飛ぶ理由を探した者   作:Jr.404

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 オリジナル設定の為投稿に時間がかかりました。主人公の過去視点の話を入れてる為、本編とは少し事なる話になります。


六話「忌々しい過去そして...」

 デザイアジェムの回収騒動が終わり、その過程でウェンディが保護され体内に埋め込まれたデザイアジェムの摘出を学園の専用治療室で行い、無事摘出に成功したウェンディはその後、しばらくの間は療養生活を送る事になった。

 一方、攫われた芽衣を助ける為にブローニャは自身を操っている元凶である脳内のバイオチップを破壊した影響で昏睡状態に陥った。ブローニャは今尚まだ目覚めてはおらず、彼女の脳の損傷を治療する為にテレサは天命組織のバイオ技術を求め、聖フレイア学園中央教会の地下で目的のデータベースを調べていた。

 

 

 

 

ー聖フレイア学園の病室ー

 病室の前では今もなおブローニャの脳内外科治療が行われており、なかなか容態が良くならない状態が続いていた。

 

「ねぇ、芽衣先輩。...ブローニャちゃんは大丈夫なのかな」

 

「分からないわ。でも学園長がブローニャちゃんを助ける為に治療法を探すことに奔走しているから今は待つしかないわ」

 

 二人が治療部屋の前で治療中のベッドに寝かされて呼吸器をつけられてるブローニャの姿を心配そうに眺めていると、廊下の向こうからソーマがやってくるのを確認した。

 

「あ、ソーマ。...その、ウェンディちゃんの方はどうだった?」

 

「二人とも朗報だ、手術は無事成功したよ。今は療養中でなんとか山場は乗り越えられたみたいだ」

 

 ソーマからの明るい報告で二人は心の底から安心し喜んだ。あれだけの苦労をかけて救い出したんだからこれで助けられず失敗しました、なんて事になるのはたまったものじゃない。これでようやくウェンディの問題は解決された。

 

「あとは...ブローニャだけだな。やっぱりウチの学園の医療技術でもかなり厳しいか」

 

「...ええ、そうみたい。さっきキアナちゃんにも言ったけど学園長がなんとか天命組織経由で治療法を模索してる真っ最中なの」

 

「...なあ、今テレサはどこにいるんだ?。妹分のブローニャを助ける為に少しくらいはせめて助けになりたい」

 

「あっ、私も手伝いたい!」

 

 ソーマからの要望で学園長を手助けして早くブローニャの為に治療法を発見したいと言う提案にキアナも賛同する。

 

「え〜と...確か、学園の中央教会に向かうっていってたわ。だけど二人とも、学園長の邪魔をしてしまうような事はないようにするのよ?」

 

「そこは大丈夫だ。キアナはともかく、昔からテレサの手伝いを何度かした事があるから下手な事はしないさ」

 

「むッ、私のことは一言余計よ!とりあえず急ぐよソーマ!」

 

「はいはい分かったからあまり急かすな。...それじゃあ芽衣、また後で!」

 

 先走っていくキアナを追いかけていくソーマを見送ったあと芽衣は再びブローニャの方に目線を向ける。今はただテレサ達が情報を持って来てくれる事を祈るだけであった。

 

「ブローニャちゃん...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー聖フレイア学園中央教会地下ー

 

「なあ、本当にこんな所で学園長を見つけたのか?」

 

「さっきテレサがちょうど隠し部屋みたいなのに入っていく瞬間を見たんだもん、間違いないってば」

 

 テレサの手伝いをする為に彼女がいる場所へ向かっていたがそこで学園の中央教会にまさかの地下道があった事を発見し、その中へ移動していったテレサの後ろ姿を偶然見つけた事で跡をついていく為にふたりで地下室へ降りていくことになった。

 

「それにしても、まさか学園の中央教会の下にこんな隠し部屋があったなんて...。まるで秘密結社の施設みたいだな」

 

「...あッ!ソーマ見てテレサがいたよ!...う〜んテレサってば何してんだろ?」

 

 部屋の入り口の向こう側で何やら画面コンソールを動かして何かを探している様子のテレサの後ろ姿が見えた。樹木の枝のような模様とエンブレムマークが付いた巨大な門のような装置があり、そしてテレサが何かを作動させたのか、データベースらしき装置から室内に何かをアナウンスするかのような響き渡る機械音声が聞こえてきた。

 

 

【...システム、バーチャル空間構築完了...設定時間2000年2月7日午後3時...場所シベリア区域バビロン実験室...】

 

 何やら嫌な予感を感じ来てきたソーマがすぐに追跡をやめてキアナを呼び止めようとするが、すでに事が進行していた状況だった為か間に合わなかった。

 

「キアナ、何かまずい。すぐにここから...って間に合わなかったかッ」

 

 キアナがひと足先にバーチャル空間に飲み込まれた後、遅れるようにソーマ自身もデータベースのバーチャル空間に巻き込まれてしまう。

 

 

 

【...対象者"ソーマ・アストラ"の生体認証を確認、年代設定を変更...時間2004年12月5日午後2時...場所元ムー大陸海上人工都市島ヴェーダ研究機関所...】

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーチャル空間が起動してしまい眩しい光に照らされた後、ようやく光が治まったことでようやく目を開くと、変わり果てた風景空間が広がっていた。

 

「...ホントに、どこなんだここ...」

 

 よく分からないバーチャル空間に転送され、気がついたら全く見覚えのない人工都市のような街並みの風景が広がっていることに困惑してしまう。周りの風景や街並みの変化に戸惑いながらも周りを確認するため、仮想空間内の都市の中を散策していく。

 数時間もかかって周りを確認しながらソーマはある程度この人工都市の全貌を多少ではあるが把握出来るようになった。

 周りを散策しているうちにいくつか分かった事はここは小さな島々を拡張するように建てられた巨大な海上都市エリアであり、そしてその中を進めば進むほど街並みが廃坑した場所が増えていき、まるで以前ここで大規模な戦闘か兵器実験でも行なわれた後かのような広大な爆心地のクレーターがいくつも残っていた。

 

「ここって、まさか...」

 

 崖上から人工都市の全貌を見渡せる場所から見たその景色は彼の記憶に眠っていた過去に経験した忘れもしない、かつて幼少期に一時期過ごしていた当時の研究施設そのものであった。

 昔、崩壊による大規模な災害によって家族を失い、まだ赤子に等しい状態だったソーマは孤児院の元に預けられたがしばらくして引取人が現れ、ソーマを含め、何人かの孤児院の子供達と共に引き取られる事になった。...元はと言えば、この引取人達が例の実験体になる為の素体集めによる裏取引だったことが引き取られた後になってようやく気付かされたのは今でもなお記憶にもしっかりとトラウマとして刻まれている。

 

「...よりによって、こんな忌々しい過去を再現してくるなんて...ほんと、趣味が悪いッ...!」

 

 ああ...、よく覚えているとも...あの場所で当時の自分達はまるでモルモットのように体をいじくり回され、命を削るような実験をいくつも行われて何人死んだことか...。

 確か...崩壊の力を利用して崩壊という毒を克服した、崩壊適合体の人類種を生み出す為の計画...とかだったはず。だかどうにも腑に落ちない...そもそも崩壊を克服するだけならここまでの秘匿性を高めた研究実験をする理由があまりにも謎すぎるからだ。

 完全とは程遠いが戦乙女や崩壊戦士等と言った存在がある程度崩壊に耐性をもてるようになった成功例の一つだ。

 ならば実は本命はそこではないとか?...やはり何か危険な事を研究しているに違いないとしか考えられない。今再現されているこのバーチャル空間ならば"記憶処理"された影響で分からなかった研究実験の内容の正体が分かるかもしれない。

 自身の欠けている過去の記憶の正体を知る為、ソーマは当時の自分が過ごしていたとされる研究施設への潜入を始めることにした。記憶を無くしているとはいえ、自身の体が本能的に覚えているのか感覚的にここにいたと分かる場所を感覚頼りで特定しながら施設内を探索していくと施設内の実験室らしき部屋から何者からの話声が徐々に聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「...コイツが、新たな候補の素体か?」

 

「ええ、どうやら第二次崩壊によって溢れ出した崩壊生物による2次被害で故郷を失った身元不明の孤児です。崩壊濃度のかなり高い地域で保護されたにも関わらず、健康体であるというのだから驚きですよ」

 

「なるほど...実に分かりやすい程にありふれた悲劇の孤児か。まあ、もとより崩壊エネルギーを浴び続けて長生きできた人間なんて今まで存在しなかったからな。もしかすると、この手術に成功すれば今回の研究成果が進歩するかもしれんな」

 

「まぁ、生きていれば、ですが...」

 

「そういう事だ。...では始めよう」

 

 二人の研究員が会話を終えた後に手術を始める様子を眺めていたが、あまりの生々しい手術光景に見続けるのが苦しくなり、目線を逸らす。自分の目が確かなら明らかにそこにいる素体と呼ばれた孤児がどう見ても自分自身に瓜二つに見えていた。...そうか、もうすでに自分は体を解剖された後だったのか。

 まさか自分の体がここまで弄られているとは思わなかった光景に軽くショックを覚え、込み上げてくる吐き気を必死に抑える。冷や汗が止まらず、早まってくる呼吸を落ち着かせようとするがショックが強すぎて中々に正気を保てないでいた。体を疼くませて耳を必死塞いで今起きている光景から発する映像と音を遮断しようとするが、何かが身体を犯してくるあの不快感が治ってくれず苦しみが続く。

 

(...クソ...クソッ、チクショウ...!)

 

 よりにもよって、自分自身を解剖されている解体ショーの光景を仮想空間で見せつけてくるなんて...分かってはいたがいざその光景を見せつけられていると先程メスで胸元を切り開く所の場面がフラッシュバックして自身の胸元から存在しないはずの痛みと中身を掻き回されている感触を感じてしまう。

 あまりもの気持ち悪さと苦しみ、恐怖にこれ以上ここに留まっていたら自分の気が狂ってしまうことを理解したソーマはすぐにこの場を離れようとするが、バーチャル空間を再現した時に聞こえてきた機械音声の声が聞こえてくる。

 

 

ー時間2004年4月4日午前10時頃に加速ー

 

 

 音声から聞こえる時間の変更になんとかこの地獄から解放される事を祈って再現空間が変わるのを待つ。

 すると、次に見えたのは見るからに怪しい注射器を研究員が複数の子供たちに注入する様子が施設の廊下の窓から見える光景の場面だった。暴れ苦しんでいる子供が何人かおり、拘束装置に押さえつけられながら研究員が子供の腕元に注射器を打ち込んでおり、例の子は何やら過去に見覚えがあった子だった。

 連れてこられる前までは元気でヤンチャな女の子だったが、注射器を打ち込まれてから先ほどの暴れっぷりが嘘のように静かになる。そしてしばらくすると体中に崩壊に侵食されたときのような特有の赤い血管模様が出たかと思えば、身体中が白く変色しゾンビ化した。

 隣にいる子は孤児院にいた内気な男の子であり、よく泣き虫だった子だ。その彼も、打ち込まれた後だったのかグッタリとしており、しばらくすると身体が変質していき、崩壊獣のような体付きに変質したかと思えば激しく暴れ出し、拘束装置を食い破ろうともがいていた。すると近くにいた兵士らしき人間達に銃器で撃たれ、その後身体が崩壊したように溶けて蒸発していった。

 よく見ると、近くに後4、5台分の同じ形をした拘束装置があるのが見えた。そこには患者が着る白い服だけを残して何もない状態になっているものや、謎の液体が周りにに広がった状態のものもあった。

 あまりにも恐ろしい非人道的な光景とかつての弟妹達が実験でバタバタと死んでいく光景に精神が締め付けられ恐怖と悲観に苦しむが、隣の廊下から歩いてくる足音に気づき、仮想空間で自身や相手かお互い認識出来るわけでもないのにも関わらず、思わず本能的に咄嗟に隠れてしまう。

 

「...どうやら、どれも失敗のようだな」

 

 自分が隠れている廊下の角側の窓際のすぐ隣にいかにも身分の高そうな人物が秘書らしき人間を引き連れて窓際から実験の様子を眺めながら呟いていた。

 

「はい、実験体の"504"から"511"までどの個体も崩壊形成液に耐えられなかったようです」

 

「一人だけ、原型を保っているようだがあれは...?」

 

「あちらは...実験体"510"の事ですね。なんとか形は保てているようですが、意識体が完全に死んでしまっているので失敗作です。不完全な"なり損ない"ですね」

 

「もう残りの一体しかいないみたいだが大丈夫なんだろうな?」

 

「はい、いままでの個体は皆失敗してしまいましたが、最後の実験体"512"はかなりのものです。今までの実験ステージをすべてクリアし、完全な崩壊への適合と蓄積を可能にしています。..."512"ならば我々の最終目標である"人工的な進化する律者"の完成体を生み出せる実験計画も成功の目処が立つかもしれません」

 

 会話の中から聞こえてきた【律者】という言葉を聞いたソーマはその会話内容に対して疑問を感じる。

 わざわざ自分達の手で律者を生み出すとはいえ、大体の律者は人格を上書きされて自我を失うと今まで学園でもそう教えられてきた。保護されたウェンディですら自我を狂わされて暴れ出したくらいだ、一歩間違えれば律者化した者が暴走してこの施設どころかこの島ごと崩壊で消し飛ばされるリスクもあるというにも関わらずにだ。

 ソーマが疑問を抱いて考えていると予定時間が経過したのかまた聞き慣れた機械音声が響き渡りだす。

 

 

ー時間2005年11月10日午後8時に加速ー

 

 

 ふたたび、時間が大幅に加速すると今度はかなり広い空間の施設が現れ、薄暗い空間施設のど真ん中に当時幼い姿の頃のソーマ自身がその場にいるのが確認できた。

 

【では、これより実験を開始する。...状況開始せよッ】

 

 施設からのアナウンスが終わるとともに広い空間施設から崩壊獣やゾンビが現れ、真ん中に立っている幼少期のソーマに近づいてくる。すると幼いソーマがゆっくりと顔を上げながら目を見開くと空中に浮き出す。よく見ると彼の目には以前芽衣が雷の律者の力を解放した時に見かけたことがあったバツ印状の金色の瞳の模様によく似た瞳になっており、彼の周りから未知の成分でできた結晶体の浮遊物とエネルギー体が形成され、近づいてきた崩壊生物達を一瞬にして謎のエネルギー体のレーザーで薙ぎ払う。

 近づいてきた崩壊獣達が蒸発するかのように次々と消えていきレーザーを薙ぎ払った後、今度は両手で禍々しい槍状の武器を形成していき、飛びながら周りの崩壊獣を斬り倒していく。その姿はあまりにも圧倒的であり、まるで大型動物が小さな虫たちを踏みつぶしついくような光景にも見えた。

 ...まさかこれがあの研究者が言っていた人工的な律者の力の事なのか...。

 

「...素晴らしいッ...まさに神である戦神のような戦いぶりだ。もはや完成の目処がたったようなものだッ!」

 

「ええ、まさに"戦の律者"にふさわしい戦いぶりです。...やはり思った通り律者という絶対強者の前だと崩壊獣共も戦意を失い、近づきはしても攻撃はしないようですね。...これは律者に対するなんらかの敵対意思の消失か...あるいは同族意識か...」

 

「もうそんな考察はどうでもいいッ!この素晴らしき成功例を元にクローンや512からの血液でより複数体の律者の量産化が可能だ。これで天命や、ネゲントロピーの奴らを出し抜けるぞ!。やはり旧文明の技術は使えるな...我々の計画の前進がまたまた一歩進んだぞ」

 

 研究者達の喜びの会話と先程の戦闘実験の一部始終を見ていたソーマはようやく自分自身の過去の正体を知ることになった。なんとも皮肉な話だ...あそこにいる512と呼ばれた子供は紛れもなく自分自身であり、まさか自分が人類の天敵である律者に仕立て上げられていたとは...その為に自分を含め、沢山の子供達や弟妹達が犠牲になったというのか。崩壊に打ち勝つ為とはいえ、ここまでしなければならない事なのかともはや何が正しく何が悪いのか分からなくなってきた時、研究施設から緊急アナウンスが入る。

 

【緊急事態発生!外部からによる研究施設への何者かの侵入を確認!作業員はただちに施設を閉鎖、兵士は大至急迎撃を開始してください!】

 

 突然の緊急アナウンスから研究者達は慌てて資料の持ち運びを開始し、実験を直ちに中止して実験体512の回収を始めようとする。

 

「ッ、ネゲントロピーか⁈それとも天命か⁈状況を教えろ!」

 

『どうやら戦乙女らしき人間が何人か潜入している姿を監視カメラにて確認できたようです!』

 

 研究者の通信端末から戦乙女が複数人侵入してきたという報告をその場で聞き取ったソーマは自分の記憶からもう一度過去にあった出来事を思い出そうとする。

 ...確か自分は学園の組織に救い出されたという記憶があったはずである。ただ、残念ながら助けてくれた相手が誰なのかという記憶までは思い出す事は出来なかった。

 ソーマの考え事とはよそに、バーチャル空間で再現された研究施設での騒動が続き、ついに侵入者がこの研究施設のエリアを突き破って搬入口ゲートが破壊される。

 そこから現れたのは戦乙女の部隊...ではなく、ましてや姫子やテレサでも無かった。

 そこに現れたのは長身の金髪の長髪を結んだ髪型をした道化のようなデザインの仮面を身につけた得体の知れない男性だった。男は自身の服周りの汚れを振り払う様な動作をした後、研究員の元へ歩きながら顔に身につけている仮面を取り外し、研究員と対面する。

 

「手荒な登場ですまないね。ん?おやおや...これはこれは、ヴェーダ機関の主任殿ではないか。随分と面白そうなことをしているね。仲間外れは良くないなぁ、ボクも仲間に入れてくれないかい?」

 

 愉快な声で男が発した研究員の主任と呼ばれた人物に対して仲の良さそうな旧友感覚で声をかけてくる金髪の男に対し、主任は警戒しながらも睨むように忌々しげに反論をかざす。

 

「...天命のアポカリプスの怪物め、ここまでやってくるとは随分と我々の開発した芸術品に強い興味をお持ちかね?自分のところだけでは飽き足らず、他者からのものまで求めて来るとは...なんと末恐ろしい強欲な怪物だ。...過ぎた欲望はいずれ自身の身を滅ぼすことになるぞ」

 

 主任からの煽りと皮肉をぶつけられたのに対し、何とも思ってないかのようなどこ吹く風な表情でおちゃらけたように金髪の男は受け流す。

 

「ハハハッ、改めて聞かされると何ともひどい言われようだ。ボクはただ必要だから求めるものを欲しただけさ。自分が求めるものを実現する為にも君達のユニークな芸術品を少し借りたいだけなのさ。少し取引をしようじゃないか」

 

 彼らの会話の現場を眺めていたソーマは侵入してきた謎の男の姿に何か既視感を感じた。

 あの男、どこかで見覚えが...と思い出そうとするが、何故か頭から強い頭痛と拒絶反応が現れそれどころではなかった。頭から不可解な異常な痛みを感じながらやはり自分の記憶から欠落したものの正体があの男に関係してるのではないのかと感じ取った。こちらが観察しているのをよそに二人は交渉取引の会話を続いていく。

 

「ボクからの提案は君達が開発しているその芸術品とやらの"実験体512"をうちの所で利用させてもらうことだ。代わりにの見返りとして天命組織にある対崩壊技術と君達がまだ持っていない律者に対する制作研究のデータを提供しよう」

 

「いや、まだダメだ。コイツは我々が長い時間をかけて見つけた最高の一級品だ。かけた時間とそちらが提供するものが釣り合うとは思えん」

 

「うーん参ったな、これでも今まで現れきた系列順の律者の力を継承出来る程の代物だけどねえ」

 

「だとしてもだ、貴様に512を渡せば結局はその力を継承させる為の素体が無くなるではないか。また自分達で一から作れとでもいうのかね?。ともかく...貴様らに渡すものは何一つない、ご退場願おうか」

 

 交渉をしていた間に主任側はいつの間にか機甲部隊と人間の兵士群を周りに配置させており、例の金髪の男はすでに包囲されていた。

 

「貴様には護衛の戦乙女部隊がいるようだがいくら合流できたとて、この包囲網から逃れられまい。いくら貴様が怪物だろうと多勢に無勢とも言える状態だ。

一人だけで先行するとは、実に馬鹿な男よ」

 

「う〜ん、つまり、交渉は決裂ってことかな主任殿?」

 

「ほざけっ、元より貴様と交渉する気などないわ。そもそも貴様のやり口が気に入らんから我々は貴様の元を脱退したのだ」

 

「そうかそうか、なら仕方ないね。...まぁ、もとよりその方がボクとしても都合がいいからね」

 

「?...何を企んでいるかは知らんが総員、奴を仕留めろ!」

 

 主任の合図と共に周りの部隊が発泡を開始する。激しい銃撃にとどめとばかりの戦術機甲によるミサイルをお見舞いされるが、爆炎の煙から見えてきたのはまったく無傷な金髪の男の姿だった。

 あまりの不気味さに慌てて再度攻撃の合図を送るが気がつくと男の姿がその場で消え、いつの間にか手に装備した黄金色をした巨大な十字架の武器で、包囲部隊をまとめて叩き飛ばした。その後はただ一方的な蹂躙だけが続き、黄金色をした十字架から様々な武器へと形を変えながらそれらの得物で周りの敵を叩きのめしていき、最後には主任ただひとりだけになっていた。

 

「ッ⁈ば、化け物め。そんなにして我々から大事な物を奪い去りたいかッ‼︎」

 

「奪い去る?何を言ってるんだい君は。君達のいう大事な物っていうのは自分達のエゴによって生み出したただの欲望を満たすだけのおもちゃじゃないか」

 

「だ、黙れ!貴様には我らの悲願がどれほどのものかを知らないのだ!我らの計画はただ意味もなく律者を生み出したのではない!新たなる新人類への進化を促すプロトタイプにする為の"崩壊同化計画"なのだ‼︎それを、貴様なぞに...」

 

 

 

 

 

 

 パンッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 軽い銃声と共にセリフを言い終わる前の主任の眉間から銃弾が打ち込まれ、沈黙しながら糸の切れた人形のように体勢を崩し倒れ伏せる。よく見れば男の手には銃声の元凶である黄金色の拳銃が握られており、銃口には煙が立っていた。

 

「...それ以上は必要ないよ、もうその計画はすでに把握済みだ。その穴だらけの計画は無駄でしかない...それをやめずに妄信的に実行しようとしたから君はボクに撃たれたのさ。...計画は論外だが君の研究と技術力は素晴らしいものだ、だから君の成果物はボクが有効利用しよう...静かに眠るといい友よ」

 

 男は静かに骸になった主任に対し黙祷を捧げると512がいる場所へ振り向き、彼の元に近づきながら対面する。

 

「やあ、幼き512、君をここから連れ出しにきたよ。ボクといっしょに来てくれるかい?」

 

 男は例の512に声をかけるが本人は自分で話せないのかどう答えたらいいのか分からないような仕草をして怯えたように警戒しながら男を見つめていた。

 

「おっといけない、自己紹介がまだだったね。ボクは天命組織現大主教のリーダーである"オットー・アポカリプス"だ。...君は見た感じまともに会話をする教養すら学ばせてもらえてないようだね。まったくひどい事だ、最低限の教育すらしてもらえないなんて。...まぁ、今まで悪逆の限りを尽くした道化の自分が言えた話ではないか...」

 

「あ、なた...敵...?ちがう...?」

 

「おや、一応話は通じるのかい?...ああそうだよ、敵じゃないさ...今はだけど...」

 

「⁇」

 

「大丈夫さ、君をここから連れ出してこことは違う真っ当な人間らしい生活を送れるように保証するよ、約束する」

 

 512を保護したあとオットーは彼を抱き抱え、作戦行動中の戦乙女部隊に作戦終了の合図を送り、施設から出ていく準備を始める。

 男の自己紹介で出てきた"オットー・アポカリプス"という名を聞いたソーマは想定外な人物が出てきた事に驚き困惑するも、何故彼が当時の自分を連れ出しにきたのか疑問に包まれた。

 何故何も接点のないはずである過去の自分と大主教であるオットーがわざわざ直々に施設から救出しにきたのか、何故自分の記憶に彼の姿や対面した時のその後の出来事についての記憶すらないのか...。

 考え事をしているうちにオットーが施設から出ていくところを見て慌て跡をつけていくが再びバーチャル空間からの機械音声が流れ出す。

 

ー外部からのアクセスにより本バーチャル空間での再現を一時中断...再現を終了ー

 

 突然のバーチャル空間の再現終了のアナウンスにまだこれからあの男の目的や自身の記憶の欠落の正体の先を知る絶好のチャンスなのにと悔やんでいると、周りの空間が崩れて消滅し、白い煙に包まれ、吸い込んでしまった煙に思わず咳き込みしながらその場で意識を失ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ...マ...ソーマ!ソーマ!しっかりして!...目を覚ましなさい!」

 

 幼い少女の様な声に名前を叫ばれ起こされるとそこには学園長であるテレサが自分の肩を左右に揺さぶりながら起こそうとしていた。

 

「...あれ?...テレサ、どうしてここに?まだバーチャル空間の中か?」

 

「何寝ぼけたことを言ってるの⁈とにかくここから離れるわよッ!」

 

 テレサに起こされてようやく意識を戻したソーマはふらついた足で立ち上がりながらさっきまでの状況を思い出す。確か...キアナと共にテレサの跡をつけて施設に入って...そうだ、キアナは?いっしょにバーチャル空間に巻き込まれて...。

 思い出したソーマは、テレサにキアナのことを確認する。

 

「...キアナは私が見つけて連れ出そうとした時にフカが襲撃してきたのよ。そのままキアナを担いですぐに逃げられたわ...不覚ね。なぜアンタ達がこんな所に迷い込んでいるのか知らないけど後で問い詰めさせてもらうからね!早くここから離れるわよ!」

 

「???。キアナが...フカに攫われた?」

 

 バーチャル空間から目を覚ました後に起こった想定外な事に加え、想定外な人攫いの真犯人に頭の中が呆然としてしまう。




本作のオリジナル設定

・元ムー大陸海上人工都市島

 本作のオリジナルの人工都市島。正史では五万年前に起こった崩壊との戦争で岩の律者によってムー大陸のほぼ全てを海底に沈没させられるがこちらでは運良く一部の大陸が割れた影響で大陸の一割程度だけが残った。
 現在では海上都市として復興しているが、かつて律者による攻撃での影響で現在も電波障害が多く、崩壊エネルギーの残留等で被曝の危険性が高い地域な為、一部の勢力が隠れ蓑として本島を拠点に極秘に人工的な律者を開発する研究を行っていた。


・ヴェーダ機関

 元は天命組織やネゲントロピーから流れ出た者達によって設立した独立機関。どちらの陣営にも考えや反りが合わずに脱退した元研究員が旧文明からかき集めた資料を元に計画を打ち立て天命やネゲントロピーよりも一歩先に崩壊に打ち勝ちまたは自分達が世界を牛耳る存在になる事を目標に人工的に律者を開発する計画を組み立ていた。


・崩壊同化計画

 ヴェーダ機関によって密かに進行されていた計画。旧文明から探し出した崩壊に打ち勝つ為の計画プランのひとつであり、人類そのものを人工的に律者化させる為に適合できる人間を選別、適応した耐性のある人間の種の遺伝子を元に新人類を新たに増やす事で崩壊から敵として認定されずに崩壊の力を取り入れた新人類が崩壊をコントロールまたはより上位の存在として支配できる状態を目指す為のもので、つまりは崩壊と現人類の同化である。
 ただし、選別の為に大多数の人間を犠牲にしなくてはならず、選定から外れた人間は死ぬしかないという末期状態であり、人工的に律者化した人類種も所詮は終焉の律者のレベルにまで到達できるとは限らず、下手をすれば逆に意識を奪い取られ、コントロールの権限が逆転しかねないリスクがある。そもそも律者化した人類が果たして本当に人間と呼べる存在なのかとテセウスの船状態に陥っているので人類が存続しているとは言い難く、ほぼ人間の形をした崩壊に乗っ取られている様なものである。何より計画内容が聖痕計画に被っている為必要性が薄れ、オットーの手によって物理的に計画を潰された。
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