飛ぶ理由を探した者   作:Jr.404

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 本編で支配劇場編は完結になります。当初は最初から支配劇場編まで書けたらいいなくらいな感覚でしたがここまで書くのに随分と長く感じました。ただまだお話を書き終えるつもりはないのでご安心ください。
 公式からの永遠なる薪炎というアニメ演出と共に流れてくるMoon Haloという曲を聴いてから完全に一目惚れしました。こんなの感動するなってのも無理な話ですね。


十七話「不滅なる蒼炎と永遠なる薪炎」◇

「ソ...ソーマ...?」

 

「悪い、キアナ。心配をかけたな...もう大丈夫だ」

 

 キアナに襲いかかる聖白からの刃を受け止めたのは、つい先ほどまで死にかけていたはずのソーマ本人だった。プレイグジェムの力でソーマが受けた致命傷を少しでも治せるかどうかの賭けに等しい行動だったがまさか意識が戻るとは思わなかった。

 しかし、さっきの短時間でそう都合よく胸元の刺し傷が治せるのだろうか?やはり彼はかなり無理しているのではとキアナは不安で仕方がなくなる。

 

「ソーマ、ソーマ‼︎...ホントに、本当の本当に大丈夫なの⁉︎心臓を刺されたのに無理しないで!今は無事でもこれ以上無理したら...!」

 

「いや、大丈夫だ...と言いたい所だが、まだ刺し傷が痛むな。だからまだ動けるうちに...」

 

「ふたりで呑気に惚け話してるなんて随分と余裕ね」

 

 ソーマに攻撃を防がれた聖白がふたたび槍を振り回してその場にいるふたりを纏めて薙ぎ払おうとするが、すばやくキアナとソーマはお互いの体を支え合いながら素早くバックステップで回避しながら宙返りし、聖白から距離を取る。

 

「キアナ、悪いけどここからは彼女と戦わせてほしい。これは俺に宿っている律者の力の因縁...俺自身が自分の手で終わらせなければいけない事なんだ」

 

「そんなっ!ソーマはさっきの戦いで死にかけたのに!もうこれ以上無理して戦わないで‼︎貴方が今度こそ死んでしまったら、私はっ...!」

 

 聖白との再戦を望もうとするソーマの服を引っ張りながら絶対にひとりで戦わせたくないとせまるが、ソーマはキアナを優しく諭すように語りかける。

 

「キアナ、大丈夫だ。...たしかに最初の戦いで俺は聖白の覇気に負けてやられかけたが、今は違う...今の俺には戦う理由が出来た。それはキアナ、お前たちと共に自分達の世界を守り、生き抜くことだ。...俺は薄れゆく意識の中で姫子先生に出会って約束を交わしたんだ。だから俺は自身の律者の呪縛から立ち向かわないといつまでも前に進めない...だからお願いだキアナ、行かせてくれっ!」

 

 ソーマからの譲らない信念と覚悟を聞かされたキアナはしばらく黙り込んでソーマの目を見続けるが、彼の赤紫色の特徴的な瞳は揺らぐことなくキアナを真っ直ぐに見据えていた。彼の本気ぶりに折れ、意を決したように反応する。

 

「...まだ納得できないけど...分かった。ソーマを信じる。...だからソーマに、これを貸すよ」

 

 キアナがソーマに差し出したのは、かつて姫子先生が空の律者に覚醒してしまったキアナを止める為に身に付けた装甲ドレスと共にあったあの特徴的な大剣であった。戦闘時に破損したのか剣先がかけているが間違いなく姫子先生が手にしてた物だ。

 キアナはソーマの覚悟と意識に現れた姫子先生との約束に答える為にこの大剣を貸し出したのだ。

 

「いいのか...?これはお前にとっても大事な姫子先生の形見なのに」

 

「いいの。今この瞬間はソーマが握るべきだと思ったの。それに手を出せないのならせめてこれだけでも」

 

「...ハハ、コレは責任が重いな...。まぁ俺たちはここの所、重い選択と責任を強いられる戦いをして来たから今更か...分かった。キアナの想いを受け入れてこの武器を少し借りさせてもらう」

 

「...アンタにはいろいろと伝えたいことが山ほどあるけど、...絶対に死なないって約束して!」

 

「ああ、絶対に勝ってくる」

 

 キアナから一時的に姫子先生の形見を託され、ふたたびソーマは対面する聖白と向き直る。

 

「悪いな、待たせた。...さっきはやられてしまったが次は絶対に負けない。それにアンタのその呪いを解く為にも全力でやる」

 

「アナタに私を殺せるの?口だけならいくらでも言えるわ」

 

「なら、行動で証明して見せてやるさ‼︎」

 

「...ならもう一度かかって来なさい。...今度こそ私を失望させないで」

 

 キアナのプレイグジェムの力によって奇跡的に万全とはいえないが瀕死状態から回復を遂げたソーマは己の武器ではなく、キアナから託された姫子先生の形見である、涅槃の剣・スルトを構える。初めて扱う武器なのにも関わらず、何故か不思議と手に馴染むような安心感を感じ取りながら対面する対極の律者、聖白との再戦の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 涅槃の剣・スルトと対極の陽月の槍がぶつかり合い、激しく火花を散らしながら周りを風圧で吹き飛ばしていく。お互いの大きな得物同士が他の追随を許さないように斬り結びながら瓦礫を巻き込んで破壊していくが、聖白が虚数空間から召喚した戦士隊を呼び出しながらソーマを包囲していく。

 対するソーマは器用にアグロバティックに取り巻きの戦士の攻撃を交わしながらあえて同士討ちで巻き込ませるように射線に入りながら、大剣を振り回し、斬り倒していく。

 

「逃がさない‼︎」

 

 召喚した月蝕の騎士を何体か倒したソーマに目掛けて崩壊エネルギーの結晶槍の弾幕を振りかざすが、ソーマは大剣に力を込めて崩壊エネルギーを解放させる。

 剣先が欠けたはずの大剣がソーマの律者の力によって甦ったのか、新たに形作られ姫子が使っていた時の燃え上がる緋色の炎ではなく、蒼く紫色にも見える美しくも大きく燃え上がる青紫色の炎が大剣から溢れ出していく。

 

「はあぁァァァァ!!」

 

 横薙ぎへ一閃して振り払った蒼炎の一撃は襲いかかる槍の弾幕を一瞬にして高温の熱量で溶解し、周りを巻き込んで大爆発する。蒼い爆炎を大剣に乗せて振り回しながら聖白へ肉薄していくソーマの猛攻をいなしながら聖白は全力で問いかける。

 

「随分と積極的になったわね!さっきまでの挫折ぶりとは大違い‼︎」

 

「そりゃどうも‼︎コッチもアンタに二度も殺されるのはごめんだからな‼︎」

 

「答えなさい、聖黒!何故アナタは戦う?崩壊という自然の摂理にそこまでして抗う⁈このどうしようもない絶望的な世界で生にしがみつくの⁈」

 

「ああ、たしかにアンタのいう通りこの世界は悪意や絶望だらけでイヤになるさ‼︎けどな、今は違う!こんな世界でもなお足掻き続け、必死に戦う人達がいる‼︎」

 

「抗う人達がいるから自分もただ何も考えず同じ真似をしてるだけじゃなくて⁈」

 

「違う‼︎これは俺の意思だ‼︎」

 

 ソーマの叫びと共に大剣の蒼炎の力が強くなり、聖白の攻撃を力技で次々と掻き消し相殺していく。

 

「俺はこの世界で生きるみんなが好きだ‼︎俺にいろんな景色や思い出を見せてくれた彼女達が生きるこの世界を、俺は守る為に戦う‼︎」

 

「...フッ、合格ね。...なら、私が放った最後の一撃をもう一度耐えてみなさい‼︎」

 

 聖白はふたたび、赤橙色の炎を纏いながら膨大な崩壊エネルギーの爆炎を生み出し、十字架のような火柱を生み出した。地形がクレーターのように抉れ、聖白の背後には巨大な太陽のような熱球体が生み出される。

 間違いなく、ソーマが絶望しかけたあの終焉の一撃である。この攻撃のせいで自身の半身であるヴルムはソーマを守る為に犠牲になってしまった。

 しかし今は違う。姫子先生と約束し、キアナからも託されたソーマの顔には絶望した表情は見当たらず、落ち着きながらも覚悟をした顔だけが見えていた。

 

(...姫子先生、今だけでいい...俺に力を貸してくれ。聖白に...いや...彼女ヘレナに勝ちたいんだ‼︎)

 

 ソーマの意思に応えたのか、手にしている大剣が形作られ、強大な炎が溢れ出す。

 

(ありがとう先生...絶対に、乗り越えて見せる‼︎)

 

 大剣を真上に振り上げると、刀身から巨大な蒼炎の火柱が溢れ出し、炎がソーマを焼き尽くすように包んでいく。

 蒼炎が晴れた場所からは最初に戦っていたソーマの戦闘衣装から変わって、白と黒の組み合わせに青紫色の配色が入った新たな鎧姿に変わり、夜空の宇宙を思わせる模様の大きなマントをたなびかせる。特徴的な角と長い尻尾も相まって民を守護する竜の騎士を思わせる姿に律者の力とソーマの意思の力がかけ合わさり、託された想いが彼の姿に現れる。

 新たに新生したその姿の名は"蒼炎の律者"、決して朽ちることのない意思の継承の証であった。

 

「さぁ、これを突破できなければ本当にアナタだけでなく、そこにいる空の律者共々おしまいよ‼︎私に不屈の奇跡を見せてみなさい‼︎」

 

 聖白からかざされた十字架の槍、対極の陽月・秩序から放たれる滅びの熱線がソーマに襲いかかる。ソーマは大剣から溢れ出す蒼炎を限界まで凝縮し、襲いかかるその瞬間を狙って大剣を振り下ろし最大の反撃の一撃を放つ。その一撃はとある人物が放ったある武器の一撃に似ていた。ソーマは無意識にその一撃の名を叫ぶ。

 

「...天火...聖裁ッッッー‼️‼️」

 

 お互いの対照的な色合いの炎の熱線同士が一瞬でぶつかり合う。激しいエネルギーの奔流に周りに余波の残骸を撒き散らしながらじわじわと地表の地盤を削り取り、このままでは月が砕けてしまうのではというほどの衝撃波と揺れが鳴り響く。

 お互いに激しく熱線の炎がぶつかり合う合うが、少しづつソーマの方が押されて行っていた。更に全力を出すがそれでも十分に巻き返せる状態とはいえず、少しづつジリ貧になっていく。

 

(ッ‼︎ぐっこれだけ全力を出しても足りないのか‼︎いやダメだ!諦めるな‼︎まだ!...まだ耐えろ‼︎)

 

 必死に気力を維持しながら押し返そうとするが、全く押し返せない事に余裕がなくなってくるが、そんなソーマの肩に触れる存在を感じ取る。

 

「ッ⁈キアナ⁈どうして‼︎」

 

 そこには空の律者の力を解放した姿のキアナがいた。押し負けてたソーマを支えるように力強く支えてくれていた。

 

「やっぱりソーマだけに戦わせたくない‼︎1人だけで戦わないで‼︎私も貴方と同じ、みんなが大好きだからこの世界を守りたい‼︎」

 

 キアナがソーマが手にする大剣の柄を握っている手に新たに手を添え、ソーマとキアナの2人が握る事で手にした大剣、天火聖裁から新たに緋色の炎が蒼炎と交わる。拮抗してたはずのエネルギー同士のぶつかり合いから一転して聖白側の一撃をじわじわと押し返す。想定外な現象に聖白は思わず驚き、常に無表情だった表情が崩れる。

 

「この私が...押し返されてる⁈まさか本当に奇跡が‼︎」

 

「違う‼︎これは奇跡なんかじゃない‼︎」

 

「キアナッ...‼︎」

 

「これは私達が生きる世界を守りたい想いの力、決してひとりで戦ってるんじゃない‼︎」

 

「ッ!...ありがとうキアナ...俺は、ひとりで戦うことにこだわりすぎたみたいだ...」

 

「ッ、ソーマいまだよ!勝って‼︎」

 

「ッ...ああ‼︎」

 

 彼らの意思が力に反映されたのか押し返すエネルギーのビームが一気に押し返される。大剣を押し付けるように全力でキアナとソーマは雄叫びをあげながら全力で押し込む。

 

「「はああぁァァァァッッッ‼️‼️」」

 

 ソーマとキアナが二人がかりで繰り出す最大出力の天火聖裁の炎の渦が巻き上がり、更なるエネルギーのビームを形成し、勢いよく聖白が放つ赤橙色の熱線ビームを飲み込みながら聖白ごと吹き飛ばし、爆炎を伴う大爆発を引き起こす。

 

「ッ⁈...そう...アナタは...そのやり方を選んだのね。...よく...やったわ...」

 

 静かに独り言を呟いた後、聖白は迫り来る炎の熱線ビームの逆流に飲み込まれ、一面が真っ白に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと周りには何もなく、先程の戦いで消失したクレーターの残骸が残っていた。真上を見上げるとそこには先程まで敵対し、殺し合っていたはずのソーマとキアナの姿があった。ソーマは心配そうに聖白を仰向けに倒れている聖白を抱き抱えており、キアナはその様子を隣で覗き込むように見ていた。

 

「...そう、私は...負けたのね。生まれて初めての敗北ね...」

 

「すまない、聖白。お前との一騎打ちの戦いでこんな勝ち方をして...」

 

「何故謝るの?...私はアナタに全力で殺すように言っただけで、そんな決まり事なんて望んでいないわ」

 

「そうだな。けど俺ひとりじゃ聖白、アンタには勝てなかった。キアナが力を俺たちの教えの師の形見のおかげで勝てたんだ。結局、俺は弱かった...」

 

 自分の力だけではどうしても勝てなかったことに落胆し己の弱さに俯くが聖白は負傷した左手で優しくソーマの頬に触れる。

 

 

「そんなに下卑しないで...その決断をしたのはアナタ自身でしょう?...なら恥じることはないわ...仲間を...信じて戦えたアナタは充分に強いわ...誇りなさい」

 

「聖白...」

 

「それに...アナタ達が私を倒してくれたおかげで...私はようやく傷を負った。これで...ようやく死ぬ事ができる...」

 

「え?けどソーマにトドメを刺されたわけじゃないのにどうして...?」

 

 聖白の話に疑問を感じたキアナが問いかけるが聖白は自身の死の定義を彼らに伝える。

 そもそもの話、聖白の不死の呪いは必ずしも聖黒の律者コアを必要とする必要はなく、聖白という強大な存在を打ち倒す存在が現れ倒されることで初めてその呪いの制約が解除されるというものであり、結果的に聖白も人類が崩壊に打ち勝つ為に建造主が生み出した演劇上の乗り越えるべき配役に過ぎなかったというのだ。

 

「そんな...それじゃあアンタはそんな役回りの為だけに五万年もの時間を過ごす羽目になったの⁈...そんなのあんまりすぎるよ...」

 

「フフ、ありがとう...アナタはとても優しいのね。けど...この長く続く呪いもアナタ達が打ち破ってくれた...だから感謝してるの。...私はもう死ぬことでしかこの摩耗した苦しみと地獄に解放される手段しかないの。どのみちこうなる運命だった」

 

 ソーマは聖白との話しを聞きながら少し迷い込むように考え事をしていたが、意を決したのかキアナと顔合わせをするとお互いに頷き合い、聖白に自分達が伝えたい真相を伝える。

 

「聖白、アンタに...いや、貴方に伝えないいけないことがある。貴方のその人格である意識とその過去の真相を...。まず、結論をいうと貴方は対極の律者、聖白と呼ばれてるが、それば側だけだ。本当の貴方の正体は...かつての火を追う十三英傑のひとり、"慈悲の皇女「ヘレナ」" だ」

 

「...私がヘレナ?」

 

 事の真相はかつて五万年前での月での最終決戦にてケビンを逃す為にひとりで戦い残ったヘレナは最終的に終焉の律者に敗れてしまうが、建造主の手によってヘレナの亡骸からその魂を蘇らせ、その時に創り出されていた聖白のコアを器に蘇らせたヘレナの人格を宿らせ、対極の律者、聖白として誕生させた。何故建造主はヘレナというひとり個人の魂に注目したのかは分からない。ただ建造主の目的が自身と対等なる存在を生み出す事であるということであるから律者の力を使いこなしたヘレナ個人に特別な何かを見出したのかもしれない。

 しかし、建造主には人間ひとりの感情や感性を理解できているわけではない。相手を群として見ている存在がヘレナの人格を完全に理解できる訳がなく、ヘレナの人格を宿した聖白と呼ばれる律者は生みの親である建造主を母として敬い、来るべき母の望みを叶える為に人類に敵対する崩壊と呼ばれる存在へと仕立て上げられた。

 生前、慈悲の皇女と呼ばれるほどに人に深い愛情を持って接してくれていた彼女が果たして魂を器に宿したとはいえ、もとは善性をもつ優しき少女に率先して人間を殺すような行為なぞ耐えられる訳がなく、長い時間をかけて彼女は自身の精神を壊していき摩耗してしまう。

 いつしか限界を迎えた彼女は自身がこれ以上最悪な蛮行に及ばない為にも自身が一刻も早く死を迎えることを望んだ。

 何故なら彼女の死がこれ以上の人々の犠牲と滅びを抑え、彼女自身もこの長く続く苦しみの負の連鎖から解き放たれることを一番に望んだからだ。

 かつての大事な仲間達、ケビンやエリシア、華やパルドフェリス等といった大好きな仲間達が命をかけて守ってきた世界を自身の手で滅ぼすという最悪なシナリオを迎えない為に...。

 

「そう...やっぱり、そうだったのね。...どうりでヘレナの記憶だけやたら鮮明に多く残っていたのは...。ケビンにエリシア...懐かしい人達の名ね...でも彼らはもういないのでしょう?」

 

「...ケビンはかつて共に戦った仲間達の意思を受け継いで崩壊に勝つ為にもう一度眠りから覚めてヨルムンガントっていう組織で活動している。...華は俺たちとはいろいろといざこざはあったけど今は学園に通う俺たちの委員長になってるよ。今は分かっているのはこの二人くらいだな」

 

「そう、何人か生き残ったのね...ありがとう私に大事な話をしてくれて。最後に自身を思い出せて...良かったわ。...聖黒...いえ、ソーマ、これを受け取って」

 

 ヘレナは自身の体から聖白のコアを取り出し、ソーマにソレを手渡す。白銀に染まった美しい結晶石がソーマの手元で輝きながら浮遊していた。

 

「これは聖白の律者コアよ。...知ってたかしら?対極の律者はもともと...ひとつの律者コアで賄われていたの。...でも、私を生み出した母は人類に試練を与える為に二つに分け、人類に崩壊に打ち勝つための切り札として片方を与えたの...」

 

「ヘレナ...」

 

「でもアナタは仲間と力を合わせて私に打ち勝った。...これはアナタに相応しいものよ。アナタならこの力をうまく扱えると思う。...アナタ達がこの先続く地獄の負の連鎖を止めてみせて。私はもうここまで...あとはアナタ達の旅先を眺めさせてもらうわ」

 

「...分かった、ヘレナの想いを受け入れる」

 

 ソーマと言葉を交わした後ヘレナはキアナに視線を向き直り、彼女にも声をかける。

 

「空の律者...いえキアナ、アナタには酷いことをしたわね。アナタの大切な人である彼を殺しかけたのだから許されることではないのだけれど...本当にごめんなさい」

 

「えっ⁈あ、いや、うんソレは確かにそうだけど...べ、別にそんな関係じゃ...!」

 

「...あら?そうなの?私はてっきり...いえ、これ以上はいい。あまり私がどうこういえる立場じゃないわ。...もうそろそろ限界ね...」

 

 ヘレナがいい終わると同時に彼女の体から光の粒子が現れ、ガラスが割れるように体が欠けていき粒子のように霧散していく。

 

「もうお別れね。...短い間だったけどアナタ達に会えて良かった。お互いに出会いは最悪だったけど、アナタ達は試練を乗り越えることができた。...私を打ち負かすことができたアナタ達なら本当に崩壊に打ち勝てるかもしれない...だから諦めないで」

 

「ああ、ヘレナ達の仲間達の想いも育んで前に進むさ。だから貴方も見ていてくれ」

 

「私も、この世界を守る為に諦めずに進むよ。ソーマ達が愛するものを守る為に」

 

 ふたりの言葉を聴けた事に満足したのかヘレナは優しく笑みを浮かべる。キアナに瓜二つの顔から一瞬だけ、当時の本来のヘレナの見た目を凝視したが気が付いた頃には完全に光の粒子にすべて染まり、姿が残らず消えていた。

 

消えゆく意識の中ヘレナは懐かしい人物の気配を感じ取る。もう何も見えないのにあの特徴的なピンク髪の...よくヘレナ自身を振り回しては人を着せ替え人形にしたり、いろんなところへ連れ回したりと、苦労の絶えない妖精さんだった。

 彼女はヘレナに両手を差し出して勧誘してきた。まるで此方を迎えに来たかのようにやってきた。

 

(エリシア...迎えに来てくれたのね...まさか死んでもなおアナタに振り回されるなんてね...けど悪くは...ないわ...)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘレナ...?」

 

 空を眺めていた白髪の青年、ケビンは無意識に懐かしい人物の名を呟いた。おそらく間違いなく死んでるだろう少女の名を呟いてしまった自分は感傷に入り浸っているのだろうか。自分にはそんなことを考えている余裕なんてないのに...。

 

「...ヘレナ、君が繋いでくれたこの命、仲間達の犠牲を無駄にしない為にも僕は絶対に計画を成功させる。その先は...いやいまはよそう」

 

 そうだ今はこんな事を考えている場合ではないのだ。これ以上の悲劇を止める為に自分は心を冷たい鬼に徹しなくてはならない。もう、時間は限られているのだ。その場を去るように移動していったケビンの後ろ姿はとても重々しく、暗いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 支配の律者による策略で支配劇場に幽閉されたブローニャは同じ後から支配劇場に無理矢理連れてこまれたフカと共に人形達の群れに苦戦を強いられていた。

 道中で保護したゼーレを奇跡的に支配劇場から脱出させることに成功するがおそらく敵はゼーレがもう用済みだと判断し、追い出したのだと思われる。

 実際に理の律者であるブローニャと最近識の律者に覚醒したばかり委員長という明らかに強力な律者の力を持つ者だけを閉じ込めてきた。

 間違いなく律者の力を奪う事が目的だろういう事が分かる。まだキアナやソーマ兄さんの居場所すら把握できてないというのに。

 

「委員長、まだ無事ですか⁈」

 

「大丈夫です!しかし、このままではっ!」

 

 薄々と分かっていたが逃げ道もない敵のテリトリーに閉じ込められたブローニャ達にはここで力尽きるしか運命は残されていなかった。このまま律者の力を奪われるくらいなら最悪、自爆覚悟で刺し違えるしか...!

 

「ッ!ブローニャさん逃げてください‼︎」

 

 委員長がすぐにブローニャに警告を出すが、長期戦で疲弊したブローニャはすぐに反応することが出来ずに人形達の不意打ちにハマってしまう。

 

「ッ!しまった‼︎」

 

 気が付いた時には人形達に取り押さえられ、透明な操り糸で絡め取られてしまう。ブローニャが捕まってしまったことで隙が出来てしまった委員長も遅れて操り糸で絡め取られてしまい、空間の上空から支配の律者の本体らしき存在が現れる。

 

「「「哀れな敗者さん、アナタ達の戦いは終わりダ!」」」

 

禍々しい魔王のような巨大な機械人形が現れ、ブローニャ達を縛り付けている操り糸の元凶が現れる。上空から人形達以外に巨大な腕が現れ、じわじわとブローニャとフカの体を締め付ける。このままではそのまま糸で四肢を切断されバラバラにされてしまうだろう。

 薄れゆく意識の中、自身の死を覚悟するが、支配劇場の空間を突き破り、飛び降りてくる見慣れた二人組の姿が見えてきた。

 

(...ああ...よかった、キアナと兄さんは無事、だったんですね...よか...った)

 

 キアナとソーマの姿を見る事が出来た事に安堵したブローニャは静かに意識がブラックアウトする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対極の律者、聖白を倒したソーマとキアナは彼女が討伐された事で術式が解除され、再び支配劇場の空間へと戻される。聖白...ヘレナの計らいなのか、ソーマ達はそのまま迷う事なくブローニャ達がいる支配劇場の中枢へそのまま突っ込んでいく。

 空間の亀裂を突き破った先にはブローニャとフカが支配の律者に操り糸で捕縛された姿を見つけてしまう。

 

「ッ!ブローニャ、委員長‼︎」

 

 キアナが必死に呼びかけるがふたりとも戦闘で疲弊し負傷しているせいなのか反応が鈍かった。

 

「支配の律者‼︎お前、一体何をした‼︎」

 

 ソーマが叫ぶ先には支配の律者の親玉らしき巨人の機械人形の姿があった。赤い不気味なふたつの眼光が此方を見据える。

 

「「「うん?オマエは...いや、待テ...なぜオマエがここにいる"聖黒"!」」」

 

「何だ俺がここにいるのがそんなに不思議か?俺達が彼女に打ち勝ったから以外に理由があるか?」

 

「「「馬鹿な...馬鹿な馬鹿な馬鹿な‼︎‼︎そんな事があっていい筈がなイ‼︎キサマどうやって突破した‼︎」」」

 

「そんな難しいことはしていないさ。...ただ俺は一人で戦うのではなく、キアナと共に闘う事を選んだ。そして勝った俺達に彼女は聖白のコアを託した、それだけの事だ」

 

「「「託しただと⁈...あの女め!最後の最後に裏切ったなァ‼︎フン、もとより信用がないヤツだ、どうせロクでもない!なぜあのようなヤツに我が建造主は選んだのダ‼︎」」」

 

「これ以上ヘレナの侮辱は許さないよ‼︎支配の律者‼︎」

 

 聖白が敗れたことで大きく予定が狂ったことに支配の律者は取り乱す。

 

「「「ああ、面倒なことになった‼︎こんな筈では!!......フ、フフ、フハハハハハッ...な〜んていうとでも思ったカァ?アハハハハハッ、馬鹿め!こんな事、想定の範囲内サ‼︎」」」

 

 支配の律者の想定外の余裕の態度に驚き周りを警戒すると周りから複数の人形らしき存在が上空から降りてくる。

 

「そ、そんなっ...だ、だってアレは‼︎」

 

「...ほんっと悪趣味なヤツめ!」

 

 上空から現れた人形達は間違いなくソーマ達がついさっきまで戦っていたことのある聖白が率いていた月蝕の騎士達であり、そして彼らが手にする武器ひとつひとつが対極の陽月・秩序の槍と瓜二つであった。

 

「「「私達が何も対策しないと思ったカ⁈馬鹿め、彼女の力をそのままにするわけがないじゃないカ!もとより、私達とはあまり協力的ではない彼女の事だ、途中で裏切る事を想定し、長い時間をかけてヤツの力をこっそりと吸収し続けていたのサ。おかげで見違えるほど強大になった!複数の律者の力を吸収した私達には誰も抗えない‼︎」」」

 

 新たな力を見せつけた支配の律者は吸収した聖白の力を振るいながら配下の人形達にソーマとキアナを攻撃させる。

 

「「「キアナ、ソーマ...もう諦めるんダ。お前達では私達を倒すことは出来ない。たとえお前達が私達を倒せてもこの醜い世界は変えられないないのダ!」」」

 

キアナが手にした大剣で人形達を振り払い斬り伏せるが次々と襲いかかり、足場を奪う。

 

「キアナッ‼︎クッソ‼︎」

 

支配の律者が召喚した月蝕の騎士達からの猛攻を受け流すが新たに召喚された結晶石の槍の弾幕に襲われ、支配の律者の巨大な腕に掴まれる。必死に動こうとしても巨大な腕から律者の力を吸い取られていき力を引き出せない。

 包囲され捕まったソーマを助ける為にキアナは空の律者の力で虚数から槍を生み出して攻撃するがソレすら支配の律者の操り糸で絡め取られてしまい無力化される。

 後から遅れてキアナも人形達に取り押さえられ、支配の律者の巨大な腕に閉じ込められる。

 

「「「コレが人類の結末‼︎どうあがいても勝てないのダ。彼女達は皆倒れた、私達は敗者...人類は皆、敗者なのダ‼︎」」」

 

 助けにきたソーマとキアナですら取り押さえられ、事態は絶望的な状態であった...。

 しかし、それぞれの意思を託された者はそう簡単に諦めることはなかった。

 

「...いいたいことはソレで終わりか?」

 

「「「何?」」」

 

 取り押さえられていたソーマを掴んでいる巨大な腕が謎の光と共吹き飛ばされ、続けてキアナのいた場所も取り押さえた人形達事吹き飛ばされる。

 人形を吹き飛ばしたキアナは髪が振り解けるが手にした師の形見である大剣に命が宿ったのか、新たな姿を変えていた。

 

「...アンタの攻撃はこれで終わり?」

 

 キアナとソーマはお互いの肩を合わせるように互いの得物を支配の律者に突きつける。ソレは正にこれからは自分達のターンだと言わんばかりの戦線布告だった。

 

「...なら今度は俺達の番だな」

 

「「文句ある?」か?」

 

 掛け声と共にキアナは目の前にいる人形達の何体かを斬り伏せる。背中がガラ空きになったところを月蝕の騎士が斬りかかるがキアナの背中を守るようにソーマが回り込み、対極の陰月・虚空を大剣に形成して近付く敵を薙ぎ払う。

 

「「「なぜ抗う?どれだけあがいても現実は変わらないのニ‼︎」」」

 

 空から襲いくる支配の律者の腕をソーマの召喚した結晶の槍で次々と打ち抜き、その隙を狙う人間と騎士達をキアナが緋色を纏った大剣で次々と斬り伏せる。

 支配の律者はふたりの周りに操り糸をまとわせ足場を奪いながら数で攻めさせる為に全方位に攻撃させるが、思わぬ伏兵からのレーザー攻撃に人形達を破壊される。

 そこには糸で縛り付けられ戦闘の余波で吹き飛ばされたブローニャであった。満身創痍だが、不屈の精神と気力で何とか起き上がり理の律者の力で複数のレーザービットを創造し、取り巻きの人形達を攻撃させる。

 

「ハァ...ハァ...そんなの関係ありません。あそこにいるのは諦めの悪いふたりです。バカは諦めません‼︎」

 

 ブローニャの意思が宿ったのかキアナの持つ大剣の力が共鳴する。理の律者の力を用いて大量のレーザービットを召喚し、結晶石の槍と共に迫り来る人形や月蝕の騎士達を撃ち抜き、刺し貫き、全滅させる。

 拉致が開かないのを悟った支配の律者は支配劇場を解体し始める。今までの暗い天井の空間から一気に広い空が広がり、天井を造っていた巨大な複数の石板を質量兵器にしてソーマ達に襲い掛かる。

 石板の衝突と共に残骸が舞うが、上空から謎の羽が舞い落ちる。そこにはフカの仙術である渡世の羽が舞っており、光と共に散らばった羽からキアナとソーマが現れた。

 

ー彼らはたくさんの人を変えてきました。これからも彼らはいろんな人達を変えていくでしょう...その日を見届けたいから、私達は諦めません‼︎ー

 

 渡世の羽の力によって現れたフカとキアナは共に緋色の炎をまとって支配の律者に襲い掛かる。

 支配の律者は自身の腕を大量に飛ばして押し返す。

 

「「「お前達ノ理想は実現しなイ‼︎何故なら世界ハ最初からひどく醜いのだかラ‼︎」」」

 

 「違う‼️」

 

 押し付けた大量の腕と炎がぶつかり合い爆発していくとその爆炎から晴れたところから新たな姿に変わったキアナが現れる。

 白い白銀の装甲に緋色の炎を思わせる大きなマントをたなびかせ、白髪を黒い髪飾りでポニーテールにしたその姿はまさに闘う美しき戦乙女の少女の姿であった。このときのキアナは仲間たちの意思を受け継ぎ、"薪炎の律者"として新生したのだ。

 

「美しくないのは当たり前!でも諦めちゃだめだって、世界はそんなに酷くないって、教えてくれる人がいた!」

 

 襲い掛かる支配の律者からの黄金の鎖を避けながら切り裂き、切り替わるように鎖に飛び乗ったソーマがキアナの道先を塞ぐ障害を斬り払い、複製した対極の陰月の槍を支配の律者に縫い付けるように差し込み、動きを奪う。

 

「私は彼女たちを...彼女たちが愛するすべてを愛してる!」

 

移動手段を奪われた支配の律者は悪あがきで巨大な質量弾を作り上げキアナ達に目掛けて打ち込む。

 

「この剣は私たちを繋いで、真っ暗な空を燃やし尽くし、光をより彼方へと届ける!」

 

 つかさず、キアナとソーマによる息のあった交差斬りによる一撃で一瞬にして破壊される。しかし、その隙を狙って支配の律者は自身の背後に熱球体を形成し、十字架の火柱を出現させながら高密度の赤い崩壊エネルギーのビームを放つ。

 その攻撃をキアナの持つ皆の意志がこもった大剣で受け止める。絶え間ない熱線のビームの余波が襲い続けるが、手にしている大剣の柄を彼女を支えるようにソーマが上から握り掴む。

 

「...今度は俺がお前を支える番だ。安心して突き進めばいい‼︎」

 

 キアナの周りにはすぐそばにいるソーマに加え、フカやブローニャ、テレサの姿が見えた。そこには自分達の師である姫子先生が安心させるような笑みで力強く支えてくれている姿も見えていた。

 

「これが...俺達とみんなの帰り道だ‼️」

 

緋色の炎と蒼炎が混ざり聖白と対峙した時のように激しく炎が燃え上がる。

 皆の意志が宿った決死の一撃が打ち勝ち、支配の律者の崩壊エネルギーの熱線ビームを突破する。最後の足掻きで支配の律者は崩壊エネルギーの盾をありったけに重ねるが、すべてを打ち破られ爆炎の炎にすべて包まれていく。

 ついに討ち取られた支配の律者がやられると支配劇場の空間は崩壊し、虚数空間から現実の世界へと帰還することになる。




・火を追う十三英傑・慈悲なる皇女「ヘレナ」

 火を追う十三英傑に所属する少女であり、フルネームは「ヘレナ・フォルトナ」。彼女は自身に宿っている律者の力を世間から隠す為に十三英傑には含まれないが番外の英傑として一部の人々に敬われている。エリシアと同じ時期に加入しており、彼女の二つ名である慈悲なる皇女は、本人の高いカリスマ性と誰にも優しく接し、誰に対しても真摯に向き合う優しさから慈悲深い気品のあるお姫様を思わせる戦乙女であるという評価から名付けられた。
 しかし、その彼女も崩壊との戦いに敗れたことで崩壊の手によって操られ、人類の敵として戦わされるが、彼女はこれ以上の悪業を抑える為に自身が死ぬ事を選び、自身の宿す律者コアを次なる者達に託し、五万年という膨大な時間を過ごし続けて人生の幕を閉じた。


・蒼炎の律者

 キアナによるプレイグジェムの治癒と姫子がかつて手にしていた涅槃の剣・スルトを一時的に借り受けたことによって独自の変異と覚醒を遂げた姿。意思を受け継ぎ、薪炎の律者へと新生したキアナと同じく師からの約束と仲間と共にこの世界を生き延び、守ることを己の意思として定義したことで不滅なる蒼炎を身にまとい、仲間と共に戦う事を選ぶ。
 装備外見はキアナの薪炎の律者姿とは対照的な色合いをした姿で蒼い炎を放つ天下聖裁・模倣を手にしている。


 キアナとソーマのデフォルメverを描いてみました。リアル等身はいつか描けたら描いてみる予定です。


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