飛ぶ理由を探した者   作:Jr.404

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 聖痕計画編の話がスケールがでかくなりすぎて難解なのでところどころ独自の解釈で書いています。
 全体的な話の展開は解るけど細かく見るとマジで理解するのが難しいです。何故そのような展開になるのかなんとなく雰囲気で無理矢理理解してる感じです。


二十四話「異なる世界の泡」

 量子の海を彷徨いながら出た先で辿り着いた先でソーマ達は辿り着いた別世界で初めて遭遇した生きた人間である"メイ博士"と呼ばれる芽衣に瓜二つな別人に出会い、同じように無理矢理この世界に連れて来られてきた識の律者と共に博士から語られる自分達の現状を知ることになる。

 

「えーと、つまりは俺たちはそのヨルムンガントの聖痕計画の為に必要な聖痕覚醒者に悪影響を与えかねない存在だからここに閉じ込められたと?」

 

「ええ...厳密には聖痕空間を広げる事が出来る聖痕覚醒者の性質そのものを律者が近くにいるとそれらを打ち消してしまう厄介な特性をなくす為に隔離された、と言った感じね。ある意味プラスとマイナスのような存在って感じかしら」

 

「話は理解できたけど、それじゃあ私達ってこのまま聖痕計画が完了するまでずっと閉じ込められたままなの?」

 

「そういう事になるわね」

 

「ですがメイ博士も理解しているのではありませんか?..."聖痕計画は人類にとって最底な計画"であるということを...」

 

「たしかにそうね...だけど人類が滅亡を回避する為にはもっとも最適な答えでもあるの。人類の意識を聖痕空間に統一することで私達は事前に脅威を回避する事ができる...武力だけでは勝てないの」

 

 そう話すメイ博士は悲観的に話してはいるもののその表情は決して諦めを見せていなかった。もう一度キアナ達に顔を向けると彼女は月面基地から見える特徴的な遺跡と巨大な石像らしきものを指差してその正体について話し出す。

 

「みんなあれを見てちょうだい。気になっている子もいると思うけどあそこにいる石像の人物の正体は"終焉の律者"。かつて私達前文明の人類が戦って敗れた最大の天敵よ」

 

「アレが...終焉の律者」

 

 キアナが見る先にある終焉の律者と呼ばれた石像の存在を視界に収める。アレが私達の世界を長い歴史をかけて敵として立ちはだかり自分達の人生を大いに狂わせた元凶ともいうべき存在...。色々と恨み辛みをぶつけたい所ではあるが終焉の律者からしたら私達はそこら辺の石ころか細胞みたいなものにしか見えてないのだろう...。

 

 

 メイ博士のその後の説明では終焉の律者は私達を生み出した建造主に相当する他所からやってきた異星人であるらしく、高度な知的上位体として進化した終焉の律者は孤独な自身と対等な存在を求める為に地球という天体と人類種を生み出し自身と同じ存在に進化させるため、崩壊というシステムを生み出し、人類の敵として戦わせた。

 しかし、自分の期待するほどの進化をしていなかった人類に見切りをつけ始め、終焉の律者は人類を滅ぼすことを望んだのではないかとメイ博士は説明する。その影響で前文明は一度滅び、人類史が一度リセットされたというのだ。

 そして崩壊の影響力は人類の文明の規模や発展規模による強さで変化するらしく、今の現文明は五万年の人類と比べて遥かに弱いらしい。しかし同時にこれはチャンスでもあり、以前よりも弱い文明力である現在の時代に計画を実行させることで確実に崩壊の脅威から脱することが可能になる。

 しかし、聖痕計画は人類の個の死を意味する。精神意識を統合することは平均化された代表の意識が主となり、それ以外は死んだようなものなのだ。メイ博士の話を聞けば聞くほどその計画は人類を生存させるというより、人類が生み出した文明そのものを存続させると言ったものに近い。そして同じく人類の存続を願うキアナやソーマ達にとっては決して相容れないものでもあった。

 

「...それは果たして人類は存続していると言えるのか?」

 

「残念ながら本質的に見れば似たような計画である"崩壊同化計画"とやり方を除けば人類そのものの選別と変わらないわね。...ただ違うのなら夢の世界という穏やかな空間で苦痛なく個の意識が薄れていくという名の、安楽死のようなもの...それが聖痕計画というものよ」

 

「ならば尚更止めないと。そんなことをしたら結局みんなが消えてなくなってしまうようなものだよ。何としても元の世界に戻ってケビンを止めないと!」

 

「でもどうするんです?今の私達は満足に自分達の力も発揮出来ないし、元の世界に帰る術すらない。やる気になるのは結構だけどもう少し考えて」

 

「え、えーとそれは...」

 

 帰る手段がない事に皆辟易してると、メイ博士はキアナ達にある人物に会うように提案してくる。

 

「なら、プロメテウスに会うといいわ。彼女は私の知識をデータしているAIだから幾多の情報を並行世界を通じて共有しているわ。この世界から脱出する方法があるはずよ」

 

 

 

 

 

 

 

 メイ博士からの提案を聞いたソーマ達はさっそくプロメテウスと呼ばれる存在に会いにいく事にする。昔の因縁でのことで識の律者には同行するのを拒否され、一旦別行動になるというアクシデントもあったがなんとか目的地に向かうことに成功する。その際にメイ博士から教えられた月面基地にある設備で並行世界と通話を繋げる事ができる通信設備がある事を教えられ、そちらの方も並行して行う。

 その後はそれぞれ手掛かりを探る為に別れて散策を行うが、キアナとソーマのチームが探索中に偶然遭遇した基地の警備機甲のタイタンに侵入者として認識されて攻撃された為に応戦する事になる。

 

「そりゃあこんな大掛かりな基地なんだから防衛兵器の一つや二つあるよな...っと‼︎」

 

 警備機甲の攻撃を交わしながらソーマは手にした武器で反撃し無力化するがその最中にふと異変を感じる。

 

(...おかしい、タイタン機甲ってこんなに強かったか?いや...そもそも律者の力が弱っている?なにかに抑えられているような...)

 

 疑問を抱いているといつのまにかいっしょに応戦してたキアナがかなり苦戦気味に追い込まれていた。

 

「なっ!キアナ⁈」

 

 咄嗟にキアナに襲いかかる警備機甲の攻撃を受け止め、押し飛ばす。

 

「ヴルム頼む‼︎」

 

「はいなのだ!」

 

 押し飛ばしたタイタン機甲を素早くヴルムのブレス攻撃で焼き払い、大破させることに成功する。

 

「ああクソ、やっぱり何故か力が出ない。...大丈夫かキアナ!」

 

「だ、大丈夫。...ただなんでか力が出ないの。まるで制約の律者を相手していた時みたいに...」

 

「やっぱりキアナもか。ヴルムは大丈夫か?」

 

「うーんなんともないのだ」

 

「こりゃあ、律者だけに影響が出ているのか。ここらの防衛兵器は厄介だな...」

 

 膝をついているキアナを立ち上がらせる為に手を伸ばしていると近くから別の人物の声が聞こえてきた。

 

【厄介な事になりました。...その工業製品は貴方達の接近を阻止するためのもでしたが...】

 

 聴こえてきた声の主に全員顔を振り向くと地上を低空で浮遊しながら此方に近づいてくる少女の姿があった。しかしよく見ると膝元や腕の関節から球体関節らしきパーツのようなものが見えていた。どう見ても人ではない彼女にメイ博士から教えられたプロメテウスというAIというのが彼女の事では?とお互いに察する。

 

その後に合流してきたブローニャと芽衣とでプロメテウスとの間に一悶着があったがなんとか話し合いで自体は収まる。

 

【なるほど、それで貴方達は元の世界に戻る為にこの世界の泡からの脱出を試みていると...】

 

「はい、なので貴方のことをメイ博士に探すように依頼されています」

 

「貴方の知恵を貸してもらえないかしらプロメテウス」

 

【正確にはプロメテウスではなく17号と呼ぶのが適切ですが...いいでしょう、では具体的な方法と仕組みをまず教えいたします】

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はプロメテウスこと17号に具体的な作業方法と目的を教えられるが口頭での説明がめんどくさいのか早口で内容を伝えた後、すぐに行動するように言われる。AIの癖に随分と人間くさい所があるんだなぁと思いながらソーマはキアナと共にプロメテウスに指示された必要な"虚樹の残骸"というアイテムを見つけ出す。

 

「これが虚樹の残骸だね」

 

「虚樹の残骸...虚数の樹に生えていた枝の一部の欠片みたいなものか?」

 

「うーんそこはよく分かんないけど関係はしてるかも?」

 

「それにしてもこんなよく分からないもので現実世界に渡れるなんていまいちピンとこないな」

 

 そう言いながらその残骸の近くへ寄っていくと何処からかだんだんとノイズのような雑音...気がつけばノイズ音は人の声に聞こえだし、女性らしき人物の声が聴こえて来るようになってくる。

 

「声...?もしかして識の律者が何かを伝えようと意識に介入してきたのかな...ソーマ、そっちも何か聞こえてくる?」

 

「ああ...聞こえてる。まだ声がノイズ混じりで断片的だけど...いや待て!...この声は...まさかビアンカ姉さん?」

 

 

 

 

【...す...ソー...キア...ますか...してくださ...聞こえますか!ソーマ...キアナさん!どうか返事してください‼︎】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い空間に遺跡の残骸跡が残るその場所にてひとりの人間...ヨルムンガントの尊主であり、そして元火を追う十三英傑の生き残りでもある男、ケビン・カスラナはその場に腰がけて静かに眺めていた。崩れ落ちた遺跡はまるでかつての繁栄の成れの果てが墓標に成り果ててしまったかのように虚しさを放っていた。

 その光景を眺めるケビンはただただ無表情に何かを懐かしみ後悔するように静かに眺めていた。地面に突き立ていた天火聖裁の炎の光が薄暗い空間に優しく暖かい光を灯していたが相変わらずケビンの顔は炎の光とは対照的に冷たい眼差しと暗い背景を醸し出していた。

 

「...また、ここにいたのですねケビン」

 

「華か...僕がここにいるのを知っているのか?」

 

「"スゥ"が何気なく教えてくれました」

 

 ケビンのすぐ側までやってきたのは、かつての戦友...フカ本人であった。今の彼女は今を生きるフカではなく、当時の華(フア)という名だった頃の態度でケビンに声をかけていた。

 

「ケビン...昔から貴方はいつも無茶をするたびに、戦友が亡くなる度に無理してでもこの地に来て1日を過ごしていましたね。ケビン...貴方はまだあの頃の自分を憎んでいるのですか?」

 

 聖痕計画...かつてケビンを含む英傑達がそれぞれ人類が生き残る道を模索する為にあらゆる計画を立ててその道を突き進んでいた。しかし、それらは難航しさらには崩壊に討ち勝つ為には圧倒的に時間も資源も足りなかった。計画を実現する為に一体どれほどの人々や英雄を犠牲にし血を流し続ければ良いのか...そう意味でもケビンの担当する聖痕計画は正に最後の手段に等しいものであった。

 本人もこれが最低な計画であるということをいやというほど理解している。しかしどの道、いずれは選ばなければならない道でありそれならばもうその覚悟を受け入れた自分自身が人身御供としてその計画を推し進め今は亡き同胞達の為にも戦う道をケビンは五万年の崩壊との戦いのときから覚悟を決めていた。

 

「僕のことは気にしなくてもいい...もとよりこの運命を受け入れて戦ってきた。自分ひとりが犠牲になるくらい安いものだ」

 

「ケビン、貴方はまたそんなことを...」

 

 どこまでも非情になりきり、ただ人類を崩壊に勝つためにすべてを背負った彼の背中はとてつもなく重々しい業のようにのしかかっていた。せめて彼のその考えを直させようとフカは説得しようとするがケビンに負けず劣らずに不器用な自分にそんな事はできないと諦め、ため息をつく。

 

「はぁ...私では貴方のことを説得できる自信はありません。けどこれだけは言えます...ケビン、貴方は自分の骨を埋める場所を探し求めているのでしょう...?」

 

 ケビンは何も言わなかった。無論、それはケビンの肯定を意味している。精神的にも擦り切れて摩耗してきた彼はただ生き続ける限り、その行動を止める事はないと言ってもいい。無言を貫き続けるケビンはしばらくして口を開く。

 

「僕は事はいい...それよりも彼らが聖痕計画を押し止める事ができるかどうかが重要だ。...終焉の力を取り入れる事ができるかが重要だ。今もなお肥大し続ける崩壊の繭を止める為にも彼らには一刻も早く僕に打ち勝ってもらわなければならない」

 

「やはり...崩壊の繭は」

 

「ああ...君の思っている通り、崩壊の繭は暴走している(・・・・・・・・・・・)

 

 ケビンから告げられた事実にフカは当たって欲しくない悪夢に直面してしまったようにショックを受けてしまう。

 

「...それは...つまり、終焉の力を取り入れただけでは厳しいという事ですか?」

 

「ああ、そうだ。...だからこそ必要になってくるんだ、もうひとりの英雄が。だか...それはその者に過酷な運命を歩ませる生贄にも等しい...。僕が後悔しているもうひとつの要因が正にそれだ」

 

 ケビンはこれから近いうちに相対する者達のひとり、ソーマのことを思い出す。まだ二十にも満たないまだまだこれからの人生が待っている彼にこれから先残酷な現実を突きつけなくてはならないことに関わりが少ないとはいえ、人の良い人柄な彼にこのような運命を歩ませなければならない現実に思わず反吐が出てしまう。

 

「ソーマ...君には僕を憎む権利がある。これは君にのしかかるその運命を見抜けることができなかった僕の罪だ...」

 

「ケビン...」

 

「すまない、華。君の大事な仲間を...失うことになるかもしれない」

 

 フカはお互いに心の内で世界の運命を呪った。誰かを犠牲にしなければならないこのような星を生み出した存在を忌々しくただ憎むしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...そんなことが?やっぱりデュランダル達も聖痕計画の影響で巻き込まれたんだね」

 

【ええ、けどまさかキアナさんやソーマの律者のコアから溢れる崩壊エネルギーの残滓を特異点にパスを繋ぐことができたとは...意外とうまくいくものなのですね】

 

 別世界の泡に隔離されてロクな伝達手段もない手詰まりな状態の中、同じく現実の世界でも聖痕計画の影響でソーマ達と同じような月面基地に飛ばされた者がおり、それが正にビアンカ達であった。

 そこにはビアンカと同じような"聖痕覚醒者"と呼ばれる聖痕の力を継承した能力者のような存在達が集められていた。その場にはビアンカを含め、ゼーレや最近天命で知り合ったばかりの李素裳もいた。

 どうやら芽衣から聞いた話の通り、ヨルムンガントは意図的に聖痕覚醒者とソーマ達、律者側を隔離するように別世界へ幽閉していることが明らかになった。

 

「姉さん、心配をかけたな」

 

【...本当に心配しましたからね。久しぶりの再開を果たしたと思ったらしばらくしてすぐにキアナさん達と共に行方がつかめなくなったのですから、気が気ではありませんでした】

 

「うっ、ほ、本当にごめんって!」

 

【ふふ、別に気にしてません。ただ今はソーマ達がどうにかして私達のいる現実世界に戻れる手段を考えることに集中してください。私達の方も対策を立てています。その間なんとか無事でいてください】

 

「任せて、ソーマのことはしっかりと守って見せるから!」

 

【そう言ってくれるのは嬉しいですがソーマだけでなくキアナさんも芽衣さんもブローニャさんも全員無事に帰ってくるのが第一目標です。どうか気を付けて】

 

 

 

 

 

 現実世界のビアンカ達と精神通信という形でお互いの会話パスを繋ぐことができた事で状況の伝達を伝えきった後、ソーマ達はさっそく現実世界への帰還手段を得る為に今いる世界のメイ博士とプロメテウスがいる場所へと一旦戻る事にする。

 

 メイ博士の元へと戻った後はプロメテウスの解析で発見した虚樹の残骸をコントロールし、元の世界への帰還座標の観測を始める。

 その間、ソーマはメイ博士から個人的な話があると呼び止められる。博士から人気のない場所へ案内されるとソーマさっそく彼女に呼ばれた理由を尋ねてみる。

 

「えっと、メイ博士?俺に一体何のようなんだ?正直あまりそこまで話せるものは無いけど...」

 

「ふふ、安心して別にそんなに硬くならなくてもいいわ。私が話したいのはあなたが所持している"聖白の律者コア"の事について話があるの。はっきり言っていまの貴方達ではおそらくケビンには勝てないでしょう。」

 

 メイ博士からその話を聞くとソーマはさっきまでの落ち着かない様子から一気に真剣な顔で彼女を見つめ返していた。

 

「...メイ博士はどこまで知っているんだ?」

 

「隅々まで知っている...とはいえないわね。けどあなたが持っている聖白のコアとあなたの心臓そのものと一体化している聖黒のコアについて重要な話を知っているわ。...正確には別世界で観測した別世界の私から情報共有したものになるのだけれど。...これから話す内容はケビンの力に対抗する為の手段のひとつとでも思ってちょうだい」

 

「...構わない、ぜひ教えてくれ博士」

 

「落ち着いて、ちゃんと話すから」

 

 メイ博士から話された話の内容は、聖痕計画を阻止する手段とは別にソーマが所持している聖白のコアの使い道とその鍵を教えてくれた。

 

「ソーマ、貴方は"境界の律者"という存在を知っているかしら?」

 

「...確か、とう...オットー・アポカリプス、元天命大主教本人からそのような話を聞いたような感じがする」

 

「そう、なら名前自体は聞いた事はあるのね。なら、話は早いわ。今から説明することは貴方の今後を決める重要な話なの...」

 

 メイ博士は真剣にソーマに対してまずは聖白と聖黒の律者達についての話を伝える。

 聖白の律者と聖黒の律者は簡単に要約すれば建造主によって生み出された原初の二面性の原始エネルギー体であり、同時に最初の男女の参考モデルとも言える存在であった。かつての人類史に書き記された神話の書物にも現れるアダムとリリスのような存在に酷似しており、人類に協力して共に戦う聖黒の律者はリリスであり、崩壊という神の元で活動する聖白の律者はアダムという立ち位置になる。

 

「その話だとまるで俺たちは崩壊の神に反逆した堕天使や悪魔の子孫みたいな扱いになってしまうんじゃないのか?たしかに崩壊の主からしたら人類は敵のような扱いかもしれないが」

 

「これはあくまでもその書物の神話の話に照らし合わせてみただけの話よ?陣営が違ってくると当然お互いの正義が違って見えてくるのだから逆に完全な悪と言えるものもはないわ」

 

「でも結局のところメイ博士は何を伝えたいんだ?この話に境界の律者と何の関係が?」

 

「落ち着いて、話はここからよ」

 

 建造主に生み出されたアダムとリリスは最終的に決別し、その後はアダムとイヴという原始の男女に置き換えられ、その2人の間の子供達である人類の子孫が生まれてくる事になっている。しかし、メイ博士としては問題はそこではなく、原初の男女であるアダムとリリスがどのようにして誕生したのかをそこに追求した。そもそも人類の神話でも男女は元は一つの個体だったという話がある。その話を元にして当時メイ博士はこの二つの律者の正体がどういうものなのかを見抜いて結論を告げていた。

 二つの律者が実は元々はひとつの律者であった、つまりは別れる前である境界の律者が建造主によって切り分けられたのならばまだ自分達の手で元の本来の姿に帰路することも不可能ではないのではないかと結論である。

 

「そして貴方はその鍵である聖白のコア...いえ、境界の律者に戻る為の"根源の鍵"を手にしている。つまりはもうすでに境界の律者に戻る為の手段は既に揃っているの」

 

「もうすでに...」

 

「無論、境界の律者は元は終焉の律者から生み出されたものだから限定的ではあるけど終焉の力を受け継いでいる。貴方が境界の律者に生まれ変わる事で一気にケビンや終焉の力に対抗できる戦力が跳ね上がる事になるわ。ただ完全な終焉の力を継承しているわけではないからまだ条件的には不十分なのだけど...」

 

 段々と気まずく深刻な顔をし、言い淀むメイ博士にソーマはどうも違和感を感じてなぜ言い淀むのか尋ねてみた。

 そして博士は最後に重々しくソーマに事実を告げる。

 

「...境界の律者になる事はつまり、貴方自身が人間としての終わりを意味するの」

 

「終わり...?」

 

「つまりは人として死を迎えるという事よ」(・・・・・・・・・・)

 

「人として死ぬ...こと...」

 

「改めて口にすると残酷な話ね。終焉の力に対抗する為に貴方の命を代価にしなくてはならないのだから...」

 

「そんな...」

 

 ソーマは酷く絶望した。今まで命懸けで闘い続け何度か命の危機を迎えた事はあったが、ここまで明確に死んでもらわないといけないという死刑宣告の事実に頭の回転が追いつかなかった。

 

「残酷な事を言っている自覚はあるわ。明確に死ななくてはならないなんて話、普通は受け入れられるわけがないもの」

 

「...」

 

 一度死を迎えた事があるソーマはその恐怖と痛みを思い出してしまう。冷や汗や悪寒が止まらず過呼吸になり、膝から崩れてしまう。慌ててメイ博士に支えられるがあまり状況は良くなかった。

 

「ハア...ハア...クッソ...!」

 

「大丈夫、落ち着いて深呼吸して。まだ完全に決まったことではないわ。早まってはダメ」

 

 苦しむソーマを落ち着かせる為にメイ博士が彼を座れる場所に支えて運んでいくがその様子を偶然眺めてしまった者がひとりいた。

 

 

 

 

 

 

「ソーマが...死ぬって...どういうことなの?」

 

 

 ソーマの様子を見に来ていたキアナは偶然盗み聞きしてしまった彼らの話を耳にしてしまうが誰もキアナの返答に答えてくれる者はいなく、ただ彼女の虚しい心の声だけがこだましていた。




 この世界線にいるメイ博士はプロメテウスの情報共有で別世界のメイ博士が観測した聖黒の律者と聖白の律者についての正体を知っています。その為、ソーマに早い段階でその事実を伝えています。しかし、偶然その話とソーマが不調を起こし始めている光景を見てしまったキアナは果たしてどんな反応を見せるのでしょう?
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