匙は頭を抱えていた。
別に≪記憶≫がチラついて頭痛がするわけでもない、単純に目の前の集団とそれを作っている原因に頭を抱えていた。
魔女っ娘の写真撮影会をしていると生徒たちが騒いでいたから何事かと来てみれば、言葉通り黒髪のツインテールの女性がコスプレをして写真撮影会をしていた。
思わず自分の目を疑った。
まさか学校で、しかも公開授業の日にコスプレの写真撮影会が開かれるなんて露程も思わなかった。
「お前ら何をしている!!公開授業の日にいらん騒ぎを起こすな!!」
写真撮影に夢中だった生徒たちは匙を見て顔色を変える。
「げ!?生徒会の匙だ!!」
まるで蜘蛛の子を散らすように逃げていく数人の生徒達。
変態三人組を捕まえて吊るし上げた匙の噂は良くも悪くも学園中に広がっていた。
もちろん理由はそれだけではないが、一部の生徒からは恐怖の対象として見られていた。
「横暴だ!」「撮影会くらい良いだろ!」「生徒会だからってなんでも許されると思うなよ!」
「なんだ、文句あるのか?」
『ひぃ!?』
逃げ出さずに残った生徒たちから非難の声が浴びせられるが、匙が睨むと全員逃げて行った。
最近変な噂のおかげで、こういった輩は睨むだけで逃げていくから楽でいい。
それに、まだやらないといけないこともある。
「ご家族の方ですか?公開授業でそのような格好をされていると困るのですが?」
「えー」
黒髪の女性は撮影会を止められ不満そうだ。
しかし、これを止めなければソーナに怒られるのだ。
「えー、じゃないです。騒ぎを起こされると生徒会としては困ります!……ん?」
そういえばこの女性、初対面だが見たことがある気がする。
若干色は違うが黒髪で赤い瞳。
部分部分を切り取って見ると自分の主によく似ている気がする。
「なになにー?もぉ、そんなに見られると照れちゃうな☆。もしかしてお姉さんに見とれてた?」
いや、それはないか。
家族だからとはいっても性格が違いすぎるし。
「よぉ匙。ちゃんと仕事してんじゃん」
兵藤含め四人ほどが近づいてくる。
「とにかくそんな恰好で学園内を出歩かれては困ります!」
「無視かテメェ!?」
「うるせぇ!!仕事の邪魔すんな!!」
聖剣事件に関わって、一つ分かった。
兵藤は超が付くほどの変態だが、決して悪い奴ではない。むしろ良い奴だ。
それは分かってはいるのだが、なんだかムカつくのは何故だろうか。
「サジ、騒ぎがあったと聞きましたが何事ですか?」
「会長、実はこの人「ソーナちゃんみーつけた☆」が……」
――――――――――――ソーナちゃん!?
ソーナの一瞬の表情の変化を見逃さなかった。
嫌そうというか、なんというか。
「ソーナちゃーん☆」
黒髪の女性は台から飛び降り、ソーナに向かって走っていく。
ソーナは無表情を貫こうとしているが、頬がピクピク動いている。
あそこまで動揺しているのは初めて見た。
「ソーナちゃんどうしたの?折角お姉ちゃんが来たのだから、もっと喜んでくれてもいいと思うの。お姉様!ソーたんって!」
今この女性は自分の事をお姉ちゃんと言っていた。
つまり、目の前いる魔法少女のコスプレをした女性こそが現四大魔王の一人であり、自分の主であるソーナの姉、セラフォルー・レヴィアタン本人という事だ。
……こんな子供っぽい人が姉なんて信じられない。
でも、なんとなく理解した。
ソーナが年齢の割には落ち着いていて、大人っぽいのはこの姉がいるからだと。
「セラフォルー様、お久しぶりです。今日はソーナの公開授業へ?」
兵藤と一緒に来ていたリアスがセラフォルーに近づいていく。
この人も顔見知りなんだな。
まぁ、幼馴染で兄が同じく現四大魔王の一人なのだから当然と言えば当然か。
「うん!ソーナちゃんったら酷いのよ?今日の事黙ってたんだから!お姉ちゃんショックで……天界に攻め込もうとしちゃったんだからぁ!!」
そりゃあこんな人を公開授業に呼びたくないだろうよ。
生徒会メンバーからある程度聞いてはいたが、聞きしに勝るシスコンっぷりである。
「お姉さま?私はこの学園の生徒会長を任されているのです。いくら身内でもそのような行動や格好は容認できません!!」
ソーナの言葉にこの世の終わりかのような表情になる。
「そんなぁ!?そんなこと言われたらお姉ちゃん悲しい!!お姉ちゃんが魔法少女に憧れているのは知ってるでしょう?」
魔法少女というよりか魔王少女の方が正しくないか?
冗談だと思ってたけど、この人本気で魔法少女になりたいと思ってるのか。
「きらめくスティックで天使が天使をまとめて抹殺なんだから!!」
「お姉さま、ご自重ください。お姉さまがきらめかれたら小国が数分で滅びます!!!」
多分、本当なんだろうな。
現四大魔王に選ばれるくらいなのだから、それくらい出来ておかしくない。
セラフォルーがソーナの周りをグルグル回り始める。
何か色々言っているようだが、良く聞こえない。
分かるのは次第にソーナ顔が赤くなり、プルプルと震えだしていることぐらいだ。
「もぉ!!耐えられません!!」
「まって~ソーナちゃん☆」
「来ないでください!!!」
珍しいものを見た。
嫌いではないんだろうな。ただ、愛情が重くて恥ずかしいんだろう。
とりあえず追いかけないと不味いだろうな。
あのまま放置しておくと追いかけっこが延々と繰り返されそうだ。
「じゃあ俺は会長を追いかけるよ。失礼します、リアス先輩」
「お、おう。頑張れよ!」
「ソーナのフォローよろしくね」
既に二人とも体育館を出ている。
さて、どこから探したものか……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ねぇねぇ?ソーナちゃんったらぁ!」
「……」
「無視しないでよぉ!!」
思ったより早く見つかった。
ソーナは己の城である生徒会室に逃げ込んだみたいだが、逆に逃げ場を失ってしまいセラフォルーに捕まったようだ。
ソーナらしくないが、今の状態なら仕方ないだろう。
「レヴィアタン様、それくらいにしてあげてください。じゃないと今日の生徒会の仕事が進みません。会長を困らせたいわけじゃないでしょう?」
「サジ……」
よほど耐え難かったのだろう。
目じりに涙が溜まっている。
「あれれ?君はさっきの……。あ!生徒会ってことはもしかして?」
「初めまして。ソーナ・シトリー様の『兵士』の匙元士郎です」
「おお!じゃあ君がソーナちゃんの新しい眷属なのね!?」
セラフォルーはソーナから離れ、こちらを向き直す。
「初めまして!セラフォルー・レヴィアタンです!レヴィアたんって呼んで―――ね?」
くるりと一回転してからポーズをきめる。
それはやらなければならないのだろうか?
「よろしくお願いします、レヴィアタン様」
「もぉーレヴィアたんで良いのに。せめてセラフォルー様にしてよー。匙くんだったらお姉ちゃんでもいいのよ?」
ニヤァと先ほどとは違った笑みを浮かべる。
「お姉さま!!」
「じょーだんだってばぁ。もう!照れてるソーナちゃんもかわいい!!」
「は、放してください!!ちょ!?どこ触っているんですか!?」
フォローするつもりで来たけど、これってどうやってフォローすればいいんだろうな。
どうも自分のペースを持っている人は苦手だ。扱いにくくて仕方ない。
「でも、丁度よかったかもね」
抱きついて頬ずりしていたセラフォルーはソーナから離れ急に真顔になる。
そのテンションの落差は対応に困るから止めて欲しい。
「お姉さま?いったい何があったのですか?」
「コカビエルの一件で三大勢力が一度集まって、駒王学園で会談を開くことになったの。そして三大勢力で和平を結ぶつもり」
「「!?」」
それは驚いた。
コカビエルとの一件で一気に事が進みだしたらしい。
「しかし、俺を見て丁度よかったってどういうことですか?」
それなら別にソーナだけと話せばいい。
コカビエルとも戦っていない自分に何の関わりがあるというのか。
「呼ばれているのよ、君もね」
「……はい?」
「お姉さまどういう事ですか!?」
「堕天使総督のアザゼルが君も出席させるように言ってきたの。面白い奴だから是非連れて来てくれって」
……はぁ!?