しばらく数週間が経ってからその間に色々な出来事や変化があった。実は以前の任務で接収した無人空中戦艦であるムーンライトスローンをどうやら今では聖フレイア学園で運用する専用の空中戦艦として扱われ、名称を「ハイペリオン号」と改め、改修されて運用される様になった。
ただその過程で元の戦艦に搭載されていた"ムーンライトスローン"(ここでは艦名ではなく装置の呼称)と呼ばれる旧艦名と同名の装置が何やら外部に影響を与えおりそのせいか、一時期はキアナがその影響で精神負荷を受け、気絶しかけてしまうというアクシデントもあった。ただ、改修が完了して以降は特に周りに与える影響のリスクは解消されたようだ。
そして現在は、当初の任務にて発見された戦艦に残された謎メールから出ていた4つの鍵の在り方を探す為の任務としてハイペリオン号を運用しながらニュージーランドに向かっていた。
どうやら「渇望の嵐」と呼ばれるデザイアジェムを宿した第4律者を探す為に作戦行動を行っているようで過去に発生した第二律者から4つの鍵、いわゆる律者コアであるジェムのうちの一つであるとされており、そのデザイアジェムを宿した戦乙女の一人が今現在ニュージーランドのオセアニア支部に所属しているという情報もありさっそくキアナ達はその戦乙女の身柄を保護する為に探索を開始していた。
-ニュージーランドにて-
現場で捜索活動を続けていた四人組は予定より早い段階で目標であるデザイアジェムを宿した戦乙女の少女を見つける事に成功する事になる。
「...それにしても名前からしてジェムという名前だから宝石の結晶みたいな物かと思ってたらまさか人...だったなんてな」
「私も最初はそう思ってた。...けど、その後に姫子から聞かされた内容を聞いたらあまりにも酷すぎてショックを受けたよ...」
姫子から話された内容によると目的のデザイアジェムは元々はかつて第二律者が所持していた複数の律者コアなる代物のうちの一つであり、その後撃破した第二律者から回収したもののうちの一つであるデザイアジェムを安全に管理する為にそのコアに宿る律者相当の力をコントロールし有効活用する策として当時ニュージーランドのオセアニア支部に所属していたS級戦乙女候補の実力者の一人である「ウェンディ」という少女を利用し、彼女の下腿骨に例のデザイアジェムを埋め込む実験を行った。
人の身で扱い耐えきれるかを実験した結果、安定こそしたものの、その副作用で両足が機能不全に陥り歩くことすらままならないという状態となった事で車椅子での生活を余儀なくされ、彼女のS級戦乙女への道が閉ざされるという最悪な結果となったのだ。
「ひどい...それじゃあ彼女は今でも車椅子で過ごす羽目になっているんですか?」
「アイツらなんで取り出さないのよ!これのせいでウェンディちゃんが苦しんでいるのに!」
『落ち着きなさいキアナ。胸糞悪くなる話だけども...これは仕方のないことなの。デザイアジェムは律者コアの中でも特に不安定...ただ何故かウェンディの体内に入っている時だけは安定しているの。もしも取り出した際にジェムが暴走でもしたら、いったいどれだけ大きな崩壊災害が起きてしまうか...』
「それじゃあウェンディちゃんをジェムの器として一生縛り付けるつもりなんですか?さすがにやりすぎたわ!」
「姫子少佐...流石にこれはあまりにも非人道的過ぎると思う。...せめて彼女の体内にあるジェムを取り出す方法を学園側で考案する事はできないか?」
「私もソーマ兄さんの考えに賛成です。私達の手で保護してウェンディの体からジェムを摘出して助けるべきです。...このまま何もせず苦しみ続けさせるなんて...」
実験による被害でこうして自分たちと変わらないほぼ同年代の少女がこのように自身の人生を犠牲にして不自由を強いてくる天命の非道なやり方にキアナ達は強い憤りと怒りを抱く。
「皆さん、心配してくれてありがとう。でも、もういいの...もうすでに受け入れた事だから...」
実験体にされたウェンディ本人はこのような結果になってしまった事に対してすべてを諦めたように気にかける必要はないと自分の為に起こってくれたキアナ達を気遣う様に伝えてきた。
「けど、それじゃあ貴方があまりにもッ...」
「...戦乙女である私の責務は、自分の命でより多くの人を救うこと...それが私の...責務...だから」
「...ウェンディ、君の心意気はとてもずはらしいと思う。けど俺達とそこまで歳の差もない君にそんな理由で、自身の人生を生贄に強いる様な外道行為をやらせる今の天命は...クソ喰らえもいい所だ」
「...私の為に怒ってくれてありがとうソーマさん。...でももういいの、...もう手遅れだからッ...」
「ッ、ごめん...あまりにも無力で」
「ううん、ソーマさんは悪くないよ...本当に何も、悪くない...」
何の力もなく、ただ崩壊獣を倒す能しかない事に想像以上に無力な自分自身に悔しさと悲しみを抱くしか無かった。...まだ自分は"かつてあの頃の地獄の出来事のように"ただ何も出来ずに見殺しにする事しか出来ないのかと。
互いに気不味く暗い空気を漂わせてるなかで、航行中のハイペリオン号が合流地点に到着するのを待つ為、姫子とテレサ側に通信で座標を報告している最中に突然な異変が訪れる事になる。
『...ちょっと待って!崩壊エネルギーを検出...ウェンディの体内にあるデザイアジェムの影響なの?...反応がどんどん強くなっていく、崩壊指数1000...いや、2000、一体どうなってるんだ⁈』
姫子からの明らかに焦燥した通信報告内容に、その場に居合わせた全員がすぐにウェンディの方に視線を向けると明らかに先程の無気力な雰囲気が無くなり、人格が入れ替わったかの様に好戦的な性格に豹変し、彼女から強烈な怒りと憎しみの負の感情が溢れ出し、その周りに荒々しい風圧を纏っていた。
「...憎い...憎いッ...偽善者共…貴方達が憎いッ‼︎...アハっ、アハハハッ‼︎...全て壊れろ‼︎」
気がついた時には既にウェンディの姿が変わっており、腰から左右に二対の鮮やかな緑色の羽を生やし、服装まで変わっていた。そのまま風圧を発生させ、高笑いしながらキアナ達をまとめて吹き飛ばし、はるか上空まで飛び去ってしまう。
「...どうしよう、ウェンディが暴走して飛び去ってしまったわ」
『落ち着いて、...この状況を報告してS級戦乙女に応援要請を頼まないと。これ以上の追跡行動は貴方達の命の危険に関わる』
「ッ!だか彼女は明らかに崩壊に意識を奪われて正気を失ってる!何とか正常にさせれば...」
『それは私も分かってるわ。けど、アンタ達とウェンディの命を天秤にかけるわけにはいかないのよ。...S級戦乙女が到着するまで30分以上の猶予があるわ。...判断はアンタ達に任せるけど、絶ッ対に無茶はしないで!』
「流石姫子!みんな、急いでウェンディちゃんを追いかけよう‼︎」
直ぐに四人は離れていったウェンディの後を追いかける為、行動を急いだ。
その後、限られた時間内に何度かウェンディを追跡し運良く接触に成功する。しかし風を操る律者ということもあり、常に強力な風圧と暴風に視界や足元を取られ直ぐに吹き飛ばされるか逃げられるかの繰り返しだった。
そして何回目かもわからないイタチごっこのような追跡の繰り返しの先に一番先行していたソーマがウェンディと接触し暴走を止める為に戦闘を始めていた。破壊衝動に意識が蝕まれて凶戦士のように暴れ回るウェンディからの攻撃を防ぎながらもはや何度目か分からない説得を繰り返していた。
「ウェンディ!お願いだから止まってくれ‼︎君は崩壊の影響で意識が蝕まれてるッ。これ以上暴れたら取り返しのつかないことになってしまう!」
「なんで私の邪魔をするのッ⁈私はソーマのことを傷つけたくないのにッ‼︎」
「お願いだ話だけでもいい、聞いてくれッ‼︎...ウェンディ、俺は昔崩壊による災害で家族を失い、身寄りのない孤児として研究機関に保護を名目に強制連行された事がある。...自分と同じ様な境遇の子供達と共に実験体として崩壊に対抗出来る戦士を作る為に身体を弄られひとり...またひとりと実験で命を落としていった。...だかそんな時に助けてくれたのが学園の人達だったんだ。自分以外にも、ウェンディの様にネゲントロピーでの実験で被害に遭った仲間達も学園で保護されて今も元気に生きてる...ブローニャは正にその一人だ。...だから今ならまだ間に合う、今ならまだウェンディを助けられる手段を得られるかもしれないんだッ!」
ソーマからの必死な説得によって話を聞いているうちにウェンディ自身の精神的なゆとりが生まれ、理性が戻ったのか崩壊によって高まった破壊衝動が収まり冷静に話を聞ける状態になっていた。流石に彼女にはまだ少しの迷いや不信感を残しているが今の彼の話なら受け入れてもいいのではないか?という思いがででくるようになってきた。
「本当に...ソーマ達のこと...信用して、いいの...?」
「ああ、絶対に助ける!...どうしても信用出来ないのなら俺を全力で攻撃してくれても構わない、抵抗はしない。それにウェンディを見ていると...過去に研究機関でいっしょに過ごしてきた弟妹達のことを思い出すんだ。...もうこれ以上、弟妹達と同じように犠牲になる子を出したくない...」
ソーマから意外な過去話を聞かされ、話している彼自身が悲痛に塗れた顔をしているのを見ているとあんな過去を歩んできた本人を攻撃するなんて非情な真似出来るわけがないと感情を抱く。
「やめて...自分に攻撃してくれなんて言わないで。...ソーマ、あなたの覚悟はよく、分かったよ。...わ、私...あなたの提案を受け入れる。まだ少し怖いけど、ソーマやブローニャお姉ちゃん達なら受け入れられる、かも...」
まだ完全に信用してくれてるわけではないが此方の説得に応じてくれた事に安心しようやく張り詰めた気が抜ける。
その後に遅れてキアナ達が合流出来たことを確認し、ウェンディがキアナ達に自身の決心を伝える。ウェンディがハイペリオン号に乗艦しついてきてくれる事にブローニャも安心し、心の底から喜ぶ。
「ウェンディ、ブローニャ達の事を信じてくれて嬉しいです。ブローニャもネゲントロピーの研究機関で検体にされた苦しい経験があるので、これ以上ブローニャのような目に遭う人がてでほしくありません。だからまだ諦めないでください」
「うん、ありがとうブローニャお姉ちゃん。ブローニャお姉ちゃんが私を信じてくれるなら...私も自分を信じてみたい!」
「ハァ...一時期はどうなるかと思ったけど、ウェンディちゃんが受け入れてくれて本当によかった!。これで、ウェンディちゃんを連れて帰れるからやっと一件落着ね」
「目的は達したけど、油断は禁物よキアナちゃん?ウェンディちゃんを無事に全員で連れて帰ってようやく任務完了なんだから」
「はいは〜い」
想定外のアクシデントがあったものの、無事ウェンディを保護出来そうな状態になったためようやく問題が片付いたことに全員が安心して気が抜けてしまう。
...いま思えばこれが1番の油断であり、致命的な隙を与えてしまった要因だと言えた。...すぐ近くに隠れた脅威が迫っているのにも気付かず不用意に警戒行動を解除してしまう。
【残念だけどここで第四律者を回収させてもらうわ。ブローニャ...親愛なる我が娘よ。いますぐ第四律者を回収しなさい】
突然外部からの見知らぬ声の通信音声に驚き反応が遅れてしまう。気がついた時には以前ムーンライトスローン騒動で暴走した時によく似た姿に変貌したブローニャがウェンディに向かって攻撃をしていた。
突然信用したばかりの相手がいきなり人が変わったように攻撃し、ダメージを受けたことに、ウェンディの頭の中は突然鈍器で殴られたように混乱と恐怖状態に陥ってしまう。
「えッ...ブ、ブローニャお姉...ちゃん?な、なんで...なんでわたしを攻撃するの?...私を騙したの?...もう、誰も信じられない」
「あの姿...ムーンライトスローンの時のッ!...くっ、止まれブローニャ‼︎クソッ、ウェンディ今すぐブローニャの側から離れろ、今の彼女は危険だッ‼︎」
これ以上攻撃させないようにブローニャを全力で押さえつけるが、疑心暗鬼に陥ったウェンディが再び律者の力を活性化させ始めてしまう。急いでキアナと芽衣が二人がかりでウェンディを押さえつけているが、先程の説得が突然の外部通信による妨害とブローニャの2度目の暴走によって無駄になってしまう。
「せっかく...せっかく、和解できたのに!」
突然の敵からの妨害によって台無しにされた事にキアナは苛立ちするが、自分達の周りに何もないところから多数のネゲントロピーの戦術機甲が現れ出し、いきなりのピンチに追い込まれる。
【...これ以上は待てません。全戦術機甲、ステルス解除。目標、第四律者!】
突然の伏兵の登場とともに、ネゲントロピーの戦術機甲による攻撃で呆気なくウェンディが倒されてしまう。律者であるはずのウェンディが自分達との戦闘で疲弊しているとはいえ、すぐに無力化された事にソーマ達は動揺してしまう。
【新しい戦術機甲、使えるではないか。第四律者を弱らせてくれた事には感謝ね...もう一人第三律者もいるようだし...ほう?更に珍しい存在もいるじゃない。律者の原石。...まあ、あまり欲張ると身を滅ぼすというし、今回は二体だけに抑えるか。...ブローニャ我が娘よ、第三律者を捕獲しなさい】
ブローニャを押さえつけてたソーマに戦術機甲の何体かが襲い掛かり、妨害している間に黒いブローニャが素早く芽衣の背後を取りながら彼女を不意打ちで気絶させる。キアナは芽衣が狙われてる事に気付き、急いで芽衣に回避を取るように促すがすでに一歩遅かった。
「芽衣先輩逃げて!なっ、ブローニャちゃん⁈」
「ブローニャちゃん、どう...して...」
ウェンディと同じように無力化され気絶した芽衣を黒いブローニャが回収していく。多勢に無勢な状態にキアナは反撃が出来ず、同じく妨害攻撃を受けているソーマもろくに現場に近づけず、回収を終えたネゲントロピーの部隊と黒いブローニャはウェンディと芽衣を回収しソーマを攻撃していた戦術機甲達も遅れてすぐに撤収してしまう。
その場に取り残された自分達の無力さと不甲斐なさに二人とも悔しさを滲ませ、ただただ敵が去っていった場所を見つめることだけしか出来なかった。
ー深夜帯:長空市 ME社前ー
夜間の時間帯に四人の人間が長空市にあるME社への潜入行動を行っていた。行動をしているのはキアナ、ソーマ、姫子にテレサという珍しい面子の組み合わせだった。
「奴らの移動先を追跡したらやっぱり、自分達の本拠地であるME社だったみたいね。分かりやすくて助かるわ」
「しかし学園長、流石にME社は厳重な警備でビルに侵入するには鉄壁すぎて易々と侵入できそうにありません」
「まあ奴らも、そう易々と人を通らせるわけがないわよねぇ」
「...ねぇ、学園長。聞きたいことがあるんだけど、ニュースでME社のCEOは"雷電龍馬"と聞いたことがあるんだけどその人ってたしか、芽衣先輩のパパなんでしょ?。どうしてネゲントロピーが芽衣先輩のパパの会社に閉じ込めてるの?」
キアナの意外な質問に驚き、あのバカキアナが成長したとテレサは褒め称える。
「そうね。キアナがちゃんとニュースを見ていた事にびっくりだけど、報道されている内容が必ずしも真実とは限らないよ〜?」
「確か、当時ニュースで報道されてた話?なんだったっけ。芽衣の父親が経済事件を起こしたせいで投獄されたっていう。...そのせいで芽衣が昔、いじめに遭った原因にもなった..」
「あのときはほんとにひどかったよね。...私やソーマが止めてなかったらどうなっていたか。...でも学園長、真実とは限らないって事はとてもデリケートな事だったりするの?」
芽衣の父親が投獄された事についてニュースの内容が真実とは限らないというテレサの返答にもしや、あまり触れてはならない厄介事に首を突っ込んでしまったかとキアナは少し不安になったが、姫子がそれらについての話をしてくれる。
「いえ、秘密事項ではあるけど、話せないレベルのものではないわ。その件についての調査報告によると...」
姫子の話によると、どうやら芽衣の父親は現ネゲントロピー執行者であるカカリアによるネゲントロピー内部の人間によって貶められ、ME社の座を奪われた形になっているらしい。その結果、ネゲントロピー側と天命側での対立まで進み、急進派であるカカリアによる嫌がらせや衝突が今日まで続いていたという。経済事件の件もトップがすげ替えられた事による偽装工作とも言われているのだとか。
「何だか、聞けば聞くほど...色々と最悪な人にしか聞こえないなカカリアって人は。なら尚更急いで芽衣達を救出を急がないと」
「急ぎたいのはわかるけど、油断は禁物よソーマ」
「分かってる」
道中、ME社への潜入を続けていると、途中でブローニャに出会う。
「ブローニャちゃん?よかった、無事だったんだ!」
「待てキアナ!何故ブローニャがこのタイミングで来るなんて明らかに怪しいぞ!」
「そうね、以前もこの子が操られて危機的な状況に陥った事があるわ。芽衣が攫われた原因でもある以上信用はできない」
姫子やソーマの二人に警戒されていることを知ったブローニャは、当然な反応だと自覚しながらも二人に信じてもらえるように説得を試みる。
「姫子少佐、ソーマ兄さん、どうかブローニャを信じてください。...操られてしまっていたとはいえブローニャはただ芽衣姉様達を助けたいだけなんです。お願いします」
「...姫子、ソーマ、多分今のブローニャちゃんは話し方からして操られていないみたい。...それに以前に操られて芽衣先輩を攫ってしまった事にすごく後悔してるみたい。芽衣先輩を助けたい気持ちは本当みたいだから今は信用してあげようよ」
あまり根拠のないキアナの説得と擁護に呆れるも、事態は一刻を争う状態なので、一旦はブローニャを信用する事にし動向を許可することにした。
「本当にしょうがないわね〜。...ハァ、どのみち皆んな決死の覚悟だから、博打だと思っていくとしましょう」
「ありがとうございます、学園長。ではさっそくビル内への移動先のルートを紹介します。着いてきてください」
ブローニャによるナビゲートで目的地への移動を開始し、ME社の室内エリアに潜入し進んでいく。しかし相手も間抜けではないので、侵入した形跡に気付きすぐに戦術機甲を起動させて此方を排除しようと攻撃してくる。
「芽衣姉様がいる場所は三階の実験室の中です。ブローニャがその実験室のドアのゲートを開けますので急いで向かってください!」
「ここは、二手に分かれましょう!こちらが戦術機甲を食い止めるからキアナと姫子少佐は芽衣の救出を急いでちょうだい!」
「了解!キアナ急ぐわよ!」
「わかった!学園長もソーマも気を付けて!」
「OK、任せておけ!」
戦術機甲を何体か相手しながら、テレサの方は誓約の十字架を武器に機甲達目掛けてその怪力で武器をブン回しながら叩きのめしていく。そのフィジカルパワーぶりにソーマは驚くもすぐに意識を切り替えて素早く機甲の懐に滑り込み、背中に飛び乗りながら関節部を狙って片刃ブレードで斬り込み、装備していた拳銃でセンサーアイの部分に銃口を押し付け、崩壊エネルギーを帯びた銃弾をぶち込んでいく。
襲いかかってきた戦術機甲を全て排除したあとしばらくしてソーマの通信端末から誰かからの外部通信が繋がる。もしや以前襲撃してきたカカリアとかいう親玉からのハッキング通信かと警戒するが、出てきたのは意外な人物の声だった。
『聞こえますか...私です、ウェンディです。...ソーマさん、ブローニャお姉ちゃんとお話しは出来ますか?...ブローニャお姉ちゃんになかなか繋がらなくて...」
突然の通信相手がウェンディだった事に驚くもブローニャに通信ができないという話に疑問を抱く。
「ウェンディ、無事だったのかッ!どうやってアクセス出来たか分からないけど、ブローニャはいま芽衣を救出する為に戦闘中だ「ソーマ待ってちょうだい、ついさっき姫子から通信がきたわ。...どうやらブローニャは気を失っていて通信ができないの。何か話したいことがあれば代わりに伝えるわよ」ブローニャが...?」
『...はい、ニュージーランドでブローニャお姉ちゃんが私を攻撃してきたのは、操られていたからということを後で知ったんです。だから、もうその真相を知ったと伝えてください...もう恨みませんから...でも、もう会える機会はないかもしれませんね』
「...このようなメッセージを送ってくるって事は、彼女はもう...」
テレサはウェンディが繋いできた通信メッセージが、もう助からないことを悟り、カカリアの目を掻い潜ってまでわざわざ此方に通信をよこして遺言を伝えにきた事に事態を察してしまう。
しかし、当然こんな理不尽な最後に納得しない人物がいた。
「バカを言うなッ!ウェンディ、お前のいる場所を教えろ!絶対に助ける‼︎」
『...ありがとうソーマさん。...でも、もう...』
「いいか、遺言は聞きたくない、今ずく場所を教えるんだ。こんな所で死ぬなんて許さない。絶対にブローニャに合わせてやる。だから絶対に諦めるんじゃない...俺を信じろ」
『...ソーマ、...うん...分かった、私...ソーマのこと信じてみる』
通信でウェンディを励ましながら、装備を整えて通信を聞いていたテレサにソーマは向き直る。
「学園長、いやテレサ...俺は今から勝手に独断行動を行う。...罰はいくらでも受ける。だからお願いだ、行かせてくれ!」
「...ハァ、全くこの子は...バカキアナだけでも大変なのに...二人目まで増えるなんて。...約束しなさい、必ず生きて帰ってくる事!絶ッッ対に死に急ぐんじゃないわよ。分かったバカソーマ?」
「ッ、ああ、分かった。ありがとうテレサ。絶対にウェンディと共に二人で帰って来る!」
学園長もとい、テレサからの許可をもらい、すぐにウェンディの通信から実験室への居場所を聞き出しながら確認し移動を急ぐ。
「...ほんっと、キアナと似てきたわね。ソーマ...けど貴方はここで死んではダメよ。...無事に帰って来なさい馬鹿息子...」
ソーマの後ろ姿を見届け見えなくなるまで確認した後、テレサはすぐにキアナと姫子が突入していった実験室へ急ぐ。
ウェンディの通信から聞いたもうひとつの実験室の居場所へ急行しながら道を阻んでくる警備部隊を次々と蹴散らしていく。
「邪魔だッ、どけぇ‼︎」
鬼気迫ったソーマの羅列な猛攻に周りにいた警備兵が気圧されたじろいてしまう。その隙を突いて素早く刃の付いていない峰の部位で相手に叩き込みながら気絶させ、もう片方の腕で拳銃のグリップ部分で殴り倒す。
目前の実験室らしき自動ドアを自身の崩壊エネルギーを怪力パワーに変換して利用し、全身全霊のドロップキックでドアを蹴り飛ばして破壊しながら部屋に侵入していく。
蹴破った自動ドアを押し除けて周りを見渡すとすぐそこには両腕を吊るされ身体が宙に浮いた状態のウェンディの姿とカカリアらしき人物が此方のことを見て驚いた顔でこちらを見ていた。
「なッ!お前はソーマ⁈何故ここが分かって...まさかウェンディ、アナタ拘束前に通信で居場所を漏らしたの⁈」
カカリアが確認する間もなくすぐにソーマはカカリアに肉薄し、咄嗟にカカリアが護身用の拳銃を抜くが咄嗟に手首ごと叩き落とされ、腕を背中に押さえつけるように拘束される。
「今すぐに、ウェンディの拘束を解除しろ。さもなくばお前を殺す」
「...フン、アンタみたいなガキに人を殺せるかしら?」
カカリアの挑発に対し、ソーマは躊躇いなく鉛玉で応じる。
「...くだらない挑発はいらない...要求を聞くか、否か、答えろ。警備兵は全て片付けた、アンタもこんな所で死にたくない筈だ」
「...チッ、...分かったわ」
ソーマの要求に応じてウェンディの拘束具の機能を解除する。解除を確認した後すぐにソーマはカカリアの首元を銃器のグリップ部分で殴りつけ気絶させる。
その後装置の拘束が解除され、倒れて来たウェンディを床に落とさないよう素早く抱き抱える。
「ウェンディ、ウェンディ無事かッ⁈しっかりしろ!」
「ソーマ...?...そっか...私、助かった、んだ。...ソー、マ...ゔゔぅ...ソーマ、私、怖かった、よ。...もうブローニャお姉ちゃんや、ソーマ達に会えなくなると思ったら...苦しくて...」
目を覚まして目の前でソーマの顔を見ることができたウェンディはいままで諦めていた感情がふたたび吹き返して涙と嗚咽が止まらなくなっていた。
「ああ、もう大丈夫だ。...今まで怖かっただろう、もう1人じゃない」
ソーマは泣いてるウェンディを優しく抱きしめながら優しく背中をさすってあげた。...本当に間に合って良かったとソーマは何度も心の中で噛み締め意識を切り替えた後、ウェンディをお姫様抱っこしながらすぐにこの場を去り脱出を急ぐ。
移動道中ルートを確認しながらキアナ達のいる場所へ急ぐ中、ウェンディがソーマに向かって呟く。
「...ねぇ、その、ブローニャお姉ちゃんは無事なのかな...。気絶したって聞いたから」
「それに関しては大丈夫だ。近くにテレサ学園長や姫子もいる。急いで学園に帰還すれば治療が可能だと聞いてる。ブローニャの事が心配なのは分かるが君もかなり衰弱している。まずは自分の身を心配してくれ」
「ありがとう、ソーマ。.....その...私、あなたに伝えたい事がある、の」
そう言いながら、ウェンディは頬少し赤らめながら恥ずかしそうにしていた。
「どうした?...ごめん、もしや変な所に手が触れてしまったか?もしそうなら「違うの」え?ならいったい...」
「その、あなたのこと、ソーマお兄ちゃん呼びたかったの...。私、ソーマに優しく抱きしめられた時、あなたに、お兄ちゃんのような温かい温もりとやさしさを感じちゃったの...ああもう...私ったら命の恩人に何を、考えて...」
「...ふふ、そうか兄か。いや構わない。...ブローニャも俺のことを兄の様に慕ってくれているし、今更妹分の1人や2人どうって事はないさ」
ウェンディのお願いに対し、快く快諾してくれた事に一瞬恥ずかしくなりながらも、受け入れてくれた事にウェンディはつい嬉しくなる。
「あ、ありがとう、ソーマお兄ちゃん。...えへへ、お兄ちゃん...お兄ちゃん♪...」
想像以上のウェンディの愛くるしいデレっぷりの破壊力に思わず心を撃ち抜かれたソーマは、絶対に彼女を救い幸せにしなければと、改めて強い使命感を刻み込みながら移動を続けた。
一方、テレサやソーマが戦闘で足止めとして二手に分かれた後のキアナ達側の方は、実験室で拘束されている芽衣を助けようとするが、またしてもカカリアによる通信でのマインドコントロールでブローニャが洗脳状態にされてしまうが、ブローニャの決死の反抗で自身の手で頭のバイオチップを破壊し、意識不明の状態になってしまう。その後に合流したテレサがなんとか応急処置しながら急いで学園でブローニャを治療する為に連れ帰らないといけないことを告げられる。
「芽衣先輩はまだ動けそうだけどブローニャちゃんは気絶して動けないし、ソーマはウェンディちゃんを助ける為に別行動でいないし...どうすれば」
「落ち着いてキアナ。まずはあなたと芽衣で一旦、ブローニャを引き連れて先に脱出して。その間に、私と学園長がソーマ達を探しに行くわ」
「で、でも」
「...皆んな、どうやら大丈夫そうよ、ソーマが無事にウェンディを引き連れて此方に向かっているみたいだわ。...まったく、ヒヤヒヤしたけど、やるじゃない。...まあ、無事に帰ったらお説教ね」
テレサからの報告に心配だったキアナは無事に戻ってくるのを聞いて安心するがすぐにに外部から通信がかかってきたことに意識を巻き戻される。
【...フン、やってくれたわねアナタ達。キアナだけでなく、あのソーマというガキも鬱陶しいったらありゃあしないわ。おまけに第四律者まで奪われてしまうなんて。もうこうなった以上予定が狂ったが、アナタ達まとめてここから絶対に逃がさないわ。やれ!"MSR-7 デウス"!】
イライラした言動のカカリアが声を発して呼ぶと、先程までの戦術機甲とは比べものならない程の巨大なロボットが稼動し、赤いセンサーアイを光らせながら
機体を唸らせる。
「なんなのアレ⁈デカすぎでしょ‼︎」
デウスと呼ばれた大型ロボットが拳を振りかぶりながらキアナ達にめがけて攻撃を仕掛けてくる。全員で急いで回避行動を取り反撃を開始するが、あまりにも巨大な質量の為かほとんどの攻撃が効いている様子がない。せいぜい、姫子の持つ大剣が装甲に少し傷を付けられた程度である。
「ぐっ、流石に大きすぎて攻撃が通らないからジリ貧ね!」
「私の拳銃なんて豆鉄砲同然で全然効かないんだけどッ⁈」
「無駄口叩いてる場合じゃないわよキアナ!ッ次、来るわ!みんな避けなさい!」
巨大腕部を振るっていた巨大ロボットの挙動が変わり、自身の装甲フレームが開くと一斉にミサイルと頭部パーツからレーザー弾と弾幕によるフルオープンアタックを放って来た。
「キアナちゃん危ない‼︎」
芽衣は反応が遅れたキアナを咄嗟にだき抱えながら飛び込んで間一髪で回避する。
【フフフ、思わぬアクシデントで第四律者を奪われたが、なかなか使えるじゃない♪アナタ達をなぶり殺して、そこにいる第三律者をもう一度回収させてもらうわ。じゃあね、たっぷり実験データのサンプリングをさせてちょうだい】
全員このまますり潰されるかと絶対絶命な状態に追い込まれるが、このタイミングでウェンディを抱えたソーマがようやく合流して来ていた。
「...ようやく合流出来たと思ったら何だあれ?巨大なロボット⁈」
巨大ロボットのすぐ目の前でキアナ達が苦戦している所を見つけたソーマは急いで加勢する為に安全圏な場所に置いて寝かせているブローニャのすぐ近くにウェンディを一旦置こうとするとウェンディがソーマに提案をする。
「待って、ソーマお兄ちゃん。あのまま加勢してもあの大きさじゃ攻撃が届かない。...だから、私が風の律者の力を利用して空中からあのロボットの眼を狙って攻撃しよう。...背負いながらになるけど、...お願い手伝わせて」
「それは構わないが、いいのか?」
「うん、いいの。みんなが命を張って戦っているんだから今度は私がブローニャお姉ちゃん達を助けたい!」
「...分かった。ならさっそく始めよう!」
ウェンディに首元に腕を回す様にしてもらい。空いた右手に片刃ブレードを構えてキアナ達がいる所へ急行する。
「キアナ、芽衣‼︎巨大ロボットをそちらに意識を引き寄せてくれ!その間に姫子少佐と学園長はロボットの腕を押さえてつけてくれ!俺とウェンディが奴に一撃を加えて見せる‼︎」
突然のソーマの乱入に全員が驚くも策があることを見抜き、すぐに指示通りに対応をして見せる。
「ソーマ君⁈ウェンディちゃんも無事だったのね!」
「ようやく帰って来たと思ったら、後で聞かせもらうからね、ソーマ‼︎」
「全く無茶をいうわね!時間を稼ぐからしっかり成功させなさい!」
「バカソーマ!ヘマをやらかすんじゃないわよ⁈」
相手の腕を大剣で押さえつけた姫子の側を横切りロボットの巨大腕に飛び乗りながら素早くロボットの突起部分に飛び移り空中ジャンプをする。すると、腕に抱えたウェンディが風の権能の力を利用しソーマごと空中に飛ばせながら、ソーマの手持ちの片手剣に風の螺旋を纏わせ、破壊力を高めさせる。
「ウェンディ決めるぞ、準備はいいか?」
「うん!大丈夫、ここで終わらせようソーマお兄ちゃん‼︎」
準備完了と共にソーマは剣を突き出すように巨大ロボットの頭部に目掛けて空中から突撃していく。
「貫けええええぇぇッッッー!!!!!!」
螺旋状の風を纏った剣先がロボットの頭部に当たり、装甲フレームを抉り取るように削れていき渦巻き状の螺旋の風穴が大きく出来上がる。その衝撃で施設にまでダメージが届き、連鎖的にロボットと共に爆破し始める。
【おのれぇ...、またお前たちか!!!】
外部通信からカカリアの怒りの悪態をつく怒号が聞こえて来るのが分かり、撃破したことを確認した一同は、ブローニャを抱えながらすぐに崩壊を始めるME社からの脱出を開始する。ソーマとウェンディの方も、遅れて空中を飛びながら脱出ゲートに向かう。
「...ねぇ、ソーマお兄ちゃん」
「うん?どうした、ウェンディ?」
「私、学園に行ってみんなと仲良くなれるかな...?」
「大丈夫だウェンディ、お前はさっきまで俺たちに力を貸してくれたんだ。充分に恩に報いてくれたよ。だから帰ったら学園の皆んなにしっかり紹介させてくれ、俺たちと共に戦った誇れる仲間だと」
「ありがとう、ソーマお兄ちゃん。...ちょっと恥ずかしいけど皆んなに会うのを楽しみだなぁ」
「ああぜひ楽しみにしててくれ、何せ皆んな愉快な人達だから」
飛び去って行く2人の姿はお互い似ていないにも関わらずまるで本当の兄妹のように微笑ましく見えた。