唯我独尊を貫く傲慢な神の使いとなったオットーに対し、三人の戦士であるキアナ、ビアンカ、ソーマは互いに連携して応戦を開始し、ぶつかり合った。
無限の様に襲いかかるオットーからの虚数エネルギーの弾幕に加え、黄金の矢に槍、そして黄金の鎖に巨大な盾などさまざまなトリッキーかつ、途絶える事のない猛攻攻撃にソーマ達は苦戦していた。
しかし、彼らも伊達にここまで戦い抜いて生き延びてきたわけではない。お互いが連携して補い合い、それぞれの弱点をカバーし合いながら戦っていた。
「ぐっ‼︎まさかここまで封殺されるなんてッ...‼︎」
「落ち着けキアナ!...とにかくあの花びらみたいな盾が厄介だな。囮作戦で何とか仕留めないと!」
「ならば私が囮として盾の方へ突撃を試みます!その間にソーマが相手の動きを妨害、キアナさんが隙を見て一撃を叩き込んでください!」
「了解だ、姉さん!脳筋だけど流石は伊達にS級戦乙女をやってるだけはある!」
「一言余計ですよソーマ!」
すぐに全員行動を切り替えてそれぞれの役割を開始する。クリシュナにまたがるビアンカが広い足場を利用して助走をつけ、大型の黒いランスを構えて神の使徒となったオットーがいる真正面に向かって勢いよく騎馬突撃を敢行する。
しかし、当然偽りとはいえ、神の力を手にしたオットーの展開する黄金の盾に憚られ、無効化されてしまう。
「ビアンカ、いくら君でもそう簡単にこの神の盾を破る事は出来ないよ。一体どうする気だい?」
「ええ、そんなことは百も承知です。ですが...」
「俺がいる事を...忘れるな‼︎天火...聖裁‼︎」
ビアンカの動きを封殺し、盾で受け止めた彼女に目掛けて黄金の鎖と槍の弾幕で仕留めようとするが、上空から現れたソーマによる天火聖裁の力を再現した一撃でオットーの攻撃をまとめて蒼炎の炎による斬撃の一振りで全て焼き尽くす。
「ぐッ、やはり君かソーマ‼︎止め役は君かい⁈」
「そうだ!...と言いたいとこだが残念ながら俺じゃない!...今だ!キアナ!」
オットーが気配に気付いて咄嗟に後ろを振り向いたときにはもうすでに背後に回り込んでいたキアナが薪炎の力を解放した炎の大剣を振りかざしていた瞬間だった。
「...今こそ、決戦の時!...はああぁぁぁぁッッッーーー‼️」
「なッ⁉️グオぉぉあッ‼︎」
豪快に背後から斬り裂かれたオットーはその勢いで一時的に力を失い、よろめくが再び虚数の力を最大限に解き放ち、その場にいる全員をまとめて吹き飛ばす。
「グッ...フ、フフ...フハハハッ‼︎ああ...いいね、よく効いたよ。即席とはいえ、ここまで息が合った攻撃は実に見事だ‼︎ならば僕もその行動に応じて最大限の力で向かい入れよう‼︎...天上天空...唯我...独尊‼️」
空間が歪みだすと教会聖堂だったはずの広場がなくなり、巨大な空間に浮かぶ天空城が存在する空間へと早変わりする。オットーが解放した偽りの神の力により、虚数の力でこの場に存在するあらゆるものを短時間で変質させたのだ。ある意味この世界はオットーという神が支配する領域と言ってもいい。
「...これはいったい?」
「どうやら、これが彼の見せる本当の心情風景のようですね」
「心情風景...何だかひどく寂しさを感じるな...まるで壊れかけた心みたいに...」
「...行こうソーマ。もう最後の戦いは目の前だよ」
「ああ...因縁を終わらせないとな」
三人とも頷き合った後、すぐに突き離された場所からオットーのいる中心部へと足を急がせる。
「虚数の力...もし、虚空の構造そのものを破壊すれば...この力を無効化できるのでしょうか?」
「私の空の律者の力やソーマの聖黒の力を使うって事だよね?」
「俺とキアナの力が鍵になるっていう事なのか?」
「うん、ソーマが攫われた後にオットーの元へ向かう手段を考えていたタイミングで長光って言う天命の学者の人からそんな話を聞いたの」
「...要はモノは試しってことか。終わりのない戦いを続けるよりはまだマシだな」
「とりあえず何とかやってみよう!」
クリシュナにまたがるビアンカが一番先にオットーのいる中心部の広場に辿り着き、一番槍を仕掛けてオットーの動きを妨害していく。
その間に後からやってきたソーマとキアナが強襲を仕掛けるがオットーはビアンカを抑えながら黄金の弾幕弾と鎖による迎撃を放ってくる。
ソーマは咄嗟に空中回避しながら飛べないキアナを掴んで抱えあげ、襲いかかる鎖のうちの一本に足をつけながら、スライディングするように靴裏を火花を散らせて速度を稼ぐ。オットーの元まで伸びている鎖の所まで移動すると、素早くキアナを放し、手にした陰月の槍で弾幕を切り払いながらそのまま槍の弾幕を召喚し、迫り来るオットーからの弾幕を迎撃する。
キアナの方も大剣を構えて隙を窺いながら展開してきた黄金の盾を薪炎の力で大剣を解放しながら叩き込み粉砕していく。その後、盾を破壊されたことに気付いたオットーが素早く弾幕レーザーを放ちキアナに襲いかかるが、突如飛来した結晶の槍がいくつかぶつかり合い相殺される。
「ッ⁈ソーマ!」
「フォローする!遠慮なく突っ込め‼︎」
「ありがとう‼︎」
全員先程よりも更に力が入っているのかじわじわとオットーの迎撃を次々とたたき落としていく。しかし、虚数の樹によって無限に等しい力の供給を受けているのか、オットーは全く疲れる様子どころか疲弊すら見せてこない。無限のような弾幕攻撃を行いながらオットーは彼らを嘲笑うように挑発する。
「ハハッ、それが君たちの無限を征服するやり方かい?...虚数の樹の洗礼を受けた僕は無限そのものだ。いくら何でも虚数の神の力を甘く見過ぎではないか?」
「相変わらず減らず口をッ...‼︎」
「聖痕、律者...聖黒に聖白...虚数の影そのもので虚数を超えようとしてるのかい?それが出来るなら僕は喜んで付き合うよ」
オットーの煽りを無視して攻撃を続けるが破壊されたそばからすぐに再生と補充が行われてすぐに反撃される。そればかりか鎖でこちらの動きを封じようと逆に襲いかかってくる。
「君たちは僕のことを残忍だと思うかい?僕が残忍の意味を教えてあげよう。...倒れた者を...更に叩きのめすのだ!」
そう語りながら千近くもの数に及ぶ光の矢の弾幕を全方位に向けて解き放ってくる。更に攻撃が苛烈になり、反撃どころではない状態になってくるが、不思議とソーマ達には焦りというものが無かった。目的はただひとつ、目の前にいるかつての養父であり傲慢な偽りの神でもあるオットーを自分達の手で叩きのめす事、ただそれだけである。
激しい猛攻の中、オットーからの煽りに煽り返すようにビアンカとソーマは言い返す。
「今日はいつにも増して自己顕示欲が旺盛ですね!」
「全くだ、神というより強い力にはしゃいで遊んでいる子供のごっこ遊びみたいだな!」
「その言葉は普通、パフォーマンスが終わった後にいうべきだろう?それと子供扱いとは酷いなあ、大人は皆子供心をそうそう忘れられないものというだろう?」
「アンタのパフォーマンスも、ごっこ遊びももうすぐ終わるからだよ!」
キアナのセリフを最後に三人とも攻撃行動を切り替え、持てる力を全開にオットーの迎撃を上回る速度で攻撃の猛攻を激しくする。対応が追いつかなくなったオットーが彼らの同時攻撃で吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。
「グハッ‼️」
そのチャンスを逃さず、キアナが壁に打ち付けられて落ちてきたオットーを空中へ斬り上げる。対してビアンカはもう一度助走をつけて騎馬突撃を行い距離を詰めながらタイミングを見計らって手にした黒いランスを勢いよくオットーに目掛けて投擲する。
何とか意識を取り戻したオットーがギリギリのタイミングで虚数の盾を展開し、飛んできたビアンカのランスを受け止める。
「ぐっ...無駄、だよ。君たちでは虚数の力を乗り越えることは出来ないッ...!この程度ではッ...足りないんだッ‼︎」
「だったらッ‼︎」
手の空いたソーマがビアンカの乗るクリシュナを足場に飛び上がり、虚数の盾で受け止められてたランスに向かって聖黒の力をブーストさせながら脚力を強化した右脚をランスの石突に当たる部分に目掛けて蹴り込み、盾に勢いよく打ち込む。
「いい加減に...壊れろッッー‼️」
鉄の杭にハンマーを打ち込むようにソーマが蹴り込んだ事で虚数の盾がヒビをたてて割れていく。破壊された盾の残骸後からそのまま勢いをつけて飛んできたランスが防御の為に動けなかった無防備な状態のオットーに目掛けて胴体に突き刺さり、再び壁に打ち付けられてしまう。
「グハァッッ‼️...グッ、ウゥゥ...」
二度も壁に打ち付けられた事で虚数の力が崩れたのか偽りの神の姿が解除されたオットーの姿が露わになり、その無防備な姿を晒す。
「「今だ(です)!キアナ(さん)‼️」」
ソーマとビアンカの掛け声とともにこのチャンスを逃さず、キアナは空の律者の力を解放し、無限の力を構築していた虚空の構造を破壊し虚数の樹から得られた無限の力を無力化させる事に成功する。
「このままアンタをその力ごと葬る‼︎...ママ、パパ...芽衣先輩、姫子先生、委員長にテレサ...コレはみんなの分‼︎はああぁぁぁぁッッ‼️‼️」
刺さった状態のオットーをそのまま壁に押し付けるように押さえつけ、限界まで押し続けられた事で虚数の力と律者の力が暴走し、オットーを中心に大爆発を引き起こす。そしてついに虚数を構築する虚空の力が崩れた事でオットーが生み出した虚数の空間も崩壊を始める。遂に偽の神であるオットーが打ち倒された瞬間であった。
終わりのない赤い砂漠のような平原に無数の遺跡の残骸が転がる光景の目の前には無重力のように浮かぶ無数の無機物の残骸とその中心部には巨大な黄金樹...虚数の樹が見えていた。
その空間の中で足を引きずりながら痛々しい足取りで虚数の樹に向かうひとりの人間、オットー・アポカリプスがいた。先程の攻撃により、ついにオットーは虚数の樹の存在する空間に侵入を果たしたのだ。
「グッ...ああ痛いな...よく効いたよ。でも...僕がしでかした事と比べれば...大した事、ではないな。あの子達はよく...やってくれたよ。彼らならやっていけるさ、この僕に可能性の力を見せつけてくれたのだからッ。...おかえり、カレン。君を...救いにきたよ」
向かう先の虚数の樹の前にはオットーという異物が侵入した事から虚数の防衛システムが動きだし、オットーの姿を模った偽物の人形が大量に現れ、敵意を剥いてきた。間違いなく彼を排除するつもりであったがオットーは最初から分かっていたかのように手にした虚空万象を変質させ、天火聖裁を再現した大剣を構える。満身創痍で限界な体を無理矢理引き起こし、迫り来る自身の偽物達との応戦の構えを取る。
「この世界は不公平で不合理だ...英雄は迫害され、悪は力を増す...醜いものばかりが増え、美しいものは何一つない。...だからこそ...世界の悪意は...悪人である僕が...断ち切ろうッ‼︎」
オットーは斬った。斬り続けた。無限のように襲いかかる虚数の守護者達を斬り払い、刺し殺し、粉砕し、敵が姿を変えて襲い掛かろうとも、自身がズタズタに切り裂かれ刺し貫かれようともその歩みを止めなかった。
その目的はただひとつ...愛する大事な人を救う為、彼が愛したカレン・カスラナを生き返らせる為...。たったひとりの人間による身勝手で小さなわがままを貫き通し、神に認めさせたのだ。
そのわがままを貫き通した男はその虚数の力で彼女、カレン・カスラナが生き残る世界を新たに作り上げてみせた。ひとりの男による五百年もの旅はようやく終わりを迎えたのだ。
「カレン...生きるんだ...」
偽り神との戦いを終えたソーマ達は心情風景の空間から解放され、虚数空間に入る前にいたカロスタンの地である大聖堂前に戻っていた。
「戻った...のか?」
「ええ...おそらくオットーを完全に倒した事で戻ってきたのだと思います」
「やっと...終わったんだよね」
お互いが現状に置かれている状況を確認していたが、ついさっきまでの爆発で彼の姿が確認出来なくなった為に本当にあのオットー・アポカリプスを倒したのかとやや半信半疑に感じていたが、その後についさっきまで聴いたことのあるよく知る男性の声がどこからともなく聴こえてきた。
ーおめでとう、君たちの勝ちだ。ビアンカ、ソーマにキアナ、よく頑張ってくれたー
「この声、まさかオットー‼︎」
「えっ⁈まさかッ」
ー落ち着いてくれ、君たちは勝ったんだ。僕はもうすぐ消える、君たちのおかげで偽の神を可能性の力で乗り越えて見せたんだ。これで僕の長かった人生にも終止符を打てるー
オットーらしき声の主は自身の計画の目的を話した。長きに渡り自身の人生でやってきた出来事や今回の最期の戦いを仕掛けた真の目的を。
...当時、彼はカレンを生き返らせる為にさまざまな手を打ったが結局どれも上手くいかず最終的にオットーは虚数の樹に触れる為に自身が虚数の神の使い、つまりは奴隷になる事で干渉できる基盤を作り上げた。しかし、虚数の神の奴隷である以上、自身の権限では虚数の樹に干渉することもできないのでキアナやソーマの力を利用し、彼らの力によって一度討伐されるシナリオを作り出す事によって虚数から溢れ出る無限の力を破壊し、一時的に有限化...つまりは無敵な存在ではなくなる事で虚数の神からの支配から逃れ、虚数の樹に侵入を果たす事が出来たのだ。
ー...これが僕が計画したシナリオの真実さ。たしかに僕はカレンを生き返らせる為にこの世界を五百年まで巻き戻すと言ったが実際には五百年前のカレンが生きていた時代を新たに作り上げカレンが死ぬ事のなかった世界を作り上げる事が目的だったんだよ。異なる平行世界としてね。...そしてその代償として僕は虚数の神によって存在を消される事になるー
「オットー...」
ー理解出来ないかいソーマ?たしかにまだそのような感情にまだ疎い君にはまだ理解し難いだろうねー
「いや...そんなことない。でも...その為にオットーは...父さんはッ...本当にそれでよかったのか貴方は」
ーフフ、父の事を気にしてくれてるのかい。でもねこれが僕なんだよ、オットー・アポカリプスはたったひとりの英雄の女性に惚れ込み、思わぬ不幸で命を落とした愛する人を蘇らす為に小心者でありながら自身から進んであらゆる悪行を重ね、道化を演じる...世界の敵になろうともねー
「...でも俺は知ってる、貴方はたしかに様々な悪行をいくつも重ね、色んな人を不幸にし犠牲にした。...けどそんな貴方は俺やビアンカ姉さんに親としての愛情を与えた、様々な体験や親子同士の思い出も作って幸せな時間を与えてくれた」
「...それだけではありません。私も貴方のやってきた事は決して許せませんがそれでも裏では人を助け、人類の為に必要な将来の下地を作ったりといろいろと沢山の手回しをしていた事は知っています」
ー...ー
オットーに育てられた事のあるふたりには普段のオットーの中で見せる善性を知っており、彼が決して悪人とははっきりと断定出来ない人物である事を理解していた。だからこそソーマとビアンカは彼の最後があまり素直に受けいられなかった。どれだけ悪人であろうとも自分達の育ての親であり、そして彼がいなければ人類がここまで崩壊に対抗し続けることが出来なかったのも事実なのだ。
「貴方はやっている事がいつも極端で無茶苦茶で...その癖に自分達に対しては本当に我が子のように大事に愛してくれて...もう貴方のせいで感情がぐちゃぐちゃだ。いったいどれだけ人の感情を掻き回したら気が済むんだかッ!...」
ーソーマ...済まなかったね...ー
「...でもこれだけは言わせてほしい。貴方がどれだけ世界から悪人として扱われようとも否定されようとも...俺に人としての愛情を与えてくれた事に本当に感謝してる。だから...オットー...いや、父さん...俺や姉さんを、愛してくれてありがとう。貴方が父でいてくれて、本当によかった」
ーッ‼︎...フ、フフ、そう、か...最後にその言葉を...聞けてよかったよ。...やっぱり君に出会えて...本当に...よかったよッ。...もう、これ以上悔いはないねー
「もう行くのか...父さん」
ーああ...もう、お別れだね...僕がいなくなってもテレサとは仲良くやっていくんだよ。あの子は偏ったものばかりよく食べるからね...心配だよ...ー
「大丈夫、ちゃんと食事管理しておくし、もうすでにテレサの手助けも始めているから」
ーそうかい...それは、安心...だ...ソーマ、ビアンカ...僕も君たちのことを...愛して...いるよ...ー
途切れ途切れになってきたオットーの声を最後に何も聴こえなくなり、カロスタンの大聖堂前で静かな風の音だけが聴こえてくる。
「...おやすみ、父さん...安らかに眠ってくれ...」
「ソーマ、大丈夫です。...彼がいなくなっても私達がいます。貴方はひとりぼっちじゃない」
「姉さん...」
自身の養父との別れを告げたソーマの肩に寄り添うように姉であるビアンカが嗜める。ソーマ達のやり取りを静かに聴いていたキアナも近づいてソーマを気にかけるように声を掛けてきた。
「ソーマ...私もいるから安心して。さぁ、もう帰ろう」
「ありがとう...キアナ。...あ、ちょっとごめん、目に...ゴミが入ったみたいだからふたりとも先に行っててくれ...後で追いつくから」
ソーマはキアナとビアンカに先に行くように伝えるが彼女達は一向にその場を動く気配が無かった。
「キアナ?姉さん?」
「そんな気遣いしなくていいよ。ソーマだって泣きたい時があるんだから素直に泣いてもいいんだよ」
キアナはそういうとソーマを優しく抱き止め、安心させるように頭を撫でた。小柄な彼女の体からはいつもと違って母親のような優しさや温もりを感じた。キアナからの体温を感じ取った影響と撫でられたことでの安心感で堪えていた感情が溢れ出し、鼻奥が熱くなる。気が付けば目から大粒の涙がこぼれ落ち止まらなくなっていた。
「あ...あ、うっうぅ...ヒグッ...う、ああ、あぁぁ」
「うん...しっかりと泣いて。溢れたものがなくなるまで泣き続けいいから...」
溢れ出した感情を涙にして流してそれをキアナが抱きしめて慰められているソーマの姿を眺めながらビアンカは安心したような優しげな顔で彼らを眺めながら背中を向ける。
「...安全確認の為、見回りしますので貴方達はしばらく休んでて下さい」
空気を読んでビアンカがその場を離れた後、大聖堂前では静かなソーマの啜り泣きの声だけが聴こえていた。
カロスタンでの一大事件による騒動が終わり、元大主教であるオットー・アポカリプスの行方不明によって戦いの騒動は治った。...正確には彼は虚数の世界に旅立ち、行方知れずになったと行った方が正しいが天命は混乱を避ける為に当初の予定通りオットーの退位と共にテレサが現大主教の座に着くという形で報道されて治った。
その後のハイペリオン陣営は作戦が終わった事で数日後は再び極東支部への帰還を決定した。その間、ソーマ達はしばらくカロスタンの町で滞在する事になるが、今回の騒動を抑えた謝礼としてカロスタン町の住人にご当地のお土産品を渡され、見渡しのいい街並みの夕焼けの風景を眺めて彼らは久々のアフタヌーンティーを楽しんでいた。
「えへへ、なんだかみんなでこうして一緒に何かを食べるなんて久しぶりな気がする♪」
「そうね、本当にこうして落ち着いてみんなとテーブルを合わせるなんて久しぶりね」
「まぁ...今までが色々と...あり過ぎたからな。こうやってみんなと顔を合わせて食事するなんていつぶりだか」
「そうですね。でもこうして兄さん達と一緒に笑顔で食事をできる状況になれたのだからブローニャ達は本当によく頑張りました」
「だね♪...ん?あれ、ソーマどうしたの?」
「うん?いや、カロスタンの街並みを眺めててな...」
ソーマが眺める先には豊かな活気溢れる住人達の営みとお祭り騒ぎでの屋台の準備や現大主教を祝う祝杯で溢れていた。
「わぁ、なんだかみんな元気だね。みんなお祭り騒ぎで騒いでるし」
「なんでか私の姿を形どった変なお守り人形を売っていたわね。...正直、私とは似てないけど」
「ブローニャ、ちょっとその人形が気になります」
「なら後で一緒に買いに行くか?ブローニャ」
「はい、また後で行きましょう兄さん」
言葉を交わした後、ソーマは再びカロスタンの街並みを眺めてながら静かに呟く。
「ふぅ...それにしても...あの人は、自身の目的の為とはいえ、色々とやらかしていたが...それでもこの様な街並みを結果的に守っていたんだなって」
「なんだかソーマ、感傷的になってる?」
「そりゃあなるさ。...ただ崩壊と闘うだけの戦いのつもりが、いろんな人間との因縁や複雑な絡み、己の内に抱えるエゴ...けど結果的に皆が目指しているのは崩壊への勝利という共通の目的がある」
「けど、皆それぞれ違う目的でその目標を成功させようとしている、かしら?...本当に人っていうのは難儀なものね」
「世の中はそう簡単にうまくいかないものですから...カカリアお母様の時みたいに...ハァ」
「あ、いやごめん。こんなに辛気臭くなるような話をしてしまって...」
感傷に浸っているうちに少し暗くなる話になってきてしまった為、ソーマは少し気まずくなり、申し訳なくなってしまうがキアナが励ますように言葉を紡いできた。
「...大丈夫だよ、たしかに世界は混沌としているけど私達が諦めない限りまだ負けていない。みんなだって私達が生きる世界を守る為に戦っているでしょう?」
「...それもそうか。俺たちは俺たちのやり方でこの戦いを終わらせる。そして平和に過ごせる世界にして見せるって感じで」
「ええ、私達は一人で戦っている訳じゃないからね」
「幾つもの困難に乗り越えてきたブローニャ達なら大丈夫です」
「そうだよ!だからまだ悲観的にならないでソーマ。私達がいるから。...芽衣先輩も戦ってくれているし」
「そうだな...もう少し、希望を見出してもいいかな」
カロスタンの街並みを美しく照らす夕焼けの太陽の光は戦いを終えた彼らの活躍を祝福するように輝いていた。願わくばこの美しい世界が壊される事がないことを祈りますようにと願う。
私個人としてもオットーという人物像は割と好きです。人の感情を良くも悪くも揺さぶってくる人物ですがこういう強烈な背景があるとなかなか話が捗ります。公式も彼に脳を焼かれてるのか、まさかのスタレで羅刹というそっくりさんを見たときはなんでお前がここに!とヴェルトおじちゃんみたいな反応にもなってしまうのも無理ないですね。