流石に無理でした……。
「うん、うん。了解、そっちも気を付けてね」
「木場、どうだった?」
「イッセー君は地下鉄のホームに飛ばされたみたい。多分他の皆も別々の所に……」
「……そうか」
俺と木場、そしてロスヴァイセさんは現在京都御所に居る。
二条城に向かおうとしたら『絶霧』で異空間の京都に全員がバラバラで飛ばされてしまったようだ。
「合流は目的地の二条城。アザゼル先生たちには連絡したし、急いで向かわないとね」
「……今からこれを突破するとなると、なかなか憂鬱だな」
眼前には魔獣の群れ。
俺や木場は良いとしても、顔が青ざめて調子の悪そうなロスヴァイセさんは戦力にならなそうだ。
「そうだね。でも、悪魔用のアンチモンスターじゃないのを見ると、本気で倒しに来てる訳でもないのかな?」
「足止め目的か?随分舐めた真似をしてくれる」
「まぁ、二人でこの量のアンチモンスターを相手にするのは流石にきつかったかな」
そう言って木場は剣を構えるが、それを手で止める。
「まぁ、待てよ。ここは俺にやらせてくれ」
「『龍王変化』は使えないんじゃないの?」
木場の言うとおり、ここでも『龍王変化』は使えなかった。
使えないが、新しい力の使い方を覚えた。いや、頭に刷り込まれたと言った方が正しい。
折角実験台が沢山いるのだから使わない手はない。
「……イッセー君が、匙君は時々悪い顔をするって言ってたけど、今なんとなく理解したよ」
あの野郎、そんな事を言ってたのか……。
とりあえず、今はそんな事はどうだって良い。
集中して、右手の手のひらに黒炎を集めていく。
徐々に集められていく黒火は巨大な塊を作り出し、それをそのまま魔獣達の上空に向けて放つ。
「――龍之炎≪
『グギャッ!?』
放たれた黒炎の塊は無数の炎の弾丸となって魔獣達に降り注ぐ。
黒炎に当たった魔獣達の中には一発では倒せないのも居たが、数の暴力により成す術もなく消えていく。
しばらく続いた弾幕が収まった頃には、眼前にいた魔獣達は粗方片づけることが出来ていた。
「……」
木場はロスヴァイセさんを支えながら、ポカーンとしている。
俺としても、満足のいく結果になった。
これは使いこなせばもっと強力になりそうだ。
「い、いったい何が起きたのか良く分からなかったけど……。でも、そんな技があるなら昼間も苦戦せずに済んだんじゃないのかい?」
「ついさっき思いついたんだ。力の使い道は常に考えてるからな」
「さっき思いついた!?いや、でも常に考えてるなら変じゃないか……」
目が覚めてから使えるようになったのだから、別に嘘はついていない。
ただ本当の事も言っていないし、わざわざ言う必要なんてない。
「……凄いな。やっぱり、イッセー君とゼノヴィアにもっとテクニックを磨いてもらわないと、またシトリーに負けることになりそうだ」
どうやら木場はいい感じに勘違いしてくれたらしい。
今後の為に兵藤とゼノヴィアにテクニックを磨かせたいらしいが、パワー馬鹿のイノシシ二人にテクニックを磨かせるなんてどう考えても無理な話だ。
というか、兵藤にテクニックを磨かれたら俺の勝てる可能性が減ってしまう。
「匙君のおかげでしばらく楽に進めそうだね」
一通り考えた後、木場があたりを見回しながら呟く。
「まだ全滅させたわけじゃない。ヴリトラの能力は使うのに結構集中力が必要なんだ。曹操達との戦いも控えてるから、余力を残しておきたい。お前にも働いてもらうぞ?」
「もちろんだよ。匙君ばっかりに活躍させるわけにもいかないからね。残りは僕が片づけよう」
ロスヴァイセさんを俺に渡し、剣を作り出して残った魔獣達に向かって駆けていく木場。
『騎士』の速さで駆け回り、次々と魔獣達を屠っていく。
一回しか攻撃してないが、俺の出番はしばらくなさそうだ。
それに、先ほどの≪崩≫を放って気が付いたことがある。
塊のまま当てることもできるが、一発一発の威力が低く、その代りに圧倒的数と単純な形ゆえの操作性の良さが利点の技だ。
今までなら≪崩≫を放ったとしても、威力が弱すぎて何発当てても魔獣を倒すには足らなかった筈だ。
しかし、先ほど大量の魔獣を攻撃して倒したのは事実。
「……やっぱり、火力が上がってるのか?」
『……』
ヴリトラからの返事は来ない。
俺の疑問に答えてくれる事はなさそうだ。
そもそも原因は一つしかないから、答えるまでもないって事かな。
「終わったよ。これで先に進めそうだね」
「……流石、グレモリーのエースは仕事が早いな」
「そんなことないよ。イッセー君にはまだまだ及ばないさ」
戦いようによっては木場なら兵藤相手に簡単に勝てそうな気がするが、本人の自己評価はあまり高くないらしい。
「じゃあ、目的地の二条城まで急いで行くとするか。道中何が起こるか分からないから警戒も怠らずな。……ロスヴァイセさん、少しペースを速めますけど大丈夫ですか?」
「うぷっ……大丈夫です。急ぎましょ……おぇえええ」
「大丈夫じゃなさそうだね」
まさかの人が足手まといとなっている事に頭を抱える。
どこか近しい物を感じていたのに、今回の修学旅行で俺の中でロスヴァイセさんのイメージがどんどん崩れていく。
「……ある程度ペースを落としていくか?」
「……そうだね。しばらくすればロスヴァイセさんの体調も良くなるかもしれないし」
京都御所から二条城まではある程度離れているが、そう遠いというわけでもない。
なんとかなるだろう、うん。
――京都御所からしばらく進んだ時だった。
「止まれ。ここから先は通さんぞ」
あれから魔獣と遭遇することは無かったが、目の前には英雄派の構成員らしき人間が三人。
今までの情報から考えると、三人とも神器所持者と考えた方が良いだろう。
ロスヴァイセさんの調子もある程度戻って来たし、二条城は目と鼻の先だというのに……。
「聖魔剣使いに、ヴリトラ使い、そして元ヴァルキリーだったか。残念だが貴様らはここで死んでもらおう!!」
三人が俺達一人ずつにそれぞれ仕掛けてくる。
木場は問題ないだろうけど、ロスヴァイセさんは大丈夫かな……。
「他人の心配をしている場合か?ヴリトラ使い!!」
俺に向かって飛んでくる赤い光の矢を黒炎で防ぐ。
「チィッ!?光の攻撃か……そんな神器もあるんだな」
「そうさ。俺の『赤光矢』は悪魔にとって弱点である光の攻撃を放つことが出来る。たとえヴリトラ使いが相手だったとしても、勝てる可能性はゼロじゃないだろ?」
遠距離から光の攻撃が出来る相手は、正直厄介だ。
聖槍に斬られたのに比べれば大したダメージじゃないが、だからと言って無駄に消耗するわけにはいかない。
戦いの本番はこの後なんだ。
「お前、分かってるのか?お前らは捨て駒に使われてるんだぞ?それでも曹操について行くのか?」
飛んでくる矢を最小限の動きで躱しながら問いかける。
もしかしたらこの言葉で揺らぐかもしれないという淡い期待と、英雄派の構成員がなぜ曹操について行っているのかが気になったからだ。
「……そんな事は知っている!!だからどうした?そんな言葉で俺が揺らぐとでも思ったのなら大間違いだ!!」
「……」
「神器を持っている奴が誰しもいい人生をおくれる訳じゃない。俺だって、他の奴等だってそうだ!!でも、曹操は俺の力は才能だって言ってくれたんだ。曹操の役に立てるのなら、捨て駒にだってなってやる!!」
おびただしいほどの矢が俺に向かって飛んでくる。
黒炎で同じように防ぐが、先ほどよりも矢の数と威力が増している。
幾つか貫通して体を掠めてしまった。
英雄派の構成員の曹操への思いは相当強いらしい。
強制的に洗脳はされてないが、実際これは洗脳と大して変わらない。
神器所持者の精神的に脆い所を逆に受け入れることで、従順な兵士の誕生って訳か。
自覚してやってるのか、無自覚なのかは知らないけど、元のカリスマ性が高い事も相まって達が悪い事この上ない。
「成程、お前の決意はよく分かった。だが、俺は曹操に用があるんだ。それを邪魔する為に立ち塞がるなら容赦はしない」
「ッ!?動けない!?それに力が……」
黒炎が構成員の体に纏わりついていき、動きを封じていく。
念のため『漆黒の領域』と伸ばしたラインで力を削っておく。
「動けなければ弓は引けない。詰みだな」
動きを封じている黒炎は徐々に相手の体を覆っていき、その体を燃やしていく。
「……」
既に声を出す事が出来ない所為か、悲鳴すら聞こえない。
ある程度で能力を解除する。これ以上抵抗できないのなら力の無駄遣いだ。
「匙君、こっちは終わったよ。……匙君?」
「へ?ああ、悪い」
木場たちの方も無事終わったらしい。
ロスヴァイセさんもまた顔が真っ青になっているけど、大丈夫だったようだ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。二条城はすぐそこだ。皆も来てるかもしれないし、早く行こう」
「……?それもそうだね」
何か引っかかりを感じていた。
理由が何なのか分からないし、別に嫌な予感がするわけでもない。
……今考えるのは止めよう。まずは曹操の方が先決だ。
頬を叩いて気合を入れなおす。
明日は皆との約束もあるし、何より皆で無事に帰らないとな。
今回の匙のいきなりの強化はもちろん理由が有ります。
決して作者が、体の中に八匹の炎の竜を宿している主人公が出てくる某漫画とアニメを久々に見て、これ使えるじゃん!と思ったからではありません。
一応、匙の能力の範囲内で使えそうな物を(一部アレンジしながら)使っていくつもりなので、円とか裂神は無理かなぁ……。