話の大筋は決まっているのですが、その間を埋める話が中々思い浮かびませんでした。
眼前には炎に包また大地が広がっている。
これは夢……か?
燃え盛る炎以外は何もない世界を特に目的もなく歩き、しばらく進むと少し先に何人か倒れているのが目に入った。
歩く速度が思わず早くなる。
遠目で見ても分かる。倒れている人物は俺の見慣れた人達だ。
「なんで……どうして……」
倒れていたのは俺の大切な人たちだった。
皆ボロボロで、血まみれで、抱き寄せた体は冷たく、既に死んでいた。
『それはお前に力がなかったからだ』
俺の影が蠢き、徐々に姿かたちを変えて囁く。
「……俺に力がなかったから?」
『お前が強ければ皆が死ぬことは無かったんだ。会長が副会長が花戒が草下が巡が由良が仁村が死ぬことなんてなかったんだ』
俺が弱いから、皆を守れなかった……。
「……こんなのは唯の夢だ」
『確かにこれは唯の夢だ。だが現実に起こらないと誰が言える?』
この影の言うとおり、現実に起こらないとは限らない。
何らかの脅威が迫っても、今の俺では皆を守れない可能性の方が大きい。
「……力が足りない」
『そうだ。今のお前じゃ何も守れやしない』
全然足らないんだ。
もっと……もっとだ……。
「『……もっと力をッ!!』」
◇
「ハァ……ハァ……!?」
『大丈夫か?随分うなされているようだったが』
「……ああ」
酷い汗だ。頭も痛いし、体の震えが止まらない。
俺が今いるのは見慣れた自室。……大丈夫、唯の夢だ。
『少々無理をしすぎなのではないか?最近、赤龍帝との訓練ばかりであろう?』
「ハァ……ハァ……。大丈夫、少し嫌な夢を見ただけだから……」
ヴリトラが心配するのは無理はない。
少し前から始まった兵藤との一対一の模擬戦はほぼ毎日行われている。
それ以外でも自主練をかなり行っているから、オーバーワークと言えなくもない。
「今のままじゃ駄目なんだ。もっと強くなる為には、兵藤に追いつくには多少の無理も必要経費だ」
『……我には我が分身を直接止める事は出来ぬ。好きにすればいい』
「……ごめん」
変質した右腕をそっとなでる。
『何を謝る。我が分身の願いは我が願い。我が分身が後悔しないのであればそれでいい』
「……後悔なんかしないさ。もう決めた道だ」
ヴリトラとの繋がりが強くなっていくと感じるとともに段々と大きくなっていく違和感。
まだ大したことはない。時間が経てばどうなるかは分からないが、今は問題ない。
『中途半端に『切り札』を使用したのが悪かったか。いや、寧ろ中途半端だったからこそこの程度で済んでいて良かったと言うべきか。完全に発動させれば後戻りはできぬからな。どちらにせよアレを使うのは次が最後だと思え』
「……肝に銘じておくよ。俺だってなにも出来ずに全てを失うのは御免だからな」
次に『切り札』を使う時が正真正銘の皆の危機であり、俺の最期だろう。
『どうした?震えが止まっておらぬが……』
「酷い汗をかいたから少し寒くなったんだ。気にしないでくれ」
今更命を捨てる事に何を恐れる必要がある?
既に決めた道なんだ。ずっと前から、そうするって決めていた事じゃないか。
震えが止まったのはしばらく時間が経ってからだった。
◇
「サジ?」
「……へ?」
「顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「……大丈夫です。少し夢見が悪かっただけですから」
心配そうな会長に出来る限りの笑顔で返す。
今日は休日だ。兵藤との訓練もないのに、俺は生徒会室に居る。
理由はまたテレビ取材があるらしく、魔界に行かなければならないからだ。
「少し疲れているのではないですか?最近、ちゃんと休んでいるのですか?」
「副会長、さっきから大丈夫だって言っているじゃないですか。訓練が何もない日はちゃんと休んでいますよ」
「……」
これは嘘だ。最近まともに休んでなんかいない。
副会長は俺の言っていることをあまり信じていないらしく、視線が少々キツイ。
「私は緊張して寝れていないのかと思ったわ」
「……由良、そこの四人と一緒にしないでくれるか」
それもそうね、と呟く由良の視線が向けた先には目の下に隈をつくって眠そうにしている巡、花戒、草下、仁村の四人。
「私はアンタ達みたいに神経が図太くないのよ……」
「うう……隈がクッキリでてる」
「ふぁあ……」
「……眠いですぅ」
眠そうに目をこすっている四人に会長たちも呆れた視線を送っている。
「まったく、そろそろ行きますよ?」
そう言うと会長は転移の術式を発動させる。
光に包まれ、一瞬のうちに景色が変わる。以前来た時と同じ場所だ。
「お待ちしておりました。ソーナ・シトリー様とその眷属の方々。どうぞ、此方へ」
案内されたのは以前と比べると少し豪華になっているスタジオだった。
◇
取材は順調に進んでいた。
少しだけテンションの高い人が色々と質問をしてくるが、特に問題だとは思っていなかった。
「さて、シトリーのエースでもある匙元士郎さんに意気込みなんかをお願いしたいと思います!!」
「……俺ですか?」
「はい!!お願いします!!」
意気込みねぇ……。
普通に『頑張ります』と答えようとした瞬間、今日見た夢の光景が頭をよぎった。
それと同時に自分の感情が黒く染まっていくのを感じた。
「……」
「匙さん?匙さーん……ヒィッ!?」
「俺の前に立ちふさがるのなら、邪魔をするというのなら、例え相手が誰であっても容赦はしません。俺の全てを以て叩き潰す。それだけです」
「(げ、元ちゃんストップ!!凄い殺気を放ってるよ!)」
隣に座っていた巡が肘で俺を突きつつ、小声で話しかけてくる。
感情が昂った所為で殺気を放ってしまっていたらしく、先程まで質問をしていた人や同じスタジオに居る人たちが震えている。
「あ、ありがとうございましたー。それでは次に――」
その後のインタビューは特に何かあるわけでもなく、無事に終わった。
あれ以降俺に話題が降られることは無かったが……。
◇
「サジ、一体どうしたというのですか?貴方らしくもない……」
「……すみません」
現在スタジオの廊下で帰路につきながら会長たちからややお叱りを受けている。
ただ怒っているというよりかは戸惑いの方が強そうだが。
「ビックリしましたよ……。匙先輩がいきなり殺気を放つんだもん」
「まだ留流子は離れていたからいいじゃない。隣にいた私なんか心臓が鷲掴みされたみたいだったわ」
「……悪かったよ」
ああだこうだと色々と言われながら廊下を歩いていると、一人の大柄な男が立っていた。
話したことは無いが、彼の事は良く覚えている。
「あら、サイラオーグ」
「久しいな、ソーナ・シトリー。母が世話になっている」
母が世話になっている?
確かシトリーの領地は病院があった筈だ。もしかしたら彼の母親がその病院に入院している可能性が高い。
「いえ……。それよりもどうして此方に?」
「俺も今日ここに呼ばれていたのだ。そこで強い殺気と気配を感じて、その方向に歩いてみればお前たちと会った」
成程、つまりは俺が原因だと。
ふと目があったサイラオーグさんは俺に近づいて手を差し出してくる。
「実際に会って話をするのは初めてだな、匙元士郎。サイラオーグ・バアルだ」
「ソーナ・シトリー様の『兵士』、匙元士郎です」
お互いに握手をする。
そして握手をしただけで目の前の男の強さが分かった。
今の兵藤と同格か、若しくはそれ以上の実力を持っている。
「……ふむ」
「なんですか?」
俺の手を放してから少し考えるような仕草をする。
「いや、なに。以前、兵藤一誠と戦っていた時とは別人だと思ってな。以前は『研ぎ澄まされた刃』のような男だと思ったが……まるで『魔剣』や『妖刀』だな」
「ッ!?」
『……?』
最後の方は俺にしか聞こえなかったらしく、皆は首を傾げている。
「だがそれもまた力。兵藤一誠を破ったお前と戦うのを楽しみにしておこう」
そう言いながらサイラオーグさんは去って行った。
「ねぇ元ちゃん。最後の方、あの人はなんて言ってたのー?」
「さぁ?俺にも良く聞こえなかったから……」
草下はサイラオーグさんが言っていたことが気になるようで、なんて言ったのか聞いてくるが、適当にはぐらかす。
しかし、『魔剣』や『妖刀』のようか。両方とも使えば強力だが、どちらにせよ持ち主を傷つける代物だ。まったく、言い得て妙だな。
『王』としての資質は会長以上かもしれないな、あの人は。
レーティングゲームで戦う事になるだろうが、今の俺では彼には到底敵わない。
だからこそ俺は願う。
――もっと力を。
話の区切りを『ー』から『◇』にしてみました。
こっちの方が見やすいんじゃないかと……。
3月中には乱立してるフラグを回収して、一段落つけられるように頑張りたいと思います。