飛ぶ理由を探した者   作:Jr.404

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 ここからは姫子視点からの話になります。やはり崩壊3rdストーリー上一番外せない貴重な感動シーンでもあるので書き加えました。姫子先生の心情を考えながら書いているので書いている自分まで辛く悲しくなりそうになりました。


九話「最後の授業」

 天命側によるキアナの誘拐及び彼女の律者化に伴い、連動的にソーマの体内の律者コアの覚醒による暴走と今回おきたこの騒動は明らかに人為的あるいは悪意ある非道な陰謀が渦巻いているとしかいいようのない出来事であった。

 

 この騒動事件への対応の為私、無量塔姫子は極東支部聖フレイア学園に所属する一人の戦乙女としてソーマ達の上官としてキアナの救出作戦に参加した。

 ネゲントロピーのアインシュタイン博士やテスラ博士といった大物達との合同作戦というなかなかの大所帯での作戦であり、いかに天命組織という規格外な組織を相手に闘うことになるのかを物語っている。

 

 結果を言えば、天命本部への潜入には成功した。相手側の迎撃部隊からの集中攻撃で共倒れにならないよう私達はそれぞれ、二手に分かれて遊撃担当の囮部隊役、直接天命本部の中枢へ潜入する突入部隊役に分かれて作戦を実行した。

 私はソーマとテスラ博士と機甲部隊の一部を率いて遊撃の囮役を行うことになるがそこは私やはり天命の総本山だけあって迎撃部隊の中にはS級戦乙女のリタ・ロスヴァイセと天命側についているフカなどの存在があった。

 やはりというか私達だけでは彼女らには手も足も出なかった。そこでまだ何とか戦闘継続可能なソーマをテレサ側の部隊へ逃す為にテスラ博士にタイタン機甲の一体のマスター操作権限を譲渡させ、その場での戦線離脱を図らせた。

 ソーマを一機のタイタン機甲ごと逃すことに成功はしたものの、ただ何故か彼女達は逃げていくソーマの事を追うことはなく、ただその一部始終を眺めているだけだったのが謎であった。

 不自然な行動はともかく、残った私達はフカに手荒な真似はしないと約束されそのまま拘束され気絶させられた。

 

 気絶させられた後に私が目覚めたらそこはどこかの施設の中だった。一瞬監獄の中かと思いながら一旦この場からの脱出を図ろうとするが、その際に手元に何かあるのを感じてそれの正体を確認すると何かの血清らしきものであった。

 その時に私以外にもフカの姿が確認でき、以前と比べ随分と姿が変わった彼女が私の手元にある血清について教えてくれていた。この血清を使うと体を蝕む崩壊エネルギーを大幅に中和してくれるものらしいがかわりに戦乙女としての力も失うことになるらしく、使い道には気をつけるようにと言われる。

 まさか彼女は私が崩壊による汚染で命を蝕んでいることを知っているとでもいうのか。

 血清について話した後、私にテスラ博士が幽閉されている場所まで教えられた。彼女が敵対者であるはずの私にこの様なことを教えて何を企んでいるのか確認したかったがフカはそれ以上のことは言わずに姿を消した。今の彼女からはまるでさながら幽霊みたいな雰囲気を感じた。

 その後はフカの言われた通りの場所へ移動しテスラ博士が拘束されていることを確認し、すぐに拘束の解除と脱出を開始した。ただその道中に天命組織にて研究されていた実験体に襲われるもなんとか突破に成功する。

 しかし脱出に成功しても作戦時に聞かされた律者化したキアナを無力化する為の手段が必要だった。

 そこで私とテスラ博士で対律者用の有効的な武器がないかを探し回る。キアナを律者化させた天命の事だから逆に無力化する手段があるはずである。

 結果的に見つけたのは神殺しの装備である"真紅の騎士・月蝕"と呼ばれる装備であった。この装甲スーツには"プレイグジェム"炎の律者の力が宿っており対律者対策装備として地下深くに封印されていたらしい。ただこれは自分達で見つけたというよりもまたいつの間にか現れたフカがここまで誘導してくれたことで見つかったようなものだ。

 彼女はできる事なら私がこの装備で律者を迎え撃ちたかったが今の自分じゃ闘うこともできない為、自分の代わりに私にこの装備で律者化したキアナを止めてほしいと懇願された。

 フカといくつかの会話を繰り返し彼女自身が本気で今の現状を止めたいという想いを感じ取り、私はこの対律者用の装備を身につけることを受け入れる。

 フカは自身の代わりに意志を受け継いでくれた事に感謝し、また会おうと伝えて消えてしまう。結局彼女の正体が分かることはなかったが私はこの戦いを、律者化したキアナを止める為、テスラ博士を引き連れてハイペリオンへと合流を急いだ。

 

 

 

 ハイペリオン号へと帰還した道中、厄介なタイミングで空の律者に接触してしまうもほぼ全員が合流した状態だったおかげもあり、アインシュタイン博士達と私が身につけている真紅の騎士・月蝕装備とその武器である涅槃の剣・スルトの性能のおかげで連携しながら撃退する事に成功する。

 しばらくの休戦中に学園長達の方で起きた出来事の話を聞き、律者化したキアナに遭遇した際に共鳴してしまい同じように律者化してしまったソーマが空の律者に覚醒したキアナと正面衝突し戦闘状態に陥ったがその際に隙を晒してしまい、ソーマ自身が致命傷を受けてしまったということらしい。

 その為、彼は今ハイペリオンの緊急医療室にて応急処置され寝かされている状態である。

 私は学園長にソーマのいる医療室に様子を確認しに行くと伝え、彼が眠っている医療室へと向かった。

 

 ハイペリオンの医療室の前に向かい自動ドアのボタンを押すと病室のベッドにて眠っているソーマとその隣で椅子に座りながら看病している芽衣の姿があった。自動ドアが開く音に気付き振り向いた芽衣の顔からは驚きの表情とは別に強い悲壮感と何か重い罪悪感を抱いたような余裕のない負の感情が見え隠れしていた。

 ...なるほど、学園長がソーマが致命傷を受けた時の話を少し濁すように話したのは芽衣が何らかの理由で彼が深傷を負ってしまう原因を作ってしまったことを責めさせないようにする為か。

 まったく、これでも長く彼女を教官として見てきたのだからその程度で私が責めるとでも思ったのだろうか。

 私が訪ねてきた事に驚く芽衣だったが、私がソーマの状態について話を聞くと暗い顔で芽衣はソーマの容態を伝えてきた。どうやら攻撃を受けた場所の傷が思ってたより深く、臓器に後遺症が残る可能性が高いと言われたらしい。

 ...分かってはいたがこの様な危険な戦場にて戦いながら負傷し、致命的な傷を受けてその後を苦しみながら過ごす事になるような戦乙女や崩壊戦士はいたが彼がこんなにも早くに大きな代償を負う事になるとは...ただ彼が空の律者になったキアナを押さえつけてくれた事で誰一人たりとも犠牲者を出さずに撤退することが出来たのだ。

 ...本当にこの子もキアナに似てきたなと感じずにはいられなかった。

 

 一旦ソーマに話すことがあるので芽衣に席を少し離してもらうように伝え、彼の眠っているベッドの近くの椅子に腰掛ける。

 私は彼の容態を確認しながら眠っており聴こえているはずもないにも関わらず彼に語りかけていく。

 学園での昔の思い出話を語りながら彼の頑張りを褒め称え、律者になったにも関わらずソーマが皆んなを守ってくれた事に感謝し、今度は私がソーマに代わって律者になったキアナを救ってみせると言い聞かせ、伝えたい事を伝えきった後、容態を確認する為に握っていた彼の手から手を離そうとするがピクリとも動かなかったはずの彼の手が私の手を握り返してきた。

 それも一瞬ではなく徐々に力がこもっていく感じであった。ふと見ると彼の包帯が巻かれた顔の目元から涙が頬を伝っているのが見えた。

 この子は...もしや私が帰ってくる気がないことに気付いたのだろうか。その顔から伝っている涙はまるで私が去ってしまうのを酷く恐れているかのようだった。

 ただの思い違いだと言われたらそこまでだがただどうしても彼の握り返してきた手と涙が偶然のようには思えなかった。

 その後寝言のように私の名前を呟いていたのが聴こえてしまい、私は思わず貰い泣きしそうになってしまった。

 ああ、やはりこの子は本当に優しい子だ。自分自身が満身創痍にも関わらずに自分の周りの人の事を気にかけようとする。

 ...正直言って私は生まれ付き崩壊に対する耐性があまり高くないため、戦乙女として戦い続けた代償としてこれ以上長くは生きられない。だからこそこの戦いが...私が戦乙女として戦える最後の戦いであるとも薄々感じ取っていた。

 無論長く生きられずに死んでしまうなんてたまったもんじゃない。私も死ぬ前には人並みの恋をしたいし、ソーマやキアナ達が無事に卒業している光景を観たかったというのも本心であった。

 だかそれ以上に自分が大事な教え子達として育ててきた彼らがこのような形でぶつかり合い殺し合うような結末になる事が何よりも許せなかった。

 私の事を負傷で意識が朦朧としている状態でも尚心配してくれたソーマに感謝し、私は涙を堪えながら教え子を助ける為にソーマ達の元に連れ帰って見せる為に彼に別れを告げたあと、静かに病室を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明け、再び空の律者が率いる眷属の崩壊獣達がこちらの搭乗するハイペリオンへと襲撃する為に率先して眷属の一体であるベレナスと呼ばれるドラゴン型の崩壊獣が襲いかかってくる。

 ハイペリオンのまわりを飛び回るベレナスに対し機銃掃射が行われるがこちらの防御システムを破壊しながらハイペリオンの外装の一部がベレナスによって破壊される。

 

 艦内の中では騒がしくオペレーターの崩壊獣に対する迎撃指示や現状報告が鳴り止まない中、姫子はハイペリオンの甲板から出る為エレベーターを利用しながら手にした試験管型の容器、もといフカから渡された血清を見つめる。

 これを使えば自分自身の身を蝕む崩壊の侵食が中和され少なくとも今よりは長く生きられるようになる。しかしそれは自分の戦乙女としての力を失う事になるのと同時に律者になったキアナを助ける為の手段を失う事ににもなる...自分の命とキアナの命をどちらかを選ぶか...。

 しかし、彼女はもうすでにどうするべきか自分の気持ちの中で折り合いと覚悟が決まっていた。

 心の整理をつけたタイミングと同時にエレベーターが目的地に着く。姫子は手にした血清を自身の装甲スーツのホルスターにしまい手にした専用の大剣を担いでハイペリオンの艦橋へと出ていく。

 ちょうどそのタイミングでハイペリオンのまわりを飛び回っていたベレナスが自分の足でハイペリオンからもぎ取ったターレット機銃の残骸を艦橋に目掛けて上空から投げ捨てる。落ちてきた衝撃でハイペリオンの艦橋が破壊されるがその場にいた姫子が大剣をバットのようにして機銃の残骸を打ち返す。

 投げ落としたはずの残骸がそのまま打ち返され攻撃した元凶であるベレナスの顔面に見事にクリーンヒットする。

 その要領で艦橋から飛び出した姫子は上空から踵落としで空中にいた動きの鈍ったベレナスをハイペリオンの甲板に叩き落とす。勢いよく叩き落とされ、完全にダウンしてしまったベレナスを甲板に着地しながら姫子は手にした大剣を両手に構えとどめを刺そうとする。

 しかし、とどめを刺そうとした姫子の前に謎の光のレーザーが発生し、思わず大剣で防御しながら眩しさで目を閉じてしまう。

 

 気がついて目を見開くとさっきまで見えていた戦場になったはずのハイペリオンの甲板の景色ではなく、無機質でハイペリオンによく似た謎の物質の残骸と周りを浮かんでいる鉱物ばかりな不気味な空間だった。

 姫子が周りを見渡し警戒しているとどこからか笑い声が響いてきた。振り向くとハイペリオンに合流したときに戦った相手である空の律者本人だった。彼女は高圧的な顔でその空間の中を空中階段で降りてくるようにこちらに近づいてくる。

 

「フフフ...逃げられると...思った?」

 

「ふん、待ってたわよ」

 

 さっそくのボスのお出ましに姫子は軽く大剣を振り回しながら構えを取る。どうやらこの空間は空の律者が普段活動している虚数空間のようだった。つまり空の律者はお遊びをする気はなく、この空間に招き入れることで慢心を捨て本気で殺しにきたようだ。

 

「死を受け入れる準備は整ったか?力のある限り抗うがいい」

 

 そう言いながら彼女は重力の力で姫子を引力で強引に引き寄せ吹き飛ばす。そのまま虚数空間のキューブ体に姫子を叩きつけ虚数キューブを変形させながら閉じ込める。そのままブロックキューブのように立方体の虚数キューブをねじ回し、最後は戦の律者と戦ったときと同じように自身の槍状の羽を変形させ、ブレードのように振り回しながらキューブごとスライスして破壊する。

 戦の律者が相手ならともかく、たかが人類程度ならこのぐらい十分だと思いながら空の律者は大したこともないと攻撃を終わらせ踵を返す。

 やはり人類程度では本気で殺し合った戦の律者の時のような感情的な高鳴りはしないかと考えていると、背後からいきなり大剣の飛来物が襲いかかる。

 いきなりの不意打ちに驚き咄嗟にワープの力で飛んできた大剣を受け流し、そのまま明後日の方向にあるキューブの壁に突き刺さる。

 想定外な反撃に思わず空の律者が後ろを振り向くとバラバラに粉砕されたキューブの残骸から煙を掻き分けて一人の人間が現れる。

 

「...ハァ...ハァ...アンタの...攻撃は終わり?...それなら私の番ね。文句ある?」

 

 先程の攻撃でかなりのダメージを負ったのか装甲スーツの大分が剥がれ落ち傷口から崩壊エネルギーの侵食を受けてあちこちに赤い侵食模様ができていた。巻き込まれたときに髪が解けてしまっていたがそこから覗く瞳の眼光の闘志は全く衰えていなかった。

 大胆な反撃宣言に空の律者はしばらく硬直した後、目元を手で押さえながら口をニヤけさせ思わず笑い出してしまう。まさかここまで執念深く耐えてくる人類がいるとは...。

 ならば丁重に殺して差し上げなければならないなと此方も攻撃の準備を始める。

 

「フハハハハ...死ね

 

 空の律者は簡潔に呟きながら虚数の槍を大量に生み出し姫子の周りを囲うように展開しながら彼女に目掛けて打ち出す。

 飛んでくる槍の雨を姫子は手にした大剣からプレイグジェムの力、炎の律者の力を解放し、投げ飛ばした剣の一部を遠隔操作で回収し、自身の持つ大剣に合体させながら膨張した絶大な灼熱の炎で大剣ごと振り回し、襲いかかる槍の弾幕を一瞬にして溶かす。瞬間的な熱で溶かされたのか強烈な気化爆発を引き起こし広範囲に渡って爆炎の光を灯す。

 彼女はその後も容赦なく襲いかかる空の律者からの攻撃に対し、力を解放させた炎の大剣で斬り飛ばし距離を詰めていく。相手からの攻撃で体の所々を傷だらけにしながらも構わず攻撃の手を緩めない。

 戦いながらも姫子は心の中で静かに語りかける。

 

(キアナ、あんたが目を覚ました時、全てが変わっている...世界はもう美しくない...平凡な日常ももうない。でも、諦めないで、何があっても諦めないで)

 

「っ、調子に...乗るな‼︎」

 

 空の律者は苛立ちながら虚数エネルギーの力で特大の螺旋の槍を生み出し、姫子に目掛けて打ち出す。対する姫子も炎の大剣でそれごと叩き割るように上空から受け止めながら切りつける。

 激しい密度のエネルギー体のぶつかり合いの中、姫子の極限状態の意識のなかで走馬灯のように共に戦い過ごした仲間たちや教え子達の声が聞こえてくる。そして最後に今まさに戦っている空の律者になる前のキアナと...静かに別れを告げたばかりのソーマの二人の姿を思い出す。

 

ー姫子...私、最強の戦乙女(ヴァルキリー)なるの。だから私の活躍をしっかり見てて!ー

 

ー姫子先生、俺は貴方のような人になりたい。力だけじゃなく、心も強い...だから貴方に憧れた。これからも見ていてほしいんだー

 

 彼らの走馬灯のような声を聞き遂げた後、彼女は体の限界を超えてプレイグジェムの力を解放する。背中の装甲が割れ、炎が翼のように広がり空の律者の攻撃をお仕返し破壊する。上空から大剣振り下ろしてくるその姿はまるで焼き付けるように輝き落ちてくる流星のようだった。

 

(キアナ、顔を上げなさい、あんたは前に進むのよ!この不完全な物語はあんたの望む姿に変えなさい!...生きなさい、キアナ)

 

 空の律者に目掛けて大剣を振り下ろして突っ込んでくる。姫子に気圧され防御が間に合わなかった空の律者はまともに彼女の攻撃に衝突してしまう。眩しい強烈な光を灯しながら周りが見えなくなる。

 

 光が止み、気がつけば空の律者がいた場所はほとんどが姫子の命を削った強烈な一撃で吹き飛んだか焼き尽くされてなくなっており、そこにはお互いに体が触れ合った状態の姫子と空の律者の姿があった。彼女...姫子の振り下ろした炎をまとった大剣は、空の律者の...左肩後ろを通過するように地面に突き立てられていた。

 

「これで...授業は...おしまいよ...」

 

 姫子の言葉と共に、突き立てられた大剣が命を燃やし力尽きた姫子の様子と呼応するように剣先が砕けてしまう。

 その光景をただ静かに呆然と空の律者は眺めていたが意識を取り戻したのか、振り払うために咄嗟に頭突きで姫子を押し飛ばす。

 そのとき自分自身の首後ろ側から何かが突き刺さり何かが入っていく感覚を感じる。空の律者の首後ろに刺さっていたのは姫子が出撃するときに携帯していた対崩壊用の血清であった。彼女はあの戦闘中に最後の一撃のタイミングで咄嗟に空の律者の首後ろに血清を突き立てたのだ。

 崩壊エネルギーに対して強い中和作用を持つ血清でもあり、とある博士が自身の命を引き換えに託した世界に一本しかない代物であった。その効果は膨大な崩壊エネルギーを宿す律者にも絶大な効果を発揮し、空の律者から崩壊エネルギーが荒れ狂いだす。

 

「あああああァァァァッッッーー‼︎」

 

 苦しみのあまり悲鳴を上げだす空の律者の声がだんだんと本来の肉体の持ち主であるキアナの声へと戻りだす。

 崩壊エネルギーが暴走し空の律者が弱っていくと共に周りの虚数空間が崩壊していく。押し飛ばされ虚数の残骸の上に倒れ伏した姫子の体も崩れ落ちていく虚数の残骸と共にゆっくりと足場がなくなっていき、ついに彼女もそのまま残骸と一緒に落ちていく。

 崩壊していく虚数空間とその残骸に紛れるように落ちていく姫子の周りからはあの無機質な薄暗い空間から現実の青い空が見えていた。...その後の彼女の行方は誰にも分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩壊獣と律者の襲撃を凌ぎ切ったハイペリオンは破壊された施設の復旧と怪我人の対応に追われていた。

 その中で艦船の展望室で静かに夕焼けが落ちていく空の様子を眺めていた人物がいた。施設内の座席に腰がけている彼の姿は病室にいた時よりはマシになったものの、上着を羽織っている隙間から見え隠れしているお腹からは沢山の包帯が巻かれ、顔や腕にも巻かれていた。腕には点滴を刺した点滴スタンドを近くに待機させている。

 展望室を眺めていた彼とは別にもう一人展望室に人が入ってくる。

 

「...ここにいたのね、ソーマ」

 

 声の主に呼ばれたソーマは入室口に振り向くと心配した顔で見ていた芽衣の姿があった。

 

「...ごめん、芽衣。ちょっと少し...新鮮な空気を吸いたくて」

 

「それなら、私に直接言えば一緒に連れてってあげたのに。...やっぱり、私って頼りない、かしら?」

 

「そうじゃないんだ。ただ、俺が負傷した後随分と状況が変化していてたから気になってたんだ。...芽衣はなんか知っているか?」

 

「私が知っている範囲でしかないけどそれでもいいなら...」

 

 芽衣から負傷し意識を失った自分の後の預かり知らぬ所でのその後のハイペリオンの状況や起きた事態の出来事の説明を聞いたソーマは顔を曇らせる。

 

「やっぱり、俺の律者の力を以ってしてもどうにもならなかったか...」

 

「そんなことないわ。あなたがしばらくの間暴走したキアナちゃんを抑えてくれたから私達は無事でいられた。...でも、私が...割って入ろうとバカなことをしたせいで、あなたは...」

 

 どうやら彼女は律者として暴走したソーマとキアナを止める為に割って入ろうとしたせいで芽衣を守る羽目になり、自分自身が致命傷を負う最悪な原因をつくってしまったとずっと悔やんでいたらしい。

 

「...芽衣、俺は別にお前の事は恨んじゃいないよ。むしろ止めてくれて助かったくらいだ」

 

「でも!そのせいでソーマ君、あなたが...こんな深傷を負うことに...!」

 

「...たしかに負傷したけど、でもあのままだったなら多分...俺とキアナはお互い死ぬまで戦い続ける可能性もあった。だからあのときに芽衣が止めようとしてくれたときに聞こえた芽衣の声に気づいて意識が正気に戻れた。キアナを連れ戻せなかったとはいえ、お互い死なずに済んだ。むしろこの程度の怪我で済んだんだ」

 

「でも、でも!あなたの受けたお腹の傷は...これからの人生で満足に食事も出来なくなるかもしれないって検査してもらったアインシュタイン博士から聞いたの...。死なずに済んだからって...こんなの、あまりにも代償が...」

 

 話すうちに自分の体の容態を伝えた芽衣は感情を堪えきれずに涙を流してしまう。芽衣はソーマに近付き、座ったままの彼を抱き止めながら泣き崩れる。ソーマは優しく芽衣の頭を撫でながら落ち着かせる。

 

「...ありがとう、芽衣。俺のことを本気で心配してくれて。...本当に芽衣は優しいな、他人の為にここまで泣いてくれるなんて」

 

「私にとって...ソーマ君と、キアナちゃんは世界で一番大事な存在...なの。私の人生を...大きく変えてくれた存在なの。だから...どっちか一人でも欠けてしまうなんて...耐えられない...」

 

 静かに彼女が泣き終わるまでソーマは抱き止めた。最初は異性である芽衣に抱きしめられて思わずドキッとしてしまったが彼女の話と本気で自分の事を心配してくれている事につい嬉しくなり、思わず貰い泣きしそうになった。

 やっぱりあの時に芽衣に出会えてこんなに優しい子に会えて良かったと心の底から思った。

 また自分の事を大事にしてくれる人が増えてしまったなと呑気なことを思ってしまう。

 その後、ハイペリオンの修理がある程度落ち着いたので艦橋に戻ると復旧作業を手伝っていたブローニャに目撃され、涙目で心配された後、落ち着かせるために本人を抱き止めてあげた。

 しばらくして泣き疲れたのか静かに寝息を立てており、芽衣の話だと空の律者との戦いで負傷したソーマの姿を見てその場で何とかみんなを引き連れて撤退に成功した後、ソーマの容態が心配で仕方なく気が気じゃなかったらしい。

 彼女にとっての大事な兄貴分が今までないくらいの重傷を負ったのだから取り乱してしまうのも無理はない。

 お互いの状態を確認し合ったものの、まだキアナを救出しきれてはいない。キアナを助ける為に姫子先生が出撃したっきり、まだ帰ってきていないという話も聞きどうしようもない不安が広がるが天穹市と呼ばれるエリアにてキアナらしき人物を見かけたという情報が確認され、彼女を連れ戻す為にもハイペリオン内にて再度作戦任務の編成と立て直しが行われた。

 ただ今回の作戦は怪我人である自分はテレサや博士達に参加の禁止を言い渡され、満足動けるようになるまでしばらく安静にしているようにと言われる。

 代わりにブローニャや芽衣達が任務にあたるようになり、傷が癒えるまで大人しくするようにとも芽衣達に釘を刺された。

 ただ次の任務とは別にソーマは心配な事があった。キアナの安否もそうだか姫子先生のことについて無性に不安を掻き立てられた。それについてもテレサ達がタイミングを見て捜索を計画すると言われたが、やはりそれでもこの不安な気持ちが拭えることはなかった。まるで大事な何かが手遅れになってしまったかのようなそんなそんな喪失感を感じるのである。

 その後、姫子先生の安否を知ることになるのは随分と先の事となるということを当時のソーマは知る由もなかった。

 

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