「オットー...」
【フフ、驚いてるようだねソーマ】
「もしかして、貴方はソーマの話で出てきたオットー・アポカリプスさん?って方かしら?」
「何だか...胡散臭そうって感じね」
【ああどうも、ご機嫌麗しゅうお嬢さん方。その通り、ボクはそこにいる養子息子であるソーマの育て親であるオットー・アポカリプス本人で合ってるよ】
その場で自己紹介している男は明らかに間違いようもないソーマの良く知る人物である育て親のオットー本人であった。しかし、なぜ死んだはずの彼が?やはり、自身の記憶の一部が幻影として現れたものなのだろうか?。
【ああキミの想像している予想で大体合っているよソーマ。この場にいるボクは正確には本物のオットー・アポカリプスではなくキミの意識や記憶から再現された虚像だ。キミが彼はこんな人物だろうとイメージしたものが再現されたのがボクだ】
どうやら目の前にいるオットーは本物ではなくソーマがイメージする記憶の中の幻影に近い存在らしい。胡散臭い雰囲気はそのままではあるものの、言われてみれば彼からは生きている人間と言った生の気配を感じず、どちらかというと立体映像のホログラムの人物を眺めているような感覚であった。
「それで...オットー、貴方はいったい何の目的で俺たちの前に現れたんだ?いや、オットーっと言っていい...のか?これ...」
【キミがボクに対してオットー・アポカリプスか否かという感情を抱いてしまうのは無理もない。そもそもボクという存在はキミの深層の記憶に残っているオットーの人物像のデータを元に再現された作り物に過ぎない。ボクはある人物から呼び起こされたのさ」
どうやら目の前にいる偽オットーはソーマの記憶上にあるオットーという人物をアバター代わりにして自分達に接触を図ること目的にしていたらしい。
そして肝心の偽オットーを遣わせた黒幕は...何と"初代境界の律者"本人だった。
偽オットーからの話によると初代境界の律者はソーマ達がいずれ崩壊の核心をついてくる事を長らく待っていたらしく、自身の我儘によって引き起こされた境界の権能の分離と異常をきたした崩壊の繭への対策として現在を生きる聖黒の律者であるソーマにその権能を全て譲渡することを伝えてきていた。
【差し詰めボクはキミ達の案内人だ。おそらく、境界の律者はキミにとってもっとも親しみのある人物を人選したつもりでボクを再現して使わしたのだろうね】
「もっとも親しみのあるって...たしかに父さんに再び会えた事は素直に嬉しいけども...」
「ソーマ、本当にあの人が貴方の養父なの?何というか...腹の底が見えない怪しさ満点で素直に信用できないのだけど」
「残念ながらコレが俺の正真正銘の養父だよ。残念ながらだけど...」
【酷いなぁ〜、我が息子の発言にお父様のハートに傷がついてしまったよ】
「大して傷ついていないくせに...」
「ふふ、たしかに怪しいおじ様だけど、なかなかユーモアのある人ね♪」
【おっと、いつまでも無駄話している場合じゃなかったね。では、キミ達をこの先にいる主にご案内しよう】
到着した先は神の神殿を思わせるような建造物が存在する空間だった。ただ、まるで人がいなくなって滅亡したかのようなギリシャの廃墟神殿のように寂れており、周りは何も無い平原の空間が広がっていた。
上空には巨大な天秤のようなものがあり、そこには皿の上に人の形を催した石像があり、反対側の天秤の皿には崩壊獣を思わせる石像が乗せられていた。その天秤は今は人型の石像側によりそうように重さで下に向かっていた。
【着いたね。ここは...境界の律者が管理していた"選定の審判場"と呼ばれる間だ。かつてのギリシャ神話に登場する正義の女神であるアストレアが扱っていた善悪を測る天秤と同じくかつての境界の律者は産みの母である終焉の律者の命でこの間で人類と崩壊の均衡を管理していた】
境界の律者という名の由来の通り律者は産みの親からの使命を受けて遥か何十万年も古代の時代からこの任を受けて人類を管理していた。しかし、境界の律者は人間を愛してしまったが故にこの間での役割の座を降り、権能を分裂させてしまい、その過程が気が遠くなる遥か遠くの未来を生きる自分達に帰路してきたとも言える。
「ここが...」
「私達も初めて見たわ。まさかこんな場所があったなんて...」
神殿の間を眺めていると案内人をやっていた偽オットーがソーマの方に振り向き顔を合わせる。
【さて...ソーマ、ボクの案内はここまでだ、しばらくすれば境界の律者本人が現れるだろう。コレがキミとの最後の別れだ】
「そうか、もう...行ってしまうんだな」
【ああ...さよならだ我が息子ソーマよ】
最後の別れを告げた後、オットーはソーマ達の隣を通り過ぎるように歩きながら横切るが途中で立ち止まり口を開く。
【...ソーマ、今のボクは確かにキミの記憶から再現された偽物のオットー・アポカリプスに過ぎないが...どの様な姿に成ろうともキミのことを本当に我が子として愛しているのは紛れもなく本心だ。ボクはキミの生きる世界にはついていけないがテレサやビアンカにK423...いやこの呼び方は良くないな、キアナ...キミの大事な家族や仲間達がいる。だからこそキミは絶対にこの世界の戦いに勝って幸せに生きてほしい。はは、大丈夫さ...キミは何せ...】
オットーはもう一度ソーマの元に近付くと父親の様にソーマの頭をわしゃわしゃと丁寧に撫で、最後の言葉を告げる。
【何せキミは...ボクの自慢の息子だからね」
「ッ...!」
オットーの言葉を最後に本人の足元が黄金の粒子に変換されて体が消滅していく。しかし、消えゆくオットーは父親のような穏やかな顔でこちらを眺めながら微笑んでいた。
「これからもテレサ達と仲良くしてやってくれ...それではさよならだ、ソーマ」
完全にオットーはその場から消滅し、完全に霧散する。
「...ソーマ、もうお別れは大丈夫かしら?」
「...ああもう大丈夫だよ。今更二度目のお別れの挨拶をしたくらいどうって事はない。...激励の言葉を贈られたんだ、この完璧じゃない世界を解決させてさっさとキアナ達と元の地球に帰る...それで充分だ」
「どうやらソーマはもう心の準備は出来たようね。私達も覚悟を決めないとね♪」
「...さっそく、私達のご先祖様が降臨してきたみたいよ。二人とも準備して」
天井のない真空の宇宙のような夜空からあり得ない形で空間にヒビが割れ出すと1人の人間らしき生命体が現れた。現れた存在は神の使いのような姿の装いを纏い、やや人体の形を乖離したような細長い華奢な手足と長身さにおでこには特徴的な終焉の律者特有のひし形の星に似た模様がついており、ヘイローのような光の輪が頭の上に漂っていた。今までの律者とは明らかに違う正に特別な存在と言った威圧感を感じ取れた。
正面から見えるフェイスはまったく顔のない無機物な仮面のようであり、まるで真空の宇宙のように黒い深淵に包まれていた。ソーマ達を見下ろすように見つめてくるとソーマの体内から自身の声でもこの場にいるエリシアやヘレナでもない第三者の声がテレパシーのように直接脳内に響いてきた。
(繧医¥譚・縺ヲ縺上l縺溽ァ√?蟄ォ驕...)
(誰かの声?...けど何を言っているのか分からない...いや、これは...)
よく分からないはずの言語なのかすら分からないノイズのような言葉であるにも関わらず、何故か不思議と目の前に現れた境界の律者が伝えようとしている事が断片的に理解ができてしまう。身体に刻まれた聖黒の記憶や情報が境界の律者の言葉を理解しているのだろうかと、考えていると境界の律者は何かを伝えようとしていた。
(遘√↓縺ッ譎る俣縺後↑縺...)
「なるほど、そういう事ね...」
「あの子が何を言っているのか分かったのヘレナ?私にはノイズみたいでよく分からなかったわ」
「...結論をいうと本人はソーマに境界の権能を渡す為に現れたようだけど、異常をきたした崩壊の繭が境界の律者の魂を侵食しているとからしいわ」
「侵食を受けている?どういう事だ?」
「えーと、つまり?」
「私もよく分かっていないけれど、要するに"私はもうすでに死んで肉体のない律者だったけど暴走した崩壊の繭が無理矢理眠りについたはずの私の魂を呼び起こして権能の制御権を奪おうとしている。その為このままだと暴走した崩壊に主権を奪われ、人類の絶滅進行が進んでしまうから今のうちに私を倒せって...」
「おいおいかなり危ない状況じゃないかよ!」
どうやら以前から原因不明の異常をきたしていた崩壊システムの中枢である崩壊の繭が人類の殲滅の為に初代の境界の律者の魂を依代に制御を乗っ取り始めており、今なお崩壊の繭の中で境界の力に書き換えているソーマの肉体を奪いにきているというのだ。今この場にいるソーマも境界の律者も魂だけの存在なので、もしこちらが最悪戦いに敗れて先に肉体を奪われ、境界の律者として補完されてしまうと本当の意味での敗北 人類滅亡することになり、ソーマ自身が死ぬだけでなく、人類もろとも死滅することを意味することになる。
しかし、人類を愛している境界の律者はそれを望んでいない為、壊滅の道へ歩もうとしているこの狂った装置(崩壊の繭)から人類を守る為にソーマ達の前に現れ自身を倒すように願いを送ってきたのだ。
よく見ると境界の律者は明らかに崩壊に意識を支配されてかけているのかこちらを殺す気で高濃度の崩壊エネルギーや虚数エネルギーが体内から入り乱れているのを感じ取れた。
「構えなさいソーマ、エリシア。ここからが正念場よ。肉体のない今の境界の律者なら何とか倒せるチャンスは充分にある!」
「結局、力を手に入れる為には自分殺しみたいなことをしないといけないか!」
「大丈夫よソーマ。人の律者である私がいるのだからバッドエンドな展開にはさせないわ。私にも任せてちょうだい!」
「ありがとうエリシア。...絶対に勝ってやるさ」
「ねえ...ほんとにソーマは無事に帰って来れるのかな...」
「キアナちゃん...」
自身の肉体を取り戻す為に崩壊の繭の中枢に向かったソーマに対し、キアナは芽衣とブローニャのサポートを受けて無事に終焉の律者の力を受け継ぐことに成功した。そして今はまだ帰ってきていないソーマの帰還を待ち続けていた。
「大丈夫です...とは自信を持っては言えません。...ですがブローニャは兄さんのことを信じています。兄さんは約束を破った事はありません、だからブローニャはいつまでも兄さんを待ち続けます」
「ブローニャ...」
つい少し前まで不安に押し潰されてソーマに縋りついて泣いていた彼女とは思えないほどの覚悟にキアナは圧倒される。
...たしかにそうだ。小さい頃からソーマとは度々喧嘩などをした事はあったが見捨てる事は絶対にしなかったし、約束を破ることもした事は無かった。どれだけ時間がかかろうとも、彼は誓いを守り、自身の目標を裏切った事もなかった。
なら今の自分は彼に対してどうするべきか...。
「ごめん、芽衣先輩。不安にさせるようなことを言っちゃって」
「いいえ、気にしないで。私も彼の事が心配で仕方なかったのは同じよ。でもそうね、ソーマ君の事を信用する事が彼のためにもなる。私達は常に4人組で困難を乗り越えて来たんだから...だから待ちましょう。ソーマ君の為にも」
「うん、私もソーマの事を絶対に信じるよ。...う〜んけど、それはそうとブローニャちゃんに想いの強さで負けるのはなんだか癪だなぁ〜」
「喧嘩ですか?バカキアナ。どうやらヒロインレースはブローニャが乗る事になりそうですね。幼馴染からボーイフレンドを寝取る...ん、悪くないです」
「なっ⁈...へーぇ?ブローニャちゃん、いうようになったね?」
「所詮キアナは負けヒロインの敗北者ですから」(ドヤ顔)
「言ったなあ!その勝負受けてやるんだから‼︎」
「ハァ...この子達は何をやってるんだか」
いつも通りに元気になり、勝負事をおっ始める二人の行動に芽衣は呆れるも安心感が勝る。後はソーマただひとりを待つだけだと考えながら今もなお赤く光り続ける崩壊の繭に目を向ける。
(必ず無事に帰ってきてソーマ君...私もあの子達以上に貴方の帰りを待ってる。...いつでも待っているわ...私の...大好きな人...)
「そこっ‼︎」
「エリシア援護して!」
「ハァーイ任せて!」
選定の審判場にてソーマとヘレナ、エリシアは境界の律者という未知数の敵を相手に激しく闘いを繰り広げていた。
ソーマと同じくヘレナの二人はお互いの対極の陰月を武器に境界の律者に接近戦を仕掛け、後方からエリシアが自身の武器である弓を用いて遠距離攻撃で妨害を行う。しかし、ここで少し思わぬ誤算が生じる。
「ハァッ‼︎境界の律者...フッ!...思ったよりデカくないか⁈」
「フンッ‼︎...私達の10倍以上のサイズはあるんじゃないかしら?」
「もしかして境界の律者は元からかなりの巨人だったんじゃないかしら?」
「...もしかして、前文明の神話や書物に出てくる巨人族の正体って実は境界の律者の事だったりして...」
「考察するのはいいけど、そういうのは後にしときなさい!」
ヘレナが対極の陰月を大鎌に形を変形させると、巨大な斬撃波を放ち、境界の律者に傷を与える。が、凄まじい速さで傷口が塞がり何事も無かったようにこちらへ崩壊の槍の弾幕を降らしてくる。
「グッ!コイツ、痛覚がないの?全く効いてないじゃない!」
「ヘレナ下がれ!」
素早くヘレナがその場を飛び退くとその場でソーマは大弓を形成し、爆発する槍の矢を時放つ。手数の足りない隙間はつかさずエリシアが巨大な花弁の空間を生み出し、ひとつの矢を放つ事で花弁の空間内の鏡を反射して跳弾するようにジグサグに敵の弾幕を叩き落としていく。
弾幕を防がれた境界の律者はその場で虚数空間を開き何処からか現れた崩壊エネルギーで編まれた鎖のような拘束具を用いて周りの建造物を破壊しながらソーマ達に鎖を解き放つ。
「ヤバっ!」
なりふり構わず周りを破壊して襲い掛かる意思を持った触手のような鎖から逃げるように走りながらスライディングし、倒れてきた建造物の隙間へ体を滑り込ませて行き止まりに囲まれないようその場をアクロバティックに曲芸回避していく。
向こう側が攻撃の主導権を握ったのか、回避に専念しているソーマと近くにいたエリシアに対して大出力のエネルギーレーザーを解き放ち地平線上の障害物ごと熱線で焼き払う。
咄嗟にソーマは虚数空間を切り開き、巻き込まれたエリシアを抱えながら虚数空間に退避し、攻撃を回避する。
「あ、危なかった...」
「あら、ソーマってばなかなか大胆ね♪」
「思ったより余裕そうだな。放り投げていい?」
「まぁひどいわ!...ふふ、冗談よ。でも余裕がない状態でいるよりもいいでしょ?」
「そりゃあそうだけど...」
想像以上に激しい敵の攻撃に自分達は反撃をする余裕がなかった。どうやって境界の律者の隙を築こうかと考えていると、再び触手のように暴れ回っていた鎖がソーマ達を見つけ襲いかかってくる。急いで飛び退き、手にした槍で鎖を叩き落とそうとするが何故か物理法則を無視するように武器をすり抜けて鎖がソーマの体に襲いかかる。
「なッ⁉️ガハッ!!」
鎖に押し飛ばされたソーマがそのまま勢いよく壁に叩き付けられてしまう。よろけながらも何とか立ち上がるが、身体に何か違和感を感じ取る。よく見ればソーマの体の一部がデータが破損した様に欠けており、切り傷からは何もない生成前のデータの断面のようになっていた。
「な、なんでっ...!」
「アレは侵食の律者の...いけない!ソーマ逃げて‼︎」
さっきまでとは違って余裕のないエリシアの本気の警告にこれはヤバいのだとソーマの本能が警報を鳴らす。
「境界の律者は侵食の権能を使ってアナタを取り込もうとしているわ!いくらアナタでも魂のみの状態のアナタが取り込まれたら...!」
ソーマを助ける為にエリシアが素早く彼の元へ急行し、迫り来る鎖の触手に矢のレーザー弾幕を放ち迎撃していくが、鎖の数を増やしたのかそのまま迎撃するエリシアをその場に拘束し、縫い付けてしまう。
最終的にソーマも鎖に縛られて拘束されてしまい、完全に封じ込められてしまう。
拘束されたまま境界の律者の元まで連れて行かれてしまい、境界の律者の体から切り開かれた異次元の空間らしき時空の境界に体ごと押し込まれて飲み込まれていき、吸収されてしまう。
一足先に境界の律者に足止めを喰らっていたヘレナが遅れて急いでソーマのいる場所へ飛び込むが既に空間内に取り込まれた後だった。
「ソーマ‼︎くっ、やられた...!」
謎の空間に押し込まれたソーマはその中でゆっくりと意識が薄れていた。量子の海のような0と1の数式が流れてくる電子世界のような空間で正気が薄れていき、拘束していた鎖がコードのように彼の体に引っ付きながら侵食を進めていく。
(い...しきが...保て...な、い)
体をデータに変換されるように侵食されているのにも関わらず不思議と不快感がなかった。まるで母の揺籠のように優しくこのまま眠ればいいと囁いてくるような感覚を感じた。
(ああ...もう...考えるのも...疲れて、きた...もう...いい、か...)
生に縋り付くのも忘れてなくなっていく感覚に眠りに落ちていく。
(...)
もう何も感じない。
(...)
全てを忘れて無になる。
()
...。
消滅していく意識の中、一瞬だけ...彼の脳裏に綺麗な白髪の少女が振り向き、手を差し伸べる姿が見えた。
...ッ‼︎いや!まだだ‼︎まだ...終わってないッ‼️)
意識を最大限に覚醒させ、動かない指先を動かし、無理矢理体を動かしていく。侵食を受け、データが欠損するように体が欠けていくが構うものか。
こんなところでは終われない。今もなお闘い続けているヘレナやエリシア...地球の仲間達...ブローニャに芽衣も...そしてキアナも...みんなが待っているのだ。ソーマが無事に帰還してくれる事を。ケビンとの決戦も控えているからこそ、ここで立ち止まれない。
自身の魂を擦り切れてしまいそうな勢いで聖黒の律者コアを解放し、薄れていく感覚を取り戻す。体から迸る痛みが、自身がまだ生きているのだという事を実感させてくれる。
(動け、動け!!...まだいけるはずだソーマ・アストラ‼︎まだ俺には帰れる場所がある‼︎ここで終わるなッ‼︎)
蒼炎の力も解放し、空間一面を焼き尽くすほどの炎を巻き上げながら自身の命を燃やしていく。
ソーマの必死な生き足掻く意思に世界が答えたのか、空間内が変化していく。暗い数字だらけの電子の海の世界から優しい桃色の華麗な花弁が流れていき、エリシアに見せてもらったような古の楽園のような神秘あふれる自然の世界が広がっていき、ソーマの真上から何かが降りて来る。
「待たせたわね、ソーマ。助けにきたわ。さぁ、私の手を取って♪」
「エリ...シア、なのか?」
「そういえばアナタには初めてこの姿を見せるわね?ええ、これが私の本当の姿、"真我・人の律者"よ♪不幸な運命にはさせない、みんなをハッピーエンドに向かわせる素敵な愛の物語にしてせるわ。今回の物語の主役はアナタよ、ソーマ♪」
電子の海から降臨するように現れたのは、純白で桃色に染まった愛の女神様のような美しい律者の姿に変わったエリシア本人であり、ソーマの手を掬い上げるように手を繋ぎ、電子の海の世界から引き上げられていく。
境界の律者の体内から取り出されるように外へ解放された矢先に見えたのは聖黒の力で境界の律者を体ごと崩壊エネルギーの槍で固定し貼り付けているヘレナと苦しそうにしている境界の律者の姿があった。どうやらエリシアがソーマを救い出すためにヘレナが時間稼ぎをしていたようである。
「さぁ、今度は私達が仕掛けていくターンよ!」
「ごめん、助かった」
「ソーマは無事ね?なら早くしてエリシア!こっちも大変なんだから!」
ヘレナがエリシアに悪態をつきながらも再び活動を再開しようとする境界の律者を大鎌の一閃の斬撃で斬り刻んでいく。
ソーマを救出したエリシアは素早く律者の力を解放して迫り来る境界の律者の鎖の弾幕を大量の鮮やかなレーザーで次々に撃ち抜いていく。救出されて間もないソーマも無理矢理に体を叩き起こして遅れて迫り来る敵からのレーザー弾幕を蒼炎の灼熱の炎を武器に乗せて薙ぎ払う。より苛烈に迫り来る敵からの追撃をものともせずエリシアとソーマが迎撃していき、境界の律者が決定打を打ち出そうにもヘレナがつかさず妨害し、境界の律者に反撃させないように斬り刻んでいく。
しかし、相変わらず敵は驚異的な回復速度で自身の傷やダメージを治していく。
「チッ、これじゃジリ貧だ!どうすれば...」
「大丈夫よ、方法ならあるわ」
「何か策があるのか?エリシア」
「もちろん♪それは...ソーマ、アナタの愛の一撃をあの子に放ってあげるの」
「はい?愛の一撃?」
急にエリシアが愛のキューピットみたいな発言をしだす事に困惑するが、とりあえずエリシアは境界の律者が正気に戻る為の強力な一撃を放てと言っているんだとソーマはなんとなく雰囲気で無理矢理解釈した。
「なら、俺の対極の陰月の一撃を...けどいけるのか...?」
「大丈夫よ♪アナタだけに全てを託す訳じゃないわ。私も一緒に戦うもの。あの子に美しい一撃見せてあげましょう?」
エリシアの言葉を聞いたソーマは彼女を受け入れ、対極の陰月を大弓に形を変え、そして代わりの矢はエリシアの力で生み出した光の矢を装填して構える。
人の律者と聖黒の律者の力が共鳴したのか大弓がさらに大きくなり桃色の光の花弁を描きながら開花する。無機物の弓がまるで今のエリシアの姿を反映したようなデザインになり、構える光の矢も鋭さが増す。
「さぁ、よく狙ってちょうだい。この一撃に全てをかけるの」
「ああ...絶対に外さない。当ててみせるッ...!」
弓を最大限に引き延ばして狙いを定めるソーマを補助するように彼の手を上から握る様にエリシアはソーマに密着して支え、手を添える。
手を触れられ、密着してきた事に思わずドキッとしながらエリシアに顔を向けるがエリシア本人は微笑みながらウインクしてきた。
「さぁ、一緒に行きましょソーマ♪」
エリシアからの言葉に落ち着きを取り戻したソーマは頷きながら再び弓を構える力を強める。
もう直ぐに放てる状態になっている二人を確認したヘレナも手にした対極の陰月を槍にして、崩壊エネルギーで贋作を複数本複製しながら境界の律者が反撃出来ない様にしっかりと空間に縫い付けて固定してみせる。
「二人とも今よ、撃ちなさい‼︎」
「当たれッッッーーー!!!!」
限界まで引き延ばしていた大弓からの光の愛の矢を一気に引き放たれ、光の矢は桃色の粒子を撒きながら極太のレーザーのように光速を超えて境界の律者の心臓部に吸い込まれていく。
エリシアとソーマによる必殺の一撃をまともに受けた境界の律者は胸元から光の粒子が溢れ出し身体の外装が剥がれ落ちるように身体がガラスのカケラのように砕けていく。
ヒビ割れしていく中でそのヒビが境界の律者の顔まで届いて来ると何も無かったはずの漆黒の顔から仮面が剥がれ落ち、人の素顔らしき目や口元が見えた。中性的なキアナにもソーマにも似ているその顔は終始無表情ではあったが、最後にだけ僅かに微笑んだ顔を見せていた。
表情だけで何も語ってはいなかったが何となく本人はこう呟いていたように聴こえた。
よく、やってくれた...と...。
ちょっとした気まぐれですが、本作の主人公である「ソーマ・アストラ」という名前について解説します。名の方である「ソーマ」はインド神話に登場する月の神様が元ネタであり、神々が飲む霊酒の名前にもなっているとされています。
その為、イラストではあまりわかりにくいかもしれませんが本人の黒と白のツートンカラーの髪色も月面の光と影をイメージしたものとして描いています。
一方の姓の「アストラ」は星座や星、天を意味する言葉であり、正義の女神であるアストレアも元ネタにしています。その為、ソーマと接密な関係を持つ"境界の律者"はある意味世界を構築する最高神達のうちの一柱、または神々の間で生まれてきた新しい神様に類似した存在であるという設定になります。