吾輩はエスピナスである   作:RKC

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14話

 鬱蒼とした密林にも秩序はある。人の目から見れば一切の境界が無いように見えるが、大型モンスターの縄張りが絡まりあった紛争地帯。

 

 無益な争いを避けるために、普段は暗黙の停戦条約が結ばれている。しかし今はその条約を破る、不届きもの1名。

 

 数多の縄張りをエンエンクのフェロモン付きで侵し、モンスターの怒りを買ったエックスは後ろに百竜夜行を引き連れていた。

 

「あぁ、クソッ……振動やべぇ」

 

 振り向いて後ろを見れば、広がる光景は恐竜大戦争。

 

 アンジャナフ2頭が我先にと体をぶつけながら不届きものを仕留めようと競う。

 少し遅れてダイミョウザザミが4本脚をだかだかと鳴らして蟹走り。

 今さっき空から強襲してきたライゼクスは、何故かアンジャナフの間に挟まってサンドイッチの具になりながらも狩人を執拗に付け狙う。

 

 樹上ではトビカガチとナルガクルガが付かず離れずの距離で跳び回り、狩人が隙を晒すのを虎視眈々と待つ。

 

 地獄を引き連れるエックス。走ること数分、彼女はついに道連れ相手にたどり着いた。

 

 隻眼かつ尻尾の無いイャンガルルガはすでに一狩り終えており、ランポスの死体の山をつまらなさそうに眺めている。

 

「俺よりアイツの方がよっぽど生態系乱してそうだな。正直少し安心するぜ。……おらぁッ!」

 

 走る勢いのままイャンガルルガに飛びかかる。しかし、イャンガルルガの振り向き様に嘴を使って吹き飛ばされた。

 

 しかし、身に纏うフェロモンを擦り付けることには成功。エックスは受け身を取るのと同時に消臭玉で自分についたフェロモンを消す。

 

 そこに後続の百竜夜行達が追い付いてきた。

 

「ッ……!」

 

 見上げれば背丈でトリプルスコアをつけてくる大化物たちが一直線に迫ってくる。しかし、獣竜種やワイバーン骨格に特有のチキンレッグが幸い。

 

 巨大な上半身に比べると小さな足元の隙間を絶対回避ですり抜け、茂みに転がり込んだ。

 

 同時にポーチから隠れ身の装衣をとりだして羽織る。百竜夜行の化物どもからすれば、さっきまで追っていたならず者から嫌悪するべきフェロモンが落ち、姿も眩ましていると。

 

 当然の流れとして目の前のイャンガルルガに襲いかかった。大化物たちの強襲。さしもの歴戦イャンガルルガといえども、吃驚しているように見える。

 

 そのまま一帯のモンスター総出による大乱闘が始まる。大乱闘とは言ったが、エンエンクのフェロモンを纏うイャンガルルガを倒す、フレンドリーファイアありのレイドバトルと言った方が近い。

 

 それを引き起こした張本人は茂みに隠れ、同僚から買い取ったスリンガーにトウガラシ玉を装填する。

 乱闘の隙間を縫ってイャンガルルガの鼻っ面に叩き込んだ。

 

「キャオォ”オオン!!」

 

 刺激物で鼻を潰されたイャンガルルガは怯む。レイドボスの隙を見逃すわけもなく、樹上からトビカガチとナルガクルガが飛びかかる。

 

 しかし2匹が空中で衝突し、きりもみ落下。アンジャナフに踏み抜かれていた。

 

 エックスは茂みを移り、次の狙撃場所へ。葉がまぶされた弓を背中から手に取る。弓柄を握り、弦に一矢つがえた。

 

 狙いはイャンガルルガに残された最後の目。しかし、片手剣を本命使いしている彼女。乱闘の中を縫って目を正確に射貫く腕は無いらしい。

 

 場所を変え、射ること3度。全てイャンガルルガの嘴に弾かれていた。

 

 しかし、大きなチャンスが訪れる。襲い来るモンスターたちを千切っては投げ、死体の山を築いたイャンガルルガ。

 

 流石に疲労を隠しきれず、戦いの終わりにぼうっとうなだれている。今放てば十中八九当たるだろう。しかし乱闘が終わった今、矢を外せば居場所を確実に特定されてしまう。

 

「……」

 

 弦が緩み、矢が筒に仕舞われる。イャンガルルガは受けた傷を庇いながら足を引きずって巣に帰って行く。

 

 決着を先延ばしにしたハンターはその後ろを音もなくつけていった。

 

 

 

      ♢

 

 

 

 巣に着いたイャンガルルガは丸太で囲われたお粗末な寝床に座り込む。寝床には仕込まれていたネムリガスカエルが。

 

 デカブツが覆いかぶさって来たことにビックリ。蛙はガスを吹き出しながらぴょんぴょこ去っていった。疲労困憊のイャンガルルガは抗う暇もなく寝落ち。

 

 寝床近くのガケ、その上には隠れ身の装衣を纏うエックス。

 

 彼女は人でもわかる火薬の臭いに顔をしかめながらも、火打ち石で大タル爆弾Gの導火線に火をつける。

 次いで近くの縄を剥ぎ取りナイフで断てば、丸太の壁が崩壊し、タル爆弾が崖下に転がり落ちる。

 

「じゃあな」

 

 最後に火のついた大タル爆弾Gを蹴り落とし、衝撃に備えて伏せる。

 数瞬後、一帯の鳥がすべて飛び立った。

 

 

 

        ♢

 

 

 

 天変地異に我輩は目が覚めた。地獄の釜蓋が開いたかと辺りを見回すが、特に異常はない。

 羽虫が気絶して地面に転がっているくらいか。それらを拾い食いしながら、辺りをうろうろしていると、急に日が射し込まなくなった。

 

 空を見上げれば、天高く渦を巻く入道雲。まるで竜巻のようなそれが潮風を無視してこちらに遡上してくる。

 

 ぽつりぽつりと雨。次第に風。そして嵐。空には天駆ける鋼の龍。

 少し前の大嵐を予感させる光景だった。

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