飛ぶ理由を探した者   作:Jr.404

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此処からは律者同士の戦いと曇らせが降り注ぎます。有名な第9章あたりの話になります。


八話「消えない後悔とお別れ」

 律者同士による戦いぶりは正に猛烈であった。いや、そんな生ぬるい言葉では語るのも烏滸がましい程に苛烈であり、その姿はまさに巨大な天災同士がぶつかり合いお互い相殺し合うかのような天変地異が訪れたかのような暴れようであった。

 空の律者が空間転送の力で崩壊の槍等の質量攻撃を大量にかまして数の暴力攻撃をしてくるのに対し、戦の律者は己の武器、または新たに崩壊の力で武器を形成しながらそれらを迎撃し、全てを更に上回る理不尽な暴力で薙ぎ払い、反撃をかましてくる。

 戦の律者が空の律者に対し様々な武器で斬りかかり、攻撃を叩きつけてくるのに対し、空の律者は自身の懐に近づけさせないために引き撃ちのように崩壊エネルギーで複数の槍を展開しながら攻撃をいなしていく。

 相手に決定打を与えるために空の律者は自身の非対称なる羽から巨大な螺旋の槍状の質量兵器を作り出し、重力の力で加速させ、戦の律者にめがけて強烈な一撃を放つ。

 対する戦の律者は自身が手にしている武器を変質させ、巨大な禍々しい槍に形成させながら自身の右腕に崩壊エネルギーを集中させて強力な槍による音速を超えた投擲を放つ。

 放たれた勢いのあまり後から遅れて巨大なソニックブームじみた衝撃波と戦の律者の足元から大きなクレーターが生まれながら馬鹿げた勢いで即死級の崩壊の槍が飛んでいき、空の律者の槍と空中でお互いに命中し、強大な戦略核じみた爆発と衝撃波が空中に響き渡る。

 爆発が止んだと思えば、今度は戦の律者側ががいきなり謎の引力の力で空の律者に引っ張り回され、虚数の空間から転送してきた立方体の崩壊キューブに挟まれ閉じ込められる。崩壊キューブ内に圧殺されるように縮小され、そのタイミングで尽かさず空の律者は崩壊キューブをパズルのように斬り崩してまわしていき、トドメに羽からのリボン状のブレードを伸ばしながら崩壊キューブをスパスパに斬り裂いてトドメと言わんばかりにバラバラに分解する。

 

「フン、他愛もない...」

 

 これでくたばったかと慢心した空の律者の顔を一瞬で真横からレーザーのような青紫色の熱源が通り過ぎていくのを確認し、攻撃元にすぐ振り向くとそこには背後に巨大な装甲をまとったような竜のようにも見える守護者が虚数ゲートから上半身のみを乗り出して戦の律者を守っていた。

 戦の律者が大剣を形成するとそれを空の律者がいる真正面に目掛けて一閃していく。

 すると後から強烈な爆風と崩壊エネルギーを帯びた死の斬撃の大群が空の律者に空間を覆い尽くすほどの数の暴力が彼女に目掛けて襲いかかる。

 すぐに空の律者は崩壊エネルギーの槍を大量に形成して迎撃するが呆気なく次々と切り裂かれていき斬撃の大群が襲いかかる。そこで空の律者は機甲部隊の攻撃を受け流したときのような手段で虚数空間を転送ワープによる要領で斬撃の大群をまとめて空間に吸収し、そのままカウンター攻撃で転送ワープしながら戦の律者に攻撃を送り返す。

 死角から送り返された自身の斬撃の大群に対する戦の律者はもう一度手にした大剣を振りながら同じ攻撃技で全てを相殺させる。

 

 

 

 終わりの見えないイタチごっこのような戦いで瞬間移動するように暴れまわる律者同士の戦いの光景よそにテレサ達はどう止めればいいのかも分からずにただその戦いの状況をただ呆然と眺める事しか出来なかった。

 治療が完了して遅れて戦線復帰してきたブローニャもテレサのもとに合流したが律者同士の戦いの光景に驚きを隠せず、彼女も呆然としてしまっていた。

 

「...本当に、ソーマ兄さんとキアナの二人が戦っているんですか?...何故、このような事に...」

 

「律者に覚醒してしまったキアナに何らかの形でソーマの体内に眠っていたはずの律者の力が共鳴して蘇ってしまったのよ。...本当に最悪な事態よ、今はどういうことかお互いに同士討ちのような状態になっているようだけど、このままだとどちらかが死ぬまで戦いが終わらない状態になりかねないわ。...最悪、共倒れになることも...ッ、ああもうッ‼︎なんでよりによってあの子達が互いに殺し合うようなことをしないといけないの⁈あの子達が一体何をしたっていうのよ⁈」

 

 現実の理不尽さと己自身の無力さに苛つき、大人であるはずの自分が彼らを止める事すらできないことに行き場のない湧き出した怒りと悲しみに感情が覆い尽くされる。

 しかしテレサの心情とは別にもう一人この光景にテレサ以上にショックを受けて深い悲しみと苦痛を抱いている人物がいた。

 

「...ソーマ君、ダメ...これ以上戦わないで!あなたの手でキアナちゃんを手にかけてしまう事になってはダメよ‼︎キアナちゃんもお願いだから目を覚まして!!ソーマ君を傷つけてしまったら絶対に後悔するわ!!...いつもいっしょにいたはずのあなた達がお互いを傷つけ合うなんて...ぐっ、二人ともやめて‼︎本当に取り返しがつかないことになっちゃう!!」

 

 芽衣は必死に叫びながら今もなお戦い続ける二人を説得して止めようとテレサ達の元から離れて駆け寄ろうとする。

 

「⁈ッ、芽衣よしなさい‼︎死ぬ気なの⁈」

 

 テレサの静止を振り切って二人の元へ近付くが彼らの射線上に入ってしまったために、それを嘲笑うかのように戦いの圧による爆風と崩壊によって壊された残骸が吹き乱れ、芽衣ごと巻き込む様に吹き飛ばされながら地面に打ち付けられる。このときの衝撃で芽衣は自身の体の所々に致命傷とは言わないまでも手痛い無数の切り傷や顔元にも切り傷がついてしまう。

 

「ッ⁈きゃああッッーー‼︎」

 

 しかし、彼女がこのときに怪我を負った事と悲鳴声よって本能的に芽衣の身に危険を感じとったのか、正気を取り戻した戦の律者はソーマとして意識を部分的に取り戻す。

 芽衣の身の危機を感じ取った彼はすぐに動けずに居る芽衣を助けようと上空から突っ込むように急降下してきた。

 しかし、空の律者がそれを見逃すはずがなくしつこく追撃をかましてきた。ソーマは空の律者からの追撃を受け流しながら素早く芽衣の元にたどり着くと自身の崩壊の力で再び竜の守護者を呼び出し自分ごと芽衣を守る。これをチャンスと見た空の律者は最大出力で崩壊の大槍の雨を戦の律者(ソーマ)に目掛けて発射していく。

 空間一面に広がる猛烈な槍の弾幕に必死に耐えながら空の律者に背を向けたまま、芽衣を必死に守り続ける。守護者の装甲や身体が攻撃で欠けていき、攻撃がこちら側まで侵入してきてしまうがソーマは自身が壁になるように芽衣を抱き止めながら死に物狂いに堪え続ける。

 

「ッ、ダメ!ソーマ君このままじゃ...死んじゃうッ!!もう私のことはいいから!!」

 

「...グッ‼︎」

 

 しばらく続いた攻撃の猛攻が止み、気がついた頃には先程まで無傷だった彼の身体は至る所が無惨な傷だらけであり、彼の横腹付近には想像もしたくもないほどの痛々しい槍の残骸が深々と突き刺さっていた。

 防ぎきれず侵入を許してしまった一部の迫り来る死の槍から芽衣を守るために最後は自身の身体で受け止めたのだ。その槍は当然崩壊エネルギーによって形成されている為にソーマの身体を蝕んでいった。

 ソーマの満身創痍な身体の状態を見てしまった芽衣はあまりのショックと精神的苦痛に涙が止まらなかった。

 

「ッ‼︎、...あ...ああ、あぁぁ...ダメ...ダメ‼︎...お願い!死なないでッ‼︎お願いお願いお願いッッ!!!!...ああ...わ、私の、せいだ...私が、不用意に近づいて、止めようとしたから...ソーマ、君...ソーマ、君...いやあぁぁッッー‼︎」

 

 自身の無謀な行動に酷く懺悔し、今なお意識を失いながら膝をつき倒れてくるソーマを体が返り血で汚れるのもお構い無し必死に抱き止めながら泣きじゃくる。

 そんな芽衣の姿を離れていた位置で見ていた攻撃をした張本人である空の律者は悲しみに明け暮れて泣いている芽衣と芽衣に抱き止められて意識を失ったまま動かなくなった戦の律者もといソーマの血塗れの凄惨な姿を目に収めると、その衝撃的な姿にショックを受けたのか一瞬だけ空の律者の自我がキアナに戻ってしまう。

 

「...?、芽衣、先輩?...ソー...マ?っ、え...い...いや、いやあああああぁぁぁぁぁッッーーー!!!!

 

 自身が空の律者に意識を奪われていたとはいえ、自分の手でソーマを手にかけてしまったという残酷な現実に拒絶反応を起こし精神状態が不安定になってしまったためか崩壊エネルギーが電磁波のように乱れ、周りを荒れ狂うように暴れ出す。

 極めて危険で全てが混乱している状況の中、その場を素早く判断して動いたのはテレサとブローニャだった。

 精神的に不安定になっている空の律者の隙を狙いテレサは誓約の十字架から黄金色の鎖を射出しながら空の律者をその場に縫い付け、その隙にブローニャが芽衣と満身創痍のソーマを救出しにかかる。

 

「芽衣しっかりしなさい‼︎ここで死ぬ気⁈後悔するのは後よ!ブローニャ急いでッ‼︎」

 

「芽衣姉様しっかりしてください!今のうちにソーマ兄さんを運びます!」

 

 テレサとブローニャに言われてようやく現実に意識が戻った芽衣がソーマをなんとか支えながらブローニャの重装ウサギの腕に乗せていくが、そのタイミングで精神が不安定になっていた空の律者がキアナから意識の主導権を取り戻し、鎖で押さえつけてきたテレサをいとも簡単に重力の力で無力化させる。

 

「ぐっ、マズい⁈芽衣逃げて!!」

 

 テレサがすぐに芽衣に逃げるように指示するが間に合わない。おそらく空の律者の目的は...。

 空の律者はつかさず重力の力ですぐでその場にいた芽衣を引力で自分の元へ引き寄せる。

 

「なっ⁈、きゃっ!!」

 

「グッ...危うく器の方に主導権を奪われかけたが...まあいい。まずはお前からだ!私の半身を返してもらおう」

 

「ぐっうぅっ⁈」

 

 引き寄せられた芽衣の胸元から引き出された雷の律者のコア、"コンケストジェム"が取り出され、空の律者はソレを自身の身体に取り込んだ。

 

「ああ、懐かしい感覚だ。雷鳴の力を感じる...。ちょうど仕留めたもうひとりの同胞がいたな。ついでにそこの者からも力を取らせてもらうとしよう。私と拮抗した程の者だ、より強力に違いない」

 

「くっ...ダメ、絶対に...ソーマ君だけは、奪わせはしないッ!!」

 

「ほう?私に歯向かうか、芽衣先輩?」

 

 わざとキアナが自身を呼ぶような呼び方で芽衣の感情を逆撫でし精神を揺らがせる。

 ダメだ、今の彼女はキアナではない...敵である空の律者だ。鈍らせてはならないと、手にした刀を空の律者(キアナ)に向けるが、ついさっきほどまでに自分の体に宿していた切り札であった雷の律者のコアを抜き取られてしまった自分に何が出来るのだという諦めが一瞬過ぎる。

 

 対する空の律者は自身の力で先程まで激戦を繰り広げてきた戦の律者に目を見やり、律者コアの元を探り、ジェムらしき物体を胸元から発見するが中身が全く分からないうえに何故か抜き取ることもできなかったことに疑問を感じる。

 

(...?どういうことだ?ジェムらしきモノを見つけたのに正体が分からない...おまけに抜き取ることも出来ないだと?...コレではまるでコイツ自身がジェムそのモノのよう...?)

 

 空の律者が想定外な事態に困惑しているのを他所に芽衣は必死にどうにかしてこの場を撤退できる方法を探すが相手の特殊能力で自身が引き寄せられたことを思い出し隙がなさすぎる事に気付き思考に行き詰まってしまう。

 もはや撤退する隙も稼げずに全滅し彼を、ソーマの命を奪われるのかと絶体絶命のとき、思わぬ乱入者が介入してきた。

 立ち塞がるように砂煙をかき分けて空港の滑走路に飛びてきたのは天命側として敵対してたはずのフカの姿だった。

 

「あなたは...委員長?」

 

 思わぬ意外な援軍にブローニャは驚く。

 

「芽衣さん...学園長...ソーマは...ッ⁈ブローニャさん、三人を連れてすぐにここを離れてください!決して振り返らずに。アレはアナタ達には荷が重い」

 

「...分かりました。それと...ブローニャを夢から呼び起こしてくれたことも、ありがとうございました」

 

 フカからの指示を聞き入れたブローニャは、それとは別に少し前まで彼女が損傷した脳の治療手術を受けた際に意識が戻らなかったとき、フカの力で意識を呼び覚ましてくれたときの事を思い出してフカにこのことについても感謝する。

 

「...早く行って下さい」

 

 ブローニャはソーマを重装ウサギのアームで支えながら芽衣とテレサを引き連れ、急いでこの場を離れていく。

 

「また新たな虫けらが現れたな。倒しても倒してもまた湧いてくる」

 

「...御託を!」

 

「目標を逃したがまぁいい。せいぜい私の遊び相手になってくれよ人類」

 

「...つまらない御託は終わりましたか?」

 

 フカは撤退していくブローニャ達の時間稼ぎの為、空の律者を相手に殿を務める事になる。こうして再び律者と対面して戦う事になるとは...気が遠くなるほどに久々にな事だと彼女は過去を懐かしむ。

 今の自分には遥か昔の自分と比べて、あまりにも力を失いすぎている。今の自分では渡り合うどころか足止めするのがせいぜいだ。しかしそれでもやるしかない。

 先程到着したときに見えてしまったソーマの負傷した痛々しい悲惨な姿に自身の胸を締め付けられた。...このまま彼女を通してしまっては今度こそ彼は...ソーマは殺されてしまう。

 ならばなんとしてでもここで押さえ込まなければ。かつての過去のように戦友を失ってしまう後悔を繰り返さない為にも...。

 フカは覚悟を決め、ブローニャ達や負傷したソーマを助ける為に自身よりも遥かに強大な空の律者に戦いを挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 律者同士の戦闘を見届け、その後に起きた事態を画面モニターで眺めていた男、オットーは状況が大きく変わったことを確認し、画面から離れて行動を開始する。

 

「戦いは終わったが思わぬ展開になったようだ。...いや、あのまま続いてたら共倒れもあり得たから妥当とも言えるか。...ああ、分かっているさ、どうであれ彼等には生きてもらわなくてはならない。ただ今はなんとかして空の律者を足止めしてくれている古き友人を助けなくてはね」

 

 そう言いながらオットーは画面に映る空の律者と対峙している古き友人であるとそう称した人物、フカを助ける為に現場に赴いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天命本部空港エリアにてブローニャ達を逃がす為、フカは殿を務めていたがやはりというべきか、空の律者の力はあまりにも強大でA級戦乙女であるフカの実力では焼け石に水程度にしか通用しなかった。

 おまけに空の律者が元から宿しているセレニティジェム、"死の律者"の力により与えたはずのダメージすら短時間で傷を回復させるという理不尽ぶりである。

 

「...私を相手によくここまで戦えたものだな。少しは褒めてやろう。...神の鍵を二つも持っているのにも関わらず何故使わないのは気がかりだか...まぁいい、所詮人類は虫ケラに過ぎん。ここで終わらせてやろう」

 

 空の律者に首元を掴まれ満足に振り払う事もできないフカは己自身の弱さに悪態を吐きながら苦しんでいた。...かつての当時の自分であったなら倒すことは出来ずとも相手を大苦戦させるくらいには力があった。しかし今の自分は当時とは比べ物にならないほど弱体化切ってしまっている。

 

(ぐっ...所詮、今の私はこの程度でしかありませんか...。結局、守りたい人も誰一人たりと守れず歳月ばかり過ぎて...最後は私の番、ということなのでしょう)

 

 フカは今の自分がここの死に場所と受け入れたように諦めようとする。

 しかし、他所から聞こえてきた拍手という戦場に似つかわしくない音で空の律者はその手を止め拍手音の元凶に振り向く。

 

「見事な戦いだ。流石は崩壊の女王、キミの姿はいつでも輝かしい」

 

 拍手をしながら空の律者の目の前に現れたのは金髪の長髪が特徴的な男だった。空の律者は彼を目にした途端にその男が誰なのかを思い出した。...ああ、よく知っているとも、オットー・アポカリプス。

 ソレが奴の名であり、私を呼び覚まし、私自身に宿している神の力を狙っている悲しき人類でもあった。

 

「フフ、どうやらボクの事を覚えてもらえているようで光栄だ。それでなんだか、キミに二回目の命を与えたお礼に、彼女の事は見逃してもらえないかな?...彼女はボクの大事な友なんだ。彼女には傷ついてほしくないんだよ」

 

 オットーはそう言いながら自身から溢れ出た緋色の液体を変形させ血の棘のようなものを展開させていた。

 空の律者はオットー自身をあまり脅威に感じていなかったが彼の出す血の棘のようなものに不快感と得体の知れなさを感じた。アレは何処かで見たことがあるようで、それでいて似ても似つかないものだった。アレと戦うのはあまり得策ではないと空の律者は考えた。

 

「...フンッ。私が直接手を下す価値もない。お前がそう望むならそうしてやろう。...しかしお前の様な者が人類の王とはね。本当に悲しいものだ」

 

 空の律者はそう言いながらフカをその場に捨てた後、虚数空間を展開し中へと消え去っていった。

 

「ひどい様だ。ここまでの傷はかつての天穹峰の時以来かな?ともかく傷を治そう」

 

「どうして...どうして彼女を逃したんです!彼女の狙いはわかっているでしょう⁈」

 

「おや?まだ喋れたのかい。ああそうだね、彼女の狙いはテレサとソーマだ。時期にもう追いつくだろう。そのときは今度こそ最後まで戦う事になるだろうね」

 

「なんだと...」

 

 オットーはフカに今回のこの作戦の目的を話した。彼はK423、もといキアナを律者化させることで律者の力をコントロールし、人間から律者化した彼女にその力で自分にとって大事な仲間を手にかけさせる事でそのショックとトラウマを引き起こし、空の律者である人格"シーリン"からキアナ(K423)の人格の主導権を取り戻させることが出来ると彼は言った。人が持つ思いの力で律者の力を主導権を握れるようにする為に愛する人を殺すように誘導したというのだ。

 

「...貴方は狂っている。底知れない感情の中からここまで歪んでいるとは...私は貴方が心底悲しく憎い存在としか思えない。...まさか(ソーマ)もその為に?...」

 

「ああもちろんだとも。彼の律者の力も覚醒させる為にあえて危険に晒すように仕向けたのさ。けど心配はいらないよ、彼が殺される事はない。空の律者は彼という存在にご執心だからね。...まぁ彼があそこまで傷を負ったのはさすがに予想外だったが...とにかく、キミの行動はボクの予想の範囲中を超えている...だからキミに真相を話したのさ。悪いけど余計な事はしないでもらおう」

 

 フカにことの真相を説明したオットーはフカに右手を向けると光が集まり、黄金色の拳銃、正確には拳銃に変質した天火聖裁を構え躊躇いなくフカを撃つ。撃たれたフカは動かなくなった人形のように倒れ横たわる。静寂が訪れたその場で彼は倒れている彼女に呟くように静かに語る。

 

「...精衛仙人、ボクは...嘘をついてないよ」

 

 フカの倒れたその場には鳥の羽がはばたく音と落ちてきた羽毛がゆらゆらと漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗く静かな空間で意識が朦朧としていく。

 

 ここは一体...自分は確か律者化したキアナと崩壊獣に追い詰められて...ああ、そうだった。確か追い詰められてもう終わりかと思いきや自身の身体から溢れ出る強い感情と力を感じ取って...いつの間にか自分がキアナと戦うことになって、それで巻き込まれそうになった芽衣を守る為に...。

 それからが全く思い出せない。もしや自分は死んだのか?だとしたらあまりにもあっけない死に方だ。芽衣を...彼女を守りきれたのか?...結局キアナを止められなかったのか...。

 

ーいや、あなたはまだ死んではいないー

 

 突然自分の考えている事に回答してきた存在に思わず驚く。しかし、直接声が聞こえてくるのではなく、音もなく第三者から語りかけてくるように身体から直接響いてくるような感覚であった。

 そして暗くてよく見えなかった空間が少しずつ見え始める。

 その空間はまるで宇宙空間のようであった。そして目の前に見えるのは巨大な白くて淡い紫色に怪しく光り続ける目玉にも見える十字模様がついた球体だった。透明な空間に亀裂が入ったようにその球体が埋まっており、目玉のようにギョロギョロと蠢いていた。

 自分の記憶にもない全くの未知なる空間と球体の有機的な存在に恐怖を抱くかと思ったが不思議なことに何故か目の前に見える超常的な存在に恐怖を感じるどころか、懐かしさすら覚えてしまう。

 

ーあなたはようやく目を覚ました、本来のあるべき存在になり始めたー

 

 また身体から響くような念力のような会話が聞こえてきた。ソーマはこの自分の思考に語りかけてくる存在が目の前にいる巨大な球体からテレパシーのように語りかけてきているのではと感じた。

 

ー概ね、正解だー

 

 ...やっぱりだった。自分が思った疑問になぜかこの有機的な球体が答えてくれる。そこでソーマはお前は何者なのか自身の何を知っており今はどんな状態なのかを尋ねてみた。

 

ー今はまだ我々の存在を教える事は出来ない...ただ遠からずあなたは知ることになる、今はまだその時ではない...あなたの身体は確かに深傷を負ったが律者であるあなたの方(・・・・・・・・・・)は無事だ...そしてあなたは我々や崩壊そのものに最も近く、最も純粋なる者...あなたが生まれ変わり(・・・・・・)それを受け入れるか否かで滅亡にも繁栄にもなれる...今のあなたはまだ目覚めたばかりの幼子に過ぎない-

 

 その球体の念話の内容は随分と抽象的であまりにも理解しづらかった。

 生まれ変わる(・・・・・・)?...いったい何を言っているのか分からない。この存在は自分に何を伝えようとしているのだ?

 この球体?が言っている事は自分の身体に宿っている律者の力の事を指しているのだろうと思ったがまだ覚醒しきっていないと言っているのだろうか。

 

-今はまだ知らなくてもいい...ただその時が来たらあなたは決断しなくてはならない...あなたはこの世界を変える鍵を持っている...またその時にお会いしよう...終焉の愛されし子よ...

 

 球体なる存在から最後に意味深な言葉を吐かれまだ確認したい事を聞こうとすると、先程まで見えていた宇宙空間の世界が見えなくなり自身の意識が強制的に現実に引き戻される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハイペリオン号の緊急医療室にてベッドの上に身体中あちこちに包帯が巻かれ、腕には点滴の輸血パックを取り付けた状態で静かに寝かされているソーマの姿があった。

 テレサとブローニャは空の律者への迎撃の為に出動中でここにはいない。

 代わりに芽衣が彼の看病と護衛をしており、その隣で椅子に座って看病していたが肝心の彼女の顔は暗く死人のような表情と苦悶に満ちた悲しい顔をしていた。

 

「ソーマ、君...」

 

 彼女は小さく絞り出すような声で彼の名を呟いた。芽衣の心の中は沢山の後悔と懺悔、自分自身に対する怒りと悲しみの負の感情に入り乱れていた。

 私が...私が不用意に近付かなければ、私がもっと自分の身を守れる程度の力があれば...けどそれは叶わず図々しくも自分は非力な癖に二人の間に入って止めようとした。

 自分なら止められるかもしれないと驕り高ぶったバカな私のせいでソーマ君は律者になり、暴走したキアナちゃんの攻撃で...殺されかけた。...それも愚かな私を守る為に身を挺してだ。

 私はいったい何をしたかったのだろう。これ以上ソーマ君達に助けられてばかりでいられないように自分の力で解決できるように心に誓ったばかりだと言うのに...。それがこのザマだ。

 結局、私は初めてキアナちゃんとソーマ君に出会った時から助けられてばかり...私も助けられた恩に報いる為に二人の事を手助けしたりしたがあの二人がくれた恩と比べれば天と地の差だ。

 ...そして彼には今回、命をかけて助けられた。助けられてばかりでしかないどうしようもない弱い私にあまりにも嫌気が差し、これ以上助けられて彼が傷付くくらいならいっその事...と危険な事を考えだした時、医療室の自動ドアが開く音がした。

 芽衣が自動ドアの方へ振り向くとそこには見慣れない装甲ドレススーツで武装した姫子の姿があった。

 

「え?ひ、姫子少佐⁈どうしてここに...」

 

「ソーマが負傷したって通信で聞いたのよ。安心して、様子を見に来ただけよ。...彼の容態は?」

 

「...今は安定しています。ただ...ソーマ君が受けた傷から崩壊エネルギーが侵食しているみたいで...今は無事でも今後の後遺症に現れるかも知れないと医師から、そう言われました」

 

「...そう、報告ありがとう」

 

 姫子は入室しながらベッドで寝ているソーマの近くにいきながら軽く彼の腕に触れて容態を確認する。

 

「...芽衣ごめんなさい。ちょっとソーマに伝えたい事があるから少し席を外してもらえるかしら?...ホントは芽衣、アンタのメンタルケアもしてあげたかったけどこの後にすぐ戦場に向かわないといけないの。...戦場で後悔するようなことがあったんでしょ?その顔を見ればよく分かるわ。...ごめんなさい、こんな肝心な時に...」

 

「い、いえ、私は...大丈夫ですから」

 

「...ホントにごめんね、お願い」

 

 芽衣が部屋を退室した後、姫子はソーマに振り向く。彼女が向けるその顔はまるで自分の子や弟を心配するような親のようで姉のようでもある表情だった。彼女は静かに我が子のように彼の頭を優しく撫でながら彼に静かに語りかける。

 

「ソーマ...アンタはよく頑張ったわ。昔は周りについていけずに落ちこぼれなんて言われてたけどアンタはめげずに頑張ってキアナ達と肩を並べられるほどに立派になった。本当に誇れることよ。...そんなアンタが律者になったっていうのを聞いて驚いたわ。...でもごめんなさい、アンタがキアナや芽衣と同じように律者の力を宿してる事は知っていたの。でもアンタ達ならその力に飲まれずに自分自身を保てると信じていた。現にアンタはその傷を負いながら芽衣を守って見せた。本当にアンタは私の誇りよ」

 

 ソーマの手を握りながら昔を懐かしむように語り、そして律者になったにも関わらず力に飲み込まれず、大事な仲間の有事に自ら飛び込んで身を挺して守ったりと彼の行動を褒めるように語る。

 その時の姫子の顔は上機嫌な表情で教え子を自慢するような嬉しそうな顔だった。その後少し悲しくも覚悟を決めた顔で姫子はソーマにメッセージを伝える。

 

「...本当はアンタ達が卒業出来るまで一緒に居てあげたかったけど...ごめんなさい、もう私は一緒にいる事は出来ないの。...けどソーマ、アンタなら大丈夫よ。何せ、アンタはこの無量塔姫子の自慢の教え子よ。アンタならどんな苦境でも前を向いていけるだけの力や勇気がある。...キアナのことも私が何とかして助けてみせるからアンタはキアナのことを支えてあげなさい。...私が居なくともアンタ達ならやっていけるわ...」

 

 姫子は最後の今世の別れのようなメッセージを伝え終えると触れていたソーマの手のひらから手を離そうとする。

 しかし、離れようとする姫子の手を何かが掴んでいた。よく見ると眠ってるはずのソーマの手が姫子の手を掴んで離さないように握り返していた。

 

「...姫、子...先生...」

 

 寝言のように静かな萎んだような声で姫子の名を呟いていた彼の顔からは片目が包帯で隠れた反対の目元から薄らと涙を流していた。意識がまだ朦朧としているのだろう、うわごとのようにつぶやいているが目の前の姫子を認識できていないようだった。

 彼の握り返してくる手の温もりに思わず姫子も貰い泣きしそうになるも何とか耐える。

 しばらくすると力が抜け落ちたのかスルリと姫子の手からソーマの手が抜け落ちる。姫子は抜け落ちたソーマ手を支えながらベッドの上に乗せる。

 

「...ありがとう、ソーマ。アンタはやっぱり私の素敵な教え子よ。もう思い残す事はない...はちょっと大げさだけど、これで前に進めるわ。...さよなら...ソーマ」

 

 姫子はお別れを言いながらソーマの寝ている病室を出ていく。彼女の後ろを振り向いた姿の顔元近くから透明な雫がこぼれ落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病室から去った後の彼女...無量塔姫子はその後、戦場へ向かったまま二度と帰ってくる事はなかった。

 

 




ソーマ視点の為、やや急展開な所もありますが、これで第9章の全体的なストーリー進行は終盤に差し掛かった感じです。
 しばらく書き続けてから急に自分の二次小説が注目されていたのが驚きで思わず幻覚を見ているのかと思いました。私の小説を見ていてくれた読者の皆様本当にありがとうございます。
 話の進行に伴い挿絵などの投稿も考えていますが、まずその前にオリ主のソーマ・アストラのビジュアルイラストを描かないといけないかなぁと思いました。見た目がまだややふわふわな感じなのでいい加減にはっきりさせないと。
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