(吾輩腹下し中 一方)
新たな大陸ハルフエへと派遣された調査団。古龍のエネルギーが集まると予想される巨大樹の元へと調査を進めていた。しかし、多くの巨大モンスターがはびこる密林を抜けるのは一筋縄ではいかず。
少しずつ密林を踏破しては安全な所に仮キャンプを設けるという亀の歩みで巨大樹へと向かっていた。
調査を進める上でモンスターを退ける狩人は大忙し。彼らの休息は仮キャンプでの僅かなひと時のみ。それも、小さな仮キャンプに数人が集まって雑魚寝する事も珍しくない。それでも他の誰かと顔を合わせる事は、死に臨する者にとっては相応に癒しの時間となるらしい。
「いきますわよ? せーの!」
【竜撃砲】
【極竜滅砲】
【AAフレア】
【フルバレットファイア】
「なーんで誰1人として揃いやがらねぇんですの!?」
簡易的な切り株の椅子に座った金髪ツインテールが吠えた。椅子は4つあり、そこに座っている狩人はもれなく地面に書いた文字を仕切りで隠しておき、掛け声に合わせて公開している。
「まぁ、こうなる事は何となく予想できていましたけどぉ……」
「ガンランスの大技ですわよ!? おばあちゃんの竜撃砲は百歩譲ってアリとしても、その他のは聞いた事すらないのですが! なんですの
「お前その読み方止めろ。
「なーにカッコつけた略語使ってますの!? 子供じゃねぇんですから!? エアフレアで”えあ”の韻が続いて言いにくいったらありゃしませんわ!」
「フルバレットファイアに子供とか言われる筋合いねぇだろうが!! 名前の観点から行くと極竜滅砲も相当だぞ!? 竜滅砲は竜を滅する砲撃だから良いとしても、頭の”極”は完全にガキのとりあえず付けとけ精神だろうが!」
「し、知りませんよぉ……。私が付けたわけじゃないのでぇ……」
「そもそも、皆さんのはいったいどういう技ですの? はい、フィー様から」
「極竜滅砲は竜撃砲のチャージ中に通常の砲弾も追加してぶっ放す技ですね……」
「AAフレアはどうなのですか?」
「上に向けてフルバーストした後、残ってれば竜撃砲もぶち込む。そういうフルバレットファイアは?」
「……後ろに向けて砲撃し、相手に接近した後で砲弾、竜撃砲、竜杭砲、諸々を全て同時射撃しますわね」
「多少の差異があるとはいえ、大本の発想が同じじゃのう」
「それな」
「それですわ」
「そうですねぇ……」
「というか、皆さまいい加減にしてくださる!? 4人で解答を揃えるゲームですのにさっきから全然そろわないじゃありませんか!!」
「主にお前のせいだけどな。閃光玉の調合レシピでお前だけ揃わなかったのは流石に絶望したわ」
「それは皆様の方が悪いんですのよ!? なんですの素材玉て! 閃光玉なんて光蟲をガッと丸めてポイするだけでしょうに!!」
「後は釣りの餌も疑似餌でしたよねぇ。普通ミミズじゃないですか? せめてフィーバエかと……」
「疑似餌は何回も使えて経済的なんですから!」
「ミミズも適当に土掘り返せば無限に出てきますけど……」
「それにもんすたぁが寝た時、顔に張り付いては礫を命中させて吹っ飛ばすとのことじゃったが……。危ないと思うのじゃ。素直に爆弾で爆破すれば良いのではないかえ?」
「いや、そこは冷静に考えると爆破も相当危ない行為だと思うのですが。……ともかく次行きますわよ! 次! 次からは出題者の意図に合わせる形で行きましょう。ここまで来たら是が非でも成功させますわよ。ニジィ様、お題をどうぞ」
「そ、そう言われてものう。儂など特にじぇねれぇしょんぎゃっぷが激しい身じゃのに……。では、雨の日に使う代表的な狩り道具でどうじゃ。これなら1つに絞れるじゃろう?」
「……」
「……」
「私はなんとなく察しがつきましたけど。他の2人はダメそうですねぇ……」
「い、いけますわよこれぐらい! く、口ぶりからして雨の日専用ってことですわよね……それも一択レベルで……」
「くっ……! あ、雨だと? 天候しばりに何の意味が……?」
「多分ダメでしょうけど、掛け声いきますね……。せーの」
「爆雷針」
「爆雷針」
「傘」
「耐水の装衣」
「シンプル傘ぁ!? 狩人らしさゼロ!」
「仕方ねぇだろうが! それ以外に思いつかなかったんだから! そういうお前も外れに変わりはねぇからなぁ! というか雨風凌ぐって発想は俺と同じだろ!?」
「だ、だって意外と使い勝手良いんですもの、あの装衣……。というか答えの爆雷針ってどういう道具なんですの?」
「置いておくと、ものの数秒で雷が降ってくるのじゃ。主に雨の日に使えんタル爆弾の代わりじゃな」
「……危険過ぎませんか? そもそも置いただけで雷が降ってくるという文字だけ聞くと、古龍なみの天候操作能力を有しているように思えるのですが」
「そうかのう? ずっと使っておるからあんまり気にならなかったのじゃが」
「そもそも、今の技術なら雨の日でもタル爆弾は使えるだろ? 大昔じゃねぇんだから」
「そ、それもそうじゃのう……(´・ω・`)」
「あ、おばあちゃんを傷つける言葉のナイフぅ……」
「人の心とか無いんですの?」
「ぐっ……! わ、悪かったって! 言葉選びが悪うございました!」
「コオォ”オオオ”オ”ン!!」
四人で盛り上がっていたその時、どこからともなく重低音が響く。
「今のは?」
「イャンガルルガじゃな。儂の正面から5時の方向、距離は100mといったところかの」
「今の騒ぎを聞かれてた可能性はぁ……?」
「100mなら人の声なんか聞こえやしないだろ。このままやり過ごすぞ。全員武器だけは持っとけ」
「それがそうもいかぬようでの。誰かが追われる声も聞こえるのじゃ」
「そういう事なら助けに行きますわよ」
「人の声なんか聞こえやしない……ふふっ……」
「おばあちゃんの耳は特別だろうが!? 俺は道具を揃えてから行くから3人は先に行ってろ!」
武器だけを持った3人は仮キャンプを飛び出して声の方に向かう。そこではイャンガルルガに追い回されている調査員の姿が。
「た、助けてくれ!!」
「言われずともですわ!」
調査員とイャンガルルガの間に立つイブ。太刀を抜き、弧を描くように構える。
太刀の分、体を大きく見せたため、イャンガルルガも一瞬だけ警戒の色を見せる。
「こ、こっちですぅ……」
「ひぃい……!」
その隙に調査員はフィーの元までたどり着き、連れ添ってその場を離脱しようとする。
イブは更に時間を稼ぐため、イャンガルルガに対して気刃突きを繰り出す。足元を狙って繰り出された、避け難い突き。イャンガルルガは刀身を踏みつけて展開を作る。
「なっ……!?」
唖然とするイブに嘴が振り下ろされる。寸での所で正気を取り戻したイブは、太刀を手放しギリギリで前転回避。
イャンガルルガは踏みつけた太刀を蹴り飛ばし、逃げたイブの背中を追う。
「ほっ!」
そこに割り込むようにしてニジィが狩猟笛を叩きつけた。頭を殴られるイャンガルルガだが、首を振って衝撃をいなす。
「なんと!」
勢いを逃がされたニジィはよろけ、その隙にイャンガルルガの尻尾叩きつけが襲う。ニジィはよろけた勢いを利用して狩猟笛を振り上げ、尻尾と相殺する。
「こ奴、何とも手練れじゃのう」
「ですわね」
飛ばされた太刀を拾うのは無理だと諦めたイブは、鞘を掴んでニジィと合流する。
「とはいえ、今は時間さえ稼げば……」
2人は調査員を連れて逃げるフィーをちらりと見る。瞬間、イャンガルルガはフィーの方へと駆けだした。
「いかん!」
「くッ!」
横を駆け抜けるイャンガルルガに武器を伸ばす2人だが、その勢いに弾かれ尻もちをつく。
「「ひぃいぃぃッ!」」
何故か調査員と同じ声色を放つフィー。叫びながらも盾を構える様子に淀みはない。利き手に盾、反対に槍を持つ硬い守りの構え。地面に盾を突き立て、イャンガルルガの突撃を真正面から迎え撃つ。
大きな衝撃音の後に衝撃波が飛び散り、イャンガルルガは進路を逸らされて転倒する。
「あ、あの蔦を上に登って、道なりに進めば仮キャンプがあります。そこまで逃げてください……」
「は、はいぃ!!」
調査員の背中を押して、自分はその場に留まるフィー。立ち上がるイャンガルルガを盾の隙間からのぞき見していた。
自分より体格の劣る相手に弾かれたイャンガルルガは警戒していた。それはこのまま戦うべきか、という日和見の警戒では無い。どう戦えば殺せるかという好戦的な警戒。
二者の間合いはじりじりと詰まり、イャンガルルガの顔が極長ランスの射程に入った。
ランスの薙ぎ払い。隻眼ガルルガの死角から振られるが、顔を伏せて避けた。その傷の多さが物語る歴戦の賜物か。
薙ぎ払いの隙にイャンガルルガは一歩間合いを詰め、そのままサマーソルト。体全ての勢いを乗せた尻尾がフィーの盾に触れた瞬間、衝撃吸収マットに落ちた卵のように慣性が消えた。
同時に無数の衝撃波が盾から発生し、イャンガルルガの尻尾を切り裂く。尻尾を振りぬこうという目論見の外れたイャンガルルガはそのまま背から落ちる。
フィーの目の前にある無防備な尻尾。重厚なる盾が反射攻撃で傷ついた尻尾に振り下ろされる。
「キャオォ”オオン!!」
痛みに悶えながら、弾かれた様に前方へ駆け出すイャンガルルガ。その尻尾は皮一枚だけつながった状態で、ぶらりと垂れ下がっている。
イャンガルルガは体を丸めて、己の尻尾に噛みついた。ぶちぶちと顔を顰めたくなるような音の後、鮮血が飛び散る。
己の尻尾を咥えたまま、フィーを睨みつけるイャンガルルガ。イブやニジィが合流するのと同時に黒狼鳥は尻尾を吐き捨て、踵を返した。
尻を狩人に向けたまま低く構える。今までに見たこと無いモンスターの挙動に身構える狩人3人。
ぼとり、とイャンガルルガの大便が地に落ちた後、自慢の脚力で去っていった。
「……大丈夫かのう? 尻尾の攻撃を真正面から受け止めていたようじゃが」
しばらくの残心の後、ニジィがフィーを気に掛ける。
「ま、まぁ、あの程度ならぁ、はい」
口調は謙遜しているが、少し得意になっているのか、口元はにやけていた。
「好戦的で物理主体の敵の撃退なら人並み以上ではあると自覚しているのでぇ、はい」
「フィー様はカウンター主体ですものね。とはいえ、自分から攻められなくて討伐数が0なのは考えものだと思いますが」
「た、確かに自分の手で止めを刺したことはありませんけどぉ……。今回は良いじゃないですかぁ、調査員の人を助けられたんですからぁ……」
「いや、そうもいかんじゃろう。いゃんがるるがというのは、戦いの中に身を置くことで個体の力を増す種族じゃ。あの傷の多さを見るに歴戦の個体。調査の邪魔になるのであれば、早々に狩るのが合理的じゃろうて」
「それはその通りですわね。ともあれ、その判断をするのは本部ですわ。一度持ち帰りましょう。ちょっとお待ちください、太刀を拾ってきますので」
イブはイャンガルルガに蹴り飛ばされた太刀を拾いに行く間、残った2人は気になった事を話す。
「イャンガルルガの最後の排便、なんだったんですかね……?」
「うーむ、ばばこんがの戦闘スタイルでも真似たのじゃろうか?」
ニジィは木の枝を拾い、イャンガルルガの便を突きまわす。
「腸の様子は問題無し。あの体格でこの量だと随分栄養を取っておる様なのじゃ。傷を癒すのも早いじゃろうな」
「す、すみません、中途半端に逃がしてしまってぇ……。パーティで狩りをするといつもこうなんです……。ずっと盾を構えて籠っているので、よく亀って馬鹿にされていました……」
「そう落ち込むでない。確かに狩人らしくはないが、亀には亀の役割があるじゃろう。まさしく今がそうじゃった様に」
「そうですかねぇ……?」
「難癖をつけて今更こういうのもなんじゃが、お前さんの言う通り人命を助けられたのが何よりじゃ。そもそも儂は奴に手こずった手前、文句を言える立場ではない。すまんかったのう、つい口に出してしもうた」
「い、いえ、そんなことは……」
ニジィが自分の唇を手で摘まむ。自罰的な行動にフィーが口ごもっていると甲高い音が響いた。
「おんぎゃ~ぁあーああ!! 私のヒドゥンサーベルがぁあああ!!?」
2人がうるさい方を見ると、真っ二つに折れた太刀を持っている金髪ツインテールの姿があった。