飛ぶ理由を探した者   作:Jr.404

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 ついにキアナが空の律者に覚醒し、暴れ出します。


七話「空の女王降臨と反逆する者」◇

 どこかの研究施設にて水槽装置の中にひとりの白髪の少女が中で漂いながら眠りについていた。そしてその水槽を一人で静かに眺めている怪しげな金髪の男性が眺めるように少女のいる水槽装置の前に観察するように立っていた。

 

「フフフ...久しぶりだね。...そしておかえり..."K423"」

 

 まるで長らくこの時を待っていたかのように親しげに呟く彼の名は"オットー・アポカリプス"。

 水槽の中で眠らされてる"K423"と呼ばれた少女、もといキアナを天命本部に攫うように指示した真の黒幕であった。彼が施設の画面モニターを眺めると観察していたとある観察対象であった生物の動きに変化が見られることを確認する。

 

「...ん?おや、女王様を守りにきたのかい?これはこれは...面白いことになりそうだ。...さぁ、世界の変革を迎える時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー学園側輸送艦ヘリオン号にてー

 

 輸送艦ヘリオン号の甲板上にて姫子又はテレサが率いる部隊が先日攫われたキアナの救出の為に天命本部へ向けての進行を開始していたが、天命側が意図的に用意してきた崩壊獣の群れに苦戦を強いられる。

 

「此方、無量塔姫子、崩壊獣を仕留めた。けどまた新たな敵が現れたわ!...厄介ね」

 

 キリのない敵の増援に姫子が悪態をついていると外部から砲撃が飛んでくる。空を見上げると上空から自身がよく知る頼もしい味方の戦艦が近づいてくるのが確認できた。

 

「...まったくやっときたわね、ハイペリオン号」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー天命本部への突入作戦の数時間前ー

 

 学園ではキアナが攫われたという騒動に関係者は慌ただしさが走り、急遽キアナを攫ったフカと、逃亡先である天命本部に向けての救出を目的にした突入作戦をテレサ主導の元で組み立てられていた。

 

「突然な緊急任務で悪いけど悪い知らせよ、キアナが攫われたわ。彼女の救出の為、今回の作戦にはネゲントロピーと共同作戦を取ることになるわ。...前の任務でネゲントロピーに対して悪い心象はあると思うところは分かるけど、ネゲントロピーも決して一枚岩ではないわ。詳しい作戦内容は出発後にまた教えるわ。以上、持ち場に戻って」

 

 テレサ学園長による作戦内容の情報共有の後、全員それぞれの持ち場に離れる。持ち場を移動している最中にテレサに対し、ソーマは迷いを帯びた声でテレサ本人を呼び止める。

 

「テレ...学園長、その...少し話をしたいことがあるんだ、構わないか?」

 

「ソーマ...?えぇ、構わないわ、少し移動しましょ」

 

 一旦人気のない二人で話せる静かな場所に移動した後、ソーマは不満に駆られながらも自身がキアナが攫われる前に体験したとされる仮想空間についての事について話す。

 

「...その、仮想空間の中で知ってしまったんだ。自分の正体が...人為的に作られた"律者"である事を。...そして自分が天命大主教であるオットー・アポカリプスに保護されたって事も。...正直、色々な事がありすぎて混乱してる、オマケに仮想空間に意識を囚われてる間にキアナが攫われた。元はと言えば俺がテレサの手助けをしようなんて傲慢な事を提案しなければ「落ち着きなさいソーマ」テレサ...」

 

 不安と心配と罪悪感などで感情がぐちゃぐちゃになり、押しつぶされそうになっているソーマをテレサは我が子をあやすように肩に触れながら優しくなだめる。

 

「...大丈夫よ、落ち着いて。とりあえず貴方の話した内容について軽く答えるわ。...まず貴方が律者なのかについては間違いなくYESよ。でも貴方は芽衣やヴェンティの時と違ってすごく安定しているの、不思議なくらいにね。だから暴走の危険性はほぼないと言っていい。...次に大主教、私のお祖父様のことだけど私も詳しい事はよく分かってないわ。ただ、お祖父様に貴方の事を面倒を見るように言われた事は確かよ。ちょうど貴方がフレイア学園に入学するよりも昔くらいにね。そして最後のことだけど、別に貴方は全然悪くないわ。...むしろ息子として面倒を見ていた貴方が私の為に手伝おうとしてくれていた事自体に本当に嬉しかったわよ。そもそも道中でキアナが攫われる事自体がイレギュラーだし、こんなの予想しろだなんて無茶よ」

 

「テレサ...ありがとう、励ましてくれて。けどこれは自分の責任だ。だからこの作戦の為にもキアナを救い出さなきゃいけない」

 

「救い出すのは同感だけど、貴方だけの責任じゃないわ、みんなで助けに行くの。悪いけど芽衣達にも声をかけてあげてくれるかしら?多分あの子達も動揺しているだろうから。...詳しい過去話はこの作戦が終わってからゆっくり話しましょ」

 

「分かった...芽衣達のところに行ってくる。...本当にありがとうテレサ、それじゃ」

 

 ソーマを見送った後テレサはさっそく自分の仕事に取り掛かる。相変わらず、やる事が山積みなうえにこんな騒動が起こるとは。養子息子であるソーマですら、今回の件で自身の真実を目にしてしまって精神的に追い込まれるほどにまいっている有様だ。

 ただその前に...この騒動の主犯格だと思われるお祖父様...大主教オットー・アポカリプスを問い詰める必要がありそうだとテレサは黒幕と予想できる男に悪態をつく。

 

 

 

 

 

 

ー芽衣視点ー

 

 学園長からの突然の徴収指令に驚きつつも内容を確認するとキアナちゃんが攫われたという衝撃的な内容とその為の奪還作戦を指示され学園内が慌ただしくなった。

 ブローニャちゃんの治療が終わったばかりだというのに...本当に心が休まらない。

 その後に私の元に尋ねてきたソーマ君から、事の内容と自分の不注意と傲慢でキアナちゃんを危険に晒したと悔やんでいたが、私は別に攻めようとは思えなかった。

 むしろ、彼だけでも攫われずに無事で助かっただけでも本当に安心した。こんな予想外な事態に責められるわけがない。

 ただ、今回キアナちゃんを攫った相手がよりによってフカ委員長であり、その彼女が天命本部からの指示を受けている可能性が高いという情報が私の頭を悩ませた。

 ここの所、私は雷の律者の力を宿しているにも関わらず、うまく扱えてないだけでなく戦いにすら満足に立ち回れずにキアナちゃんやソーマ君に助けられてばかりだと気付かされた。

 ウェンディちゃんの救出の時だって、助けるどころか逆に攫われ、おまけにブローニャちゃんは私を助ける為に自分の頭にあるバイオチップを破壊してまで命懸けで助けてくれた。これじゃ私はただのみんなの足を引っ張っているだけの存在ではないか。

 キアナちゃんが攫われたのだってソーマ君の落ち度じゃない。...あの時、私も同行するなりすればまた事態はマシな方向になってたかもしれない。

 

 ...私は今までの頼りない自分の行動を思い改め、ソーマ君とブローニャちゃんと話を済ませた後、姫子少佐に自身の胸元に埋め込まれている爆弾を解除する為に爆弾の除去を求める。

 元々はこの胸元に埋め込まれる爆弾は万が一私が雷の律者の力を制御出来ずに暴走し、主導権を奪われた時のための最悪を想定した自爆装置であり、リミッター的なものでもあった。

 しかし今はそんな事を言い訳するつもりはない、爆弾を埋め込んだのだって弱い自分がまともに律者の力をコントロールできないのが原因なのだから...。だからこそ私は今度こそ自分の律者の力を今度こそ制御する為に装置の除去を求める。

 ブローニャちゃんや何よりもキアナちゃんと同じように私を助けてくれたソーマ君の為にも私は自分の力でキアナちゃんを助けることを絶対に誓う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー天命空港エリアー

 

 作戦時刻になり、救出作戦内容通りに学園組とネゲントロピーによる異色の混同部隊で二手に別れながら天命本部に向かうことになる。

 その道中で厄介な迎撃部隊と増援に見舞われたがどうにかして合流に成功し、ネゲントロピー側のテスラ博士とアインシュタイン博士の支援により機甲部隊を展開させて天命空港エリアの制圧を敢行する。

 第三空港エリアを制圧した後、テレサと芽衣とアインシュタイン博士側の率いる突入部隊に、テスラ博士が率いるタイタン機甲部隊と姫子少佐とソーマによる遊撃部隊で二手にまた別れながら作戦を開始する。尚、ブローニャは治療回復したばかりな為、ハイペリオンで待機したままにしている。

 ただ、流石に天命側も黙っている訳ではなく、S級戦乙女であるリタ・ロスヴァイセと、つい最近までキアナを誘拐実行した張本人であるフカの二人が迎撃にやってきた。

 想像以上に手強い相手に先行していた姫子とソーマ及び、テスラ博士が率いるタイタン機甲部隊が大苦戦を強いられていた。

 しかし、その戦闘中にフカとリタの間になんらかのトラブルがあったのか対立を始めていた。どうやらフカは彼らを無効化したのだからこれ以上手を出すなとリタに警告を出していたらしい。

 手を止めていた相手の目を盗んでその隙を利用し、テスラ博士は自身が率いていたタイタン機甲のうちの一体をソーマにマスター権限を譲渡し、今のうちにテレサ達の所へ向かえと姫子とテスラ博士に指示される。

 指示通りに急いでソーマはタイタン機甲に乗り込みながらその場を離脱するが何故かリタ達はその場を逃げ出すソーマの機甲を追わなかった。

 不自然な敵側の行動に罠の可能性を感じたソーマだったが今はとにかくテレサ達の元への合流を急ぐ事に集中するしか無かった。

 

 テスラ博士から権限譲渡されたタイタン機甲を操作して逃走していくソーマの姿を見送ったあとを静かに眺めていたフカはリタに確認を取る。

 

「...本当に、あのまま逃してもよかったのですか?」

 

「はい、大主教様は当計画には彼を必ず参加させる必要があるとそう仰られています」

 

「...わかっているとは思いますが、彼女達には手を出さないようにお願いします」

 

「ええ、分かっております」

 

 フカはリタにこれ以上姫子達に手をださせないように釘を刺しておき、姿が見えなくなったソーマに対してこれから起こるであろう大きな騒動にどうか無事であってくれることを祈るしかなかった。

 

「...私が貴方のことを心配できるような立場ではないですがどうか無事でいてください...ソーマ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーテレサ部隊側ー

 

 今現在、テレサ達はとてつもない脅威に晒され、追い詰められていた。その場にいた芽衣は目の前にいるある人物に意識を奪われていた。その目の前にいる人物は髪型こそ解けているがあの白い髪に白いバトルスーツとよく知る姿のキアナ本人で間違いなかった。

 しかし彼女は明らかに普通ではない危険な雰囲気をまとっており、彼女の目は明らかに律者の特徴的な金色の十字模様の瞳へと変質していた。そして身に付けている衣装も特徴的なドレスに白と橙色の羽と槍状の羽という非対称な装備を身に付けた姿に様変わりしていた。

 彼女の姿に戸惑いながらも芽衣は今度こそは自分の力で彼女を取り戻す為、自身の雷の律者の力を解放し戦いを試みた。しかし、あまりにも強過ぎる律者化したキアナの力の前では芽衣の律者の力は半端すぎて呆気なく返り討ちに会ってしまう。乱暴に首元を掴まれた芽衣は苦しみながらも必死にキアナに呼びかけようとする。

 

「ぐっ...キ、キアナ...ちゃん...目を、覚ま、して」

 

 首元を掴まれて苦しみ意識を失いかける芽衣の姿に一瞬だけ本来の意識が覚めたのかキアナの意識が一瞬戻りだす。

 

「...ッ⁈芽衣、先輩?...ッ、ぐっ、うわあああああぁぁぁー‼︎」

 

 しかし、謎の拒絶反応で悲鳴を上げながら頭を抱えて苦しみだし、突然おとなしくなったかと思えば律者化したキアナは静かに笑い出し、自身の力を解放させる。

 苦しみ出したタイミングで芽衣は解放され崩れ落ちるが律者化したキアナが解放した力によっていきなり転送ワープしてきた崩壊獣に攻撃される。その勢いで芽衣は体を打ち付けるように吹き飛ばされるが、追撃してきた崩壊獣の槍状の腕が芽衣を突き刺そうと襲いかかる。まともに受け身を取れなかった芽衣は回避もできずもうここまでかと目を覆う。

 

 

 

 

「芽衣ッッーー!!!!」

 

 

 

 

 何処からか聞こえてくる聞き覚えのある少年の声が聞こえ、目を開けると、そこには芽衣に向けて突き刺そうとしてきた崩壊獣を押さえつけるタイタン機甲とその背中に乗っているソーマの姿があった。素早くソーマが崩壊獣の槍状の腕を片手剣で斬り飛ばし、ソーマが連れてきたタイタン機甲が崩壊獣を掴んでそのまま背負い投げの技で崩壊獣を地面に叩きつけ、いつのまにか展開していたアインシュタイン博士側のタイタン機甲のミサイル攻撃でトドメを刺さし、完全に沈黙させる。

 

「大丈夫か芽衣⁈一旦ここから距離を取るぞ‼︎」

 

「...ッ、え、えぇ!」

 

 ソーマが芽衣を担いでその場から距離を取っているのとすれ違う様にタイタン機甲の大群部隊が突撃をしていき、接近してくるタイタン機甲部隊に対して律者化したキアナは崩壊の力による転送ワープで次々と崩壊獣を展開いていく。

 崩壊獣とタイタン機甲部隊による大激戦が繰り広げられる中、タイタン機甲の前衛側が崩壊獣を抑えている間にタイタン機甲の砲撃タイプの機体が崩壊獣の発生元である律者のキアナに大規模な集中一斉砲撃を開始する。

 しかし、自身への攻撃に気付いた律者のキアナは指をパチンと鳴らすと、全面に大多数の転送ワープを展開し、迫り来るすべての砲撃弾が空間に吸い込まれ、それらをお返しにタイタン機甲の部隊側に転送ワープを展開して打ち返す。

 想定外な反撃手段に大半の機甲部隊がろくに回避も防御も出来ず壊滅してしまう。その圧倒的に非常識な光景にその場を離れていた芽衣とソーマは呆然としてしまう。

 

「な、なんなんだよッ...アレ...。キアナ...どうしてしまったんだ...」

 

「キアナ、ちゃん...そんな...!」

 

 もはやに圧倒的としか言いようがなかった。ウェンディの時が可愛く思えてしまう程に比べ物にならないほどの災害の規模であり、人類が遥か昔から律者という存在に酷く怯え、多大な犠牲を出してきた証明が今まさに目の前に光景として現れていた。

 たしかにテレサや姫子にキアナの体内に空の律者の力が埋め込まれているという話を聞いたことがあると聞いたことがあった。しかし聞いた話と実際にその目で見たその力の規模を見ると律者がいかに世界を滅ぼせる力を持った存在なのかという事を身に思い知らされる。

 呆然としてたせいか、いつの間にかソーマ達の元にも崩壊獣が迫っており、キアナもとい、空の律者がこちらを見つめていた。

 まるで蛇に睨まれた蛙なんて規模どころじゃない強大な敵意と殺意に当てられたソーマは体が硬直して動けなくなってしまう。

 まわりは空の律者から打ち返された砲弾の攻撃で一面焼け野原景色で救援も寸断され、抱えていた芽衣もダメージで満足に長時間戦えない可能性が高く、正に絶対絶命状態だった。

 襲いかかる崩壊獣をソーマは必死に抑え込みながら迎撃するが、あまりにも多勢に無勢な状態でジワジワと被弾を受ける。身体のあちこちを斬り裂かれ、叩き付けられ追い詰められているソーマを助けようと芽衣が必死に救援に向かおうとするが新たに現れた崩壊獣の群れに分断されてしまう。

 

「ソーマ君ッ、逃げてッッー‼︎」

 

 芽衣からのソーマを必死に逃げる様に呼びかける叫び声に崩壊獣にすり潰されかけているソーマは満身創痍なダメージで意識が薄れていく感覚を感じる。

 

 ーああ...もう、ここまでなのか...せっかくキアナの救出の為にここまできたのに、ここで終わってしまうのか。

 自分はただキアナや芽衣、ブローニャ達とただ何気ない平和な生活を送りたいだけなのに...キアナがサボりをして姫子に怒られ、芽衣が仕方ない子ねって言うように呆れながらブローニャにバカキアナと言われ、そこをキアナに道連れにしてやると巻き添えを喰らう自分...。なんともバカっぽくも懐かしい頃を走馬灯のように思い出しながら力尽きるのを待つだけだった。

 しかし、その記憶とは別に自身の過去である幼少期のトラウマを思い出す。

 ...研究所に連れ去られ、胸を切り開かれ、中身をいじくりまわされ、薬物を打ち込まれ、戦わされ、周りにいた仲間たちは次々と死んでいく...。

 こんな目に会ってなお何も出来ずにここで死ぬのか?

 ...自分と出会って初めての親友になってくれたキアナにいつも振り回されるが外の世界を教えてくれた...そんな彼女を救う事もできずに今でもなお一緒に必死に戦っている芽衣も守ることができずに此処で死ぬのか?

 ...ふざけるな、こんなロクでもない人生に遭わされてようやく普通の人間らしい幸せな時間を送れるようになったのに、また大切な人を失って一人になるのか...。

 ...ふざけるな、ふざけるなッ!!...だったら壊してやる‼︎こんな理不尽で綺麗じゃない世界なんぞ壊して無くしてやるッッ!!ー

 

 彼の体の奥底から何かが湧き上がるような何かが溢れ出し、首元から崩壊特有の赤い血管模様が浮き出てくる...。

 自身の体内からまるで自分の感情に呼応し共鳴するように溢れ出してくるナニカ...ああそうだ、目の前の理不尽を倒せと...すべてを奪ってくる奴等をまとめて殺せと囁いてくる...

 

「ぐっ、ソーマ君無事なのッ⁈...ソーマ...君?...」

 

 崩壊獣に取り囲まれ、蹂躙されたはずのソーマがいたはずの場所からから異様な空気と肌に張り付くような強烈で危険な威圧感を感じた。

 芽衣は不思議とこの重圧感が崩壊獣のものではないと本能的に感じ取る。

 しかし、コレは明らかにただの人間が放つ気ではなかった。ならばコレは一体...。不可解な強烈な威圧感に気圧されたのか崩壊獣の大群が鈍り出す。

 次の瞬間、強烈な風圧が吹き乱れ、周りの崩壊獣が根こそぎ吹き飛ばされいく。芽衣の周りに取り囲んでいた崩壊獣もまとめて吹き飛ばされ、晴れた場所には分断されていた筈のソーマの姿が見えてくるが、芽衣はそこから見えた彼の変わり果てた姿に気圧され、行動を躊躇ってしまう。

 

 

「...ソーマ、君...本当に貴方、なの...?」

 

 

 

 

 

ーハイペリオン号内ー

 

 ハイペリオン号内では全機投入した機甲部隊が覚醒した空の律者によって全滅させられた事に慌ただしくなっており、混乱状態になっていたが、それとは別に更なる新たなアクシデントに悩まされていた。

 

「...コレは一体どういう事なんだ?崩壊濃度指数が...」

 

 艦内に待機していたアインシュタイン博士が現状で起きている事態の状態を確認していると今現在暴れている空の律者から放つ桁外れな崩壊エネルギーの濃度計測値とはまた別に新たな崩壊エネルギー濃度計測の急激な上昇を新たに確認することになる。

 

(キアナ君...律者になった彼女とは別に崩壊エネルギーを上昇させている存在がいる?...まさか芽衣君が?...いや、しかし彼女が暴走したようには見られない。バイタルは正常値だ......いや待て、もう一人いたじゃないか。...まさかソーマ君、君なのか⁈律者の原石とは呼ばれていた彼がもしや律者化したキアナ君に共鳴したとでもいうのか?)

 

 アインシュタイン博士が崩壊濃度の上昇の正体を看破し、新たな崩壊濃度の元凶がソーマではないかと気づき始めた頃には、戦場にて空の律者が倒した機甲部隊と崩壊獣の残骸をまとめて吹き飛ばす風圧と磁場が溢れ出していた。

 それらはハイペリオンの電子機器類にも異常を与えており、明らかに新たなアクシデントが発生している予兆を見せていた。

 新たなイレギュラーにただ博士はこれ以上最悪な事態にならないように祈りつつ、現場にいるテレサ達の支援を進めるしかなかった。

 

 

 

 

 

ーテレサ視点ー

 

 現場指揮していたテレサは覚醒したキアナが展開した崩壊獣に囲まれている芽衣を助ける為に本人がいる現場に急行するが、直後に襲いかかる風圧に動けなくなる。

 それとは別に地面を抉るように磁場が吹き荒れながら近くにいた崩壊獣の群れがまとめて吹き飛ばされた影響で見えなかった芽衣の姿をようやく確認することが出来た。

 

「ッ、よかった!芽衣無事だったのね⁈今助けに...え...ソーマ?...アンタもいたのね⁈今援護に...ッ?!」

 

 芽衣がいたのを確認出来たあとにそのすぐ近くに偶然ソーマがいた事に驚くが、おそらく此方に合流出来たのだろうと結論づけ、とにかく急いで二人を助けに行こうとするテレサだったがよく見ると近くにいるソーマの様子が何処かおかしく、彼の姿が明らかに作戦前の時と違うことに気がつき、その姿に思わず絶句してしまう。

 吹き荒れた風と電磁場が収まった後に見えてきた彼のその姿は最初の戦闘スーツ姿の時とはまったく別物になっていた。

 黒を主軸にした軽鎧のような衣装に左肩にマントのような装備をたなびかせ、頭には普通の人間にはない角や腰の後ろには長い尻尾を生やしていた。

 そして彼の手元には大きく長大な大剣のようなランス状の槍のようにも見える武器を地面に突き立てるようにその場で立っていた。

 彼の変わり果てた姿にテレサは最悪な予感を感じとってしまう。

 彼の顔元を覗くとその目は正に律者特有の十字模様をした金色の瞳をしていた。

 ああ...なんて事だ、よりによって彼の体内に潜む律者の力が覚醒してしまうなんて。

 まさか対面している空の律者(キアナ)から発する崩壊エネルギーの力に共鳴してしまったというのか。

 彼の目線は常に対面にいる空の律者(キアナ)に向かっており、まるで忌々しい天敵を睨みつけるような鋭い眼光で見つめていた。律者化した膨大な威圧感を与えてくるソーマの存在に気付いたのか空の律者(キアナ)は彼を興味深そうに観察していた。

 

「ほぅ...人類共の中からずいぶんと珍しい存在がいるな...これは私と同じ同胞か?お前からも感じるぞ...人類に対する怨みと憎しみが...私と共に来る気はないか?共に忌々しい人類共を滅ぼそうではないか」

 

 律者化したソーマに対して同じ同志として迎え入れようと勧誘するが、対するソーマは微塵も友好性のない殺意と敵意のこもった眼力で空の律者(キアナ)に対して誘いを切り捨てる。

 

「...オマエはオレから大事なものを奪おうとするヤツだ。...崩壊も人間も...律者も大して変わらない、同じ"敵"だッ...‼︎」

 

 自身の勧誘を即切り捨てるような返答に空の律者(キアナ)はその反応に意外と驚くも、その後はそれを面白がるように好戦的な笑みで笑いながらもう一人の律者(ソーマ)に対して残念そうに呟く。

 

「...そうか...それは実に、残念だッ...‼︎」

 

 残念だと呟いた直後、彼女の虚数ゲートから放たれる槍の雨のような射出攻撃がソーマに襲いかかる。

 鋭い槍の雨がソーマの体を射抜かんとせまってくるが、彼はまるでうるさく飛び回るハエを追い払うように手にしている槍状の武器を一振りしただけで爆風じみたエネルギー波を発生させ、一瞬で払い飛ばしていく。

 その後ソーマは瞬間移動したかのように風圧を撒き散らしながら地面に巨大なクレーターを築き上げ、一瞬で上空に待機している空の律者の懐に高速ジャンプ移動で接近し、彼女にめがげて武器を振り下ろす。

 空の律者は咄嗟に崩壊の槍を展開して防御するがあまりにも衝撃が強すぎたのか勢いよく地面に叩きつけられ、花弁のような巨大なクレーターを築き上げる。

 叩きつけられた空の律者は残骸を衝撃波で吹き払い興が乗ったのか笑みを深く浮かべた顔でソーマに襲いかかる。ここからは二人の律者による壮絶な殺し合いの戦いの幕が火蓋を切って落とされた。

 

 風の律者として覚醒したウェンディのときとは比べ物にならないほどの戦闘力を見せつけた空の律者を力技とはいえ、特殊能力も使わずに己の膂力のみで叩き伏せた事にソーマの律者の力にテレサは戦慄を覚えた。

 一体彼の中には何の律者の力が眠っているというのだ?空の律者に対等に渡り合った律者なんて当時の理の律者の力を継承したヴェルト・ヨウくらいしか居なかったはず...まさかまだ見ぬ新しい未知なる律者が生まれてきてしまったというのか。

 それだけではない、長年お互いに親友であり、幼馴染をやってきた二人がこのような最悪な形で律者化し、自我を失っているとはいえ互いに殺し合いをしている事になるという最悪な結末にテレサは現実を受け入れる事が出来なかった。

 

「ッ、...キアナ...ソーマ、お願い...やめて...」

 

 テレサ達はただ規格外な人外なる存在同士との壮絶な戦いの光景に介入することもできず、ただ無力に眺めることだけしかしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の律者同士による戦いの様子をモニター画面で眺めていた金髪の男はその様子を興味深く笑みを浮かべて観ていたが、同時に神妙なあるいは真剣そうな眼差しでその様子を眺めていた。

 

「神の名を語りし王女は目覚め、終焉を告げる...対する原石なる存在は磨き落ちて殻を破り、終焉と共にあるべき本来の姿へと帰る為にその身を目覚めさせる...今はようやく第一形態といったところかな?今のキミは、さしずめ闘う本能に目覚めた戦の律者(・・・・)といったところか...けどまだだ...キミはまだ覚醒しきれてない。けどまぁ、問題はこの戦いに生き残れるか、だね...このままそちら側に落ちるかそれとも...」

 

 その男、オットー・アポカリプスはその光景をひとつひとつ注意深くまるで大事なその瞬間を見逃さないような気迫で彼らの闘いの様子を観察し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





・空の律者

 崩壊3rd原作にて登場する最も強力な力を持ちもっとも終焉に近い資質をもつ律者。"K423"と呼ばれる個体、のちのキアナ・カスラナである彼女の体内にかつて第二次崩壊にて誕生した空の律者のコアを埋め込まれ、オットー・アポカリプスの計画の一環で復活する為に器として生み出された。
 その力は覚醒したのにもかかわらず当時と変わらずに世界を滅ぼし得る強さを持ち、眷属を従えて人類に対する復讐を始める。


・戦の律者(本作オリジナル)

 過去に行われた崩壊同化計画にて生み出された成功体である"実験体512"、のちのソーマ・アストラが覚醒および、律者化した姿の仮呼称。いままでに出現してきた歴代のどの律者にも類似しないため、空の律者と同等な強さから戦の律者という仮の名で呼ばれ、正式な呼び方ではない。
 二対の角と長い尻尾に鎧型の衣装と特徴的な姿をし、直接武器を手にするなど、他の律者にはあまり見られない装備と外観をしている。
 大主教であるオットー・アポカリプスはこの律者についての正体をある程度把握しているようだが現時点では不明。ただし、終焉なる者に何か関係するらしい存在であることだけは明らかになっている。今のところの脅威は全くの未知数。

 戦の律者イメージ
 
【挿絵表示】


 武器名「開花審槍」

 ランス状の大槍。崩壊エネルギーを転換して触れた対象の加護や異能を全て打ち消し、それらを攻撃力に変換する権能を持つ。使用者の崩壊エネルギーが多ければ多いほど効果が強化される。
 
【挿絵表示】
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