何度も乗り越えてきた経験があるのだ。それに今回はゼーレ諸共行方が分からなくなったということは彼らが一緒に行動してる可能性もある。もしかすると彼らで協力して何とか対処してるのかも知れない。

 ...そう、大丈夫なはずなのだ。死ぬようなことは、ないはず...。

 

 

(そう...大丈夫、だよね。ソーマの事だからどうせ意外な手段で律者から逃げ出してケロッとした顔で帰ってくるはず...なのに...何でこんなに、不安が落ち着かないの?まるで何か最悪な予兆をイメージしてしまうような...お願いだから、無事でいて!ソーマッ...!)

 

 今回の作戦で律者を誘き寄せる為にネゲントロピー北極基地の無人エリアにある電磁障壁という名のトラップを仕掛ける事にした。敵は複数人を攫っていったことから律者は複数体いることを考慮し、キアナを囮に空の律者の力に興味を持った律者を基地のエリアトラップにまでおびき寄せ、そこでトラップを発動して一網打尽にするというやり方で対処することになったが、果たしてそううまく作戦が成功するかは分からず、私含めて皆、緊張が解けずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーソーマ視点ー

 

 ...はっきりと言って事態は最悪な状況であった。都市でゼーレと共に持ち主の落とし物を送り届ける為、居場所を聞き込み調査で特定することに成功するが持ち主が住んでいるマンションには本人はおらず、実はもうすでに数ヶ月前に故人になっていたという衝撃と、そこで偶然見つけた怪しげなチケットに壊れかけの小さな人形を回収したというなんとも後味悪い結果だけが残っていた。

 しかし、今回の件以外にも実は似たような人が亡くなる事件や失踪するなどといった不自然な事件や騒動が近年増えており、今回のこの事件もそれらに関係している可能性が高いということらしく、大体が事件が起きた後に一定の確率で自分達が回収してきた人形とよく似たアイテムが近くに落ちているということが共通しているとされる。

 その為、予定を変更して、ソーマとゼーレは事件の騒動の情報集めに参加することになり、都市にて調査を始める事になったが探索中に人の気配が段々と減ってきている事に気付き、お互いに身構えて警戒をしながら慎重にその場を戻るように移動をするが、気がついた時には全く見覚えのない巨大な西洋風の建造物がそびえ立つ薄暗い空間世界に迷い込んでしまう。

 周りには薄っすらと見えるワイヤーのような糸から吊り下げられた人形もどきや遺跡の残骸が浮かんでおり、明らかにヤバい存在に目をつけられ誘い込まれたのだと気付かされる。

 

「ゼーレ、この場から離れないように!ここで孤立してしまったらまずいことになる」

 

「う、うん、分かった!でもソーマお兄ちゃん、ゼーレ達ってさっきまで街中を探索してたはずなのにこんな会場みたいな所なんて通ってないはずないだよね?」

 

 ゼーレが戸惑うのも無理もない。先程まで街中を探索して周りを眺めていたら

いつのまにか、急に目に見える景色がガラッと変わってしまったのだ。戸惑うなというのも無理な話である。

 

「...あまり考えたくはないが、俺達は何者かに目をつけられてこの空間に連れてこられた可能性が高い。最初は幻術の類かと思ったけど残念ながらここは本物の空間みたいだ。...クソ、しくじったな」

 

「ど、どうしよう。で、出口なんてあるのかな?」

 

「それは分からない。とにかくここから移動しないとどうしようもない。...とりあえずゼーレ、ここを出る為に探索するから絶対俺の元から離れないように」

 

「うん、ちょっと怖いけど...わかった、よろしくねソーマお兄ちゃん!」

 

 ゼーレはそう言いながら手招きしてきたソーマの手を繋ぐ。いきなり手を繋いできたゼーレの行動にソーマは思わず驚いて目を丸くするが、対するゼーレはどうかしたの?と無自覚な表情でコチラを見ていたので兄妹が仲良く手を繋ぐようなものかと無理矢理認識を改めることにした。

 

「あー...そういう意味じゃないんだけど...まぁ、いっか...」

 

 お互いに手を繋いだままの状態で遺跡の空間を移動していく。その道中、ゼーレの中にいるもうひとりの人格である黒ゼーレがゼーレに呼びかけた。

 

(何やってるのよ、バカゼーレ?あなたがいきなりソーマの手を握ってきたせいで彼、ビックリしてたわよ?)

 

(え?わ、私何か変なことしたのかな?...こうした方がお互いに離れ離れにならないかな〜思ったんだけど違うの?)

 

(ハァ...あのねぇ、手を繋ぐのは親しい人や兄妹のような関係のある人がすることなの!...そ、それに...こ...恋人とかが...やる行為...だし

 

(え?なんかいったの?もうひとりの私?)

 

(な、なんでもない!もう勝手にしなさいバカゼーレ!)

 

(?)

 

 ゼーレと黒ゼーレとの心の中の会話をよそにソーマは足を進めていくとしばらくしていきなり歩みを止める。

 

「...?ソーマお兄ちゃん、どうしたの?」

 

「ゼーレ...武器を構えろ、敵のお出ましだ」

 

 そう言いきった後、ソーマは既に律者の力を解放し自身の対極の陰月の槍を構えていた。慌ててゼーレも大鎌を構えると、目の前にある巨大な西洋風の正門が勝手に開き、一体の人影が目の前に現れる。

 その人影のシルエットがはっきりしてくると見えてきたのは自分達が回収してきた壊れかけの小さな人形をそのまま人間サイズにしたような姿の人形?そのものの姿だった。人形は薄っすらと見えるワイヤーのような糸で動いており、滑らかにバレリーナのような仕草でお辞儀をしてきた。

 

ーご機嫌よう、御二方。そしてようこそ、"支配劇場"へ♪ー

 

 いきなり現れた謎の人形からの歓迎の対応に困惑するも、ソーマは人形に警戒しながら質問を投げかける。

 

「ご挨拶どうも。...それで?アンタがこの空間世界の主か?」

 

ーそのとおり‼︎私達がこの空間世界の真なる支配者さ♪紹介が遅れたねぇ、私達は"支配の律者"という者さ。まぁ、"千人律者"とも呼ばれてるけど好きに呼んでくれたまえー

 

「それでその支配の律者様は一体なんのご用で俺達をここに呼び込んだんだ?ゼーレはともかく、俺の正体くらいは分かっているんだろう?わざわざ連れてきた理由が理解できないな」

 

ーまぁまぁ、落ち着きなよ。別に理由もなく連れてきたわけじゃないよ?ゼーレって子に用があるのはもちろんだけど...ソーマ・アストラ、私達の"本命はキミ"さ。ー

 

「俺?なんだ、俺の力を狙ってるってことか?」

 

ーへえ、流石に鋭いねぇ?けどざ〜んねん!そうじゃないんだなぁこれが。たしかにキミの力を狙っているのは半分正解だけど、残り半分はある御方からの要望での招待さ♪紹介しよう、もうひとりの対極の律者である"聖白"様のご降臨だ‼︎ー

 

 支配の律者からの説明のあと、自分達に紹介したい人がいるとその人物の名前を告げると支配劇場の奥側からツカツカと足音を立てながら例の支配の律者が紹介する人物が現れた。

 

「...?え、キアナ?」

 

 ソーマが初めてその姿を目にした時に出た感想はまさにキアナに瓜二つな顔と言った感じであった。

 白い白銀のバトルドレスに白いベールのような被り物を身につけており、腰か背中あたりから羽根のようなものを生やしていた。片目が隠れかけるように伸びた前髪から覗くその瞳は偶然なのか律者化したソーマのものと良く似ていた。

 支配の律者が対極の律者と言っていたのと以前ケビンから説明していた自身と同じ呼び名を持つ律者がいるとは聞いていたがまさか目の前にいるこのキアナによく似た人物が例の律者なのだという認識が理性だけでなく本能的も理解出来てしまう。

 

「ソ、ソーマお兄ちゃん、な...なんだかあの人キアナに似ていない?」

 

「...俺も最初は何故キアナがここに...って思ってたけど、"アレ"は違う。明らかに別の存在だ。それに...本能的にヤバさを感じる。さっきの支配の律者とは全く別物の不気味さとヤバさだ」

 

「そ、そんな...!」

 

 明らかに危険な雰囲気を放つ律者達が二体も集まり、しかも支配の律者は自分自身を私達と言ったのだ。間違いなく複数体潜んでいると言ってもいい。わざわざここまで空間ごと念入りにおびき寄せて来た感じからして明らかに連中は確実にこちらを確実に殺しに掛かろうとしている。

 明らかに不利だと感じたソーマはゼーレを引き連れて支配劇場を離れようとするが支配の律者は自身の眷属の人形達を呼び出し、こちらの逃げ道を塞ぐ。

 

ーおっと、何故逃げるんだイ?ー

 

ーニガサナイ、ニガサナイ!生贄ガサナイ‼︎ー

 

 最初に相対した人形は一体だったはずがいつの間にか足場を埋め尽くさんとばかりの大量の人形達が周りを囲みながら降り立ってソーマとゼーレを完全包囲していた。

 

「クソッ、囲まれた!」

 

 此方を捕まえようと飛びかかってくる人形をソーマは素早く手にした槍で振り払うように相手を薙ぎ払う。中身がスカスカな人形の為か簡単にバラバラに壊れてしまうがいかんせん相手の数が多く、次から次へと人形達が襲いかかる。

 

「ゼーレ、大丈夫か⁈」

 

 人形に囲まれて応戦している間、ソーマが同じように応戦してるゼーレを気にかけるがゼーレ本人は何故かいつもと違っておぼつかない足取りで戦っていた。まるで普段の力をまともに発揮できずにいるような状態に見え、明らかになんらかの異常をきたしていた。

 

「あ、あれ?何故か力が出せないよ!な、なんで⁈」

 

(ゼーレ危ない‼︎)

 

 ゼーレの身に危険が迫ってきた為にもうひとりの人格のゼーレ、黒ゼーレが表に飛び出す。迫り来る人形達を召喚した巨大な禍々しい巨腕の鉤爪の武器で切り裂く。

 

「⁈もうひとりの私!私の体から出てこれたの⁈」

 

【さぁね?分からないけど今は好都合よ!ゼーレ、あなたはまともに戦えない状態なんだからさっさと引きなさい!】

 

「で、でも!」

 

【このままじゃみんな仲良くアイツらにやられるわよ?いいの?】

 

「...ごめんなさい。私が戦えないばかりに...!」

 

 この空間のせいで謎の制約を受けているのかまともに力を発揮できないゼーレを守るため、黒ゼーレが前衛を張るがやはり守りながら戦うのはかなり厳しく、防戦一方だった。

 拉致が開かないと悟ったソーマは戦えずに防御を取っているゼーレを咄嗟に片手で掴み、肩に抱える様に持ち上げる。

 

「ゼーレ...先に謝っておく、ごめん。...すごく怖い思いをするかもしれないけど...ここで全滅してしまうよりはマシだ。...お前を門の外に投げ出すからしっかりと受け身を取ってくれッ‼︎」

 

「え⁈ま、待ってソーマお兄」

 

「そりゃあぁッー‼︎」

 

 素早く人形の群れの頭の上を足場にして飛び乗りながら器用に回避し、門の入り口近くまで来るとタイミングを見計らい、門の入り口に目がげてゼーレが受け身を取れる程度の高さで勢いよく投げ飛ばす。

 

「きゃあああッー‼︎」

 

 ソーマに投げ飛ばされたことに思わず悲鳴を上げるも、咄嗟にすぐに受け身を取り、地面を転がりながらもなんとか起き上がる。

 

「絶対に逃げ延びてくれ!ゼーレ‼︎」

 

 そう言ったが最後、支配劇場の門の扉がソーマの言葉をかき消すような音を立てて閉じてしまう。

 

「ソーマお兄ちゃんッ!もうひとりの私ッ!...私、どうしたら...ッ」

 

 空間世界に迷いながらも自身を逃がしてくれたソーマと黒ゼーレの思いを無駄にしない為にも今のゼーレにはこの場を離れて助けを呼ぶしか道がなかった。

 

 

 門の中で人形達に囲まれたソーマともうひとりのゼーレ、黒ゼーレはなんとか苦戦しながらも人形達を撃破していき辛うじて善戦していた。

 

「...咄嗟に投げ飛ばしてしまったが責めないのか?えーと、黒っぽい...ゼーレ?」

 

【何故私が責めるのかしら、ソーマ?】

 

「いや、君の事は初めて見るから、時々ゼーレが何故かひとりで呟いている事があったから気のせいかと思ったけどまさか二重人格的な人物がいたとは思わなかったんだ。...だからまぁ、大事にしているゼーレを乱暴に扱ってしまったことを恨んでるんじゃないかって...」

 

【はぁ...別に責めてないわよ。少なくともあなたがゼーレの命を守るために咄嗟に取った行動みたいだし、こんな事で責めてたら私、ただのめんどくさい奴になっちゃうじゃない。...私ってそんな性格キツそうに見えるのかしら?】

 

「い、いや、そういう訳じゃない。ただ君の事はよく知らないからどう接すれば良いかわからないってだけで...」

 

【そう...ならあなたにはゼーレ共々、私達の事をもう少し知ってほしいわね?...できる事なら私の事を知る者としてゼーレとの仲を仲介してもらえると助かるのだけれど...】

 

「え?ゼーレと共にいるのにうまく思いを伝えられてないのか?...もしや、口下手だったり?」

 

【ナニか言ったかしら?ソーマお・兄・様?】

 

「いいえ!何も!」

 

 ふたりで呑気なやり取りしている間にも支配の律者の人形達は攻撃の手段を変えてきたのか腕を剣や銃器に換装して襲いかかってくる。数は多いものの、ソーマと黒ゼーレとの連携技により最初の防戦状態よりもかなり動きが良くなっていた。

 大量の雑魚狩りのような戦いが続き、熱くなってきたタイミングで今まで黙っていた人物が剛を煮やしたのかようやく口を開いてきた。

 

「...いったい、いつまで遊んでいるつもり?支配の律者?」

 

 口を開いた声の主は戦闘になる前に対面したキアナによく似た顔をしたソーマと同じ対極の律者と呼ばれた"聖白"と呼ばれた少女だった。水を差された事に不満そうな感情を抱いた支配の律者達は彼女に不服を漏らす。

 

ーちぇっ、もう少し遊ばせてよ!ー

 

ーどうせ生贄になるんだからいくら壊してもいいでしょ?ー

 

ー生贄!生贄!ハカイ!ハカイ!ー

 

「黙りなさい。...そもそもアナタ達、このふたり以外にも何人か支配劇場に捕まえてきてるんでしょう?ならそれで我慢しなさい。どれだけ強欲なのかしら」

 

ー...ハイハーイ、分かりましたよ聖白様ー

 

ーまだ遊び足りないなぁ!ー

 

ーフフク!フフク!ー

 

 聖白と呼ばれる少女の命令で止められた後、大人しくなった支配の律者達が離れていくと聖白と呼ばれた少女は此方に手をかざして言葉を告げてくる。

 

「"聖黒"、アナタの相手は私よ。場所を変えさせてもらうわ」

 

 手を振りかざすと先程までの支配劇場がひび割れし、ちょうどソーマと黒ゼーレがいた足場までお互いを引き裂く様に地面が真っ二つに別れてしまう。

 

「⁈まずい、捕まれゼーレッ‼︎」

 

 崩れ出した足場から咄嗟に黒ゼーレを助ける為に彼女の手を掴むが目に見えない重力の力に阻まれ、掴んだ手同士が限界を迎えて離れてしまい、いつの間にかお互いの姿が見えなくなってしまう。

 

【ッ、ソーマ‼︎】

 

 黒ゼーレが叫ぶも、彼女の視界からはもうソーマを捉え切ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ッ、ここは...?」

 

 意識を覚まし、周りを見渡すと今まであったはずの支配劇場が崩れ去り、周りにいた人形達もいつの間にか一体も見当たらず、さっきまであったはずの巨大な門が消えてなくなった代わりに薄暗い支配劇場から一転して宇宙のような夜空と広大に見渡せる古代ギリシャの闘技場を思わせる様な白い遺跡後が現れた。

 そばにいたはずの黒ゼーレの姿も見当たらず焦っていると、その闘技場の向かい側から静かな足音を立てて歩いてくる人物に気付く。振り向くと先程この場を大きく模様替えしてきた元凶である聖白の少女がこちらに近付いてきた。

 

「これでようやく二人っきりね、聖黒。...アナタに会うのに随分と時間がかかったわ」

 

「アンタは...いったい、何なんだ?...あの支配の律者共が言ってた事といい、俺と同じ対極の律者でも違う名前で呼ばれてて...その上、俺の事を聖黒と呼ば張り...分からない事だらけだ...」

 

「そうね...たしかにアナタは生まれてきて人の子供の代までしか生きてないから分からないのも無理ないわ。ちょうどいい、私、いえ...私達の正体がいったいなんなのかをここで説明してあげる」

 

 

 

 

 

 

 ...聖白と呼ばれる少女から語られた話の内容と真実はあまりにも現実味が無く、壮大でこの世界の大きな根幹に関わるようなとんでもない内容であった。

 その内容によれば、どうやらソーマ達を含めて律者という存在はこの地球という星に"崩壊現象"という人類の文明を破壊するシステムを植え付けた張本人である外宇宙から来た上位的文明創造体なる異星人のような存在によって創り出されたモノであった。

 どうやら自分達人類はその存在が目指している"ある目的"を達成させる為に創り出された[箱庭=地球]であり、そして人類または律者という存在はその為の実験体であるという事らしい。

 そして"その目的"というのが、創造主にとって自分自身と対等となり得る上位的存在を生み出す事であり、その壮大な実験の為に現人類には崩壊という厄災の試練を負わせ、その力に適応できるかという実験を行った。

 そしてより人類が文明を発展させていくとそれに呼応して崩壊獣以外に更に圧倒的上位なる存在である律者と呼ばれる破壊者を生まれ、それらが人類を滅ぼしにかかって来ているという事である。

 とんでもない話だが文明の進化を促すためにこのような試練を与えてきたという話が事実というならソーマ達にとってはとんでもなく地球規模の傍迷惑な話になる。

 実際にこの目的と試練の為にかつて前文明では、ケビンやフカ達の世代がその戦いで地球規模の絶滅戦争をしていて沢山の仲間を失った事になっている。

 更に厄介なのが人類側に決定打を与えてきた律者と呼ばれる存在は崩壊の繭という母体になるものによって生み出される為、元を潰さない限り無限のように湧くという厄介さを持つというのだ。

 

「...まぁ、こんな感じかしら?」

 

「つまりなんだ?俺たちを生み出した異星人が、同族を創り出す為に差し出された生贄って事か?...それがホントなら、クソみたいな話だッ...!」

 

「...そうね、アナタ達にとってはあまりにも残酷で理不尽な話ね。でも私やアナタに関する話になってくるとまた話が違ってくるわ」

 

「?...どういう事だ?アンタは、崩壊の繭から生まれてきたんじゃないのか?」

 

「正確には違うわ。...アナタと私は正しく言えば"崩壊の繭"で自動的に生み出されたわけじゃなく、"お母様"...私達の生みの親で異星人である"建造主に直接一から念入りに創り出された"の」

 

「一から念入りに、だと...?」

 

 ソーマと聖白を生み出した生みの親はどうやらなかなかの物好きなのか、自分達を直接"崩壊の繭"ではなく、全て一から自身の手で創り出したというらしい。

 その影響のせいなのか彼らは他の律者達とは違い、強い破壊衝動などによる自我の崩壊が全く無く、代わりに人間らしい理性を持ちながら高度な崩壊エネルギーを扱う権能と呼ばれる力を扱うことができるらしい。

 そして肝心のソーマ達の力の根源の正体であるが、どうやら"聖黒"と呼ばれる自身の律者の力の本質は"虚数なる陰の力"つまりは人類などの知的生命体が認識できない向こう側の力を扱う権能であるらしく、虚数空間なるものが自分にとっての家でもあり、人類から見る一種のオカルトや怪異と呼ばれる現象などのような非科学的な物理法則をした現象を司る力であるとされるようだ。

 対する聖白は実数なる力、つまりはこの世界で目にすることができる物理法則の物質的権能を持ち同時にこの世界の法則の秩序を司っているものでもあり、陽=実数(現実そのものに干渉可能)なる力の持ち主である。つまりは彼女の力でいくらでも世界の法則の力を狂わし、任意に変化させる事ができるというのだ。

 そして自分達が生み出された真の目的は虚数空間にて発生する崩壊という現象を聖白と聖黒と呼ばれる二体の制御ユニットによってその規模を調整し、人類文明の繁栄と淘汰を管理することであるとされる。

 聖黒は虚数空間にある崩壊エネルギーを制御し、管理する力を持つ一方、聖白は逆に崩壊エネルギーを現実世界へ放出し、適度に規模を管理しつつも、人類の存続を手助けしたり必要な選定を行ったりするという正に創造主が行うような管理タスクを担当させられている。

 そしてそれらの話が事実なら今ここにいる聖黒の人格の人間性が高ければ高いほど崩壊現象の頻度を減少させ、これ以上の災厄を抑える事が可能となるという結論となる。だからこそソーマはその創造主のやり方に疑問を抱く。

 

「...その話が事実なら、なぜアンタの生みの親はわざわざ聖黒の力を持つ律者コアを人類側の手に簡単に渡ってしまう様なマネをしたんだ。聖黒と聖白の力がまとまれば自分達で都合よく管理できるものを...」

 

「さぁ...何故なんでしょうね?でも人類側に聖黒のコアを送ったのもお母様が人類に課す試練に対する延命処置のようなものなのかもね。お母様は別に本気で人類を滅ぼすつもりはないらしいし、人類に対して現状の困難を乗り越えてくれるとか、期待を望んでいるんじゃないかしら?」

 

「...自分の生みの親なのに随分と軽薄な反応だな?」

 

 聖白の自身の生みの親の考えに対して他人事のように淡白な反応を返している事に疑問をぶつけるが、彼女は今までの無表情な表情から一変し、苦痛と憎しみに駆られたような怨念の感情をあらわにしてきた。

 

「軽薄...?ええ、ええ、そうでしょうねッ!私を生み出しながらその役割を与えた後しばらくしてやる事に飽きたのかフラッと突然いなくなったわ。おまけに私に対する管理の役割だけは絶対放棄するなと押し付けたまま五万年前から外宇宙の彼方へ去っていったわ」

 

「ッ...それは...ご愁傷様、としかいいようがないな。...けど何故そんなに忌々しそうにしているんだ?」

 

「私が話した内容で私達は他の律者達とは違う形で創り出されたと言ったでしょう?今の私の人格はある人間を元に創り出されたもの...つまりは良くも悪くも中庸的で中立的な感性をしている。...さぁここで問題よ、他の律者と違って理性的で人間よりの人格を持った律者が果たして管理のためとはいえ、積極的に元同族を滅ぼすことに積極的になれるかしら?しかも五万年という途方もない時間を過ごして?」

 

 彼女からの突然振られた問題の問いにソーマは思わず絶句してしまう。聖白の話の通りだというなら彼女は人間らしい人格を保ったまま、五万年という膨大な時間の中で自らの手で使命を受けて人間を滅ぼし続けていた事になる。...想像するだけでおぞましいなんて言葉ですら生温いものだろうと想像つく。

 

「...とてつもない生き地獄だった。...人間らしい人格を持って生まれたせいで元同胞を手にかけ続けるこの苦痛と、苦しみを、味わい続けた...。何度も自害を試みようともしたこともあったッ!...けど、お母様は...いやアイツは私が自害出来ないように事前に不死の制約をかけた!おまけに私を月から出てこれないように縛り付けるというおまけでねッ!...想像できる?人の自我のまま遠越しに見える地球に住む人々を、家族を、友人を、母なる人を、子供達を!...望むも望まないも関係無しに殺すように操られ、これを延々と続ける生き地獄をッ‼️」

 

「ッ‼︎...」

 

 彼女は五万年もの間、人間のような自我を保ったまま、人類を崩壊の意思として滅ぼし続けるという宿命を押し付けられたまま死ぬことも出来ずに生き地獄を味わい続けた。

 何故聖白を生み出した創造主は彼女に人間のような自我を植え付け、このような役割を任せたのか?何故彼女だけその役回りを押し付けられたのか?...残念ながらその問いはすでに外宇宙を去ってしまった創造主という神のみぞ知る永遠に分かることのない真相としかいいようがない。

 

「だから私は気が遠くなるような悪夢から解放される為に、自分自身が完全に壊れてしまう前に...自身を終わらせる為の手段を長い時間をかけて探し求めた...それがアナタよ、"聖黒"」

 

「俺...?」

 

「...そう、アナタよ。聖黒であるアナタの力と私の聖白の力はお互いに干渉し合うことで虚数空間での崩壊エネルギーや現実の法則性、概念に変化を与えて干渉させることができる。その奇跡で"虚数の樹"に介入することすら可能なの...。そこで虚数の樹で私に与えられた不死の制約を解除しようと考えた。...でも干渉出来るだけで操られるほどのものじゃないし入ることすら出来ない。...ならどうするか?簡単よ。アナタの..."聖黒の律者コアを取り入れる"ことよ」

 

「一体どうやって...」

 

「聖黒...いいえ、ソーマ。..."アナタを殺すことよ"」

 

「⁈」

 

 聖白は自身の生き地獄から解放される為に干渉が困難な"虚数の樹"へ向かう為にソーマの律者コアが必要だということで対極の律者がお互いのコアを合わせることにより容易に干渉が可能となり虚数の樹にて自身の不死の制約を解除させることができると理解したのだ。

 しかもタチの悪いことにソーマの身に宿している聖黒の律者コアは幼少期に研究施設で心臓部付近に移植されていた影響で自身の心臓と完全に一体化...つまりは新たな心臓の役割を果たしており、ソーマの律者コアを抜き取る=ソーマ自身の"死"を意味する。

 以前、空の律者が律者化したソーマから律者コアを抜き取ろうとしても全くできなかった原因のひとつが正にコレであった。

 

「アナタに恨みも憎しみもないけど、もうこれ以上苦しみ続けるのも耐えきれない...私が私でいられるうちに...私が死ぬ為に...アナタも死んでッ!」

 

 相手がこちらを連れ去ってきた真の目的が自身の不死制約の呪いをなくし、死ぬ為に必要な代価としてソーマの律者コアを...心臓をもらう為に死んでくれという死刑宣告に等しい通告を告げ、聖白の律者は己の武器をソーマに向ける。

 

「まさか大胆な死刑宣告を告げられるなんてな...。アンタの事は本当に気の毒としかいいようがないけど、だからといってはいどうぞと命を差し出す訳ないってことも当然分かってるよな?」

 

「ええ、アナタの反応は至極真っ当な反応よ。だから全力で抗って欲しいの...私を全力で殺すつもりで...」

 

「そんなもの...当たり前だッ‼︎」

 

 訳の分からない空間世界に飛ばされ、ゼーレ達とも分断され、孤独な戦いを強いられる事になったソーマは今もなお失踪事件の解決に全力で当たっているハイペリオンやネゲントロピーの仲間達が助けにきてくれることを信じて聖白との戦いに身を投じる事になる。

 キアナのことだからコチラが突然音信不通になっている事にすぐに察知して仲間達と共に助け出す対策法を模索しているかもしれないと、そう信じて...。

 




 対極の律者である聖白の話をもう少し分かりやすく解釈すると聖白は自身の不死の呪いを解放する為、例として虚数の樹という名のネットサーバーに介入(ログイン)する為に必要なアクセス権限や資格が足りておらず、到達出来ても入れないのでソーマの聖黒の律者コアという名の管理者相当のアクセス権限が入ったマスターキーを得る事で初めて介入(ログイン)することができ、虚数の樹という名のサーバー内にある聖白の不死の制約というプロトコルを管理者権限で書き変えることで解除させるというものです。
 つまりお互い片方だけの権限やIPしか持たないため、律者コアというキーを揃える事で初めて虚数の樹に介入できるとった感じです。


・対極の律者"聖白"

 崩壊と呼ばれる浄化システムを生み出した上位的文明創造主(又は異星人)によって生み出された特別個体の律者。実数世界に干渉、法則を操る権能を持つ。
 見た目の外観がキアナに似ているのは創造主が自身の外観をモデルにしている為に似た姿になっており、この世界の住人はキアナのような顔付きが人類設計図ベースとなっている。上位的管理者権限を持ち、崩壊システムのコントロール管理を可能としている。しかし、中立的な思考をする必要性から人類に対する理解力を持たせる為に人間的な人格を持たせた結果、調整が甘かったのか深刻なメンタルエラーを引き起こし、自害行為にまで及んでしまう。人格モデルとして"ある人物"の人格を参考にされているらしいが...

・対極の律者"聖黒"

 ソーマ自身の身に宿している律者の正体。虚数世界に干渉、制御し管理する権能を持ち、聖白と同じ一から建造主によって創り出された律者。
 創造主によって人類側に送られた崩壊に対抗する為の救済措置的存在であり、聖黒の力を制御する=崩壊の拡大化の防止に繋がるという結果をもたらしている。
 前文明の戦いで戦死したとされる先代律者である"ヘレナ"から次代のソーマへと律者コアの移植という形で引き継がれている。
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