ー...しばらくの間はお別れになるけどいつか俺たちが再び出会えることを信
じてる。
...いつか地球に帰ってこられる日まで俺はお前達のことをずっと待
ち続けてるよ。...
だからまた会おう... キアナ・・・... ー
...ナ...きて... キアナちゃん!」
「...ハッ⁈補習サボらないから許してッー‼︎って...芽衣先輩?」
「ハァ...こんな所で寝てたら風邪をひいちゃうわよキアナちゃん?」
夢から覚めたキアナの目の前には普段から見慣れた呆れながら心配する芽衣の姿が見えた。どうやら物事に集中し過ぎて寝落ちしてしまったようで、帰りの遅いキアナを心配して様子を見に来たようである。
「様子を見にきてみればやっぱりね...。キアナちゃん、物事に集中することは悪いことじゃないけどやり過ぎは体に毒よ。いくら律者の体だからって言っても、限度はあるのよ?」
「え、えへへ、ごめん芽衣先輩。もちろんちゃんと適度に休んでいるよ?ただたま〜に集中し過ぎて忘れてしまう事もあるだけで、ね?」
芽衣が心配しながら呆れる先に対面しているキアナは以前とは違い、終焉の律者の時のドレス姿ではなく学者や医者をイメージさせるような白衣姿をしており、顔には赤縁のメガネをかけていた。今のキアナはまさに理系の白髪碧眼系女子学者と言った風格を醸し出していた。
彼女の座っているデスクワーク周りには様々な文献資料が散らばっており、宇宙工学や物理学関連の書物が積まれいた。周りにある液晶画面モニターなどにはかつてカロスタンの地にて起こった騒動の首謀者であるある男から伝えられた"虚数の樹"のデータ資料も確認でき、彼女が何やら大きな事を成し遂げるために研究しようとしているのがその場の雰囲気から漂わせていた。
「それにしても...私達もそうだけど、キアナちゃんも以前とは比べ物にならないくらいに雰囲気が変わったわね。...本当なら素直にキアナちゃんの成長ぶりを喜びたいのだけど...」
そう言いながらキアナの事を評価する芽衣の表情はなんとも気難しい哀しいような喜びたいような素直にはっきりと感情に表せない複雑な表情を見せていた。
「大丈夫だよ、芽衣先輩。だってこれは私が選んだ道なんだから」
「キアナちゃん...」
聖痕計画による騒動が去り、地球では普段通りの状況に戻っていた。しかし以前の地球とは違い、聖痕計画によって崩壊に撃ち勝つその作戦が思わぬ転機を迎えた事で地球上に存在する崩壊現象は以前とは比べ物にならないほどに減少化しており、残っている崩壊エネルギーも大部分が衛星である月に集約されて封印される形となった。
現在では仲間達と共に崩壊の戦いに挑み、英雄となり地球の神様にもなったキアナ・カスラナの手によって管理運用されており、いずれ数年経てばほぼ崩壊エネルギーを無力化させることが可能となる予定であった。
今となっては地球を救った英雄としてキアナ、芽衣、ブローニャの3人は大英雄としてその名を人類の歴史に刻む事になった。
しかし、それとは別に彼女たちと同じく共に戦い、命をかけて地球を救う為にこの地を去った今この場にはいない姿のない讃えられるべきもうひとりの英雄がいた。
「芽衣先輩もみんなも、誰もが"彼"が帰ってくるのを願ってる。勿論みんなも何が出来るか必死に考案して研究や計画を練っているのは知ってるよ。だからこそ私もやるべきことをやらないと..."ソーマ"に約束したんだから」
キアナが見つめる先には部屋の棚に透明なカプセルに仕舞われている一輪の青白い花弁を生やした美しい花が未だに優しく灯りを灯し続けていた。
「彼は...まだ私達の事を信じて、今もなお宇宙のどこかで彷徨っているのよね」
「そうだよ、ずっと私達が迎えに来てくれるのを待ってくれている。それに...ソーマは方向音痴だから自力で帰るなんて絶対無理だと思うよ?」
「それは...いえあり得るわね。彼の事だから」
地球に巣食う長い年月をかけて膨張を続けていた崩壊エネルギーと崩壊の意思を地球から切り離す為に、キアナの幼馴染であり大事な仲間でもある"ソーマ・アストラ"という境界の律者となった少年の手によって直接崩壊エネルギーそのものを地球から抜き取り、崩壊という厄災そのものを抱え込んで宇宙の果てへと飛び去ったことで地球又は太陽系の滅亡の危機を回避したのがことの真相であり、同時に聖痕計画での唯一の犠牲者でもあった。
その為か現在では四人組の中では唯一の行方不明者であり、地球を救う為に人身御供となった悲劇の英雄として扱われていた。
彼の事をよく知らない人々からすればそう映ってしまうのは無理も無いが彼の事をよく知る人達はその評価や扱いに快く思わなかった。
当然当事者であるキアナもまさにそのひとりであった。その為か、地球の危機が去ったその後の世界でキアナはまず、ソーマとの約束を果たす為に共に戦った仲間達や血縁者を集めて宇宙へ去ったソーマの居場所を特定する為の観測と彼を連れて帰る為の宇宙艦の開発計画を実行に移すことになった。
誰よりもソーマの帰還を心の底から願っていたキアナは少しでも早く出会える為に観測と開発計画の両方を兼任しながら研究を進めていた。
当然慣れないこと無理してやっている為に体調を崩したり睡眠不足や過労で倒れかけたりと芽衣やブローニャ達に本気で心配させてしまう事も度々あった。
無論、これ以上無理をするなと厳しく釘を刺されたり、危うく芽衣のトラウマであるパプリカカレーでの出来事の再来になりかけたりと結構心配をかけさせた為にキアナも自重するようになった。(なお、心配をかけた事で父のジークフリートやビアンカにも説教された模様)
既にソーマ本人を探し出す為の計画は今もなお進んでいるが、長い年月が経っても未だに彼のいる場所の観測が出来ておらず、広大な宇宙から漂流している彼一人を探し出すのは地球全土の海から新種の微生物を探し出すくらいの天文学的な難易度まで跳ね上がっており、時間がかかればかかるほど彼はすでに外宇宙に出て行ってしまっている可能性が高いという嫌な真実が浮き彫りになっていくのが今のキアナ達の負のジレンマとしてのしかかっていた。
その為、キアナは停滞している現状を打破する為の別の手段としてある分野の資料に手を出す事にした。
「虚数の樹...確か前大主教が計画の為に利用した...よくこんなものを現主教様(テレサ・アポカリプス)は許してくれたわね」
「最初はもちろん断られたけど、限定的な目的ならば利用してもいいってテレサから許可を貰えたよ。テレサも自分の子が行方不明のままで会えないままなのが想像以上に辛かったみたい...」
"虚数の樹"とはかつて天命組織の前大主教であるオットー・アポカリプスが最愛の人であるカレン・カスラナを救う為に様々な試行錯誤を繰り返した計画案の中で彼女が生きる世界線を合築し存続させる為にカレンが存命する世界の枝の葉を存続させるという荒技を成し遂げる為に利用した過去がある。
キアナはこの虚数の樹の観測手段を利用して外宇宙に流れ着いた可能性がある、或いは別の宇宙や世界に飛ばされたソーマの居場所を特定する為の手段として利用することを考えついた。
境界の律者であり、同時に終焉の律者の子である本人にも終焉の力が存在する為、普通の生命体では持ち得ない力を身に宿すソーマを探すならばキアナと同じ似通った力を感じ取る事が出来れば見つけ出す事は不可能では無いはずなのである。これだけ長い年月をかけても彼を見つけられ無いとするならばやはり本人は外宇宙へと彷徨ってしまっているのは間違いと言ってもいい。
「それにね...私、敵だったあのオットーという人の感情がほんの少しだけだけど理解できてしまったの」
「...」
「自分にとって誰よりも大切で心の底から愛している人が死んでしまったり、二度と会えなくなってしまったりする喪失感がどれだけ恐ろしいものなのかって...。今更こんな事をいうのも遅すぎるけど芽衣先輩は昔、私やソーマが暴走して殺し合いになった事や私が芽衣先輩のことを考えずに死に急ぐような事をしてしまった事にひどくトラウマを抱え込んでいたんだよね」
「ええ、本当に貴方達には何度、感情をかき乱されたか...本当に罪な子ね、貴方もソーマ君も」
ようやく芽衣がかつて抱えていた気持ちを理解してくれた事に呆れてジト目で向き直りながらその恨みを晴らす為にキアナに近づいて彼女の白く柔らかなほっぺを軽くつねる。
「い、いひゃい〜、ほんひょにごめんにゃひゃい〜ッ!(訳:い、痛い、本当にごめんなさい!)」
愛くるしい顔がほっぺをつねられた事でお餅のように伸びる光景が癖になったのか芽衣にストレス発散として遊ばれてしまう。
「ハァ、ここまでにしましょうか。流石にこれ以上は可哀想だし」
「め、芽衣先輩愛してる〜」
「はいはい、私も愛してるわ。けどだからこそ、ここで無理をしてはいけないわ。ソーマ君だって貴方が彼の為に頑張りすぎて倒れてしまうなんて絶対に望んでないわ」
「それはそうだけど...でもやっぱり私怖いの。時間がかかればかかるほどソーマがいる場所がいつの間にか遠のいて私達の手が全く届かなくなるところに行っちゃうんじゃないかって...」
キアナにとって一番怖いのは今もなお宇宙のどこかで漂流しているソーマ本人を探し出す為にものすごい年月がかかってしまう可能性があるという問題よりも、彼のいる場所がキアナ達がいる宇宙から離れすぎて自分の認知出来ない領域まで離れてしまう恐怖であった。
いくらキアナが終焉の律者であり地球の神様であったとしても、宇宙は広大であり、更には外宇宙というさらに外側の世界に流れ着いてしまうと自分達だけでは探し出すのが絶望的になって来てしまうからだ。
「...キアナちゃん、貴方が一番ソーマ君のことを大事に思っていて彼の事が好きだという事も分かっているわ。でも、それは私もブローニャちゃんも一緒よ?...私も彼の事を心のそこから愛してるし、もし助けられるなら今の仕事も役割も放り出す覚悟はあるわ」
「...やっぱり芽衣先輩もブローニャも皆んなソーマの事を異性として見てたんだ...」
「そうね、私達ならそんなこともお互いに分かってしまうわ。けど...好きだからこそ後ろ向きに考えてはダメだと思うの。想いの強さは時として絶大な力を発揮するわ」
「そう...だよね。ありがとう芽衣先輩、私...もう少し前向きに考えてみるよ。だから...その、まだ何かあったら、支えて欲しいかな...なんて」
「いつも私達を振り回してる癖に変に遠慮しないでちょうだい。私にとって大事なキアナちゃんを支えない訳がないじゃない」
「えへへ、ありがとう芽衣先輩♪」
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
今日から日記をつけてみようと思って始めてみたの。私達の計画の進歩はあまり良くないけど芽衣先輩達も頑張ってくれているから私も頑張らないと。今日もソーマからくれた大事な花は元気に光り輝いているみたい。
あ、ちなみに今使っている記録端末には連動して宇宙観測している人工衛星とデータリンクしてるから何かが見つかったらすぐにメールを知らせてくれるの。便利でしょこれ?
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
数週間がたったけど相変わらずまだソーマのいる場所は観測できてない。ハァ...データリンクにも反応はないね。
息抜きとして久しぶりにブローニャ達と一緒にゲームに参加して気分転換してたんだけど...やっぱり、誰かひとり物足りないや。
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
今日はまさかのみんなからのサプライズによる誕生日会を開いてくれたの!研究や月での仕事に夢中になりすぎてすっかり自分の誕生日のこと忘れてたなぁ。
...あれ?そういえば自分の誕生日で思い出したけど私ってソーマの誕生日がいつなのか知らないや。今までずっといっしょに過ごしてきたのに...。よくよく思い出せばなんかよくはぐらかされてたような...帰って来れたら聞きたい話がまだ増えたかも。
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
今日はとてもヒヤヒヤしたことがあったの。ソーマからくれた大事な花が様子がおかしいのか点滅したように不安定に光っていたの...。もしや、ソーマの身に何かあったのかもとひどく動揺したけど、しばらくして元の状態に戻ってて、博士達に確認してもらったけど特に異常はなかったみたい。
けど...やっぱり怖いよ。ホントにソーマは無事...なんだよね...?この日は心配や不安が収まらなくてまともに眠れなかった。
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
怖い夢を見ちゃった...。夢の中で出会えたソーマがよく分からない何かに攫われて必死に引っ張っても敵わず彼が泡のように空の彼方に消えて無くなってしまう...そんな恐ろしい夢だった。
昔、ソーマが死にかけて生死を彷徨った時の思い出が蘇ってきて息苦しくなった。悪夢で苦しんでた私を芽衣先輩やブローニャに慰められてたけど彼女達には迷惑な事をしちゃったかな。...こんな事を口にしたら芽衣先輩達にそんな風に考えるなって説教されちゃうかもしれないけども。
しばらくの間は芽衣先輩のベッドでメンタルケアも兼ねて一緒に寝ることになったけど、芽衣先輩と一緒にいれて嬉しいはずなのにまだ不安を感じちゃうの。
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
最近、学園から珍しく識ちゃんが尋ねてきたの。あ、識ちゃんっていうのは識の律者のことだよ?
なんか彼女、いつになったらソーマに会えるんだって駄々をこねててみんなで落ち着かせていたんだけど、会えないなら騒動を起こしてやるって息巻いててそのあとにすぐに駆けつけてきた委員長にあっという間に沈められてたなぁ。最近は識ちゃんだけでなくウェンディやゼーレもまだソーマは見つかってないかと聞いてくることが増えてきた。...あまりにも時間が経ちすぎて次第に皆んな不安になってきてるんだ。...やっぱりソーマは私が思っている以上に皆んなに大切にされてて愛されてるんだって思い知らされたよ。
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
ここのところ、私も含めてみんなお通夜状態になりかけてる。テレサなんて今までよりもお酒を飲む事が増えてきてソーマが帰って来ないことに泣きながら愚痴っている事が増えてるし、パパは昔を懐かしむようにな話をよくするようになってて、家には私やパパ達にソーマが一緒に映ってる写真をよく並べるようになって見るたびに悲しそうな笑みをするようになったの。
お姉ちゃん(ビアンカ)の方は...正直ちょっと危ない状態かも。あの人はけっこう我慢強いからよく抱え込んじゃうの。たまたま偶然にお姉ちゃん達の家に遊びに行ってたときに人気のないリビングでソーマに似せたぬいぐるみを抱えて啜り泣いてそれをリタに宥められていたところを目撃してしまったの。
私達...本当にこれから先やっていける、のかな...。
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
苦しい...。つらい...。彼がいない日常が当たり前になってきて思い出そうと振り返っても頭が楽になれとソーマの思い出の記憶を忘れさせようとしてくる。ソーマの事を忘れようとするなんて最低以外の何者でもない私。でも、自己嫌悪するたびにより一層ソーマの事を強く意識できる。...これならソーマの事を忘れなくてすむ...ごめんなさい、こんな薄情な私で。
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
最近テスラ博士やゼーレ達に様子がおかしいって言われたんだ...。全くひどいよね、芽衣先輩やブローニャは特に何か言ってきた事はないし別に、"部屋中にソーマの写真や所有物が張り巡らされてる"くらい大したことじゃないでしょ?
そのあとは私達の力が足りなくてごめんなさいって謝ってきたの。別に博士やゼーレ達が悪い訳じゃないのに...。
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
まだ...彼に会えない。
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:キアナ・カスラナ
お願い、ソーマに合わせて。彼の...ソーマの温もりが...ほしい
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:雷電 芽衣
臨時でキアナちゃんに代わって今回は私が日記を記録しています。
...キアナちゃんがつい最近、正体不明の昏睡状態に陥ってしまって、今は眠りについてしまっている状態になってるわ。近年異常が観測されている火星圏での異変が何かしら彼女に影響を与えている可能性がある。
...正直、キアナちゃんが倒れて貴方もいないこの状況に私もみんなも不安でしかないけど私達だけで問題を解決するしかないわ。
今まで貴方達に散々助けられてきたけど、私もただ無意味に時間を過ごしてきた訳じゃない...あの頃とは違うやり方で貴方達の事を絶対に守って見せるわ。
だからごめんなさい...ソーマ君、もう少し待っていてちょうだい。問題が解決したら絶対に貴方を迎えに行くから...。
ー〇〇年⬜︎月⬜︎日ー
記録者:NO DATA
定期報告...観測データ...更新中......【外部宇宙デノ観測微小エネルギー反応アリ】...観測ヲ継続中...
「ソーマ・アストラ(未帰還ルート)」
本ルートではキアナ達による発見回収が敵わず未帰還、または消息不明扱いになっている。
世間からはキアナ達と並ぶ地球の危機を救った大英雄のひとりとして扱われ、同時に崩壊から人類を守る為に自身の命を引き換えに散った悲劇の英雄であり唯一の犠牲者として認識されている。尚、キアナ達一同は死んだ扱いにされている事に当然全く納得していない。
大好きな人の行方が全く分からない状態の中、キアナは徐々に病んでいくが状況やルート次第では第二のオットー・アポカリプスの様な道を突き進んでいた可能性もあったりする世界線が存在する模様。