おかげで話がずいぶんと長くなってしまいましたが、まぁ書かないよりはマシかなぁと。
支配の律者による失踪事件の元凶を突き止めた中、キアナは囮になる為に一人での単独行動を行うが、ついに彼女も支配の律者によって支配劇場へと誘い込まれてしまう事になる。
支配劇場に誘い込まれた道中にて支配の律者によるかつてキアナがしてきた行いに対する罪を責め立てるという名の陰湿な嫌がらせ行為を物理的又は精神的な手段で波状攻撃を駆使して執拗に続けられるが、なかなか揺さぶられないキアナに痺れを切らしたのか最終手段として彼女の中にいるプレイグジェムを奪うことで空の律者であるシーリンを呼び覚まし、キアナから分離させ戦わせるという厄介な手段を仕掛けてきた。
シーリンとの精神世界での戦いで、どちらが主導権を握れるか決死を賭けた本心のぶつけ合いの対決の戦いの末、何とか勝利する事に成功したキアナは奪われたプレイグジェムを取り戻し、そしてプレイグジェムの力によって見せられた精神世界で姫子先生の思念体と対面したことで初めて彼女が死んでしまった事実を知る事になる。
しかし、精神世界で出会った姫子先生は死してもなおキアナのことを見守り続けるといい、最後の別れを告げたキアナは涙を流しながらもその世界を去ることにした。
戦いに敗れ、徐々に消えゆく空の律者と半身であるベナレス。その最中、空の律者こと、シーリンは消える前にキアナに問いかける。
「我が器...いや、キアナ。どうやらジェムの力はお前の信念を選んだようだ。...だがお前は私(シーリン)が体験した悲しみと絶望、人類全体が向き合う善と悪の矛盾...お前は残った人生でそれを背負わないといけない」
「分かってる。この力をちゃんと使いこなすよ。そして私がアンタの犯した罪を背負う、それが私の責任だから」
「それはお前が決めた事だ、私に伝える必要はない。勝者が残って、敗者が消える。そういうルールだ異論はない。...それよりも私と長話している場合ではないのではないか?お前の親友のソーマとかいう者をさっさと助けに行ったらどうだ?」
「そんなの言われなくてもすぐに行くよ。ただアンタとの最後の別れだからこそちゃんと話を聞かないと」
「フン、律儀な奴め。もういい行け。...せいぜい、自分の信じた道を歩めばいい」
「...うん、さよなら、空の律者...もうひとりのシーリン」
空の律者と半身のベナレスが共に消えていくのを見届けた後、キアナは感情を切り替えて今なお支配劇場に囚われているソーマ達の助けに向かう。
その道中、支配劇場の迷路のような空間内で明らかに怪しい亀裂の入った空間の残骸を見つける。何もない空中にヒビが入っており、その中から何かが見えるのが分かるがどうみても罠のような感じにしか見えなかった。
しかし、これ以上探し回っても新しい発見も支配の律者の存在も確認できないため、キアナは覚悟を決めて未知の空間の入り口を突き破って侵入していく事にした。
入ってみた空間の中はまるで宇宙空間のようであり、足場には光の道が続いていた。周りには鏡のような結晶の残骸がいくつも宙に漂い、そこから見えるのはキアナの顔が反射して映る鏡...ではなく、見たことのない、又は見覚えのある人物達の軌跡が写されていた。
残骸の結晶から声が聞こえてくるのが分かり、キアナは警戒しながら耳を澄ませる。
「これはケビン?...それに委員長まで...知らない女の子の姿もある。...誰なんだろ?」
ーどうしたヘレナ?またエリシアあたりに何かされたのか?ー
ーええそうよケビン。あのピンク妖精、まーた私を掻っ攫って私を着せ替え人形代わりにしてきたわ。全く、メビウス博士まで狙われたけどまさか私を身代わりにするなんて酷くない?ー
ーヘレナはエリシアは惚れ込むほどに可愛らしい見た目をしているから、まぁ巻き込まれるのも仕方ないのではないですか?ー
ーなら、今度は貴方が代わりになる華ちゃん?ー
ーいえ、謹んで遠慮しときますー
そこにはケビンとフカ、そしてヘレナと呼ばれた少女が不満を愚痴っている光景が見えていた。
「これは委員長達が過ごしていた時代の時の光景?...まるで渡世の羽みたい」
次に進んでいくとまた新たな結晶体に映像の軌跡が映し出されていた。
ーねぇ...フェリスちゃん、私達って本当にこの先、崩壊に勝てるのかしら...ー
ーヘレナの姉ちゃん...ー
ーついさっきサクラが死亡したって報告を受けたの。...律者になってしまった妹を止める為に相打ちになったって...律者に目覚めた私もいずれは誰かを手にかけてしまうの?ー
ーそ、そんなことないよヘレナの姉ちゃん!だって姉ちゃんはいつもアタシ達をその力で何度も救ってくれたんだよ!だから...そんなこと言わないで、私の大好きなヘレナ姉ちゃん!ー
ーフェリスちゃん...ー
一部始終を眺めていたキアナはヘレナという少女が律者になったことで酷く怯えているその光景を見て自身が経験した過去を思い出し、自分みたいな経験をしていた子が別の時代にもいた事に同情してしまう。
そして終わりに差し掛かって来たのか最後に残った結晶の軌跡を覗き込む。
ーぐっ強すぎるッ!...もうここまでなのかッ。...ここまできて...沢山の仲間を失って...!ー
そこには未知なる敵、"終焉の律者"を前に膝をついてしまうケビンの姿があった。その彼の前にひとりの少女がケビンを守るように立ち塞がる。
ーケビン...悪いけど、貴方はここから脱出して。華の方は無理矢理脱出装置のゲートに押し込んでやったから後は貴方だけよー
ー⁈バカを言うなッ!そんな事をして君だけ残る気か!だったら僕も!ー
ーお願いだから言う事を聞いてッ!...貴方はまだここで死ぬべきじゃないわ。けど私は律者である以上、残り続けても意味ない。私はこの力でアイツを...道連れにする!ー
ーヘレナ!...君はまだそんな事をッー
ーごめんなさい、ケビン。...でも私は律者の力の可能性を託してくれたエリシアの意思を継ぐ為にも立ち向かわないと行けないの。貴方には残酷な決断をさせる事になるけど、お願い...言うことを聞いてー
ーヘレナッ...すまない...僕が...僕が、もっと強ければ...ッ!ー
ーはやくいって!...本当にごめんなさい、ケビンー
ケビンが脱出ゲートを通って行った後を眺めたヘレナは再び終焉の律者と対面し、覚悟を決める。
ーエリシア...あとで会いにいくわ...向こうで待っててー
ケビンを逃し、殿を務めるヘレナの後ろ姿の光景を最後に記憶の映像は途絶える。その後、最後の軌跡の一部始終を眺めた終えたキアナの前にこの空間の出口と思われる亀裂が現れていた。
「前文明のケビン達の戦いの軌跡が見えた...もしかしてこの先に何か関係が?ここにソーマ達がいるか分からないけど...お願いッ、絶対無事でいてッ...!」
空間の出口のゲートを潜り抜け眩しい光に包まれるが、しばらくして周りが見えるようになるとそこには無機質な白い砂の地と大理石のように白く古代ギリシャの意匠を連想させる石柱や建造物が立ち並んでいた。空は相変わらず宇宙空間のように暗く沢山の星々が見え、人の気配は全くしなかった。
そしてその場で大規模な天災があったのか地形が陥没しており、焼け焦げた地盤や遺跡だったものが大量に転がっていた。ついさっきまで天変地異が起きたばかりだったかのような無惨な光景にも見えた。
「どこなのここ?地形がボロボロだけど...って、地球⁈な、なんで⁈...もしかしてここって月なの?」
先程のゲート内を通ったときに見た最後の記憶の映像にも月面のような風景が見えていたので、もしやここはヘレナという子が最後を迎えた場所なのではと考える。
キアナがこの場所に困惑していると離れた所から爆発と共に何かが暴れ回って建物が崩壊している様子が目視で確認でき、急いでその場に急行する。
半壊した闘技場だったであろう場所に辿り着いたキアナはその場で爆発の元凶を目にする事になる。
「よ、ようやく着いた!って...あの姿は...ソーマ‼︎助けに来た...よ...えっ?」
ザシュ‼︎
闘技場でソーマらしき後ろ姿を見つけたキアナはすぐに声をかけるが何か鋭いものが突き刺さる音と共にソーマの背中から赤い液体が溢れ出して崩れ落ち、相対していたキアナにそっくりな顔の白い衣装を身につけたソーマを刺したであろう敵らしき人物が見えた。
「ソ...ーマ...?嘘...イヤ...嫌ァァァァー‼️」
ソーマが殺されたという悪夢のような光景にひどくショックを受けたキアナの発狂した悲鳴が空間中に響き渡った。
ー少し前(ソーマ視点)ー
月面にある闘技場の遺跡にて聖白と聖黒と呼ばれる二体の律者がぶつかり合い、お互いに自身の得物を惜しみなく振るいながら武器を交差し、容赦無い殺し合いを繰り広げていた。
激しい金属音と火花を鳴らしてソーマの対極の陰月・虚空と聖白の武器である対極の陽月・秩序がぶつかり合いながらそれぞれの戦闘技能を生かして斬りつけ合うその光景は相手をいかに早く仕留められかと言った鬼気迫るものであった。
「月蝕の戦士!」
聖白が自身の権能を唱えると純白の騎士のような兵が複数体召喚され、陣形を組んでソーマに襲いかかる。
「ヴルム、力を貸してくれ!」
召喚された騎士の兵に対抗する為、ソーマはヴルムと呼ばれる守護者を召喚し、武器を手にしたヴルムは主人を護るように大剣を薙ぎ払う。いくつかの兵が吹き飛ばされるがその中で極めて屈強な騎士の兵がヴルムの一撃を受け止め、押し返す。
ソーマはヴルムの攻撃を押し返した手練れの騎士に目掛けて対極の陰月を槍形態のまま全力投擲し、敵の騎士を一撃で串刺しにする。
すると隙を狙ってきたのかはるか前方から強烈な高エネルギーのレーザー弾がソーマに目掛けて襲い掛かり、首を逸らして間一髪で回避する。
レーザーを放った元凶である聖白は周りに謎の結晶体を漂わせ、更に攻撃を仕掛けてきた。
ソーマはその場で対極の陰月を剣形態に形を変え、虚数エネルギーの力を用いてレーザーのエネルギーを上回る爆炎と熱量で剣を薙ぎ払うとぶつかり合ったエネルギー体同士が膨張し、大爆発を引き起こして周りの遺跡が次々と崩壊していく。
爆炎に紛れ込んで高速飛行しながらソーマは聖白に目掛けて全力で斬りかかる。対する聖白はソーマの剣撃を受け流しながら周囲に複数の結晶体の槍を形成し、高速で射出していく。
近すぎる距離から放たれた槍の杭をソーマは剣を盾に受け流すように攻撃をいなす。地表にぶつかり、撃ち込まれた槍の杭が豪快に地盤を破壊し、地表にクレーターを形成しながらバラバラに砕けていく。
爆風と残骸の中に突っ込みながら聖白はソーマの体制を崩す為に全力の蹴りで相手を蹴り飛ばす。咄嗟に腕でガードするがかなり重い一撃なのか一気に距離を突き放され、体制を崩してしまう。
聖白はそのまま遺跡の1番高い柱の上まで飛翔し、その場で自身の得物である対極の陽月を変質させ、大きな弓を形成すると禍々しい崩壊エネルギーの矢を生み出しながら上空目掛けて矢を放つ。極めて強い力で引き放たれた矢は鋭く甲高く風を切るような音を引き立てながら見えなくなるまで飛んでいくと太陽の光のように炸裂し、大量に上空を一色に覆い尽くす赤紫色のエネルギーの流星群の弾幕が地表目掛けて撃ち落とされていく。
このままでは足場を失ってしまうと判断し、ソーマも同じく対極の陰月を巨大な弓に変質させ、あえて矢ではなく、大槍を弾頭にする。重々しい弓の弦の重さに苦戦しながらもギシギシと音を立てて限界まで引き延ばしながら全力で槍の弾頭を抜き放つ。
「当たれぇぇぇッー‼︎」
解き放たれた大槍の弾頭が射出と共にソニックブームを発生させ、衝撃波で地表のあらゆるものを爆風で吹き飛ばしていきながら大槍が竜の猛攻の如く降り注いでくる大量の流星群に叛逆していく。
大槍の弾頭と流星群の矢の一部がぶつかった瞬間、青紫色の大爆発と衝撃を引き起こし、炸裂した大槍の弾頭から強大な虚数エネルギーのブラックホールを発生させ、地表に降り注ぐはずだった流星群の矢の半数以上を巻き込んで無理化させる事に成功する。
その後、ソーマのいる安全圏外の反対側の地形は流星群の矢の雨でまとめて粉砕されていき、そこにあった数々の遺跡跡と地盤が原型も無い無惨な焼け野原にされていた。
自身が迎撃しなければ自分のいた場所もいずれあのようになったという事を思い浮かべ、思わずソーマは聖白の底知れぬ異常な戦闘力に冷や汗をかきながら戦慄してしまう。
「やるわね。やっぱり対極の律者の力は伊達じゃないってことね。...けど貴方を仕留めるにはまだ決定打に欠ける...だから私には貴方の戦いの敬意を称して絶対の一撃を貴方に送るわ」
「まだ本気じゃないっていうのか⁈...どこからそんな力がッ!」
聖白がまだ切り札を隠し持っている事にソーマは思わず絶望しかけるかなんとか気を持ち直して武器を構える。
話を語り終えると共に聖白の身の回りから赤橙色の炎が迸り、彼女の白いドレスを焼きながらより身軽な姿になる。それと同時に赤橙色の太い火柱が立ち上がっていき、まるで十字架を連想させる様な形を形成していく。火柱を中心にマグマのような溶岩が溢れ出し、地盤が大きく陥没していく。
崩壊していく地形に思わず天変地異でも起こったかと周りを見渡すとソーマを含む周りの地形が巨大なクレーターのように抉れていき、聖白の背後には巨大な太陽のような熱球体が形成されていた。
聖白の背中からかつて戦ったことのある空の律者によく似た羽が現れ、呼応するかの様に手にした対極の陽月が十字架の様な形の槍に形を変えていく。
「これはかつて崩壊の神が人類に対して解き放った滅びの一撃...かつて地球の大陸を沈めたかの律者の力をさらに上をいく終焉の一撃よ。死にたくなければ全身全霊、命を削るつもりで受け止めてみなさい!」
構えた槍形態の対極の陽月をソーマのいる位置に振り下ろし、槍先から高密度の死のエネルギーの熱線を放つ。あまりもの熱量に大気がないはずの月の真空空間がグニャリと歪み、この世の終わりを醸し出す様な神の如き裁きが降り注ぐ。
迎撃手段が間に合わないソーマはどうしようもなく立ち尽くしてしまうが、一時的に召喚を解除したはずの守護者であるヴルムが呼ばれもせず現れ立ち尽くしていたソーマを掴み、そのまま巨大な体と巨腕をクロスする様に守りながらソーマを全身で覆い隠す。
「なッ⁈まてヴルム‼︎」
ソーマがヴルムの名を叫ぶがその直後すぐにヴルムが虚数エネルギーで防御結界を発動し、同時に聖白からの死の熱線が月面を直撃し、あたり一面が溶解しながら全てが真っ白な世界に染まる。
「...ッ、終わった...のか」
意識が戻ったソーマが周りを見上げるとそこには、全身が焼けて石炭のように黒ずんて石になった守護者であるヴルムの成れの果ての姿があった。主人であるソーマを命からがら守る為に自身の命で全身全霊を持って彼を守ったのだ。
「...ヴルム...そんな...俺が判断を...放棄したばかりに...」
力尽きたヴルムの垂れ下がった頭に手を添えて涙を流しながら抱き寄せる。あの絶望的な光景を見たせいで自身の判断を疎かにした主人の代わりに己の命で代償を支払ったことでソーマは一瞬でも生きる意思を放棄してしまった己の行為を恥じた。
しかし、現実は彼に悲しみと後悔に嘆く時間すら与えてはくれなかった。悲しみに明け暮れてたソーマをつかさず聖白は全力で奥義を放ったあとに追撃を放ったきた。
「なっ⁈しまっ」
そのまま聖白の槍の突き攻撃でソーマのいた場所ごと突き飛ばし、最初にいた半壊した闘技場まで飛ばされる。勢いよく突き飛ばされ、地面にクレーターが出来ながら叩きつけられたソーマは苦痛のあまり息が出来ずに咳き込むが、すぐに聖白が武器を構えながら肉薄する。
「誰が止めていいって言ったの?貴方に失った者を悲しむ時間はないわ。ここは戦場、殺し合いの場よ、武器を構えなさい」
「...くッ...うぅっ...ヴル、ム...」
自身の半身を失った勢いで戦う意志を削ぎ落とされたのか聖白からの攻撃に対応出来ず次々と体を斬られ、刺されていき、ボロボロになりながら勢いを失ったソーマは最終的に自身の武器を簡単に払い飛ばされてしまう。
「もう諦めたの?...そう、残念ね。......貴方ならいけると思ったのに...なら、死んで」
頭の中で燃え尽きたように何も考えられなくなったソーマは迫り来る聖白の槍の刃に抵抗するそぶりも見せずに無防備なまま、心臓に突き刺さる。
あまりにも呆気なく心臓を突き刺されてしまったソーマは胸を貫かれたにも関わらず、溢れ出てくる血を見て人の身体から出る血ってこんなに濃い色をしてるんだなと、他人事のように場違いな感情を抱きながらそのまま倒れ伏してしまう。
意識が遠のくのを他所に誰かの...普段から聞き慣れた幼馴染の苦痛に満ちた悲鳴声を聞きながら全力でこちらに走って来る彼女...キアナに向かって消えかけた声で呟く。
「キアナ...ごめん...ダメ...だった...お前だけでも...逃げ、て...」
受け入れたくなかった...信じたくなかった。いつもピンチになりながらも共に乗り越え、ボロボロになってもきちんと生きて帰ってきてた彼が...ソーマがついに凶刃の前に倒れる日が来るなんて...私は悪夢でも見ているのだろうか。
すぐ近くにいるソーマを殺した元凶に目もくれず、キアナは倒れ伏したソーマをすぐに抱き抱える。今までに感じたこともない姫子先生を失ったときの悲しみをさらに上書きするほどの衝撃と悲しみに支配され、自身の体にソーマの返り血がつくのもお構いなしに必死に彼の名を叫ぶ。
「ソーマ!ソーマァァ‼︎イヤ、イヤぁッ!!!...なんで...なんで...あなたがこんなところで...お願い、ただの夢であってッ!!...お願いだからー!!」
もはや夢の世界で姫子先生の別れに涙を流したばかりなのにも関わらず再び溢れ出てきた涙がソーマから流れ出る血のように止まることを知らなかった。ようやく覚悟を決めたばかりなのに、こうも早く大切な存在を失うなんて...。
「...貴方がソーマの知り合い?...その割には随分と悲痛にくれてるわね。...ボーイフレンドか...それとも恋人だった?...けど残念ながら一足遅かったわね」
ソーマが刺されたことをよそにこちらを煽るように言ってくる私とそっくりな顔をした少女に思わず睨み返し、怨みを吐く。
「アンタが‼︎...アンタがソーマをヤったの⁈」
「だからどうしたの?空の律者。...いえ、今はもう彼女の意思はないのね...。貴方はシーリンの意思に打ち勝った。けどここにいるソーマは私に打ち勝てなかったそれだけの話よ。私の目的は彼の律者コアである心臓を手に入れる事、さぁどいて」
聖白がソーマの身柄を要求するが当然キアナは絶対にそれ受け入れるわけがなかった。
「...アンタなんかに...アンタなんかにソーマを渡すわけない‼︎」
素早くキアナは手にした空の律者の力で崩壊の槍を形成し、聖白に目掛けて射出する聖白は近過ぎる距離からの攻撃を回避する為咄嗟にバックステップで交わし、槍の弾幕を手にした対極陽月を二振りの剣に形成しながら叩き落とす。
キアナはその隙にソーマをなんとか引っ張りながら聖白から距離をなはす。しかし、時間稼ぎしたところでやられてしまうのも時間の問題であり、それに徐々に弱って行くソーマを眺めることしかできない事がよりキアナの精神的な余裕を奪い、より絶望感が深まる。
(...どうすればいいの?ソーマを絶対に死なせたくない‼︎でも心臓を刺されいる時点でもう手遅れ...もうダメなの⁈...いやだいやだいやだ‼︎これからだったのに...!体の傷が治ったらまた一緒に食事しに行こうっていってたのに!お願い死なないで死なないで‼︎)
徐々に余裕がなくなっていく思考を前にキアナはソーマに対する想いが膨れ上がり、彼に出会った頃のことを走馬灯のように思い出す。
初めて会ったときの彼は大人しく泣き虫だったが間違ったことにはとことん追求し、直そうとして来るお節介な性格だった。ああ、懐かしいあの頃は私とクソパパのジークフリートが揃いも揃って料理が壊滅的だったからよく代わりにソーマに作ってもらってだんだっけ...。外で遊びに行ってたときもよく怪我して帰ってきてソーマが代わりに傷を治療してくれてたんだった。改めて考えるとあの頃のソーマって幼い子供っていうより小さいお母さんみたいな感じだったな。今と比べて説教くさいところもあ...るし...いや待って!...治療...治療...治す...待って、私には確か、セレニティジェムの力がある。...その力でソーマの傷を癒せばまだ生きられる?ジェムの力で人を治癒するために使うなんてはじめてだが...やるしかない、いやもうこれしか方法はない‼︎。
迷いを断ち切ったキアナはソーマの命を救う為に意識を全身全霊をかけて手にプレイグジェムの力を結集させ、地面に寝かした状態のソーマの胸元に空いた大きな傷穴を塞ごうとする。
(お願い‼︎絶対に成功して‼︎)
自分は死んだのだろうか?まわりは暗くて何も見えない。まるで自分だけがこの場に取り残されたような感覚である。
自分の周りから何かが囁くような聞き覚えのあるような声がする...。
ー素晴らしい‼︎実験体512、キミは最高の素体だ!ー
ーなぜアナタだけが生き残るの⁈許せない‼︎ー
ー512、キミがいれば我々の計画は...人類の未来は明るいー
ー死にたくない死にたくない‼︎イヤだ!イヤだ!ー
ーさぁ、これからも我々人類の為にその身を捧げてくれ!ー
ー憎い憎い憎い‼︎...殺してやる殺してやる‼︎-
科学者らしき声とともに犠牲になったかつての子供達の苦痛と悲鳴、憎しみが交互に反映して来る。
俺が...俺が悪いのか?実験に耐えてしまったから...みんながより過酷な目に遭って...そして死んでいって...。
周りから怨みこもった子供達の残影が見えて来る。まるでお前もコッチにこいと誘って来るかのようだ...もう、いいのか...?
もう死んだんだからそっちに行くべき、なのか?
...一緒にいた仲間や友人、そして白髪の幼馴染の顔が思い出せず、亡霊に引っ張られるように自身の体も連れていかれる...。
しかし、何かが亡霊に連れていかれるソーマの手を掴み止める。
「そこまでよ。...アンタはそこに行ってはダメよ、ソーマ」
「っえ?」
気がつくと先程までいた暗闇の世界から解放され、周りを見渡すといつのまにか自分のよく知る聖フレイヤ学園の景色と自分にとって偉大なる師である姫子先生の姿があった。
「ひ、姫子...先生?」
「...久しぶりね、ソーマ。こうしてアンタと再び顔合わせられるなんてね」
その顔は忘れもしない、キアナが攫われてからその騒動以降、2度と会うことがなかったソーマの教官である無量塔姫子本人で間違いなかった。もしや自分は死後の世界に来てしまったというのか?しかしそれが本当なら彼女がここにいるということは...。
「アンタは自分が死んだかもしれないって思ってるかもしれないけど、正確には仮死状態に近いわ...。生死の狭間を行き渡っているとイメージしたら分かりやすいかしら?だからまだアンタは完全に死んではいないから安心して」
「な、なら先生、姫子先生は⁈姫子先生は今どうしてここに⁈先生は無事なのか⁈それとも...」
ソーマの質問に対して姫子は優しくも悲しそうな笑みでこちらを見つめ返してきていた。返事を返さない彼女に状況を悟ってしまったソーマはああ、やはりかと希望を打ち砕かれたような顔をする。
「...ごめんなさい。私はもうあの場で最後を迎えてしまったの...。だからアンタが今対面している私はおそらくアンタを助けようとしたキアナの力が流れ込んできて見せた残留思念みたいなもの...本物の私はもういないの」
「...そう、か...やっぱり...」
真実を告げられたことでソーマは俯くがしばらくして彼は姫子に対して心に秘めてた本心を彼女に話す。
「先生...俺はさ...ここの学園と姫子先生と皆んなを含めて結構好き...だったんだ」
「...ええ」
「そりゃあ、当時最初の頃は周りについていけず数少ない男子だったこともあって孤立や陰湿なイジメにあったりしたこともあった...けどそんな俺に姫子先生やテレサ達が手を差し伸べてくれた。そして先生たちの助けでなんとか頑張ってここまで這い上がれてきた」
「そうね...」
「その後以降はキアナ達とともに本格的に任務参加していろんな困難があったけどボロボロになっても全員無事に帰ってきたり...休日やイベントの時は全員ではしゃいで遊んだり、バカンスを楽しんだり、ハメを外しすぎてキアナ共々に先生にしばかれたりとバカもやってたな...」
「ええ...本当に、懐かしいわね...」
「でももう...一緒に学園を過ごした姫子先生には...もう、会えないんだろう?...」
「...」
「...俺、先生にお礼を言いたかったんだ。...ここまで自分を鍛え上げて、見守ってくれてありがとうって...」
「...」
「でも俺は...自身と同じ律者である因縁をもつ聖白っていう律者に戦いで怖気付いて...最後の最後にやられてしまったんだ...。情け無い話だろ...?それでこのザマさ...」
「いえ、そんなことないわ。...アンタはキアナが助けに来るまでたった一人で孤独の中必死に争ってきたんでしょ?...本当に、よく頑張ったわ。...けどアンタはまだ負けたわけじゃない、だってアンタはまだ生きてるもの」
「俺が...まだ、生きてる?」
姫子先生はソーマにまだ戦いは終わっておらず、ソーマが受けた致命傷の刺し傷はキアナのプレイグジェムの力で奇跡的に命を食い繋いでおり、今もなおキアナはソーマを助ける為に聖白を相手に時間稼ぎをしているといい、まだ挽回できるチャンスはあるとソーマを励ます。
「...本当はもっとソーマやキアナのことを見てあげたかった。...けど私はあの戦いで終わりを迎えた...だから私の旅はもうここまで。次の旅の針を進めるのはアンタの番よ、ソーマ。私はアンタやキアナの戦いや人生を夜空の上で見守り続けるから。なんたってアンタ達はこの無量塔姫子の生徒だもの」
「姫子先生...ありがとう先生のおかげでまだ前を向いて歩き出せるよ。絶対に生き抜いてみせる」
「ええ、見守ってるわ。...さぁ、行きなさい、ソーマ」
「ああ...いってくる。本当に...今までありがとう...俺の自慢の先生」
短い時間であったがソーマは姫子先生からの最後の対面と言葉を交わし、姫子を見送りながらこの夢の世界から目を覚ます事になる。
その道中、彼は姫子先生の対面とは別にある不思議な記憶の軌跡を垣間見ることになる。
「これは...聖黒のコアが見せた、記憶?...ヘレナ?...火を追う十三英傑...ケビンまでいる?...コレは、まさか...」
聖白との戦いでキアナはかなりの苦戦を強いられた。彼女の手に持つ、かつての姫子先生の形見である神落の剣・スルトを構えて聖白の得物である対極の陽月・秩序の攻撃を受け止めるものの、その一撃一撃は重く、先程まで繰り出していた空の律者の力による遠距離攻撃も呆気なく無効化されてしまう。
「どうしたの、空の律者。もっと抗わないとアナタの大事な人を失うことになるわよ?」
「ハァ...ハァ...ソーマは、こんな...ハァ、ハァ...相手に、戦い続けてたなんて...」
キアナはつくづく自分の幼馴染のタフさぶりに驚く。もともとキアナと比べても学力を除いて戦闘面に劣っていた為に彼はキアナと一緒の戦場に立つ為、常に血の馴染む努力を怠らなかったことを思い出す。
(やっぱりソーマはすごいや...私と常に一緒の場に立って戦っていてくれたことが...私の心をこんなに揺さぶったんだ...やっぱり、ソーマがいない世界は...嫌だよ...)
心の中で思いながら聖白からくる攻撃を疲労困憊な体で構えたまま、吹き飛ばされるのを覚悟して目を瞑るが...甲高い金属音がぶつかる音がするだけで衝撃は何も感じなかった。
目を見開くとそこには心臓を刺し貫かれ、意識を失い瀕死のはずであったソーマが...キアナを庇うように聖白の一撃を受け止める姿が...そこにはあった。
「ごめん、キアナ。目が覚めるのに時間がかかった」
「ソ、ソーマ...‼︎」
「...へぇ、致命傷を与えたのにまだ生きてるなんて...」
キアナを守る為に聖白の攻撃を受け止めたソーマの姿は先程まで戦って怖気つき絶望した目とは違う...生きる意思の火が灯った目だ。彼はこの戦いを終わらせる為に迷う事はなかった。
「さぁ...リベンジマッチだ!」
対極の陽月・秩序
対極の律者・聖白が保持する武器。神の鍵に相当する兵器であり、聖黒の物とは別に制御や掌握などの権能特性をもつ。使用者の意思次第で対極の陰月・虚空と同じく自由自在に武器の形を変えることが可能であり、普段は白銀の十字架を模様した槍をしている。
守護者「ヴルム」
ソーマの戦闘守護を担当する半身的存在。空の律者のベナレスやブローニャの重装ウサギに似た立ち位置をもつ。もとは虚数空間に生息していた崩壊獣だったが1番強い個体だった事もあり、律者に覚醒したソーマに選ばれてエネルギーパスを繋がれからは特異的進化を遂げた。
見た目は重装ウサギのようなゴツい上半身の身体を浮遊させ、鉱物のような装甲と竜を彷彿とさせる外観をしている。