計画の首謀者であるオットー・アポカリプスのいるカロスタンの地へ向かったハイペリオンの隊員達は遂にオットーが率いる私兵部隊と戦闘状態へ突入した。
オットーはどうやら計画の遂行として足止めの兵力をかき集める為にいつのまにかこっそりと回収していた支配の律者コアの力を用いて自身の肉体維持の為に製造していた己のクローンを戦う為の兵士として改造し、ソーマ達に差し向けてきた。
「来たぞ!各自散会して孤立しないように仲間達とフォローしあえ‼︎」
「「「了解‼︎」」」
迫り来る相手側は全く同じ姿をした道化を彷彿とさせる仮面を身につけた長身の金髪の男性の集団の大群がトリッキーな俊敏さで此方に襲いかかる。それだけでなく、上空には崩壊獣を模倣した人工的な量子型の飛行型の崩壊獣が大量に襲いかかる。
地上の敵をキアナやソーマ、フカやテレサ達が迎え撃ち、空からの攻撃に対しては援軍として作戦支援に来てくれたテスラ博士やアインシュタイン博士達によるハイペリオンの対空用の火砲による砲撃で迎撃を行い、撃ち漏らしをブローニャやウェンディと言った迎撃手段を持つ戦乙女達に任せる。
ブローニャ以外にも以前別任務でデザイアジェムの回収の為に向かった先のネゲントロピーの海中研究施設にてカカリアから保護されたアリーン姉妹がゼーレ達と共に今回の作戦に参加して戦ってくれていた。
「あ〜んもう!!バタバタうるさい奴がまわりでチクチク攻撃してくるからムカつく〜‼︎」
「ちょっとバカロザリア、文句言って暇あるなら手を動かして。私のとこが余計に苦しくなるんだけど」
妹であるリリアが姉であるロザリアの愚痴に不満を漏らす。彼女達が苦戦してると目の前に黒い残像と共に大きな鋭い鉤爪が複数の崩壊獣を切り裂き霧散していく。
【あら、誰かさんが苦戦しているかと思ったらアナタ達だったのね?】
目の前に現れた援軍の人物はまさかの黒ゼーレであった。今彼女はゼーレの肉体を借りて戦闘をしており、お互いにタイミングを見計らって交代することで安定した戦いぶりを見せていた。...もっとも、実際にはゼーレよりも黒ゼーレの方がかなり多くの敵を倒して貢献していたのは別の話だが。
「ふ、ふん、あんな敵、対した事ないわよ!私達ウォッカガールズからしたらただの雑魚同然だし!私達二人だけでもいけたわよ?」
「あの〜私の方ばっかりに負担がかかってたんだけど?ていうかロザリアはジタバタ暴れてばっかりで全然連携出来てないし...」
【今のアナタ達じゃ空にいる崩壊獣は無理よ。もっと自身に見合った戦い方をしなさい】
「アンタに言われなくとも分かってるわよ!」
援護に入ってきた黒ゼーレとロザリアとの口喧嘩に巻き込まれながら敵からの尻拭いをさせられているリリアという危なっかしい状態の連携の中をよそに、別の場所ではキアナとソーマはお互いに息の合った連携で敵側を順調に撃破していく。
キアナが召喚したバットで相手側を叩き飛ばし、その隙間を埋めるようにソーマの双銃が撃ち込まれ、オットーのクローン兵士を無力化していく。
「そこ!...いったいどれだけいるんだ?キリがないぞ!」
撃ち続けてエネルギー切れになった双銃を敵側に投げ捨て対極の陰月の槍を召喚して武器を構え直す。
「さ、流石に私も数の暴力はキツいかも!」
バットを構えて防御している所を上空から襲いかかる崩壊獣を素早くソーマが串刺しにしてそのまま崩壊獣を周りの敵に投げつけながらキアナの背中側をフォローする。
「ありがとうソーマ!でもこのままじゃいつまでたっても本部に突入できないよ」
「厄介だな...せめてハイペリオンに取り付いている地上の敵をまとめてこの場から叩き落とせたら...」
「なら、私に任せて!」
誰かからの声が聞こえて来ると上空からの飛行型崩壊獣の迎撃を終えてきたウェンディが此方に向かって来ていた。
「え⁈ウェンディちゃん?っていうか空を飛んでるし!」
「あの子、律者コアを摘出したはずなのに以前のようにまた空を飛べたのか」
ウェンディは地上にいる敵の上空の真上に空中待機すると己の武器である、チャクラム型の大きな戦輪を空中に浮かすとその輪から強力な風を発生させる。みるみるうちに巨大なサイクロンが発生し、その場にいたキアナ達を除いて地上の敵だけを器用に巻き込んで敵の大群を空へと打ち上げる。
「まとめて吹き飛んじゃえぇー!!!」
サイクロンの風で運ばれたクローン兵士や崩壊獣はまるで闘技場のリーグの場外に追い出されるかの様にハイペリオンの甲板から空へと投げ飛ばされていき、そのまま地上へと落下していく。
「ふう...なんとか上手くできた。あ、ソーマお兄ちゃん達は大丈夫?」
さっきまで数の暴力で苦戦させられていた戦いをウェンディの風の力?で呆気なく敵を撃退出来たことに周り一同は呆気に取られる。
「す、すご...あんなに苦労した敵を案内とも簡単に...」
「まるで掃除機のバキュームでゴミを吸い取って外に捨てる様な手際の良さだな。もうコレ雑魚敵はウェンディひとりで解決するんじゃない?」
「ソーマお兄ちゃんもっと褒めて褒めて!」
一番の活躍を見せたウェンディをソーマが褒めながらなんとか厄介事が済んだ事を皆で確認していく。
「ウェンディが活躍してくれたおかげでようやくこのまま旧天命本部に突入出来るわ。ただ、お祖父様が何も仕掛けてこない保証もないからここからはハイペリオンの防衛チームと探索チームに分かれて活動していくわよ」
状況が解決した事でソーマ達は探索班に分かれてテスラ博士達を率いた研究チームを護衛しながら旧天命本部施設内を調査していく。
その際、探索中にて天命のS級戦乙女であるデュランダルと遭遇することになる。ただどうやら彼女の方は自身の主であるオットー本人がこの旧本部エリアの守備の指示を命令されただけで明確に今何が起きており、オットー本人が何を企んでいるのかすら分からない事態に陥っていたという。そこでデュランダルはテレサや博士達と共同路線で同盟を組み、オットーの企みを暴く形で事態の解決を図る展開で事態は進む。
話を進めていく中ソーマはデュランダル...ビアンカの事を不思議そうな顔で眺めていた。
「...どうされましたかソーマさん」
「...なぁ、俺ってアンタと昔何処かで出会ったことってあったっけ?勘違いだったらすまない。...ただ何故か、アンタと顔を合わせた途端に不思議と懐かしさを感じるんだ」
「それは...いえ...もう今更他人行儀にする必要はありませんね...ソーマさん。いえ...ソーマ・アストラ、貴方とは血の繋がりこそありませんが昔、主教様...オットーに保護され、私と共に数年間家族として育てられました。つまりはオットーは貴方の...育ての養父になります」
「オットーが俺の...育ての親だったって言うのか?ならアンタは...俺の義理の姉って事?」
「ええ...そうですソーマ」
「え!あ、アンタがソーマのお姉さんなの⁈」
ビアンカの衝撃的な発言にキアナは驚くも彼女からのその後の説明でビアンカがソーマと共にオットーによって育て上げられた事の話を聞く。当時のオットーは何を考えているかは分からないものの、彼はふたりのことを大事に我が子のように育て、彼らに様々な経験や知識を与えていた。
その為、その後になってソーマがテレサの元に預けられた時から基礎教養に優れていたのも、オットーのによる教育の賜物であったと言える。
しかし、それとは別にやはりソーマは疑問を抱く。それは何故わざわざ育てた自分自身をビアンカの元から離し、テレサは所に預ける前に記憶処理をしてしまったのかと言う事だ。わざわざ自分自身の記憶からビアンカとオットー本人との関わりのあった記憶や情報を消してまで...。
結局、姉であるビアンカ本人に聞いてみてもオットーが何故そうしたかまでの話は聞かされておらず、新たな情報は分からずじまいで終わってしまう。
その後引き続き調査を続けていくと途中の道中にて不自然な旧天命施設エリアを見つける。何故かその場所はまるで遥か過去に時間を巻き戻された様な情景を醸し出しており、そこでオットー・アポカリプスによって行われた過去を巻き戻す計画によって実行された影響かまさかのこのタイミングでオットー・アポカリプス本人?らしき人物と遭遇することになる。
「え⁈お、お祖父様⁈」
「え、お祖父様ってまさかオットー本人⁈」
「?...き、君達はいったい?」
そんなに時間が掛からないうちにオットーに出会ってしまったことに全員一同固まってしまうが、急いで彼を拘束し、尋問を行うが何故か彼はこの場にいる全員の事を全く知らず認識がないという。いくつか質問をしながら更に博士達によって作成された検査装置で調べてみると、どうやらこの場にいるオットー・アポカリプスは自分達が知るオットーではなく、約五百年前の...実質的にパラレルワールドに近い形からきた別の世界軸のオットーだという可能性が出て来た。
アインシュタイン博士からの通信からの解説が本当なら今この場にオットー・アポカリプスがふたりも存在するということになり、そんな神の奇跡にも等しい行為をあの男はやって退けたという事になる。
ただそれらの事とは別にここにいる者達の大半は何かしらにオットーに酷い目に合わされた恨みを持つ者が多く、特にネゲントロピー陣営のテスラ博士の彼に対する怒りと憎しみ様はかなりのものだった。今回の作戦にて博士達と同じく参加していたヴェルトにいたっては当時、自身の親や彼自身の今の名と理の律者の力を引き継ぐキッカケになったかつての親友であるヴェルト・ジョイスを目の前にいる男の手によって殺された過去があるのだ。
それ以外でもオットーによって引き起こされた様々な企みで数多くの人々が犠牲になっている。当然その恨みを全力でぶつけられるのも無理もない。
しかし、この場にいるオットーは本来のこの世界のオットーではなく、前世紀の五百年以上昔の時代を生きてたオットーなのだ。だからこそいくら責めようともやらかした張本人ではない以上、ただの八つ当たりにしかならない。
しかし、この時代のオットー・アポカリプスはまだまともな人間性があったのか彼らの話を自分のことの様に受け止め、出来ることならやらかした未来の自分の罪を償う為に貴方達の目的に協力したいと率先してきた。
「君達に対してこの世界の僕は随分と酷く業の深いことしでかしてきたみたいだ。だからこそ自分がやった事ではないとはいえ、君達の為にも問題解決に協力を惜しまないよ」
ー【...ああ、そうだろうね。かつての僕ならそんな判断してただろうね。だかここまでだ。リタ、実験道具を回収してくれ】ー
何処からともなくもうひとりのオットーの声が聞こえてきたと共にその場にいた過去のオットーが背後から現れたリタによって大鎌で斬り殺されてしまう。
「なっ⁈お祖父様‼︎」
「リタ!貴方はいったい何をやっているんです⁈」
「落ち着いて下さい、デュランダル様。この場にいる彼はもうひとりの大主教様の魂鋼の体に過ぎません」
よく見ると斬り裂かれた過去のオットーは体から赤い血ではなく、紫色を帯びたスライムの様な体液を流して沈黙していた。
【その通りだ。そこにいる彼は僕の計画のピースを揃える為の手段に過ぎない。まぁ、説明すると長くなってしまうが...】
もはや、この男は自身の計画の為に過去のもうひとりの別世界の自分を呼び寄せ、目的の為にあえて餌として殺害させたのだ。その目的も簡単に要約すると必要とする全ての律者コアを揃える為に過去の自分のレプリカを用意し、その個体に律者の力を宿らせると言った大掛かりな方法であり、律者の力に目覚める者は負の感情を強く宿している人ほど律者化しやすいという特製から当時絶望に明け暮れていた過去の自分を触媒にする事で成功させた。
「ようやく全ての律者コアが集まった事で僕はこの地を去る準備が整った。...しかし、それとは別にまだやる事が残っている。君達には悪いけどそこの彼を人質にさせてもらうよ。まぁ、彼にはきちんと返さないといけないものがあるから悪い様にはしない」
オットーが告げた後、しばらくすると彼らの場の近くに複数の不可解な未知の怪物達が現れ、近くにいたキアナとソーマに襲いかかる。
「‼︎ソーマ、逃げてください‼︎大主教様の狙いは貴方です‼︎」
「くっ!、よりによって俺か‼︎」
「絶対にソーマに触れさせないんだから‼︎」
襲いかかるオットーの私兵の怪物からソーマを守る為にビアンカとキアナが互いに前にでて奪わせまいと迎撃に出る。しかし意表を突かれたのか突然真上から現れた虚数の空間ゲートが現れ、そこから現れた黄金の鎖に周りにいた何人かが拘束され、無力化されてしまう。
突然の不意打ちに慌てて己の武器で迫り来る怪物達を斬り払うが最終的にソーマも例の黄金の鎖に拘束されてしまい、虚数の空間ゲートに運び込まれてしまう。なんとか鎖の拘束から逃れたキアナが必死に怪物の猛攻から乗り越えて運ばれていくソーマの片手を掴んで引っ張っり返えすが、虚しくも手元が離れてしまう。
「!っ、...キアナ!ごめん...!」
「ソーマ‼︎」
最後の抗いも虚しく無常にもソーマはそのまま虚数空間の中に取り込まれて消えてしまう。ソーマが攫われた後、怪物達も用が済んだかの様に消え去っていく。呆気なく攫われた事に自身の力が及ばなかったことに絶望しキアナは膝をついてしまう。
「また...守れなかった...もしソーマに何かあったらっ...!」
「キアナさん落ち着いて、ここで冷静さを失ったら相手の思う壺です。大主教様は約束を破る真似はしないので今のうちに一刻も早く調査を進めて彼のいる場所に向かいましょう。...悔しいですが今はそうする他ありません」
よく見ると血が馴染むほどにビアンカは悔しげに握り拳をしており、元から何事にも素直な彼女がここまで感情的になるほどにやるせない気持ちを抱いていた。それは自身の前から弟であるソーマを奪われたことに対する感情か、はたまたなんの知らせも教えもなくオットーが勝手に事を進めていたことに対する不信感か...。
「...リタ、彼が...ソーマが大主教様に連れて行かれるのもシナリオのうちに入っていたのを知っていたのですか?」
「...申し訳ございません、デュランダル様。私は大主教様から魂鋼体であるもうひとりの大主教様を処理すること以外は指示を一切受けておりません」
本来のオットー本人から指示を受けて職務を行なっていたリタから話を聞いたがどうやら彼女もこの場にいるオットーの処理以外は何も知らされていないらしい。
「キアナ、ごめんなさい。私がいながらソーマの事を助けられ無かった。私はソーマの育て親として失格ね...」
「テレサ...」
キアナと同じ以上にテレサは酷く落ち込んでいた。何せ一番早くオットーからの秘匿通信のメールを受け取り、オットーがソーマの事に用があり、狙っている事を知り、彼の身に危険が及ばない様に共に行動をしていたのに呆気なく無力化され、自身の子を連れ去られた事に酷く心を痛めた。
【皆、感傷的なっている所すまない。つい先ほど天命本部の科学者である長光さんから聞き出したオットーの計画の情報を得る事に成功した。今は一刻も早く情報分析と場所の特定を急がないといけない。ここでモタモタしていたら彼を救出するチャンスを失いかねない...今は耐えてくれ】
「でかしたわ‼︎アンタ達、すぐに行動を再開するわよ!」
通信から届いたヴェルトからの情報でなんとかオットーの潜んでいる居場所の特定の在り方を得られ、テスラ博士の指示のもと全員すぐに調査班と探索とソーマの救助班に別れて行動を開始していく。
救助班に加わったキアナは心の中でソーマの無事を祈りながらビアンカ達と共に急いでその場を離れる。
「ソーマ...今すぐに助けに行くから...‼︎」
旧世紀の頃のままの形で維持されているのか中世感を感じさせる大きな教会堂が聳え立っていた。教会堂の広場の近くにはかつての英雄の女神として象徴されていたカレン・カスラナの像が当時の頃のまま建てられていた。
その広場の女神像が見つめる先には長身の金髪の男性とモノトーンの銀髪をした少年が対面していた。対峙している少年側は明らかに金髪の男を警戒いた目で見ているのに対して、男の方は久々に我が子を見る様な親しみの顔を見せていた。
「ようやく会えたね。今の君は僕のことは天命の大主教程度にしか知らないから無理もないが...僕にとっては数年ぶりの我が子の再開のようなものなんだよ。ああ、すまない、勝手に自分から一方的に話しかけてしまったね。改めて自己紹介しよう、僕は天命組織トップの大主教をやっているオットー・アポカリプスだ。まぁ、今は"元"大主教になるのかな?」
「...ご丁寧にどうも。それで...?アンタはわざわざ俺みたい人間をここまで連れてきた理由は?人質...とはいっていたが、まさか自分の計画を邪魔されない為か?だとしたら的外れにも程があるぞ。俺はキアナのような空の律者の力はないし、なんの役にも立たない」
ソーマは自身を人質にした事は無駄だと宣言しながら彼がなんの目的で自身を攫ったかを知る為にあえて分かってないようなフリで話を聞き出す。
「...ああ、そうだね。今の君には自身の力の正体を完全に把握しきれているわけじゃないからね。それに...君に処理された記憶の封印をまだ解いていなかった」
その後、オットーは先ほどまでヘラヘラした様な態度から真剣な顔つきに変え、ソーマに対して真面目な話を伝える。
「僕のかわいい養い子ソーマ、正直に全てを話そう。...まず僕が君だけをここまで連れてきたのは君に課せられた記憶の封印を解く為と、君の力の根源を知ってもらう為だよ。下手に仲間を連れてこられたら妨害されてしまうからね...さぁこの物体を見てくれ」
そう言いながらオットーは自身の手にした虚空万象と呼ばれる神の鍵を取り出し、何かのスペルを唱える。
「..."異界を繋ぐ楔の星の神よ汝の契約は無事果たされ、制約を解き放とう。あるべき形に戻る時である"」
オットーが言い終えるのと同時に虚空万象が光出し、警戒して眺めていたソーマの意識が覚醒して行く。
「ぐっ⁈な、なんだよ...これ...!」
ソーマの意識からは欠けていた記憶の断片のパズルがはめ直され、全てが埋まったように記憶がよみがえる。
その中には間違いなく目の前にいる男...オットーを父のように慕い、その隣にはビアンカ...自身の姉と共に楽しく日々を過ごしている光景が鮮明に現れてくる。
養父であるオットーにさまざまな知識を与えられ、彼の元でいろんな世界を観てきた。姉にあたるビアンカからは鍛錬や冒険に連れ回され、たまにやんちゃな彼女の翻弄っぷりに泣かされたこともあったようだ。
顔を合わせた回数は少ないがリタとも認識があったみたいで彼女の元で家事仕事や料理開発にも勤しんでいた。...朧げだが当時のフカとも顔を合わせていたみたいで、どうりで彼女がやたらと自身の事を気にかける理由も当時から関わりがあるということを理解した。
しかし、その中で唯一解せないことがあった。それを目の前にいる養父であったオットーに問いかける。
「...とう、いや...オットー、貴方は俺がこの頃からこの様な性格の人間だったという事を知っていたのか?」
「僕の事を父とは呼んでくれないんだね...いや、構わない。...ああ、そうだね僕が当時、君を我が子として迎え入れたきっかけでもある理由のひとつだよ。昔の君はそう...わかりやすくいい例えるなら正に新たに生まれ変わったカレンのような魂を身に宿した英雄願望のような人格の持ち主だった...」
「俺が...カレン・カスラナみたいな魂?」
「ああ!そうさ!君を観て過ごしてからこの目を疑ったよ...研究施設から偶然救い出した子供があれだけの境遇を過ごしながらも自分よりも誰かを救う事ばかりを考え、率先して自身が実験体になる事を選んだ。しかし...結局は欲にくらんだ悪人達によって君自身が犠牲になって助かるはずだった子供達は君が耐え忍んでしまった事で他の子達にも同様の実験改造を行われる事になった。全く皮肉な話だよ、彼らを守る為のはずが耐え忍んでしまった時点で同じように耐えられると認識されたのだろう。本当ならば君はその実験で死ぬべきだったのかもしれない。けど、どのみち君が仮にその時に死んだとしてもまた新たな犠牲者が標的になるだけだ...どのみち詰んでいたのさ」
「...」
あんまりな話であった。施設にいた時から家族同然に過ごしていた弟妹達がどのようにたどっても死ぬ運命をたどっていたというのだから。だからこそ保護されてしばらくの自分は弟妹達を救えなかった事に苦しみ、死ぬ事を望んだ。
しかし、養父であるオットーに止められ、もっと広い世界を知る為に自身をビアンカと共に連れて世界を旅した。
「僕はね...君のその行動力と精神性のあり方、そして君が大事な人を失って絶望に伏した君の姿がカレンの魂のような在り方とは別にかつてカレンを自分の失態で死なせてしまった僕自身の姿と重なって見えたんだ。...僕が君の記憶を封印した本当の理由は...君が第二のカレンのような二の舞を引き起こさせない為だよ」
当時のソーマは大事な家族を救えなかったことへの戒めとして必要以上に人を救うことを第一に考えるようになった。大事な存在を失う事をひどく恐れる様になり人一倍に正義の味方に憧れるようになった。しかし、その行き過ぎた考えの先は破滅の道である。
オットーはそれをかつてカレンを失った苦い経験を元にソーマの意識を何としてもただそうとした。当時から律者の力を行使できた本人だからこそこのままでは彼は最終的に人類に裏切られかねないという考えもあった。薄汚い悪人達を散々観てきた彼だからこそ遠い未来にソーマが傀儡の様に都合よく扱われ、最後は自分の愛したカレンのように...。
それだけは許せなかった。これだけ純粋で美しい魂を宿す子を世界の悪意晒させない為にも、オットーは彼に普通の人間のように生きる事を望んだ。
「だから僕は君に英雄としてではなく、普通の人のような当たり前な幸せな生き方を願っていたんだ。...もちろん僕は君の力を有効活用する為に邪な考えで利用していたことを認めるよ。...僕の愛したカレンを甦らせる為にその力を拝借もした、いろんな人々を不幸にし、犠牲にしてきたことも沢山あった...実際に君の律者の力のおかげで僕は早い段階で計画を推し進める事ができたんだ。けど...それとは別に僕は君という我が子を本当に愛していた。カレンを失って人間性も良心のカケラも失ったと思っていた僕の感情を君はふたたび甦らせてくれたんだ」
「...でも貴方がしでかした罪は無くならない」
「ああ、そうだね...僕のしでかしたことは決して許されない。近いうちにその裁きを受けるさ。...すまない話が長くなったね、久々の我が子との会話で気が昂ってしまったよ」
「...それで俺の律者の力の正体とやらを教えてくれるのか?まるでまだ何かがあるかのような...」
「ああそうだよ。忘れていた、君のその力の正体を説明しなければならないね」
オットーはソーマが持つ、力の本来の姿について教えた。ソーマの持つその力...それらは今ソーマが生きるこの世界にしか存在し確認し得なかったものだといわれ、オットーは自身が虚数の樹にアクセスして枝分かれした無数の並行世界を見渡した中でもイレギュラーな存在だったというらしい。
そして彼の持つ対極の律者...聖黒、そして最近まで討ち取られた聖白は元々はひとつの律者から成り立っており、その力の根源は"境界"。あらゆる制限や壁などの物理や概念的なものからも干渉されず影響を与える権能、正に宇宙の法則から外れたような存在であったとされている。その常識はずれな権能の力から命名して"境界の律者"という名で呼ばれた。
しかし、律者という枠組みでありながら外宇宙にも干渉できるその規格外すぎる力というアンバランスさから、オットーはこれらの権能は外宇宙からきた異星の神..."星神"が間違いなく関わっていると認識した。
「星神...それが俺に力を授けた者の正体の名前って事か...だとすればやはりそいつは俺達人類に試練を与える為にわざわざここまで力を分けて分散させたって事になるのか...崩壊なんてシステムまで作って...なんて傍迷惑な」
「そこまでは分からないが君に言える事は、その力があれば長く続く崩壊との戦いへの歴史の終止符を終わらせる鍵なるということだ」
「そうか...でも貴方はその人々が長年築いてきたその成果と苦労をなかったことにしようとしている。違うか?」
「さすがに誤魔化せないか。ああ、そうだね僕は自分の願いの為にこの地球に住む人類の歴史を巻き戻そうとしている。けどそれしか方法はない。僕が愛した光であり、希望であった彼女が生きる世界にする為には...君ならその感情は理解できるはずだソーマ」
オットーは教会堂に目を向けるとソーマに語りかける。
「少し僕と歩きながら話そうか」
どうやらただの散歩に誘っているだけの様であり、ソーマは素直にそれに応じる。
オットーを先頭にソーマが後をついていく様について行く。オットーは旧天命の地であるカロスタンの地を歩きながら眺め、独り言の様に語りながら自身の過去を語る。
「もう知っているだろうけどここカロスタンの地はかつて旧天命本部の跡地であった。しかし...同時にここは五百年前にかつて天命の英雄であるカレン・カスラナが処刑された場所でもあるんだ」
「処刑された...場所...」
「少し怖くなったかい?」
「馬鹿を言うな」
「はは、すまないね。昔を思い出すとつい感傷的になってしまってね...思い返せば僕の生きていた時間はこの頃から完全に止まってしまっていたようなものだ...」
オットーは自身の過去で自分の生まれであるアポカリプス家の醜い権力争いにて自身もはめられ、そんな愚かな自分のせいで天命によって見せしめとしてカレンを公開処刑されてしまうのを防ぐ為に一芝居を打つが結局、カレンを逃す為に解き放った崩壊獣に誤って殺されてしまうという最悪なやらかしをしてしまう。
その後、オットーはほぼ逆恨みに近い形で旧天命組織の勢力を革命軍を引いて打倒し、自身が現天命組織のトップの座に着く。
しかし、それを成し遂げた事でカレンは帰って来る事はなく、この時を界にオットーはカレンを生き返らせる為に五百年にも及ぶ長い旅を続ける事になる。
ソーマはオットーのそのような過去話を小さい頃から聞いたことがあった。何度も懺悔と後悔を嘆くように養父の話を散々聞いてきた。
「...貴方がそれだけあの人のことを深く愛していたことからこそ酷く後悔した事はは耳が痛くなるほどに小さい頃から聞いたよ。...でも貴方は俺にそれを肯定してほしいのとは別に...そんな自分を止めて欲しいとも望んでいるんだろう?オットーいや..."父さん"」
その返事を待っていたかのようにオットーは微笑んだ。
「フフフ、ああそうさ。僕は君が肯定してくれることを理解しているし、同時に止めようとしてくる事も期待していた。だから君には彼女達と共に僕を倒して欲しいのさ」
オットーの長い過去話を語り終えた後、しばらくして教会堂の跡地の遺跡の奥から走ってくる複数人の足音が聞こえてきた。そこには薪炎の律者の姿をしたキアナと姉であるビアンカのふたりの姿が見えていた。
「ソーマ‼︎」
キアナはソーマの姿を見つけて心の底から安心したのか、全速力でソーマのいる元へ駆け寄る。遅れて走ってきたビアンカも合流し、何かされなかったかと身の心配をされる。
「ソーマ!アイツに何かされなかった⁈」
「いや大丈夫だよ。ごめん、心配をかけたなキアナ」
「彼に何かされませんでしたかソーマ?」
「いや、大丈夫だよ"姉さん"」
「姉さん?...まさかソーマ...貴方、記憶が戻ったのですか」
「ああ...オットーに記憶の封印を解除されて姉さんとの記憶と思い出を思い返したんだ。...俺が記憶を取り戻すまで他人の様に数年間も過ごしてだんだよな姉さんは...」
「ええ、そうです...本当に辛かった。いつもそばにいた弟が計画の為とはいえ、生き別れのような形で過ごさなければならなかったのですから...」
「ごめん、辛かったよな姉さん。...でももう大丈夫だから」
ソーマの無事を確認したビアンカとキアナはソーマを攫った首謀者であるオットーを一瞥する。対するオットーは先程までソーマに見せていた素の顔とは別にふたたび道化のような顔で相対する。
「フフ、ようやくここまで来てくれたね、僕の大好きな勇敢なる戦乙女達。だけどまだ僕を倒すにはまだ足りない。無論、ソーマ君もだ。今の君達ではまだ十分な力を満たせてない。だからここで君たちにはこの試練を乗り越えて貰うとしよう」
オットーは手先で何かを操作するような動きで指示を出す。
「虚数、座標指定...君達には物理的な力だけでなく精神的な強さも乗り越えてもらいたい」
「なっ、オットー何を企んでいるのですか‼︎」
「残念ながらもう遅い...!」
眩しい光と共に空間転送されたようにビアンカとソーマは消えてしまう。それとは別にキアナは謎の光の壁に隔てられ、オットーのいる地の場所から弾き出されてしまう。
誰もいなくなったその場にはオットーだけが残っており、オットーによく似た声帯の第三者の声が響き渡る。
【これで良かったのかい?キミは随分と回りくどい事をするんだね】
その声の主はオットーが手にしてる虚空万象と呼ばれる黄金色のキューブ体からであった。
「彼らには可能性を秘めている。僕を倒すだけでなく、その後に相対する脅威にも対抗できるようになってもらわないとね」
【ふーん?まぁ、キミの好きにしてくれ】
それ以上のことに興味を抱かなかったのか虚空万象はそれ以上は語ることはなかった。
「さぁ、試練を乗り越えてもう一度僕の前に現れてくれ、僕を倒す為に...期待しているよ」
・境界の律者
オットーの虚数の樹での観測にて確認された分離した聖白と聖黒の本来あるべき姿とされる律者。その権能はあらゆる法則性、概念的な壁や制約から影響されずに奇跡を与えるもの。その力はまさに人類が外宇宙に進出する手掛かりにもなりうる可能性を秘め、人類を滅ぼす敵ではなく人類に道を示す導きの神になりうるのかも知れない。